【ラーメン屋の50%が半年で潰れるワケは?】飲食業界を取り巻く現状〜その1

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サラリーマンなど会社勤めの人たちが、“脱サラ”して第二の人生を始めようとした際、飲食業はその大きな受け皿のひとつです。飲食店の開業にはある程度の自己資金が必要ですが、難関の国家資格を取る必要もなく、所轄の保健所や警察署、消防署への許認可申請、届出をすれば比較的容易に開業できる参入のハードルが低い業界です。

また、客として日頃よく利用することもあり、身近な業界とも言えます。そのため、脱サラに際して自宅を改装して喫茶店や居酒屋をやろうか、あるいは駅の近くに良い空き物件があるからラーメン屋でもやってみようか、という軽い動機で始めることも少なくありません。

ラーメン店

こうした脱サラ創業を対象とした飲食店開業のためのノウハウ本やウェブ記事も多く目にします。たとえば、自己資金はどれくらいを準備すべきか、創業融資はどこから調達するのか、経験年数は何年必要か、物件取得上の注意点はといったもので、いずれもスムーズな開業とその後の安定した経営にとって必要な内容です。

一方で脱サラし、新たなビジネスを考える際に、飲食業も含めてさまざまな業種を比較検討することも大切です。まず飲食業ありきではなく、自己資金、経験、業種との相性など、多面的にそれぞれの業種を見ておくことです。
その結果、「やっぱり飲食業でやっていこう」と決めたなら、飲食業を取り巻く業界の動向や概要などを、国や金融機関等が公表している客観的なデータなどで確認し、業界が抱えている課題を認識しておきます。そして、その対応策を十分検討した上で、具体的な出店計画を立てることが重要です。

そこで、今回と次回の2回に分け、厳しい経営状況など飲食業界の現状とその対応策にについて解説してみたいと思います。

飲食業界の厳しい現状とその要因

飲食業を取り巻く業界の動向や概要などの客観的なデータとして、まず『中小企業白書』があります。そのほか、日本政策金融公庫を始めとした金融機関や業界団体などが作成するデータもあります。

これらのデータを見ると、飲食業界は他の業界に比べ、開業率も廃業率も高くなっています。特に、廃業率が高い傾向にあります。他の業界では、創業や開業から5年以内に廃業する割合が1割台であるのに対し、飲食業界では約3割にのぼっています。

ただ業態によっては、これよりもかなり高い廃業率の様に思われます。私がかつて経営していたラーメン業界では、開業から1年以内に半分が廃業し、5年以上存続できる店舗は1割程度ではないでしょうか。

このように、飲食業界で廃業率が高くなっている要因としては、まず、飲食業界特有の内部要因と飲食業界を取り巻く経済的、社会的な外部要因に分けて考えるとわかりやすいでしょう。

飲食業界の厳しい現状−内部要因

cafe

飲食業の厳しい経営環境の大きな要因は、飲食業そのものの特殊性にあると言えます。飲食業の特殊性とは、「箱物ビジネス」、「多額の初期投資」、「模倣の容易さ」などがあげられます。各々について見ていきましょう。

箱物ビジネスの難しさ

飲食店経営には、経営するための箱、つまり店舗を構えることが必要になります。私自身の経験から、この箱である店舗を、どこに、どのような形で構えるか、で飲食業の成否の8〜9割は決まってしまいます。立地の良い場所に出店すれば、それだけで成功する確率は一気に高まります。逆に立地が悪ければ、どんなに商品力がある店舗でも失敗のリスクは高くなってしまいます。

よく裏路地の二等立地で成功している繁盛店を謳い文句に集客する、飲食コンサルタントや飲食フランチャイズなどがありますが、決して信用してはいけません。そのような物件は、裏路地であっても実は一等地の場合が多いのです。かつてラーメン店舗を始める際、都内の恵比寿駅を調査したことがありました。駅に面した幹線道路沿いのラーメン店と、駅から2、3本奥に入った裏路地であるラーメン店の来客数を比べてみると、後者のほうが圧倒的に来客数が多かったのです。裏路地であっても駅と大きな会社、事業所を結ぶ最短コース上にあるため、人とおりが多く商売においては一等立地なのです。

一等立地の物件は、当然賃料も相当高くなってきます。また、こうした店舗物件を確保するためには、賃料の10〜20ヶ月分の「営業保証金」といったコストも発生してしまいます。私の場合も、賃料50万円ほどに対して営業保証金が900万円もかかってしまい、融資交渉の見直しをしなくてはならなくなった経験があります。

高いコストをかけて取得する店舗ですから、容易に移転することができないといったことも箱物ビジネスの特性です。エリア内にあった大きな会社や事業所が移ってしまい、立地が急激に悪化しても、また、競合店が近くにオープンして売上が激減しても、なかなか移転できないのです。その結果、初期投資分すら回収できず慢性的な赤字経営となるのです。

多額の初期投資が苦しめる

初期投資

飲食店をオープンするには、多額の初期投資が必要になります。先の箱物ビジネスで述べたように、物件取得に相当なコストがかかるだけでなく、店舗の内外装工事、厨房器具、その他の什器の購入に多額の初期投資が必要です。10〜15坪程度の店舗でも、安くて1000万円、フランチャイズ店舗であればさらに出費がかさんできます。私もかつてフランチャイズ店舗をオープンした際、12坪の店舗で3000万円以上かかってしまいました。

一方で、早期に多額の初期投資を回収するだけの売上・利益は期待できません。飲食店の平均客単価はせいぜい数千円、ファストフードに至っては500円前後です。大規模なフランチャイズチェーンはともかく、脱サラの個人店舗では、なかなか回収できるものではありません。

模倣の容易さ

飲食店ビジネスは、簡単に真似されてしまうということです。東京に環七という幹線道路があります。かつてタクシードライバーの間で評判のラーメン店ができました。すると近くに似たようなラーメン店ができ、さらにその向かいにラーメン店ができ…ついには数十店もの同業態の店舗ができ、ラーメン激戦区になったというのが良い例です。

ラーメンのようなファストフードなどはすぐに真似されてしまい、短期間でそのエリアが“レッドオーシャン”という激戦区となってしまうことも少なくありません。

一方で、飲食店は箱物ビジネスですから、立地条件が悪化しても容易には移転できません。レッドオーシャン状態での生き残りのため、値下げや無料サービス券などの熾烈な消耗戦が行われ、経営をますます圧迫してしまうのです。


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飲食業界の厳しい現状−外部要因

飲食業界の厳しい経営環境の外部要因としては、バブル崩壊以降の慢性的な「飲食デフレ」、少子高齢化による「市場の縮小」、労働力不足や世界的な食糧需要の増加による「LF(人件費、材料費)コストの上昇」などが考えられます。

デフレ

飲食デフレが経営を圧迫する

バブル崩壊後の長引く不況の中で、消費者の節約志向は強まり、一方で消費税導入と段階的な税率アップも加わり、飲食店を利用する頻度は少なくなっています。その対策として、値下げや無料サービス券の導入など、厳しい値下げ合戦の結果、デフレがデフレを呼ぶ“デフレスパイラル”に陥ってしまいました。90年代後半の牛丼チェーンから始まり、あらゆる飲食業態に波及し、その経営を圧迫しています。

飲食市場の縮小

飲食市場の縮小要因としては、何と言っても少子高齢化と“コンビニ”、“スーパー”、“デパ地下”、“駅ナカ”といった新たな食の提供サービスが普及したことにより飲食店の利用が減ったことです。

少子高齢化による絶対的な人口減少の中で、宅食など食事の提供サービスが出ているわけですから、飲食市場の縮小は避けられません。さらなる人口減少の中、“ランチのワゴン販売”、“Uber Eats”などの新しいサービスが次々と出現し、ますます厳しい経営を強いられることになります。

LF(人件費、材料費)コストの上昇

飲食デフレの中で経営を圧迫しているのが、人件費と材料費の高騰です。ちなみに LFコストとは、Labor(労働力)、とFood(食料)の調達コストのことです。

もともと飲食業界は、3K(暗い、汚い、きつい)などと言われ、敬遠されてきた業界ですが、さらに数年前の「ブラック企業」問題から、学生アルバイトや若い社員が集まりにくい状況です。それに加えて少子高齢化による生産労働人口の減少による人手不足と、そのための人件費の高騰といった最悪の状況になっています。

さらに材料費も新興国による需要増などから高くなっており、こちらも飲食店の経営を圧迫しています。今までは経営努力でコスト上昇を吸収していましたが、限界に達しています。

まとめ

このように、飲食業界を取り巻く環境、とりわけ経営環境には極めて厳しいものがあります。さらに厄介なことは、経営を圧迫するこれら内部、外部要因が相互に関連し、複雑なものになっていることです。

そのため、今後飲食店を開業する際には、このような要因をひとつひとつ解消していくのではなく、これらの困難な要因を念頭に置き、いかに経営リスクを軽減しながら開業し、店舗を維持していくべきか考えることのほうが重要であるように思われます。

次回はこうした困難な要因を受け入れつつ、どのような対応策をとったら良いか、その際、誰に相談し支援を受けたら良いのかといった点について解説していきたいと思います。


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執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 萩原洋(有限会社銀河企画 特定行政書士)

外食FC立ち上げへの参画や自らも複数店舗の経営を行った後に独立。
フードビジネスコンサルタントとして20年のキャリアをもつ萩原アドバイザー。
飲食店等を長年経営し引退を考える経営者が、事業を他者に譲り渡す「事業承継M&A」に複数携わるなど、ゼロからの出店ではなく立地や顧客を引き継ぎながら経営を始めるという分野のご経験を豊富にお持ちのアドバイザーです。

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ドリームゲートアドバイザー萩原洋

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