「コロナに負けるなキャンペーン」が会社を潰す 〜1%の値引きが致命的なワケ〜

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 李 顕史

「コロナに負けるなキャンペーン」をして、落ちた売上を回復させなくちゃ・・・
なにか消費者にとって魅力的なキャンペーンを打って集客しなくちゃ・・・

これが多くの経営者の本音でしょう。コロナウイルスの影響で、多くの会社が売上減少に直面しています。少しずつ経済活動が再開したと思ったら、また感染者数が増加傾向にあり、売上はすぐには戻ってこないと思います。まだまだ消費が活性化する見通しもたちません。

「まずは値引きをして、少しでも売上を増やしていこう」と考える経営者が多いと感じています。実際、街やネット上で「コロナに負けるなキャンペーン」などと銘打って値引きしているサービスを多く見かけます。

このような経営努力により販売数が増え、売上高が持ち直して来ると、少し胸をなでおろすことになるでしょう。「ああ、これでもう少し頑張れる・・・」と。

しかしこの「値引きによる売上増大」が命取りになりかねないのです。

どういうことなのか?

「売上」ばかり気を取られてかえって「利益」を減少させてしまい、気づかないうちに経営・資金繰りに苦しむ可能性が高くなります。

本当に企業を存続させるために必要なのは、「売上を増やす」という視点でなく、「利益を増やす(なるべく減らさない)」視点なのです。苦しい今だからこそ、「売上」の視点から「利益」へ視点を変えて経営を見直してみませんか?

「売上」ではなく「利益」を見ないことが危険

「利益」の視点で経営を見直すには、まず「商品やサービスごとの粗利(売上高-売上原価)」を大まかに把握し、絶えず頭の中に入れておくことが重要となります。

研修講師業やコンサルティング業のように、費用が自分の人件費だけで原価を把握しづらい場合は、作業1時間あたりの売上高を理解・意識するとよいでしょう。

そうすることで、経営改善の方策を考えるにあたり「売上」中心の視点の時とは異なったアプローチを取れるようになります。

たとえば、飲食店で「ビールよりもハイボールの方が、粗利が高い」という事実に着目しましょう。そうすると、「ビールよりもハイボールのメニューを充実させるのはどうだろう」といった考え方が出てくるかもしれません。

そして、「値引きの是非」について考えてみましょう。

「値引きをしても、そのぶん売上を増やせば、そりゃあ利益もあがるでしょう」と考える方もいるかもしれません。しかし「利益」はそうではありません。

売上を増やしたとしても、わずか1%の値引きをしただけで、致命的に利益を削ることがある」のです。

「1%の値引き」が利益を1割削る?

1つ1,000円の商品があるとします。売上増加を狙ってこの商品を1%値引きして販売したとしましょう(図表参照)。

標準価格 1%値引き
売上高 1000 990
経費 900 900
営業利益 100 90

 
ポイントは値引きをしようがしまいが、商品をつくるための原価や販売するためなどにかかる経費は変わらないことです。この商品の経費は900円です。

値引きがなければ、商品1個あたりの利益は100円となります。一方、標準価格から1%の10円を値引きして売った場合、経費は変わらないので利益は90円になります。

つまりこの場合、1%値引きをすることで、本来得られたはずの利益を10%削ることになるのです。

先程の「値引きをしても、売上を増やせば当然利益もあがる」という論理は成り立つでしょうか。

この商品が通常10個売れ10,000円の「売上」があるとします(「利益」は、100×10=1,000円)。そこで、値引きをして売上を増やすキャンペーンをしました。1%の値引きをしたら、11個売れました。

そうすると、「売上」は990×11=10,890円、890円上がりますね。ところが、「利益」は90×11=990円、10円損をしているのです。

平常時 1%値引き
売上高 10,000 10,890
経費 9,000 9,900
営業利益 1,000 990

 
「売上」増加⇒「利益」増加、という論理は成り立たない場合があるのです。

一生懸命キャンペーンをうって売上を伸ばしたのに、かえって損をしているのでは、経営がうまくいくはずもないですよね。そうならないように、普段から「利益」の視点をもって経営をしていく必要があるのです。利益が減少することは将来的な資金繰りにも行き詰まります。

「コロナでの利益減少を抑えるには、どうすればよいか?」

コロナで利益が大幅に減少している今、具体的にどのような対策をたてるのがよいのでしょうか。先程あげた商品をもう一度例にとって、考えてみてみましょう。

平常時で10個売れていた商品が、コロナの影響で半分の5個しか売れなかったと仮定します。

平常時 コロナ環境時
売上高 10,000 5,000
経費 9,000 4,500
営業利益 1,000 500

 
しかし、営業利益が500円では固定費(給料や家賃)が払えない。どうしても営業利益550円は欲しいと仮定します。

「値下げ」キャンペーンによって、この事態を乗り越えられるでしょうか。または「値上げ」は考えられるのでしょうか。

取るべき手段を、

①1%値下げ
②1%値上げ
③10%値下げ
④10%値上げ

の4つの方法でシミュレーションしてみましょう。

※このシミュレーションは、値上げと値下げの比較が目的なので、他の経営努力の手段(コストカットなど)に関しては、ここでは考慮に入れていません。

「1%値下げ」

1%の値下げをして客数を増やし、営業利益を上げるという方法です。販売数を何個増やせばよいでしょうか。

先程あげた例でみたように、1%値下げをした場合の商品1個あたりの利益は90円です。550円の営業利益を獲得するには、550÷90=6.1。つまり7個の販売が必要となります。

今よりも2個多く売らなくてはなりません。消費が落ち込んでいるときに1%の値引きだけでこれだけ客数を増やすのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

「1%値上げ」

1%の値上げをして営業利益を上げるという方法です。

商品1個あたりの利益は110円です。この場合、550円の営業利益は5個の販売で獲得可能です(550÷110=5)。

1%の値上げのインパクトが消費者にとってあまりなく、販売数の減少を食い止められたら、値上げだけで目標達成が可能です。

「10%値下げ」

10%大幅に値下げをし、とにかくたくさん売ろうという方法です。売上を増やす視点からは、値下げに目がいきがちです。

この場合の商品1個あたりの利益は、900(販売単価)-900(経費)=0円です。まさに利益度外視ですね。この場合、商品が100個売れたとしても営業利益を獲得できません

10個売れた場合、売上高だけみると、1万円(1,000×10=10,000)がコロナの影響で5,000円(1,000×5=5,000)に落ち込んでいたところ、9,000円(900×10=9,000)に回復したため、経営が回復してきたように見えてしまいます。

ただ、それが大きな落とし穴となってしまいます。営業利益で考えると、コロナの下でも辛うじて5,000円あったところ、値引きをして頑張ってたくさん商品を売ったことで利益が0円になってしまっているのです。

10%値下げ
売上高 9,000
経費 9,000
営業利益 0

 
こうなると、もう経営の継続を諦めることも考える必要がでてきます。「大量発注をすれば、仕入値が大幅に安くなる」「適切なロットになり、製造原価が抑えられる」といった特別な理由があって営業利益が確保できない限り、値下げはしないほうがよいでしょう。

「10%値上げ」

客数が減るのを覚悟した上で、利益率を上げていくという方法です。

この場合の商品1個あたりの利益は、200円(1,100-900=200)です。営業利益550円を獲得するには、3個(550÷200=2.75)売れればよいことになります。

つまり、5個販売しているところ、10%の値上げで販売数量の減少を3個までに抑えれば、目標が達成できることになります。

商品の特性や客層等によって、値上げによる販売数量の減少がどれくらいになるかは一概には言えませんが、場合によってはこの方策が一番簡単なのかもしれません。

まとめ:客数を少しでも増やすためには、値引きでなく他の手段で

値引き販売が悪いとは断言できません。業種や商品の特性から、値引きしたら客数が爆発的に増えるかもしれないですし、利益率が高い場合には値引きが利益に与える影響が少ないケースも考えられるでしょう。

しかし値引き販売が思ったより利益面に悪影響を与えることがお分かりいただけたかと思います。値下げをする場合はその根拠を数字で分析したうえで、利益が増加することを確認すべきです。苦しいときほど、無条件に値引きすることだけは避けたほうがいいでしょう。

経営者はもちろん営業担当などの方も、「粗利」を意識した事業活動を、今だからこそ大事にしていただきたいと思います。

執筆者プロフィール:
李 顕史(り けんじ) / 李総合会計事務所

大企業の監査の経験を基にした知識の豊富さと、実行支援まで行う実行力の高さがウリの李アドバイザー。多くの相談対応の経験と非常に接しやすい人柄で、様々な経営相談にご対応いただけます。

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