Vol.2 意思決定と感情

経営改善・成長戦略

執筆者: ドリームゲート事務局

意思決定におけるバイアスの根源には、感情の働きがあります。その仕組みを知ることは、自分自身そして他者への理解を深め、人とより良くかかわっていくためのヒントになります。

感情とは

思考回路イメージ感情とは、意識にのぼる、喜び、怒り、驚き、悲しみ、恐怖、嫌悪などの気持ちを指します。これらの起源は、大脳辺縁系と呼ばれる古い脳(思考や意識をつかさどるのは大脳新皮質)にあります。辺縁系での感情回路は、大雑把で速いのが特徴です。例えば、忘れ物を取りにオフィスにもどったら部屋は真っ暗だった、という場面を想像してみましょう。

暗闇を歩いていると細長い物体がありました。あなたはとっさに飛びのきます。その後、その物体がコードであることを認識して安心します。飛びのいたのは、視覚情報を大雑把に認識し、それが危険と感じる感情回路の働きです。辺縁系にある感情回路は、私たちが対象に近づくべきか避けるべきかを瞬時に判断する仕組みであり、上記の例でも分かるとおり、生き延びていくための必須の機能です。私たちの情報処理系は、「大雑把で迅速な感情回路」と「綿密で遅い思考回路」という非常に異なる性質の2系統によって成り立っています。

感情と意識

William Jamesは、「クマを見ると恐ろしくなって逃げる」という常識的な考え方に対し、「クマを見るとまず逃げるという身体動作が生じ、この反応によって恐ろしいという感情が発生する」という説を発表しました(1884年)。これが感情発生論のはじまりです。暗闇の細長い物体の例にあてはめてみましょう。「怖いという意識があり、それで飛びのいた」のでしょうか、それとも「まず真っ先に飛びのいて、後から怖いという感情的意識が発生した」のでしょうか。考えてみて下さい。

この問いに明確に答えを出す人は少ないと思います。ただ、
・私たちの意識は、自分自身が行うことの一部しかみえていないこと、
・どこまでが意識で、どこまでが無意識かの境界がはっきりしない、
この2点は確かだと思います。

感情発生イメージ意識と感情の関係は単純ではありませんが、以下の例で、その一旦が分かります。これは、Zanoncらによる感情プライミングの実験(1984年)と呼ばれている研究です。4ミリ秒間呈示した画像は、その極めて短い時間のため「見えた」と意識はされないのですが、その直後の画像の印象に影響を与えます。すなわち、「見えてはいない」はずの4ミリ秒間の楽しそうな顔写真(呈示-1)により、その直後に呈示された画像(呈示-2)の印象がpositiveに感じられます。逆にしかめっ面顔の写真(4ミリ秒間の呈示-1)は、呈示-2がnegativeであるという印象を与えます。見ている人が意識できるのは、呈示-2の画像情報と原因不明で沸き上がった感情です。人はその感情の原因を、自分が認識できている唯一の要因(=呈示-2)と認識してしまうのです。このような判断の誤りは、感情の誤帰属と呼ばれます。人間は、意識に上ってくる要因だけを単純な因果関係に投影しているに過ぎません。

この実験例は非常に特殊な条件下で行われていますので、普段に生活には関係ないと思われるかもしれません。しかし、これと同様の現象は日常的にも起こっています。例えば、スイカの写真の周辺に水羊羹が小さく写っている、そんな通販サイトを見たことはないでしょうか。通常、水羊羹は意識されませんが、感情回路は甘いという印象だけを誘起し、見た人は、その印象とスイカを結びつけて、スイカをとても甘いものと認識してしまうのです。私たちの認識は、誤帰属に満ちています。

Somatic marker仮説

これまで、通常私たちがしっかりとした関係性と認識していることが、実は非常に危うい情報処理であることを説明してきました。その主役である感情は、前回説明したヒューリスティクスの性質と共通点があります。最近の研究によって、両者の関係が明らかになってきました。Damasioらは、様々な脳障害者の研究をもとに、以下のSomatic marker仮説を提案しています。

・過去の意思決定体験が、その結果誘起された感情体験と共に記憶されている。
・感情は、体性感覚として記憶される。
・意思決定場面においては、(記憶された体性感覚が活性化し)過去の類似体験の感情状態が誘起され、その状態で判断が行われる。

つまり、その人の膨大な判断の経験が、その結果に対する感情的反応とともにデータベースとして記憶されていうものです。そのデータは、類似の判断場面において瞬時に想起され、現在の判断に影響を与えます。これがヒューリスティクスと呼ばれているものの具体的プロセスであると考えられます。 自分が判断する過程において、心の奥にある感情の動きを自覚することができたならば、自分の判断も変わる可能性があるということになります。前回紹介した「論理ではない何か」を感じた方は、意識から意識下の活動を感じているのです。また、ヒューリスティクスと感情との関係が分かると、アジアの免疫問題において、positive/negativeな表現が判断に影響を与えることも納得できるでしょう。

異なるということを大切にする

ヒューリスティクスは経験の産物です。人により判断が異なり、それをめぐる議論をすることは、各人の経験という膨大なデータをぶつけあうことです。自分とは異なる判断の奥には、分厚い歴史があります。そう考えることができれば、「どうして分ってくれないんだ」という表現はあまりにも短絡的と感じるのではないでしょうか。むしろ、それぞれの人が築き上げてきた知性を、共通のテーマを通して融合させる場であると捉えることができます。そして、判断の奥に感情の働きがあるということは、議論というコミュニケーションの場において、non-verbal情報をキャッチすることが重要であることを意味しています。

この様な立場を取ると、より良い議論の展開が可能になり、結論の質を高めることが出来ます。さらにそのプロセスを通じて、お互いを知りあい、チームとしての結合力を高めることにもつながるのです。

次回は、具体的な展開の方法について考えます。

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