外国人労働者の言葉の壁を克服! -在留資格と日本語能力-

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 田村 徹

最近、新聞やジャーナル、そしてインターネットのニュースサイトなどの各種メディアにおいて、英金融大手のHSBCホールディングスが公表した「Expat Explorer Report 2019」という調査の結果を採り上げた記事を目にしました。

この調査は、毎年、企業の海外駐在員を主な対象者として実施されているもので、”外国人が働きやすい国・生活しやすい国のランキング”を公表しています。

今年7月に公表されたランキングでは、日本は”ワースト2位(調査対象33カ国中32位)”でした。
この結果をもって、今年4月に創設された「特定技能制度」の先行きが懸念される、といった論調で書かれた記事も少なくはありませんでした。

しかしながら、私は、これらの記事については、少し違和感を覚えました。

なぜならば、調査対象となっている企業の海外駐在員には、赴任先の国において、安心・安全で快適な生活が保障されている社会的・経済的に恵まれた方が多く含まれており、これらの方たちが求めているアッパー(UPPER)な生活や仕事に対するニーズが、必ずしも、
「特定技能制度」で来日される方たちのニーズと合致している訳ではないように思われるためです。

※「特定技能制度」については、拙著の『アジア人材の採用と安定雇用で現場力を強化-人手不足の悩みから解放される3つの提案-』も併せてご一読ください。

2019年4月に、内閣府が公表した「社会意識に関する世論調査」では、日本国民の64.7%が現在の社会について、全体として満足していると答えています。

まだまだ国民意識としての「中流」は根強く、戦後の74年間を通じて戦争のない平和な社会で、教育を受ける機会や物質的な豊かさを多くの国民が享受してきた日本社会の姿は、自ら、異国の地で働き、暮らすことを選択するさまざまな背景を有する外国人の目には、総じて、安全・安心で、比較的安定した社会として映っているのではないでしょうか。

「多文化共生社会」の実現へ

世界に先駆けた課題

現在、わが国の経済成長を進める上で妨げとなるものの根本には、少子高齢化や人口減少という大きな現実の「壁」が立ちはだかっています。
そして、この壁は、多くの国に共通する「世界に先駆けた課題」でもあります。
私たちが、この「世界に先駆けた課題」に向き合い、それをどのようなプロセスで克服していくのかについては、海外からも注目の眼が向けられています。

総務省が発表した2019年1月1日時点の「人口動態調査」によれば、わが国の日本人人口(総人口のうち日本国籍を有する者)は1億2,477万6,364人で、10年連続の減少となり、1968年の調査開始以来最大の減少幅を記録しました。
そのうち、「生産年齢人口(15~64歳)」が占める割合は、過去最低の59.5%となり、高齢化に拍車がかかっています。

すでに、わが国の人口減少は、短期的に回復させることが難しい状況にあります。そして、人口の減少は経済規模の維持を難しくしています。
今後は、団塊の世代のほぼすべてが後期高齢者となる2025年に向けて、”本格的なリタイア”が始まり、ますます厳しさを増していくことが予測されています。

その一方で、2018年12月末現在の中長期在留外国人は240万6,677人となり、1990年から倍増しました。
しかしながらわが国においては、いわゆる移民政策によって「定住人口」を増加させることについては賛否両論のさまざまな意見があり、慎重に議論を重ねていく必要があります。

私自身は、少なくとも移民政策が、日本国内の経済のみを優先した視点で行われるのであれば、国際社会における日本の地位の低下に繋がりかねないものと思っております。

私たちの先人たちは、戦後の焼け野原からの復興期を経て、高度経済成長期を実現させ、「奇跡の復興」として注目され、ときには他国において手本にもされてきました。

とくに、「奇跡の復興」がアジアの国々から賞賛されてきた背景には、”誰ひとりとして社会からドロップアウトさせない”という社会的なコンセンサスがあったことを忘れてはなりません。

言葉の壁

日本で暮らす外国人(特別永住者を含む外国籍の方)や海外にルーツを持つ日本人(帰化した日本国籍の方など) が働き甲斐を感じながら、安心・安全な生活を続けていくためには、日本社会から取り除いていかなければならない「壁」があります。  

国籍の違いによる壁、異文化の壁、そして言葉の壁など。

日本で暮らす外国人との間における日頃からのコミュニケーションを通じて、お互いの文化や慣習を十分に理解し合っていくためには、特に、言葉の壁を克服していくことが大切です。

慣れない職場や学校、そして生活環境での孤独感にさいなまれた外国人に対しは、周囲の励ましや温かな言葉が立ち直る機会となります。

また、外国人が危険を伴う業務に就労する場合、言葉が正確に伝わっていないことによって、身体や生命に危険を及ぼす重大な事故の被害に遭ったり、取り返しのつかない事故を引き起こしてしまったりするときもあります。

そして、日本の学校に通う海外にルーツを持つ子どもたちの高校進学率は50%前後とみられており、細やかな日本語教育が実施されなければ、子ども自身の将来に負の連鎖を生むことにもなりかねません。

新たなコンセンサス

多文化共生社会の実現に向けて

国際社会においては、英語が共通言語であるという意見もあります。
グローバルなビジネス環境などにおいては、否定されることではない、と思います。
しかしながら、来日する外国人の国籍や民族、そして言語などの背景は多様化してきています。

私たちは、増加し続ける”生活者としての外国人”を日本社会の構成員として受け入れ、その多様な背景を持つ人々が、それぞれのアイデンティティーを発揮できる豊かな社会を目指し、より活発に諸外国との交流や友好関係を構築していかなければなりません。

私たちは、わが国における多文化共生社会の実現に向けて、”生活者としての外国人”に対する日本語教育に目を向け、積極的に取組んでいく時機を迎えています。

日本語教育推進法

2019年6月21日、参院本会議において、超党派の議員立法として、国内で暮らす外国人への日本語教育の充実を促す「日本語教育の推進に関する法律案」が全会一致で可決、成立しました。

そして、6月28日には「日本語教育の推進に関する法律(以下、「日本語教育推進法」といいます)」が、公布・施行されました。

この法律の第1条では、この法律が目指すところが定められています。

  • 日本語教育の推進によって、多様な文化を尊重した活力ある共生社会を実現すること
  • 日本語教育の推進によって、諸外国との交流の促進と友好関係の維持および発展に寄与すること

そして、それを実現していくための方策が示されています。

  • 日本語教育の推進に関する「基本理念」を定める (第3条)
  • 国や地方公共団体および事業主の「責務」を明らかにする (第4条~第9条)
  • 日本語教育の推進に関する「総合的な施策」を効果的に推進する
基本理念

この法律は、日本語教育の推進に関し、次の7つの理念を掲げています。

  • 外国人等に対し、その希望、置かれている状況および能力に応じた日本語教育を受ける機会を最大限に確保
  • 日本語教育の水準の維持向上
  • 外国人等に係る教育および労働、出入国管理その他の関連施策等との有機的な連携
  • 国内における日本語教育が地域の活力の向上に寄与するものであるとの認識の下行われること
  • 海外における日本語教育を通じ、我が国に対する諸外国の理解と関心を深め、諸外国との交流等を促進
  • 日本語を学習する意義についての外国人等の理解と関心が深められるように配慮
  • 幼児期および学齢期にある外国人等の家庭における教育等において使用される言語の重要性に配慮
責務

この法律では、基本理念にのっとり、国には、日本語教育の推進に関する施策を総合的に策定し実施する責務、地方公共団体には、国との適切な役割分担を踏まえて、その地域の状況に応じた施策を策定し、実施する責務を課しています。

また、外国人等を雇用する事業主には、国又は地方公共団体が実施する日本語教育の推進に関する施策に協力するとともに、その雇用する外国人等およびその家族に対する日本語学習の機会の提供その他の日本語学習に対する支援に努めることを求めています。

新たな事業機会の創出

日本語教育推進法では、日本語教育が国や地方自治体の責務となり、雇用する外国人等およびその家族に対する日本語学習の機会を提供することが求められており、今後は、雇用する外国人等およびその家族に対する日本語教育の機会を適切に確保していくための公的な助成金制度の充実などが見込まれることから、新たな事業機会の創出に繋がっていくことが期待されています。

すでに、日本語教師の育成事業および派遣事業、さらには、「特定技能制度」における人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野14業種(以下、「特定技能分野」といいます)に対応した日本語学習プログラムを開発して日本語教育事業に新規参入する企業や、海外において新たに日本語学校を設立する企業などが増え始めています。

在留資格と日本語能力

特定技能

在留資格「特定技能」には、”特定産業分野の14業種に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人”を対象とした「特定技能1号」と、”特定産業分野のうち建設および造船・舶用工業に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人”を対象とした「特定技能2号」があります。

このうち、「特定技能1号」の在留資格を取得するためには、あらかじめ、技能水準を確認する「特定技能評価試験」と日本語能力水準を確認する「日本語能力試験のN4」などに合格している必要があります。(共に、技能実習2号を修了した外国人は免除。)

また、特定技能外国人を雇用する事業主においては、”当該外国人が容易に理解し得る言語”による「事前ガイダンス」、入社後の「生活オリエンテーション」、そして定期的な面談などを通じて、「就労支援」と一体に、広く「生活支援」や「社会支援」に取組んでいくことが求められています。

なお、「事前ガイダンス」や入社後の「生活オリエンテーション」および定期的な面談などの支援については、”当該外国人が容易に理解し得る言語”で実施しなければなりません。

また、在留資格の申請に際して、事業主は、すべての支援項目について盛り込んだ「支援計画」を作成し提出し、支援の実施に際しては、「支援計画」に従って適切に実施しなければなりません。

「特定技能制度」では、「支援計画」に基づく支援の全部を「登録支援機関」に委託することが認められています。
その場合、支援に見合った相当な費用が掛かってきます。

また、「支援計画」の一部だけを外部に委託することも認められています。
たとえば、「事前ガイダンス」や入社後の「生活オリエンテーション」に際して、通訳を外部に委託することなどが、これに該当します。

この場合は、「支援計画」の実施責任は、特定技能外国人を雇用する事業主が負うことになります。
「日本語能力試験のN2」以上に合格している外国人については、”当該外国人が容易に理解し得る言語”を日本語とみなすことができます。

そのため、初期には登録支援機関にすべての支援を委託したとしても、入社後の日本語支援を充実させて「日本語能力試験のN2」の合格を目指しながら、支援体制を整えて、段階的に自社内での支援に切替ていくことで、人材育成と共に、支援に係る間接コストの削減に繋げていくこともできます。

法務省告知の改正

2019年5月、日本の4年制大学または大学院を卒業・修了した留学生(以下、「本邦大学卒業者」といいます)の就職支援を目的として、法務省告示の一部が改正され、本邦大学卒業者が日本語を用いた円滑な意思疎通を要する業務を含む幅広い業務に従事することを希望する場合には、在留資格「特定活動」による入国・在留が認められることとなり、そのガイドラインが公表されました。

この本制度は、本邦大学卒業者が日本国内の企業等において、日本の大学等において修得した広い知識、応用的能力等のほか、留学生としての経験を通じて得た高い日本語能力を活用することを要件として、幅広い業務に従事する活動を認めるものです。

「技術・人文知識・国際業務」の在留資格においては、一般的なサービス業務や製造業務等が主たる活動となるものは認められませんが、本制度においては、前述の諸要件が満たされれば、これらの活動も可能となります。

※在留資格「技術・人文知識・国際業務」については、拙著の『留学生の採用と登用で差別化!– インバウンド市場を開拓 –』も併せてご一読ください。

この場合の日本語能力については、「日本語能力試験のN1」又は「BJTビジネス日本語能力テストで480点以上」が必要です。

ただし、日本の大学又は大学院において「日本語」を専攻して大学を卒業した方については、これらの条件を満たすものとして取扱われます。

また、外国の大学・大学院において「日本語」を専攻した方についても、これらの条件を満たすものとして取扱われます、ただし、この場合は、併せて日本の大学・大学院を卒業・修了している必要があります。

ガイドラインでは、この制度によって活動が認められているものを例示列挙しています。

  • 飲食店に採用され、店舗において外国人客に対する通訳を兼ねた接客業務を行うもの(それに併せて,日本人に対する接客を行うことを含む。)。
    ※厨房での皿洗いや清掃にのみ従事することは認められません。
  • 工場のラインにおいて、日本人従業員から受けた作業指示を技能実習生や他の外国人従業員に対し外国語で伝達・指導しつつ,自らもラインに入って業務を行うもの。
    ※ラインで指示された作業にのみ従事することは認められません。
  • 小売店において、仕入れや商品企画等と併せ、通訳を兼ねた外国人客に対する接客販売業務を行うもの(それに併せて、日本人に対する接客販売業務を行うことを含む)。
    ※商品の陳列や店舗の清掃にのみ従事することは認められません。
  • ホテルや旅館において、翻訳業務を兼ねた外国語によるホームページの開設,更新作業を行うものや、外国人客への通訳(案内)、他の外国人従業員への指導を兼ねたベルスタッフやドアマンとして接客を行うもの(それに併せて、日本人に対する接客を行うことを含む。)。
    ※ 客室の清掃にのみ従事することは認められません。
  • タクシー会社に採用され、観光客(集客)のための企画・立案を行いつつ、自ら通訳を兼ねた観光案内を行うタクシードライバーとして活動するもの(それに併せて、通常のタクシードライバーとして乗務することを含む。)。
    ※車両の整備や清掃のみに従事することは認められません。
  • 介護施設において、外国人従業員や技能実習生への指導を行いながら、外国人利用者を含む利用者との間の意思疎通を図り、介護業務に従事するもの。
    ※ 施設内の清掃や衣服の洗濯のみに従事することは認められません。

この在留資格を取得するためには、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬が支払われることが必要です。

また、この「特定活動」が指定された外国人の扶養を受ける配偶者や子供については「特定活動」(本邦大学卒業者の配偶者等)の在留資格で、日常的な活動が認められることとなっています。

その他の在留資格と日本語能力

法令上で明確に定められていなくても、日本で行う業務によっては、日本語能力が低い場合には成り立たないという場合があります。

例えば、在留資格「技術・人文知識・国際業務」のうち、”国際業務”で通訳・翻訳業務に従事する場合には、一般的には、「日本語能力試験のN2」以上が必要とされています。

その他にも、在留資格と日本語能力が密接に関係している場合がありますので、必要に応じて、ぜひ、ご相談ください。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 田村 徹氏
(ICT法務サポート行政書士事務所 代表)

大学卒業から23年間、総合印刷会社にて事業の立ち上げやトップマネージメントを経験した後に独立。経営コンサルタントに転身し10年し、キャリアの中で行政書士資格を取得し5年の経験。
豊富なマネジメント経験と専門家としての適格なアドバイスが好評で、多くの中小企業の経営力を向上させた実績が豊富。

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ドリームゲートアドバイザー 田村 徹氏

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