Vol.03 知っ得。上場時の株価の仕組みとは?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
『上場をする』ということは、『株価と付き合う』ということ。日々変わる株価は経営者にとってはかなりのストレス。しかも、資金調達や上場の時でも一番もめるのは株価です。経営者にとって、株価の決め方を知っておくと何かと便利。今回は一番ポピュラーな株価の仕組みをご紹介します。

株価は『将来利益の倍数』で決まる

 株価の決め方はいくつかの方法があります。

まず同業他社や業種の株価と比べる「類似会社(業種)比較法」や、将来の利益を足し合わせる「ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法」、翌年度の利益に一定倍率を乗じる「倍率法」。M&A の時には、これらの方法で株価をいろいろと出してみて、買収価格を決めていきます。

 資金調達や上場後の株価を見るときはもう少しシンプルに考えています。それが「倍率法」です。

実際の計算式は以下のとおりです。

 来期の1株あたり当期純利益(EPS)×株価収益率(PER)=株価

 上場企業の平均PERは長期的に見ると約20倍というのが市場のコンセンサスです。その場合来期の1株あたり当期純利益(EPS)が1万円であれば

 EPS1万円 ×PER20倍=株価20万円

 となります。

 非常にシンプルですが、恣意性が少なくわかりやすいため、一般的に採用されています。実際には、資金調達や上場をする会社の属する業種別上場企業の平均予想PERを参考に株価を決めています。したがって一律 PER20倍ということにはなりませんが、株価を考える目安としては使いやすい数字かと思います。

 

PERは変動するもの。だから利益の積み上げが一番

 注意しなくてはならないのは、PERは市場環境や業種によって変わってくるというところ。先ほどの算式で言えば、株価が安くなってくれば必然的にPERは下がります。

  EPS1万円で株価が10万円になっていたとすると、

 株価10万円÷EPS1万円=PER10倍

 全体的に株価が安くなると、PERが下がってきます。それは上場の際のPERに大きく影響を受けます。実際に、PER10倍前後で上場をせざるをえなかった会社もあります。逆に、50倍以上のもPERで上場できた会社も過去にはあります。

 困ったことに、上場株価の決定は上場直前にされることが多いので、上場準備中はよくわからないのです。上場前数ヶ月で株式市場が悪化して思っていたPERが出せずに上場延期をするケースもあります。では、会社としてはどうすればいいのか?会社が一番予想しやすい数字を確実にしていくのが一番です。それが、来期の予想利益なのです。

 

未上場の時の株価が「安く」なってしまう!?

 以外と上場するまで知られていないものに、『上場ディスカウント』という言葉があります。上場する際に、株価をディスカウントする考え方です。たとえば、先ほどの株価20万円で見てみると;

 PERから求めた理論株価 20万円×80%=上場時の公募売出株価16万円

 4万円もディスカウントされることになります。20‐30%ディスカウントが一般的です。

 なぜ「上場ディスカウント」をするのでしょうか。

 理由としては、以下の3つが考えられます。

(1)既存の上場会社に比べて投資情報が限定的であるため

(2)株式市場での実績がないため(上場後の動きが予測できない

(3)投資家に「お得感」を持たせて購入してもらいやすくするため

 特に、『投資情報が限定的』だとということはディスカウントの大きな理由になっています。上場企業の場合、「適時開示」が義務付けられていて、決算数字上に影響を及ぼす可能性のあるアクションをする際にはすぐに市場に情報を公開しなくてはなりません。一方で、未上場企業の場合は、決算書を株主や債務者に開示する以外、ほとんど情報開示はしません。上場の際でも投資家に開示をする情報は「目論見書」という一冊の冊子だけ。投資家からすれば、日々投資を考えている会社の情報をチェックしながら株式を購入するため、これから上場する企業の株式を購入することはリスクが高いと考えてしまいます。

 ディスカウントを相殺するためには、利益を上げること。それが一番です。

 

「赤字でも上場できる」はホント?

  新興市場では、利益基準のない市場もあります。理論上、「赤字でも上場できる」ということです。実際に、直前期が赤字でも上場した企業はあります。実際に私もその企業の上場支援をしていました。ただ、現実としてはかなり厳しいと思ったほうがいいです。今回お話したPERを使った株価算定についても、赤字であれば株価は出せません。来期黒字になるとしても、これまで赤字だったのがどうやって黒字になるのか、投資家からすれば十分な説明を受けることはできません。

 また、黒字であっても、数千万円単位の当期純利益での上場はあまりお勧めしません。「上場ディスカウント」で時価総額は思った以上に安くなってしまうからです。

当期純利益1億円の企業を例に挙げて考えてみましょう。

 当期純利益1億円×PER20倍×上場ディスカウント80%=時価総額16億円

 これでも上場基準はクリアできる市場はあります。しかし、実際のところは投資家や証券会社の見方は厳しいといわざるを得ません。

 直前期の当期純利益が最低でも2~3億円。これが証券会社が「上場に値する企業」として一般的に判断する利益金額です。私の経験則からも、このぐらいの利益は必要と考えます。

 これがすべてではなく、ビジネスモデルの差別性や成長性によっても見方は変わってきますが、今後上場を目指す皆様には、ひとつの目安としていただければと思います。

 

次回はインタビューコラムです

 このコラムは「実践的」をポリシーとしています。次回は実際の上場企業の経営陣の声を掲載したいと考えています。店頭上場からあれよあれよという間に東証上場に上がっていった企業です。お楽しみに。

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