起業アイデア Vol.04 新市場を創出する順序組み換え法

事業計画

執筆者: ドリームゲート事務局

今回はドリームゲートグランプリ近畿大会で笠原 裕之さんが提案した事業プランを紹介します。高級ブティック商品を体の不自由な女性たちのために、リフォームして提供する事業プランです。

事業プランの概要

 体の不自由な女性たちのために、高級ブティック商品をその相手の体に合うようにリフォームして提供する事業。一対一で親切丁寧に接客することがウリの、いわばオーダーリフォームブティック。

 「ブティックに行きたくても行けなかった体の不自由な女性のために」という強い思いが、提案者の笠原 裕之さんの胸中にある。笠原さんが対象と考える方々が、そうした悩みを抱えることは、多くの人にとっても想像に難くないことだろう。しかし笠原さんは、婦人服ビジネス一筋に生きてきた人物であり、それだけに、対象の悩みや望みをリアルに受け止めている。また、その業界の人間だからこそ、その悩みを解決するための糸口と方法論を持ち得たわけである。つまり「気持ちだけ」で発想したビジネスではないことを、まず確認しておきたい。

 しかし、「リフォーム代を顧客に負担させない」というくだりを見ると、提案者が利益を放棄しているかのような印象を抱く人もいるだろう。もちろんそうではない。笠原さんは婦人服の卸売業を営んでおり、よい商品を小売業よりも安く仕入れることができるため、その差額部分でリフォーム代の吸収が可能になるわけだ。

 一方、ニーズの存在は理解できるが、そうしたニーズを顕在化させている人の数、言い換えれば市場規模に対する懸念を抱く人もいるかもしれない。だが、昨今の障害者雇用率は法定雇用率に迫る数値を示しており、健常者と同じように職場に出勤し、仕事をし、帰宅する日々を送る体の不自由な女性は決して少なくないのが事実だ。むろん、巨大と呼ばれるような市場ではないが、そこに展開する企業が少ない以上、市場性は合格点に達しているといえる。

 

ここがナイス・アイデア!

 このビジネスの神髄は、あらかじめ体の不自由な女性のために製造した洋服を販売するのではなく、健常者用にデザイン・製造された商品を、あとから対象に合わせてリフォームするという「順序」にある。

 健常者市場に比べて規模の小さな障害者市場では、そこに投入される商品の点数も桁違いに少ない。消費者の側から見れば、「ほとんど選ぶ余地のない商品群」の中から買い物をせざるを得ないということになる。ここに不満が存在する。消費者の恒常的不満こそ、新たなビジネス創造の源泉だ。

 だから笠原さんは、順序をひっくり返したのである。「障害者用としてつくられた服を売る」のではなく、「普通に売られる服を障害者用につくり直す」わけだ。そのことで、顧客満足度が飛躍的に向上することは簡単に想像がつくだろう。

 こうしたビジネスアイデアの発想法は、「組み換え法」あるいは「入れ換え法」と呼ばれるものである。意思決定、業務の手順、顧客へのアプローチ、工程……。それらには必ず常識的な流れがある。その順序を並べ替えてみると、時には思わぬニーズをすくい取ることも可能になるのだ。

 例えば「先払い」が常識の業界に「後払い」を導入してみる。遊園地だとどうなるだろう。入場の際のチケット購入およびそのチェックなどが不要になれば、来場者は入り口で待たされるという不快感から解放される。フリーパスである。来場者はお財布ケータイやICカードを使ってサービスを堪能し、後日、それぞれの決済方法に従って精算すればいい。

 あるいは、パーツで販売されることが常識の商品を完成品で販売する。反対に完成品が常識の商品をパーツで販売する。また、試したうえで購入するというプロセスを逆転させ、一定の権利を購入すれば、通常では試せないような物事を試すことができるようになるサービス、というようなアイデアもある。考えていけばいくらでも広がるだろう。「組み換え法」「入れ換え法」は、まさに常識をひっくり返す発想法である。

  さて、このビジネス提案には、もうひとつ別の発想法も存在している。アイデア発想の本流とも言うべき、結合法である。婦人服販売と福祉サービスの合体ということだ。福祉サービスは、障害者の生活機能をフォローするという価値を提供する。婦人服販売は「美しく装いたい」という精神的満足を提供する。つまり目的のことなる2つの事業を、笠原さんの提案は見事に合体させている。あらかじめ障害者のために製造した服の提供は、福祉サービスの範疇を超えないものといっていい。

増田からアドバイス

  ビジネスは、すべからく「誰に?」「何を?」「どう?」売るのか、という問いへの答えの良し悪しによって成否が決まるものである。笠原さんが提案したビジネスの「誰に?」と「何を?」は磐石である。

 したがってさらなるブラッシュアップが必要であるとすれば、それは「どう?」売るのかという点かもしれない。どう売るのかにおいては、販売戦略や流通戦略、価格戦略にも増して、コミュニケーション戦略が重要である。対象の声をどう聞き取り、対象にどう知らせ、対象の理解と共感をどう得て、さらに対象にどう動いてもらうのかを綿密なシナリオにしていく必要があるわけだ。

 笠原さんはニーズ調査の段階において、体の不自由な知人を介して、その人のネットワークからさまざまな声を吸い上げてきた。そのチャネルを事業展開においても活かすことができれば有望である。ただし、一定のネットワークの中だけでの情報流通では波及力が見込めない。地道なクチコミも大切だが、一方ではマスコミを活用したコミュニケーション戦略も展開したいところだ。

ビジネスの趣旨を否定するマスコミはまず存在しないだろう。だから、マスコミが報道しやすいキーワードを用意したい。マスコミは新しい言葉、面白い言葉、オシャレな言葉、刺激的な言葉、端的な言葉などを本能的に求めている。「体の不自由な女性のためのオーダーリフォームブティック」という事業に、そのような観点からネーミングを施してみてはどうだろうか。それが同時にユーザーへの強力なアプローチにもつながるはずである。

(このアイデアは、2007年1月に行われたドリームゲートグランプリ近畿大会の応募アイデアです)

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