複数の業種を経営する場合における、分社化の留意点
~ソフトバンクグループ事件を例として~

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 加賀谷 豪

既存の業種を拡大展開していくか、業種の多角化をしていくか

会社を設立、経営していき軌道に乗ってきたときに、既存の業種を拡大展開していくか、リスクヘッジを考えて、業種の多角化を進めていくかなどの選択肢があります。

既存の業種に固執することのデメリットは存在します。例えば、牛肉をメインとした焼肉店を経営し、同じコンセプトにて多店舗展開していった場合、以前アメリカで起きたBSE問題などの社会的問題が生じると、たちまち焼肉店は輸入牛肉を提供できなくなり、しだいに経営悪化が全店舗に及んでしまう可能性があります。

例えばこの場合、焼き肉店のみを経営している場合より、焼き肉店と、飲食以外の事業を展開しており、そちらの事業の経営が安定していれば、焼き肉店がすべて閉店しても、事業を継続していくことができるかもしれません。その後BSE問題などが終息に向かってから、新たなタイミングで飲食業界に参入することができるかもしれません。

このように、多角化経営は、特定の業種の市場が下火になった場合、その他の業種の事業で当該損失を補てんし、経営バランスを継続、平均化することが出来るというメリットがあります。

投資を行う場合において例えるのであれば、株投資だけではなく、国債投資、不動産投資、保険投資など、複数の投資対象に分散してリスクヘッジを行う考え方と同様です。

そして、大企業のみならず、中小企業においてもこのリスクヘッジを目的とした多角化経営は有効ですが、多角化の形態について、1社の中で部門を分けて経営するケースと、業種や地域ごとに会社を分社化して経営するケースが想定されます。

会社を分社化するのと、1社で部門化するのとの違いは?

業種や地域によって会社を分社化するメリットは、

グループのワンマン経営を抑制することができる

各会社ごとに役員がいることにより、例えば本社に役員がいて、各子会社のそれぞれの代表取締役を異なる本社役員又はその他の者が務めることにより、ことができます。

グループとしての損害を少なくすることができる

1つの会社の業種で大きく経営悪化が生じた場合でも、当該会社が倒産しても、他の会社はそのまま存続できる可能性が高く、グループとしての損害を少なくできる可能性が高いです。もし1社の中で部門別管理のみの場合、1業種の経営悪化が他の業種部門の採算を圧迫し、結果会社自体の存続が危ぶまれるケースもあるのです。

消費税の申告納税において有利になる

さらに中小企業においては、現行の法律の範囲では、消費税の申告納税において有利になる可能性があります。現行の消費税法においては、新設法人について設立より一定期間消費税の納税が免除になることがあります。そのため、別会社を設立した際に、一定期間消費税の納税負担が全く無いケースがあるのです(一定の子会社や分割等、又は資本金についての要件に該当した場合は、初年度より新設法人でも消費税が発生するため、詳細は専門家にご相談ください)。

また、継続して売上が年間5,000万円以下であった場合、消費税の申告において、通常の「本則課税」という計算方法ではなく、売上をベースに消費税を計算する「簡易課税」という計算方法を選択できることになっています。この「簡易課税」制度が、業種によっては、消費税の納税額の大きな軽減につながる可能性があります。会社を分けることによって、1社あたりの売上は少なくなるので、消費税におけるメリットがある可能性が生じるのです。

融資においては?

1社で部門のみで業種を分けて経営するメリットの1つとして、中小企業の場合は、融資対策が挙げられます。

一定の規模の会社の場合、グループ会社の連結決算資料を提出することで、分社化している場合でも融資において大きな影響がないのですが、中小企業の場合、会社を分けすぎると、1社あたりの事業的規模が小さいため、融資可能額において限界があったり、別会社ごとに融資を受けても、全体としての融資実績としては金融機関において評価の対象にならないため、1社で継続して融資を受けていった場合の方が、保証協会の融資可能額が段階的に増えたり、プロパー融資の融資可能額が増えたり、有利に働く可能性があるのです。

もちろん、金融機関が融資を実行する際には、事業規模や売上額のみならず、粗利率や営業利益に関する数値、会社自体の実績評価など、総合的な評価を行い審査しますが、会社の規模によっては分社よりも1社にて継続した方がよいと金融機関からアドバイスも受けるケースもあるので、積極的に金融機関担当者にも相談しながら、事業展開を行っていきましょう。

分社化により、内部取引による税逃れが可能?は誤り!

たまに中小企業経営者からお話を聞くのが、「会社を分けた方が、会社間の取引ができるため、利益調整により各会社の節税対策や融資対策ができるのでは?」という見解です。

この見解は非常に危険な考えであることを留意してください。

ソフトバンクグループが税務調査において、約939億円の申告漏れを指摘されたケースがあります。

2018年、ソフトバンクグループが東京国税局の税務調査を受け、2016年3月期までの4年間で約939億円の申告漏れを指摘され、約37億円の追徴課税を修正申告しました。

グループ会社間での取引について、海外の税率の低い国にある子会社により利益が上がるように取引を行ったと判断され、「タックス・ヘイブン対策税制」という法律により、子会社の当該利益を日本の利益に加算すべきと指摘されたのです。

本ケースのソフトバンクが実際に意図的に利益調整していたか否かは定かではありませんが、中小企業においても、日本国の本社が、税率の低い外国に子会社を設立し、租税回避行為を行うケースが見受けられ、当該取引を取り締まるために「タックス・ヘイブン対策税制」という法律が存在し、中小企業の税務調査においても注意すべき税制です。

日本の会社・・・
利益50万円
税率の低い
海外国の子会社・・・
利益100万円
(内50万円は不当な取引により生じたもの)
「タックス・ヘイブン対策税制」により、
50万円が日本の利益に加算される!

これに加えて、日本国内でのグループ会社間の取引においても、不当な取引における租税回避行為を是正するため、「同族会社における行為計算否認」という法律規定があります。

これは、同族会社等で、税金逃れのために通常とは言えない取引を行った場合に、税務署の判断により、通常の取引に引き直して、税金計算を行うという規定です。

通常取引・・・
法人税100万円
同族会社等による異常な取引・・・
法人税20万円
「同族会社における行為計算否認」規定により、
法人税100万円の納税となる。

当該規定により、中小企業の税務調査において申告漏れを指摘された事例は非常に多いです。会社を分けることによって、前述のように消費税においては合法の範囲で一定の対策が可能であるものの、内部取引による法人税逃れができるとは絶対に考えないでおいて頂きたいです。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 加賀谷豪(税理士、ファイナンシャルプランナー)
株式会社ピクシス 代表取締役/税理士法人アクシオン 代表社員

1981年 北海道札幌市生まれ
同志社大学卒業後、税理士事務所業界経験12年の内、起業者の税務顧問をメインとして携わる中で、より起業支援に特化した研修、勉強会などのサービス提供を目的として、平成26年に株式会社ピクシスを設立。マーケティング戦略・ネット集客に係るプランニングにより、売上のビジョンを明確化するという目的と、それによる充実した事業計画を作成活用することで、融資対策につながるご提案を目的とした起業者向け勉強会を継続的に行っている。平成28年に税理士登録とともに、税理士法人アクシオンを設立

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ドリームゲートアドバイザー 加賀谷 豪氏

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