サーチファンド起業のリスクを国内サーチャー第1号に聞く

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 池田 孝治

サーチファンド起業に関するコラムの第3回です。

「サーチファンド」とは起業する際に、出資者の金銭的支援を受けながらM&Aによって既存事業を承継し、後継の経営者としてスタートを切るという方法です。個人でスモールM&Aに取組むのとは異なり、起業家にとっては資金調達リスクが低く、実行にあたっても専門家の支援を得やすい等のメリットがあります。

コラムの第1回ではその概要について、第2回ではサーチャー(サーチファンドを利用して事業承継による起業をする人)になるための要件について、おもに利用する側のメリットの視点からご説明してきました。

メリットの一方で、実はサーチファンドには、とても「目から鱗」なリスクがあるのです。

ということで、今回は起業にサーチファンドを利用する場合の、リアルなデメリットについてお話しします。

サーチファンドのここが心配?

サーチファンドセミナーなどで参加者から寄せられた質問を見ると、皆さんデメリットについても推測されているようで、下記のようにサーチャーにとってのリスクに関する内容が多いです。

  • サーチ期間(承継する企業を探す期間)内にM&Aが成約しない場合、サーチャーは責任を問われませんか?違約金などのペナルティを課されませんか?
  • 期間内にM&Aを成立させるために、サーチャーにとって多少不本意な案件であっても承継せざるを得ない圧力をファンドから受けることはないでしょうか?
  • 事業承継までに出資された金額は決められた期限内に償還しなければいけないのでしょうか?

サーチファンドの制度上は、すべて「NO」です。

でも実際の運用においてはどうなのでしょうか。

また、サーチファンドで起業する場合は、サーチャーはアクセラレーターや出資者、仲介会社、企業を譲渡する側の経営者といった、それぞれに思惑のある多くの人たちと関わらざるを得ません。自己資金だけで自分の会社を設立するシンプルさとは、この点が大きく異なります。

  • 関係者が多いと意見調整が大変なのでは?
  • 出資者には忖度したほうがいい?

といった、ひとり起業にはない気苦労も予想されます。

そこで、サーチファンドを実際に利用した人に、その実態と実感を聞いてみることにしました。

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サーチャー第1号に実態を訊いてみた

お話をお聴きしたのは大屋貴史さん。

Profile
ミスターデイク株式会社 代表取締役 大屋貴史
東京大学卒業。(株)博報堂、(株)ミスミでの勤務を経て、フロンティア・マネジメント(株)では中小企業の常勤役員として事業再生支援に携わる。事業存続へのいっそうの貢献を期して、2021年5月にサーチファンド・ジャパンのフルタイムサーチャーとして専任契約。2022年1月、ミスターデイク(株)を承継、代表取締役に就任。

 

サーチファンド・ジャパンの第一号事例として、各メディアのサーチファンド紹介記事のほとんどにインタビューが掲載されている人です。
大屋氏がサーチファンド起業をなさった動機や表立った経緯についてはそういった記事をご覧いただくとして、ここではサーチ活動中のサーチャーの内面と、ファンドとの関係の実態にフォーカスしてお尋ねしました。

―最初にサーチファンドに申し込むときには、リスクとかデメリットに対する不安などはなかったのですか?

大屋「ほぼゼロ、でした。躊躇する理由がまったくなかった。というのは、サーチファンド・ジャパン自体が、いきなりフルタイムのサーチ活動をあまり推奨していないんです。助走期間を経て、お互いに事業承継の実現に自信が持てた段階で飛び込んできてくださいというやり方なので」

―ということは、大屋さんも前のお仕事とサーチャーとしての活動を並行なさっていた時期があるんですね。

大屋「はい。約半年やっていました」

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M&Aがなかなか成約しない、そのときサーチャーは…

―平均的なサーチ期間は2年程度と言われています。この期間にサーチャーはプレッシャーみたいなものを感じたりするのですか?

大屋「常に感じていました。私自身は2年も精神的にもたないので、できれば1年で終わらせたいと考えていました。3ヶ月経つと『ああ、残り9ヶ月か』、半年経つと『もう残り6ヶ月か』と常に気にしてばかりで。これはファンドから受けるプレッシャーというよりも不安と焦りです」

―サーチ期間のデッドラインから来るプレッシャーはないのですか?一定期間内にM&Aが成約できずに活動を終了するサーチャーもいるわけですよね?

大屋「日本ではまだ先行事例が少ないので断定はできませんが、私の知っている限りではサーチファンド側が終わらせるよりも、サーチャー側が諦めるケースが多いと思います。2年以内に成約しなかったとしても、このまま活動すれば成約できるだろうと評価しているサーチャーを、ファンド側がわざわざ切ることは多分ないです。期間中にサーチャーとの信頼関係がうまくいかなくなっている場合は別ですが」

―サーチ期間についてファンド側は柔軟に考慮してくれそうですね。

承継企業を決める現場で起きること

―ということは、候補企業の選定にあたってファンド側に急かされたり、意向を押し付けられたり、というようなこともないのですか?

大屋「それはまったくありません。候補企業選定の意思決定はサーチャーに任せてくれます。サーチャーがやりたい案件だけを投資委員会にかけます」

―候補企業のオーナーと面談する際には、サーチファンド・ジャパンはアクセラレーターとして同席するのですか?

大屋「必ず同席します。候補先のオーナーさんとの面談が終わると、我々だけすぐ別室に移って"反省会"をやるのが恒例でした。その場でも『大屋さん、どうでしたか?』とは聞いても、彼らから勧めてきたりすることはありません」

―例えば大屋さんが乗り気の場合に、彼らからネガティブ面の指摘があったりもしないのですか?

大屋「面談は、オーナーさんと私のフィーリングを見るのが目的ですので、この時点で何か言われることはありませんでした。しかしデューデリジェンス(注:投資対象企業の価値やリスク等を詳細に調査し評価すること。以下、「DD」)の段階からファンド側の意見が入ります。DDはすごく厳しく、実は一度、私が良いと思った案件がDDで瑕疵が見つかったことがありました。『大屋さんがどんなにやりたくても、ここは無理です』と即断でしたね」

―ということは、承継先候補を決めるのはサーチャー、その候補に対して投資実行の是非を決めるのはファンド、と意思決定は明確に分担されているのですね。

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事業承継後のファンドとの関係

―その後無事に事業を承継し、社長に就任されてから8か月が経ちました。現在はファンドとはどのような関係ですか?普通に株主と経営者の関係なんですか?

大屋「そうです。毎週1回、定例会議でKPIの進捗報告をしていますが、ありがたいことに、ファンドから口を出されることはなくかなりお任せいただいています。私がやったことで経営会議にて吊し上げられるとか(笑)、そういうことはまったくないです。逆に私から相談することはありますので、そういうときにはアドバイスをしてくれます。」

―イグジットに関してはどういった取決めになっているのですか?

大屋「目安として、最低5年以上は続けてくださいね、と」

―「5年以内に何とかしてください」ではなく「5年以上やってください」ですか。

大屋「5年以上、です。実際に私もやってみてわかったのは、3年では無理ですね。組織の土台を整えるだけで1年終わっちゃいますから」

―大屋さんが彼らに経営のサポートを頼んだ場合は対応してくれるのですか?

大屋「ありがたいことに彼らはファイナンスのプロなので会計処理のアドバイスをもらったりもできます。また将来的なことですが、ロールアップ(注:新たな買収により既存投資先の収益を改善すること)の相談にも乗ってくれますね」

―お話をお聴きしていても、サーチファンドとの関係性でのデメリットというのは、業務面、精神面ともに感じられませんね。上手にサポートしてくれる存在というか。

司法試験の憂鬱との共通点?

―では精神的にいちばんキツかったのは、フルタイムでのサーチ期間中ということですね。先ほどサーチャーが諦めてしまうとの話がありましたが、なぜ諦めるのでしょうか?起業前の不安というのはサーチファンドに限らず、どんな起業でもあると思うのですが。

大屋「サーチファンドに特有なのは、候補先のオーナーと面談しても合意しないことが続きやすい。気持ちが折れやすい状況だということです。

いい例えかどうかわかりませんが、司法試験のために何年も勉強している人の焦りに似ていると思います。受かるまで何年間でも頑張ってもいいのですが、いつか必ず合格できるとは限らない。かけた時間が評価されることもない」

―合否を決めるのは解答への採点だけで、何年頑張ったかは関わらないですね

大屋「サーチファンドも一緒だと思います。2年間サーチするあいだ、自分のキャリアが上がるわけではない、年収も上がらない、でも時間は過ぎていくわけです。努力しても成就しないかもしれない状況では気持ちの維持が難しいです。だから『損切り』の視点も必要だと思います」

―うまく行かない場合に、どこまでの損なら受け容れられるのか、ということですね。

大屋「例えば、事業承継が成立せず再就職せざるを得ないとなった場合、ブランクが1年か2年かでは雇用側からの評価も変わります。撤退の可能性があるなら、損を少なくとどめる考えも必要でしょう」

―司法試験の例えにはたいへん納得しました。かけた期間の感じ方、考え方はサーチャー自身の年齢やライフステージの現状も関わってきそうですね。

大屋「中年の僕が言うのもアレですけど、サーチファンドはやはり若い人のためのものだと思います。ファンド側も他のサーチャーも、皆さん若い人が多いですね。だから我々おっさんのサーチャーは、いいチャンスをいただけたので必ずや結果を出して、もっともっと若い人がチャレンジしやすい状況にしたいと思っています」

順調に来た人ほど陥る罠

大屋氏へのインタビューはいかがだったでしょうか。

以前にサーチファンド・ジャパンの伊藤社長も「サーチャーにとってのリスクは2年間という時間です」とお話しくださったことがありました。その言葉の意味を、私は大屋氏のお話でやっと正確に理解できました。

2年以上の時間をかけて承継したい企業をじっくりと探すことができる、というのはサーチファンドの大きなメリットのひとつです。

ただ、その探している期間は起業準備が進まないわけですから、サーチャー自身にとっては人生で足踏みしている状態ともとれます。この精神的負荷がサーチファンド特有のデメリット、というのが大屋氏の実感です。

順調にキャリアを重ねてきた人ほど、こうした期間を「停滞」と感じてしまいがちです。

さらに物別れに終わるオーナー面談が追い打ちをかける。「停滞」への焦りがあるなかで交渉が成立しないとなると、見通しが実際以上に不透明に感じられます。

サーチファンド・ジャパン社が、いきなりのフルタイム活動ではなく、本業を辞める前の助走期間を推奨しているのは、こうしたリスクを避ける意味もあるのでしょう。

先行する企業のアセットを使ってリスク低く起業する、という意味ではフランチャイズ起業も似ています。こちらは契約締結や研修実施、事業所・店舗の開設など、開業までの日程がかなり厳密に管理されます。ライフプランのスケジューリングを重視するタイプの人には、成就のタイミングが読めないM&Aよりフランチャイズ起業のほうが適しているかもしれません。

一方でM&A起業を目指す人にとって、経営支援の専門家チームが事業承継の前/後ともにサポートしてくれるサーチファンドが、とても有効な手段であることは間違いありません。特に後継者不足に悩む地方企業を存続させたいなど、事業を承継することへの強い思いがあれば、オーナーとの交渉でも自身の力を存分に発揮できることでしょう。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏
(株式会社エストVISION 代表取締役社長)

学生時代からマーケティングを専攻し、大手エンタテイメント企業のマーケティング担当として従事。
事業を創業した際に必要な顧客は集客活動ではなく「相手に貢献したいという思いが連れてくる」を信条として商いの理想を追求し続ける。
業種にとらわれず多数の事業で「ファン作り」のメソッドを提供。

プロフィール

ドリームゲートアドバイザー 池田 孝治氏

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