草野紀親が語る!
新しい価値をつくる、デザインマネジメント経営
【第二章】 デザインマネジメントがイノベーションを起こす ~基礎編②~

営業・マーケティング

執筆者: 草野 紀親

現在の日本には、優れた技術や質の高い製品・サービスなどが数多く普及しています。そこには長い年月をかけての努力と成果があり、海外の国々と比較してもトップレベルといえるでしょう。しかしながら、近年、欧米諸国で活発化している企業のように、高技術や高品質はもちろん、感性・創造性から生み出される戦略を行う国内企業はほとんどありません。その戦略こそが「デザインマネジメント」なのです。

本章では、デザインマネジメント専門家である草野氏により、「デザインマネジメント」とは何か。有名企業はいかにして「デザイン」を用い、成功したか。なぜこれからの日本に「デザインマネジメント」が必要なのか。について段階的に解説していただきます。

草野 紀親(くさの のりちか)
株式会社かたちなきもの 代表取締役 http://katachinakimono.com/
デザインマネジメント専門ブログ http://design-management.net/
一般社団法人ニッポニア・ニッポン 理事 https://nipponianippon.or.jp/

「デザインマネジメント」とは経営に直結するデザインであり、新たな知の創出(新しい価値をつくる力)を促します。
デザインへの気づきや、アドバイザリーサポートの役割を果たすことで、日本を元気にしたいと考えています。

【プロフィール】
1973年4月22日生まれ。ブランディング・クリエイティブ業界での実務経験20年。ブランドコンサルファーム、クリエイティブプロダクション、広告代理店にて、デザイン マネジメントの知識と経験を養い、広義なデザイン(人、環境、モノ、仕組み、問題提起、コミュニケーションツール) のデザイン マネジメントのあり方と技術を磨く。ブランドコンサルファームの創業立ち上げ支援、最高執行責任者を経て、株式会社かたちなきものを設立。後進の育成や日刊工業新聞社、大学など、各方面で講師活動も精力的に行っている。2017年4月、経済産業省後援事業認定 ドリームゲートアドバイザーに就任。

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アドバイザー:草野 紀親
草野紀親が語る!新しい価値をつくる、デザインマネジメント経営 第一章 デザインマネジメントを知る ~基礎編②~
草野紀親が語る!新しい価値をつくる、デザインマネジメント経営 第一章 デザインマネジメントを知る ~基礎編②~

「デザインマネジメント」と「イノベーション」の関係

「イノベーション」とは、日本語で「技術革新」と翻訳されていますが、本来「人々に新しい価値をもたらす行為」のことを指します。今日では、「イノベーション」に関する研究がどんどん進み、政府の政策におけるキーワードにもなるほど重要なテーマです。

なぜ「イノベーション」なのか!?

「イノベーション」がこれほど重要視されている理由の一つは、企業の経済成長を促すことにあります。「イノベーション」によって、新たな市場が誕生し、既存の市場から新たな市場にスライドする際に、イノベーションのトリガーとなった製品は、莫大な利益を生み出すことができます。

では、いかにして企業がデザインマネジメントを用いてイノベーションに繋げているか、わかりやすい事例として3つの有名企業をご紹介いたします。

【事例1/iPhone】

「破壊的イノベーション」の例えとしてよく用いられる「iPhone」は、人々の生活を変化させたといわれています。電車の中での過ごし方や、テレビやラジオの利用の仕方、人と人とのコミュニケーションの形態など、「iPhone」によって生活する上で様々な変化(価値の変化)が起こり、新しい価値が生まれました。
「iPhone」を作り上げた原動力は、Apple創業者のスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)による哲学的思想にあります。スティーブ・ジョブズには、自らの思想を「iPhone」で表現するという気概と情熱がありました。また、イノベーションを実現させたもう一つの側面として、ITの分野を活用したことも挙げられます。

ITの“新たな価値を生み出す力”

「関連づける」「つなぎ合わせる」「新しいものを生み出す」

ITに秘められた“新たな価値を生み出す力”は、彼の思想の中での物事を関連づけ、つなぎ合わせる作業に融合し、瞬く間にイノベーションを加速させ、世界シェアを獲得しました。

Think Simple ―アップルを生みだす熱狂的哲学
著者/編集: ケン・シーガル, 林信行  出版社:NHK 出版

【事例2/アウディ】

数十年前までのアウディは、今ほど高級車のイメージはなく、「少しだけ高級な車」というイメージが一般的でした。そのイメージから脱却し、現在では富裕層に絶大な人気を誇り、確固たるブランドを築いています。アウディの人気には、様々な要素がありますが、その大きな要因として、プレミアムブランドのイメージを築くために“高価格設定にこだわった”ことにあります。

革新的に性能を進化させるわけではなく、高価格に伴い、価格に見合うだけのモノをつくる(=ブランディングデザインに力を注ぐ)ことで競争ができる、これがアウディのデザインマネジメント(ブランディング戦略)が成功している大きな要因のひとつです。
 

 

 未来のつくりかた Audi で学んだこと
 著者/編集: 和田智  出版社:小学館
 

 

 

【事例3/スターバックス】

スターバックスのコンセプトには5つの要素があるのをご存知でしょうか?
 

1. Handcrafted(手作り感)
2. Artistic(芸術性)
3. Sophisticated(洗練された)
4. Human(人間らしさ)
5. Enduring(永続性)
 

この5つの要素が基礎となり、スターバックスのコンセプトとしてつくられたのが、社会学者のレイ・オルデンバーグ(Ray Oldenburg)が提唱している「第3の場所づくり」の考え方です。スターバックスの第3の場所は、家庭にも職場にもない“安らぎを提供すること”を目的につくられ、コーヒーを売るのではなく、場所をデザインするという思考を取り入れ大切に守っています。
この思考法こそスターバックスが起こし続けてきたイノベーションの起点であり、スターバックスに人が集まる秘密です。

 スターバックスを世界一にするために守り続けてきた大切な原則
 著者/編集: ハワード・ビーハー, ジャネット・ゴールドシュタイン, 関 美和(訳)
出版社:日本経済新聞出版社

「デザイン思考」で、企業の「イノベーション」を促進させる!

最近、「デザイン思考」によって新しい価値づくりを促すことが注目されています。

元々の「デザイン思考」の原点は、イタリア人のアーティスト、ブルーノ・ムナーリ(Bruno Munari)にあると言われています。しかし、現在における戦略的な「デザイン思考」の拡がりは、アメリカ本拠地のIDEO社(デザインコンサルティングファーム)から発展し、世界的に注目を集めるようになりました。

IDEO社のCEOであるティム・ブラウン(Tim Brown)によると、「デザイン思考」とは、「実行可能なビジネス戦略にデザイナーの感性と手法を用いて、顧客価値と市場機会の創出を図る」とされています。

「デザイン思考」が注目されている理由を理解するためには、「イノベーション」についてもう少し深く知る必要があります。「イノベーション」とは先程、「人々に新しい価値をもたらす行為」であるとご紹介しました。この「イノベーション」には、大きく分けて2つに分類することができます。

“持続的イノベーション”と“破壊的イノベーション”

“持続的イノベーション”とは、企業の既存の顧客の要求を満たすために、既存の製品をバージョンアップさせる行為のことです。日本国内の企業が最も得意とする領域です。

反対に“破壊的イノベーション”とは、たとえ製品の性能が既存のサービスより低くても、新しい使い方や、新しい価値観を与える製品が既存の市場を破壊し、新たな市場を獲得することです。

日本のガラケーは、カメラのスペックや軽さ、ワンセグなど、どれも充実しており、機能面に関しては iPhoneと比べても劣ってはいなかったが、それでも iPhoneに顧客を奪われてしまいました。
同じイノベーションでも、“持続的イノベーション”と“破壊的イノベーション”では、アプローチの方法は異なります。
“持続的イノベーション”は、既存の顧客をマーケティングリサーチすることで、次の改善点が見えてきますが、“破壊的イノベーション”の場合は、まだ手法が確立されていません。そこで注目されているのが、「デザイン思考」なのです。

そもそも“破壊的イノベーション”とは、顧客の要求の実態そのものが、顧客自体もわかっていないため、マーケティングリサーチで明らかになることはほとんどありません。新しい製品がヒットするかは、想像の世界にあります。故に、デザイナーの「クリエイティビティ」に頼る部分が非常に大きいのです。

要約すると、以下のようになります。

「持続的イノベーション」
→ マーケティングリサーチ

「破壊的イノベーション」
→ デザイン思考

「デザイン思考」の研究は現在も活発に行われています。まだまだ進化の過程ですが、一つの例として、以下のプロセスを高速で回すこととされています。

フロー図
  

「デザイン思考(デザインシンキング)」は、ロジカル思考とは違い、勉強して身につく性質の物ではありません。「デザイン思考」を身につけたい方は、実際に体験できるワークショップや、実践を通して学ぶことをオススメします。
  

デザイン× 経営の時代へ

私とデザインの付き合いは実に20年になります。ブランドコンサルファーム、クリエイティブプロダクション、広告代理店など、いくつか会社を渡り歩きながら経験を積み、いろいろなことを学ばせていただきました。
私がそもそもこの仕事を始めたきっかけは、「かっこいいものがつくりたい!」「かっこいいものをみんなに見てもらいたい!」という思考停止にありがちな漠然としたものだったのを覚えています。デザインの性質上、どうしても視覚的要素から捉えてしまいがちですが、私がデザインは見た目だけではないことに気がつけたのは、まったくやったことのない新規事業を立ち上げるという大きな壁にぶち当たったのがきっかけでした。私はこの大きな経験を経て「デザイン」というものに対しての考え方がガラリ変わりました。それが私と「デザインマネジメント」との運命的な出会いになります。

次回の『草野紀親が語る!新しい価値をつくる、デザインマネジメント経営』
【第三章】中小零細企業だからこそできる!戦略的「デザインマネジメント」~基礎編③~

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