お金をもらってM&A起業できるサーチファンド。「サーチャー」になるには?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 池田 孝治

「お金をもらいながらM&A起業できる」、サーチファンドに関するコラムの第2回です。

サーチファンドを利用して起業したい人にとって「サーチャーになるために必要なこと」は何か、が今回のテーマです。

サーチファンドの概要と日本型サーチファンドを利用するメリットについては、前回のコラム「お金をもらいながらM&A起業できる『サーチファンド』とは?」をお読みください。

日本型サーチファンドでサーチャーになるには?

日本でのサーチファンド起業は、まずは自分自身がサーチャーとして活動することについてアクセラレーターと合意するところからはじまります。

前回のコラムでもご紹介した通りアクセラレーターとは、国内での起業活動にサーチファンドをもっと普及させるべく、起業家をほぼワンストップでサポートする存在です。日本型サーチファンドでは、かれらがすでにファンドを組成済みです。資金が先にあって、出資先が決まるのを待っているという状態なのです。

アクセラレーターとの合意が得られると、サーチャーとしてこの出資先のひとつになるということです。

一般的にファンドは、何を投資対象としているかによって金融型ファンドと事業型ファンドに大別されます。金融型の投資対象は株式や債券といった金融商品、事業型はその名の通り事業自体を投資対象としています。

一方、サーチファンドの投資対象は上で見た通り、サーチャーです。まだ事業も株式もない状態で投資判断をするのです。アクセラレーターは起業を志望するその人自身を評価します。

言い換えると、サーチャーになるためには、これから起業する自分自身が出資に値する人材であることを、アクセラレーター(とその向こうにいる投資家)に納得させなければならないということです。

人を評価する、という表現では少し漠然としていますね。人を評価するにはさまざまな尺度があります。

例えば、職歴、経営に携わった経験といった実績面が評価されるのか、あるいは経営数値や事業活動に関する知見が重視されるのか、はたまた緻密な計画性や臨機応変な即応力といった行動の資質が求められるのか。

サーチャーを希望する人であれば、自分自身の優位性がアクセラレーターの評価基準に適したものなのか、自分にどんな武器があればサーチファンドの支援を得られるのか、気になるのではないでしょうか。

わからないことは実際にサーチャーを選考しているアクセラレーターに訊いてしまえ、ということで、株式会社サーチファンド・ジャパンの伊藤公健代表に尋ねてみました。

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アクセラレーターはサーチャー候補者の「ここ」を見る

伊藤さんは米プライベートエクイティ投資会社ベインキャピタルを退職後に知った”Search Fund”の手法を日本に持ち込み、ご自身がサーチファンドの手法で中小企業のM&Aと経営を実現した、「日本人サーチャー第1号」というべき方です。そのときの自身の経験からサーチファンド・ジャパンを設立、日本と米国の起業や投資における環境の差異を考慮した「日本型サーチファンド投資会社」を構築しました。

サーチャーのイメージがあまりに高スペックに定着するのを避けるため、あえてここではご紹介しませんが、こちら側がちょっとひいてしまうほどの颯爽たる経歴の持ち主です。こういったハイスペックな人がサーチャーを選考するとなると、さぞかしハードルも高いのでは…などと思いながら質問してみました。

筆者「サーチャーを選ぶときには、候補者のどんな点をいちばん重視しているのでしょうか?」

伊藤さん「ひとことでいうと人間力ですね」

明快に即答です。

筆者「とはいっても、経営に関する知識はある程度必要なんですよね?」

伊藤さん「もちろん経営の基本的な知識や考え方は必要ですが、例えばMBAや経営コンサルレベルを求めているわけではありません。今後、身につくと思える方であれば大丈夫です」とのこと。

サーチャー候補に名乗りを上げる際に経営のナレッジが少し足りないとしても、それほど心配しなくてよさそうです。

サーチ活動に平均2年かけて取り組むわけですから、必要な知識で自分に足りないものはその間に得ることもできそうですしね。

ついでに言うと、実績面もアクセラレーターからは重視されているわけではありません。

サーチファンドの発祥は1984年、米スタンフォード大ビジネススクールと言われています。同校の起業家志望の学生を支援するアイディアとして生まれました。ということは、最初から実績のない人を対象としている仕組みなのです!

投資家だって、実績や事業計画を重視したいのであれば、普通に事業型ファンドへの投資を選びますよね。サーチファンドに出資しているということは、人のこれからの可能性に投資する意図があるということです。

伊藤さん「事業を承継した後は経営の泥くさい現場に絶対直面します。そうした経験もないのに、『経営について私の方が分かっています』って態度で臨まれるほうがうまくいきません」

知識やスペックよりも「人としてどうか」ということのようです。

では、なぜそれを重視するのでしょうか?どういった場面で必要なのでしょうか?

サーチャーの人間力が試される、ふたつの局面

伊藤さん「M&Aを成立させるには、最終的にオーナーに譲渡を決断してもらわなければなりません。オーナーからすると事業ファンドに会社を譲渡する選択肢もあるのです。そちらのほうがシナジーが分かりやすいことも多いですから。それをわざわざサーチファンドに譲る気になってもらうには、サーチャーの経験や能力に加えて、『この人になら譲ってもよい』と思わせる、人としての魅力が必要です。」

サーチャーの立場としては、できる限り経営が健全な会社を譲り受けたいのは当然のことです。実際にサーチファンド・ジャパンが対象とする案件の目安は、売上規模が5~10億円、EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費、特別損失を加えて算出する経営指標)が5%以上の企業だとのこと。

状態のいい企業の経営者ほど、事業承継を交渉する場ではタフな交渉相手になります。いろいろな選択肢を持っていますから、交渉も慎重になりがちでしょう。

私自身の経験でもトップ面談でサービス精神の旺盛な売り手は、控えめに言っても問題が複雑な企業です。デューデリジェンスのときにもいろいろ出てきます(笑)。

高い価値の企業経営者であれば、そうそう簡単に向こうから前に踏み出してはきません。

しかしサーチャーは、そういった相手から承継先として自分自身を選んでもらわないといけないのです。生半可な武装では心もとないでしょう。結局のところ人間力が大きな要素になるというのは理解できる気がします。

伊藤さん「もうひとつ、承継後にも重要です。サーチャーは外様社長として組織のリーダーになるのです。その意味でも人間力を重視しています」

前回のコラムでも見た通り、サーチファンドのゴールはM&Aの実行ではなくイグジットでした。サーチャーには承継した会社組織で事業を成長させるミッションがあります。会社組織というのは、大抵はさまざまな思惑や感情の集合体ですから、これをうまく取り仕切って引っ張って行けるかどうか。この観点においても人間力は欠かせないということでしょう。

こうした事情をよくわかっている伊藤さんたちアクセラレーターは、サーチャー選考の段階で予め人間力を重要視するのですね。

とはいえ、人間力で実際に事業承継を成立させることができるのでしょうか。

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M&A交渉におけるサーチャーのアドバンテージ

売り手側の経営者には、サーチャーに譲る以外にも選択肢があると先に申し上げました。

例えば、同業者に承継した場合は業界の事情や商慣習などにすでに詳しいですから、予想もしないような失敗で会社を危うくするリスクは低そうに見えます(中小企業経営者には、この同業者に譲るという意向が想像以上に強いです)。事業ファンドに売却すると、送り込まれた経営のプロが企業価値を確実に向上してくれそうな気がします。

会社存続の観点からすると、どちらも有力な選択肢です。

それらを差し置いて、サーチャーへの承継を選んでくれる可能性はあるのでしょうか。あるとすると売り手側経営者の動機は何なのでしょうか。

私は引き継ぐ相手の「顔が見える」ことだと思います。

自分が育ててきた会社を経営者が手放すときに、後々のことが気になるのは、もちろん屋号やブランドといった無機的なものもあるでしょうが、やはり従業員や取引先といった周囲の人々への思いが強いのではないでしょうか。

ここまで自分に付き従ってくれた従業員や、お世話になってきた得意先の人たちを、どのように扱うかは新しい社長にかかっています。

せっかく「従業員の雇用継続」を事業譲渡の条件にしたところで、従業員が離職したくなるような社長に譲ってしまっては元も子もありません。

同業者の社長は顔を見知ってはいても今までは競合だったわけですから、表向きはどうあれ信頼関係をいきなり構築できるとは思えません。

ファンドから送り込まれる社長に至っては、知り合う機会すらほとんどないかもしれません。

一方でサーチファンドは、次期社長の候補が直接交渉する仕組みです。交渉の途中でサーチャーが入れ替わることはありません。経営者は自分自身の目で次の社長候補をじっくりと観察・見分・精査することができます。

サーチャーに勝ち目があるとするとこの点でしょう。

現経営者との関係を、腰を据えて作り上げることができるのはサーチャーです。

採点制では一進一退の攻防だとしても、「この人になら従業員や得意先を任せることができる」と現経営者の心情を射落とすのにもっとも近いところにいるのです。

これと決めた交渉先であれば、サーチ活動期間の大半を充ててでも、現経営者が納得してくれるまで自分を知ってもらうべきでしょう。

ここでこそ人間力が効いてきます。

リスクについても考えておきましょう

いかがでしょうか。「最新のM&A起業手法」としてご紹介しているサーチファンドですが、事業に対する理念や熱意、真剣さ、誠実さ…といった、持っている人なら当たり前に持っているメンタリティが意外と武器になる世界のようです。

ここまでお読みくださったなかには、自分こそサーチャーに相応しいのではないか!と自信が漲ってきた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方に、チャレンジなさる前にお伝えしておきたいことがあります。「リスク」です。

次回は「サーチファンドのリスク」について、その実際のところをお話ししたいと思います。

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執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏
(株式会社エストVISION 代表取締役社長)

学生時代からマーケティングを専攻し、大手エンタテイメント企業のマーケティング担当として従事。
事業を創業した際に必要な顧客は集客活動ではなく「相手に貢献したいという思いが連れてくる」を信条として商いの理想を追求し続ける。
業種にとらわれず多数の事業で「ファン作り」のメソッドを提供。

プロフィール

ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏

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