【第3弾】丸亀製麺のCMに学ぶ、顧客がファンになる4つの心理

営業・マーケティング

執筆者: 池田孝治

突然ですが、丸亀製麺のTVCMの切り口が変わったことにお気づきになりましたか。

丸亀製麺のCMといえば、ここ数年は檀れいさんや松岡茉優さんの時代劇風女将がうどん店を切り盛りするシリーズを放送してきました。期間限定メニューを美味しそうに訴求する内容で、シリーズ開始当初は目ざましい効果を上げたといいます。ところが2018年の値上げを機に同社は客離れと売上減少に歯止めが利かない状況に陥っていたのです。

何とかブランドを復活させようと着目したのが、「すべての店で(うどんを)粉からうっている」という事実でした。
この丸亀製麺の本質的な特色を打ち出すことに路線変更したCMが、2019年1月からの「ここのうどんは生きている」シリーズというわけです。

取り組みが功を奏して同年5月から業績は回復しました。
清野菜名さんがうどんを頬張って「なんという口の快楽!」というバージョンもあって、たしかに観るとうどんをたべたくなりますよね。

何より、この話を私が気に入っているのは、提供サービスの本質的な優位性を改めて訴求して成功したというところです。

800以上に拡大した店でそれぞれ粉から打つ体制を維持するのは大変なことです。共通の工程は工場にを集約してトータルコストを下げるのが経営判断の定石でしょう。
同社がそれをしてこなかったのは、うどん自体の質にこだわっていたからに他なりません。
ところが、それは顧客にはほとんど伝わっていなかった。短期間しか売らないトッピングを売り込むことに注力してきたからです。店で打っているという事実は、2018年の調査では顧客の3割にしか認知されていなかったそうです。

上述の通り、同社は本質に回帰することで結果的にブランドを復活させました。
他社の話として聞くと当たり前の方向転換のように思えるかもしれません。しかしながら目先の売上を追いかけていくうちに、事業の本質からどんどん離れてしまうケースは驚くほど多いです。

「企業の主張」を顧客が支持する4つの心理

企業のファンづくりのプロセスをまとめたシリーズコラム「第2弾」では、「顧客が支持したくなる主張を一貫して持つことが必要」とお話ししました。
この「一貫して」は、あらゆる領域で、という「広さ」の意味と、長い時間変わらず、という「長さ」の意味の両方を指します。

では、その一貫すべき「顧客に支持される主張」とは、どのようなものでしょうか。
商品やサービスを提供するからには、事業者には何かしら顧客に対する思いがあるはずです。

「本当に美味しいと感じてもらいたい」「余計な手間を省いて、ラクをしてもらいたい」「ほかでは得られない体験をしてもらいたい」などなど、事業の内容によってさまざまですが、何かあるべきです。

その思いが商品・サービスにきちんと反映されていれば顧客にも伝わります。
顧客は最初のうちは無意識に感じ取るだけかもしれませんが、「とても美味しい」「すごく便利」などと強く感じたときに、それを提供してくれた元を意識します。なぜなら、次も同じように良い思いをしたいからです。これが顧客の期待の芽です。

では、その時に受けた「強い感じ」はどんなものだったか。顧客はそれによりどんな情緒になったか。その顧客の期待に応えていかなければなりません。

顧客が好きになる源泉の情緒は概ね4種に分類できます。それを確実に与えてくれる提供元だと顧客に認識され、次も期待されること。それが顧客をファンにするための第一歩です。

顧客がファンになる情緒その1「快感」

その4種のひとつは「快感」です。

「気持ちいい」「美味しい」など、理屈抜きに本能が喜ぶ反応です。ほかにも、見た目が美しい、音がとても心地よいといったように、五感に直結しています。

「美味しいラーメン屋さん」は、誰でも好きですよね。

ただ、この「快感」の領域で顧客の心を掴もうとすると、相当抜きんでたレベルで提供する必要があります。

ルックスのいい人が職場にいる、好きなお菓子をつまみ食いする、青空の下で休憩する、あるいは手洗いに行く、痒いところに手が届くといったちょっとした体感も含めて、人は普通に生活しているだけでさまざまな快感をかなりの頻度で得ているからです。

近年、「ASMR」と題した動画が人気を集めています。ASMRとは Autonomous Sensory Meridian Response の略称で、聴覚や視覚への刺激によって脳が心地良く感じる反応のことです。どんな音に反応するのかは人それぞれなのですが、例えばいろいろな食べ物を食べる音をメインにした動画など数百万回再生されているものもあります。ツボを心得たASMR動画を投稿するクリエイターは「ASMRist」などと呼ばれ、やはり7桁の登録視聴者を持っていたります。ずば抜けた品質の「快感」でファンを掴んでいるひとつの事例です。

当初のスターバックスもコーヒーの質だけでなく店内をトータルに居心地のよい空間として提供することで人気に火がつきました。

あるいはコスメティックや雑貨を取り扱う店を訪ねたとき、アロマや室内空調によって店内がとても快適に保たれていることに気づいたことがあるでしょう。その店に入ること自体が「気持ちいい」経験であると顧客に印象づけようとしているのです。

一方で、「快感」は数値化が難しく客観的な比較も困難な尺度です。例えば飲食店の分野で「美味しさ」の評価で他から抜きんでるのはなかなか大変です。もちろん他店も美味しさを追求しています。さらに、美味しさの快感を提供するのは当たり前だと顧客が予め期待しています。

こういう場合にファンになってもらうためには、この後お話する他の領域の情緒提供をするのが効率的な場合もあります。

顧客がファンになる情緒その2「感心」

顧客に好きになってもらうための情緒の二つめは「感心」です。

先進の技術力や高い専門性、斬新な発想に対して顧客が持ちやすい情緒です。「すごいなあ」と感じたときに感心は芽生えています。感心がいっそう高まるとリスペクトになります。

アップルのブランド人気が底堅いのは、利用者が同社製品にはじめて触れたときに、この心象を持つことの多いブランドだったからです。それら画期的製品を考案したジョブズ氏のプレゼンテーションが熱狂的に迎えられていたのを聴衆のリスペクトが支えていたことは言うまでもありません。

技術的領域以外には、旅館、料亭等が長い年月を継いできた伝統や、広さ、高さ、大きさといった空間的な特色でも訴求できます。老舗旅館を訪ねると歴史の刻まれた佇まいに感じ入りしますが、さらに創業200年などと説明されるとさらに納得できたりします。このように、際立ち方を数値化して顧客に伝えられることも特色です。

顧客に優位性を訴求するというのは、企業が他社との差別化を図る際に最初に検討しがちな領域でもあります。ここでの差異を市場にアピールしやすいのは、数値化しやすいことに加え、それを新たに獲得するのが比較的困難だからです。長い歴史や、高い技術は、M&Aでもしない限り、一朝一夕に手に入れられません。こうした優位性を持てる事業・法人であれば、「感心」を喚起するファンづくりが近道です。

一点、注意していただきたいのは、いちばん速い、いちばん小さい等、認知を高める・印象を残すための、俗にいう「No.1戦略」とは別の意義なのですが、混同しやすいことです。この差異についてはいずれ別の機会に。

顧客がファンになる情緒その3「感謝」

三つ目の情緒は「感謝」です。

どんな商売でも顧客に感謝されてナンボのはずなのですが、得てしてお金を払っている側はそんなことを常日頃は感じていません。

ただ、商品やサービスに心から「ありがとう、助かった」と感じる瞬間も現実にあります。とても困っていた問題が解決したり、緊急の場合に迅速に対応してくれたり、というケースです。

賃貸住宅を借りることが困難な高齢者を顧客対象としているR65不動産という仲介会社があります。ようやく住む場所を確保できた顧客の安心と、同社への感謝は想像に難くないでしょう。

また、水漏れや排水管の詰まりなど水回りのトラブルを経験したことがある人は、24時間対応してくれる配管修理業者のありがたさを実感したことと思います。こういったときに役立ってくれた商品やサービス、事業者の印象は顧客に強く残ります。

ただ、不測の事態を解決する事業で、顧客の感謝を後ろ盾にした良い関係を築けている事例は実はあまり多くありません。「不測の事態」での取引なので、顧客と接触する頻度がそれほど高くないからです。せっかくの顧客の感謝の気持ちも一度限りでは、ファンというマインドセットにまではなりません。

このような事業では一度取引のあった顧客との関係性を構築することで、応援してくれる顧客を増やせる余地があります。

次回のニーズを予測する、顧客自らができる方法を伝える、トラブルを未然に防ぐサービスを提供する等、少し工夫することで、小さなことでも顧客に貢献する機会を増やすとよいでしょう。

ある地方の新聞販売店は、特に人口流出の著しい集落の契約世帯に対して食品や消耗品などの日用品をお届けするサービスをしています。同社は自分たちのサービスの本質は、各家庭を1日1回以上直接訪問することであると定義したのです。直接顧客を訪問して会話できる機会を重要視し、過疎地域の契約者の需要と心情の把握に努めています。料金の回収には各家庭に集金に出向くという昔ながらの方法もあえて維持しています。結果、新聞の購読率は高止まりしています。

自分たちの顧客が切羽詰まって困っていること、解決を諦めかけていることはないか。自分たちの事業の本質が一助となれる場合には、感謝を軸にした関係を築くことができます。

顧客がファンになる情緒その4「共感」

最後のひとつは「共感」です。

誰もがこの社会の中で生きていくにあたり何らかの価値観を持っています。これは日々さまざまな判断をする際の基準として自分のなかに築いているものです。価値観自体には色も形もなく他者に見せることが主たる目的ではないのですが、言語や行動を介してお互いに伝えあっています。「この人とはウマが合う」と感じるときには、価値観が似ていることが多いです。小説や音楽に対する感性や、身近な出来事に対する評価などを通じても確認しています。

法人格に対しても同様で、行動基準が自分のそれと一致する場合には親近感を持ちやすくなります。

事業をおこなう法人と顧客に共通する身近な話題とは、もちろん提供する商品やサービスです。自分たちがどんな価値観に基づいて商品・サービスをお届けしているのか。商品自体を通じて伝えることができれば顧客の共感を得ることができます。

森林資源保護のために飲食店チェーンが割り箸の使用を廃止したり、プラスチックごみ削減のためにスーパーがレジ袋を有料化したり、といった施策は、事業者の価値観が反映されるよくある一例です。ただ、こうした施策が本来の問題解決への取組みか、自社のコスト削減のエクスキューズなのか、顧客にどのように認識されるかは、普段の行動との一貫性によります。つまり自社の事業理念やスローガンと実際の行動が常に整合していることが重要です。

ほかにも、一部欧米諸国で食品への使用が禁止・制限されている成分や、特定の疾患への投薬に制約のある薬品が、日本ではまだ規制されていないケースがあります。国内で顧客に供するかどうかはそれぞれの事業者が判断することになりますが、社会的な健康への影響に関心の高い層に対する共感の源泉になる可能性があります。

また、これらの社会的課題以外のジャンルでも共感を得ることはできます。

特定の映画タイトルやジャンルを意識した内装のレストランやバーなどは、趣味性の高さによって共感を得る事例です。供される料理も美味しいかもしれませんが、その快感だけで勝負していない、ということですね。

共感を得るファンづくりにも落とし穴はあります。価値観にというのは結局のところ自分次第の基準です。比較的自由度が高い反面、だからこそ一貫性の強さが求められます。恣意的な運営では顧客の共感を継続して得ることはできません。

まとめ

以上、顧客が事業を応援したくなるときの4つの情緒をみてきました。

目指す顧客と良い関係性を築くために、このなかのどの情緒を持ってもらうことが自分の事業の特質と馴染むのか、一度考えてみることをおすすめします。

実際に顧客があなたの事業を応援してくれるときには、この4種のいくつか、または全部が顧客の心のうちに混成されています。どれか一つの情緒が際立つと、ほかの3つも喚起するからです。

それでも、関係の最初はどれかひとつの情緒を醸すことに絞って目標としてください。具体的な施策を企画するのはそれからです。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏
(株式会社エストVISION 代表取締役社長)

学生時代からマーケティングを専攻し、大手エンタテイメント企業のマーケティング担当として従事。
事業を創業した際に必要な顧客は集客活動ではなく「相手に貢献したいという思いが連れてくる」を信条として商いの理想を追求し続ける。
業種にとらわれず多数の事業で「ファン作り」のメソッドを提供。

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ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏

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