会社はなぜ機能停止に陥ったのか?社長・起業家が知っておくべき「定款」をめぐるエトセトラ

経営改善・成長戦略

執筆者: 太田 眞彦

「助けてください! 会社が完全に機能停止状態になってしまいました!!」

先日相談に来られたお客様は、入ってくるなりこう叫びました。
なぜ機能停止になってしまったのでしょうか?
それには、「定款」が深くかかわっていました。
今回はこのエピソードをもとに、定款についてケーススタディをしていきましょう。

定款とは

定款(ていかん)とは、会社設立時に必ずつくらなければならないものです。会社の事業目的や構成員などさまざまなことが書かれている文書で、会社の憲法ともいわれています。

つまり、定款を作成することは、これから設立する会社の根本規則(最も重要な決まりごと)を策定することを意味します。

多くの起業家は、ネット上にあるひな形を見てまねして作ったり、司法書士などの専門家に頼んだりしているようです。

専門家に頼むと、専用のワークシートを渡されて「これを埋めてくれれば作っておきます」などと言ってくれます。

こだわらなければわりと簡単に作成できます。

中身を知らないまま申請する方もいると聞いていますが、本当にそれでいいのでしょうか。

まずは、エピソードの続きを見ていきましょう。

ワンマン社長の急逝

お客様に事情を聞いたところ、次のようなことを話してくれました。

「3日前に、社長が急逝しました。ワンマン社長で、大事なことはすべて自分ひとりでやっています。社員は何も知らされていません。通帳とかハンコとかも金庫に入っているようなのですが、鍵がどこにあるかわかりません」

「1週間後が支払日なので、それまでに何とかしないと不渡手形を出してしまうことになります。そうしたら倒産です」

「弊社は株式会社で、株は社長が100%所有しています。役員(取締役)も社長1人です」

「このままではにっちもさっちも行かないので、A氏を社長にしたいと思います。具体的にどうしたらいいでしょうか?」

ここで質問です。

Q1 A氏を新しい社長にするには、どうしたらいいでしょうか?

分かりましたか?

この会社の定款を見てみると、このように書かれていました。

( 取締役の選任)第18条 当会社の取締役は、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の数の3 分の1以上の議決権を有する株主が出席し、その議決権の過半数の決議によって選任する。

取締役が1名の場合は会社法第349条1項の規定により、自動的にその取締役は代表取締役にもなります

つまり、A氏が取締役に選任されれば、自動的に代表取締役になり、問題解決です。

ただ、ここでひとつ大きな問題があります。

Q2 株主総会でA氏を役員に選定したいのですが、ただ一人の株主(現社長)が亡くなってしまったので、株主の同意を得ることができません。どうしたらいいでしょうか?

いかがでしょう。私はこう答えました。

私「相続人はいますか?」

相談者「たしか、奥さんと子供がいます」

私「相続人に至急相続してもらって株主総会を開催してもらい、A氏を取締役に選任してもらってください」

相談者「分かりました!」

そして株主は誰もいなくなった

数日して、また相談者がやってきました。

「助けてください! 法定相続人全員相続放棄されました‼」

実はこの会社は借金がたくさんあり、亡くなった社長が債務保証をしていました。

相続では、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継がなければなりません。

今回は多額の債務保証があったために、相続するとマイナスの財産の方が多い状態でした。

加えて亡くなった社長は豪快な人だったようで、離婚を2回しており今の奥様は3人目の奥様。しかも亡くなったのは愛人の家だったそうです。

そのため、奥様は「あの人の借金を、なんで私が払わなきゃならないのよ」という感じだったそうです。

お子様、兄弟、甥、姪、孫と、法定相続人全員にあたりましたが、すべて相続放棄されてしまったそうです。

こうして株主は誰もいなくなりました。

つまり、株主総会が開けず、新しい社長は決められず、会社として何もできないような状態になってしまいました。

定款から考える会社の機能停止防止法

それでは、次の質問です。

Q3 この会社は、どうすればこのような事態に陥らずに済んだのでしょうか?

まず、株主2名以上にしておけば、このような事態は防げますね。

社長以外の持ち分を大きくすると経営の意思決定に支障をきたす場合もありますので、10%とか20%とかの低い持ち分で株主をいれておけばこの事態は防げました。

あと役員(取締役)社長のほかに1名だけでもいいので入れておけばよかったですね。

取締役が1名の場合は会社法第349条1項の規定により、自動的にその取締役は代表取締役になります。

このコラムのテーマは「定款」ですので、定款をどのようにすればこのような事態を回避できたかを考えてみましょう。

Q4 株主・取締役とも社長1名の場合、定款をどのようにしていたらよかったでしょうか?

顧問先のある会社は、やはり株主=社長だけ、役員=社長だけの会社ですが、定款に以下のような記載があります。

( 代表取締役及び社長)第20条 …

2    …

3   代表取締役の〇〇(×年×月×日生まれ)が死亡した場合は、△△(×年×月×日生まれ)を代表取締役に選任する。

このような条項があれば、今回のような事態は防げましたね。

仮に今回のケースで相続人が相続放棄しなかったらどうでしょう。社長の奥様やお子様が株主となり、当面の機能不全は回避できそうです。

しかし、他の問題がありそうです。

新しい株主の奥様やお子様が自ら社長になり会社を私物化しないか、経営に経験・知識がない人が株主・社長になって権力をもってしまったら会社はどうなってしまうのか、株がライバル会社に売られてしまい乗っ取られてしまわないか…。不安の種は尽きません。

このような事態を防ぐため、定款に以下のような条項を設けるのが一般的になっています。

( 相続人等に対する株式の売渡請求)
第8条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

上記のケースですと、相続人の奥様やお子様から会社が株式を買い取る権限がありますので、会社が第三者に私物化されることなどを防ぐことができます。

定款を作成する際の注意事項

定款は、簡単に変更できません。

株主総会の特別決議で変更を決定し、変更内容によって法務局で定款変更の登記申請まで必要になります。

だから最初に定款をよく理解して、自社に合ったものをつくるようにしましょう。

そこで以下に、一般的な定款の注意点をいくつか挙げておきます。

(1)事業目的

会社は、事業目的外の事業を行うことはできないこととされています。

そのため事業目的は、現在の事業に関わらず、将来行うであろう事業も記述しておきましょう。

また許認可事業を行う場合は、許認可事業に応じた事業目的を記述することも必要です。

しかし事業の数が多くなりすぎると、借入の際の与信審査で不利に働くこともありますので、ほどほどにしておきましょう。

(2)本店の所在地

定款上での本店の所在地は、最小行政区画だけでも大丈夫です。例えば「東京都千代田区xxxxxxxx」の場合は「東京都千代田区」だけでも可ということです。

このように記載しておけば、千代田区内の本店移転時には本店移転に伴う定款変更の株主総会が不要になり、登記の変更費用も節約できます。

同じビル内で移動するなど、割と同一行政区域内で移動することってあるものですよ。

(3)株式の譲渡制限

知らない間に会社と関係のない第三者が株式を取得してしまうと、会社の経営に支障がでます。

このようなことを防ぐために、会社が許可した人のみに株式の譲渡を設けることができ、これを会社法では「株式の譲渡制限に関する規定」といいます。

役員の任期を伸ばせるなどのメリットもあるため、中小企業の多くが設定しています。

(4)取締役の任期

取締役の任期は、原則2年です。

ただし株式の譲渡制限規定がある会社は、10年まで伸ばすことができます

任期を迎えるごとに登記をしなければなりませんが、任期を延ばすことで登記をする手間と費用が節約できます。

しかし複数人の取締役がいる場合に意見が対立しても、自発的に辞任しない限り10年経つまで取締役として在籍し続けられてしまうというデメリットもあります。

(5)事業年度(決算期)

決算期をいつにするかは特に規定はありませんが、繁忙期は避けた方がいいでしょう。決算期から2か月以内に税務申告をしなければならないので、決算準備と繁忙期が重なると大変です。

また税務申告時に法人税を納めなければならないので、資金が厳しい時期を避けることも大切です。

ケースの会社はどうすればよいのか

今回のテーマ「定款」とは離れますが、ケースの会社はどうすればよいのかを考えてみましょう。

ちょっと難しいので、興味のある人だけ読んでください。

それでは、最後の質問です。

Q5 あなただったらどうやって機能停止に陥った会社の危機を脱しますか?

私は、家庭裁判所に「相続財産管理人の選任」を申し立てました。

所有者のいない財産は最終的に国のものになります(知ってましたか? 国が持ってっちゃうんです)。

しかし誰かが国庫に帰属させる手続きをしない限り、自然に財産が国のものになることはありません。

そこで、誰かに相続財産を適切に管理させて、必要な支払いや国庫に帰属させる必要がありますが、その仕事をするのが、相続財産管理人です。

相続財産管理人は被相続人(今回は亡くなった社長)の財産を換金して債権者や国に支払いますが、宙に浮いている株を会社に売ってもらい、会社が株主としてA氏を取締役に選任(≒社長に選任)しようという作戦です。

ただし、これは時間がかかります。

長い期間、仕入代金や給料を止めるわけにはいきません。

A氏が自宅を担保に入れて個人でお金を借り、会社に貸し付けする形で当面の資金を賄いました。金融機関や仕入先にも協力してもらって、何とか乗り切ることができました。

さいごに - あなたの会社らしい定款をつくりましょう! -

このコラムで言いたいのは「自分が死んだときのことを考えて定款をつくろう!」ということではありません。

定款って重要なんだよ。だって会社の憲法なんだから」

「ひな形をマネするだけじゃなくて、自分の会社の実情にあった定款をつくろうね!」

ということが言いたいのです。

会社によっては、定款の中に「企業理念」や「創業の想い」を入れているところもあります。

ロゴも入れることができるんですよ。

定款は、ステークホルダーと想いを共有できる最良のツールともいえます。

起業家や経営者の方は定款をよく理解し、あなたの会社らしい定款をつくるようにしましょう。

 

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 太田 眞彦氏(株式会社さあ頑張ろうぜ)

株式会社さあ頑張ろうぜ 代表取締役 1960年生まれ。東京都出身。経営コンサルタント歴20年のベテランが、アイデア出しから起業までを支援します。

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ドリームゲートアドバイザー 太田 眞彦氏

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