freee対マネーフォワード事件から学ぶ
特許出願戦略

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 森下 梓

昨年、会計ソフトの開発企業フリー株式会社が、こちらも同じく会計ソフト開発の株式会社マネーフォワードに対し、特許権侵害訴訟を提起した事件がありました。【東京地裁平成29年7月27日判決<平成28年(ワ)第35763号>】。同事件は、日本を代表するフィンテックベンチャー同士の特許訴訟であっただけに、多くの関心を集めました。

特許権の特性

特許権とは、特許法に定められた「発明」を保護するための権利です。伝統的には、個人発明家や製造業の技術を保護するものとして機能してきましたが、昨今の業態変化に伴い、ソフトウェアやIT関連のビジネスモデルを保護するものとしても利用されています。

こういった傾向から、近年後者について、よく「ビジネスモデル特許」と呼ばれることがありますが、厳密にはビジネスモデル自体を権利として保護するわけではありません。ビジネスモデル特許は、あくまでそのビジネスモデルに利用する具体的なソフトウェアや、ハードウェアの機能を保護の対象とするものであり、まったく技術とは無関係な営業方法、会計方法等が保護されるわけではないのです。
だからといって、テック系ベンチャー以外の企業が特許を軽視して良いわけではありません。Amazonの「1-Click注文」の特許(特許第4937434号および特許第4959817号)に代表されるように、ビジネスモデル特許はその利用の仕方によって、非常に強い武器になります。今回取り上げるfreee対マネーフォワード事件も、このビジネスモデル特許が問題となった事案です。

事案の内容

freeeは、会計ソフトの「自動仕訳機能」に関する特許(特許第5503795号)に基づいて、マネーフォワードを提訴しました。自動仕訳機能とは、ユーザーが取引内容を入力すると、その入力された内容からアプリがキーワードを抽出し、取引内容に適合する勘定科目を自動的に選択してくれるという機能であり、ユーザーは、手動で勘定科目を入力する手間を省くことができます。
freeeは、マネーフォワードの提供するアプリが、取引内容から自動的に勘定科目を選択する機能を備えていることから、同特許を侵害すると考えたのですが、実際には、マネーフォワード側の提出した証拠により、freeeの主張は退けられ、請求は棄却されてしまいました。

事件から学ぶ特許出願戦略

この事件のポイントは、freeeが、マネーフォワードの製品の機能が特許を侵害しているかどうかについて、確実な証拠をつかめないまま提訴した可能性が高いということです。一般に、侵害訴訟には多額の費用がかかりますから、特許権者は、他社が特許を侵害していることを確信してから訴訟に踏み切ることになります。しかし同事件では、特許の内容がアプリに実装されているアルゴリズムに関するものであったために、ソースコードを取得しなければ、侵害の有無が確実に判断できないという事情がありました。そのため、freeeは、アプリを利用した際の挙動から、侵害の可能性が高いと考え、提訴に及んだのです。

このように、特許侵害を外部から判断できるか、という視点を、「侵害検出性」と呼びます。せっかく特許を取得しても、他社が侵害しているか分からないのでは、利用価値が低く、自社の技術を業界に広めてしまうだけという結果になりかねません。そのため、侵害検出性の低い技術については、原則として特許出願せず、ノウハウとして自社に蓄積すべきといえます。一方で、特許出願を行わない場合、同様の技術について他社に特許を取られてしまうと、常に特許侵害のリスクにさらされながらビジネスを行うことになります。そのため、出願するか否かの判断には、他社による特許取得の可能性があるかという観点も考慮に入れる必要があります。

さらに、他社と共同して開発した成果に基づいて事業を始める場合には、他社からの技術流出のリスクを考えて、侵害検出性が低くとも特許出願を選択するということもありますし、多額の初期投資が必要なビジネスであるために、ライセンスに基づくビジネスモデルを選択せざるを得ず、やむなくノウハウ化が望ましい技術について特許を取得することもあります。その際には、なるべくノウハウとして秘匿したい内容を出願するわけですから、出願明細書にどのような内容を盛り込むかといった視点も重要になります。
このように、特許の取得という観点だけでも、事業を十分に理解した上での高度な判断が必要なのです。

ベンチャービジネスにおける知財法務の相談窓口

弊所には、特許法、商標法、不正競争防止法等の知的財産法に精通し、かつ資金調達やIPO、バイアウト等その他のベンチャー法務についても経験豊富な弁護士が多数在籍しております。「技術法務で、日本の競争力に貢献する」を合言葉に、知的財産の創出・権利化から利活用、契約交渉、紛争解決まで、数多くのベンチャー企業のサポートをさせて頂いております。

また、知的財産分野以外でも、ベンチャービジネスを取り巻く法律は年を追うごとに複雑化しています。例えば、ブロックチェーンに関してビジネスを立ち上げようとすれば資金決済法や銀行法が問題となりますし、ゲームアプリを開発すれば景品表示法が問題となり、データビジネスを始めようとすれば個人情報保護法が問題となるといった具合です。弊所は、そのような問題に対しても十分な知見を備えており、的確なアドバイスを提供いたします。
我々は、一社でも多くのベンチャーを無事に成長させ、世に羽ばたかせるべく、日々サポートさせて頂いております。あなたの会社の、かかりつけ知財部・法務部として、お役に立てることを楽しみにお待ちしております。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 森下 梓氏
(弁護士法人内田・鮫島法律事務所)

技術のわかる弁護士・弁理士として、知財・法務アウトソーシングサービスを展開している。数多くの中小企業、ベンチャー企業に対して知財戦略コンサルティングを行い、少ない資金で事業を守るための効率的な権利・ライセンス等を取得することで、資金調達、競合他社参入防止に貢献。その他、契約書・訴訟経験も多数。。。。

プロフィール | オンライン相談受付中

ドリームゲートアドバイザー 森下 梓氏

この著者の記事を見る

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める