飲食店の新規開業や開店にかかわる手続きや経営者自ら作成する創業計画書は、その後の店舗運営を左右する重要なイベントです。
その際、注意すべき点や押さえておくべきポイントはいろいろありますが、ここでは特にはずせない重要なものに絞って述べてみたいと思います。
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飲食店新規開業・開店に際して押さえておくべき重要ポイント
会社を設立し、成長・発展させる場合、起業を思い立った時点での明確な動機付けとそれに基づく入念な創業準備が必要です。飲食店の新規開業や開店も起業のひとつですから、会社設立と同様に、開業に至る動機を明確にすることと、開業に向けた十分な準備が必要です。そのためのポイントについて見ていきます。
ポイント1:飲食店開業についての明確な経営理念の設定
会社の設立や飲食店の開業に際し、まず必要なものは店舗を経営していく上でなくてはならない根本的な考えである「経営理念」です。経営理念などというと、なんとなく抽象的でとらえどころのないもののように思いますが、経営理念とは、会社設立、飲食店の開業や開店を思い立った肝である「動機」そのものです。なぜ、飲食店をはじめようと思い立ったのか、明確な文章として表したものが経営理念です。
サラリーマンのために駅前に立ち飲み屋をやろうとか、住宅街の中に隠れ家的なレストランを開こうとか、何となく頭の中でイメージしていたものを言葉に表すことで、今後の経営のよりどころとなるのです。
この経営理念を受けて、3年後には2店舗、5年後には3店舗事業展開するといった、中・長期的な店舗のあるべき姿である「経営ビジョン」を設定します。
そして経営ビジョンをより具体化させたものが、「経営コンセプト」です。「誰に、何を、どこで、いくらで、どのように」提供するかといった実践的な店舗の形や店舗運営の仕組みがよりはっきりと見えてきます。
また、この経営理念は、経営者が経営に行き詰まった時に戻ってくるところでもあります。
経営が不審になると、いろいろなものに手を出したり、経営手法を変えたりして、ますます泥沼にはまってしまうものですが、これにより、より一本筋の通ったブレない経営が可能になります。飲食店経営も含め事業を営むためには、経営理念はなくてはならないもっとも基本かつ重要な考えとの認識が必要です。
ポイント2:創業資金調達手段を知ること
飲食店の新規開業や開店には、思いのほか多額の費用が必要になりますから、長年コツコツ貯めた自己資金だけではまかなうことは難しく、多くの新規創業者が、金融機関などからある程度の融資を受けなければなりません。
銀行など民間の金融機関では新規開業や開店のための「プロパー融資」という独自の融資には消極的で、なかなか応じてくれません。通常は日本政策金融公庫(以下:日本公庫)といった公的な金融機関から新規開業や開店のための融資を受けたり、信用保証協会による保証付き融資(マル保融資)を銀行などから受けることになります。
効果的、実践的な創業融資や運転資金の調達手段については別の機会に譲るとして、ここでは、日本公庫などからの確実な融資を実行してもらうためのいくつかのポイントについて解説します。
まず、最初のポイントは、先にも述べた創業・開業に至る動機である経営理念をしっかりと自身の言葉で語ること、飲食業での実績が最低でも5〜6年、できれば店長やマネージャーなどの管理職経験があると融資担当者の印象がよくなります。
日本公庫の新規開業や開店のための融資には「新創業融資制度」というものがあります。この融資制度では、自己資金は原則融資希望額の1/10からとなっていますが、できれば1/3〜1/2の自己資金を確保すると満額に近い金額を引き出せます。また、日本公庫所定の創業計画書以外に独自の創業計画書を作成することです。その際、数字の根拠などは自分の言葉で説明できるよう、事前にシミュレーションすることも必要です。
ポイント3:開業・開店までに必要な許認可を取得しておくこと
飲食店の開業・開店には所轄の保健所、警察署、税務署その他の行政機関で必要な許認可を取得することになります。保健所などのように臨店検査などがある場合、申請してその場で取得できるものではないので、あらかじめ所要期間を調べておき開店予定日までには滞りなくすませておかなければなりません。
また、更新を必要とする許認可については、同じ担当者が更新手続きを行うことも少なくないので、創業時の対応には十分注意する必要があります。
ポイント4:開業・開店スケジュール表を必ず作成する
飲食店の開業・開店に際しては、店舗物件探し、立地調査、内外装工事施工業者や取引先・仕入先業者探し、日本公庫の融資、行政許認可・届出手続き、従業員の募集などが複雑に関連してきます。ひとつの手続きが遅れただけで開店日が大幅に先延ばしになってしまい、当初の資金計画が狂ってしまっては、出足から大きくつまずき赤字を生む原因にもなってしまいかねません。
開業・開店の全体最適化、透明化という意味でもスケジュール表は必要なツールです。
飲食店経営を成功させるためには、開業・開店手続きを滞りなく進めることです。その際押さえておくべきポイントのなかで、特にはずせないものが「経営理念」、「資金調達手段」、「行政許認可・届出」、そして「開業・開店スケジュール表」の4つです。
そして、これらのポイントを押さえた上で必要になってくるのが、融資に不可欠な創業計画の作成です。では、次に飲食店の開業・開店時の創業計画書について見ていくことにしましょう。
飲食店新規開業・開店時の創業計画書の必要性
飲食店などの店舗を経営して行く過程で、資金調達などのために「事業計画」というものの作成が必要になります。
飲食店を開業する際には、「創業計画書」という事業計画書が必要であり、創業後であれば、新たな設備投資の資金を調達し経営を刷新するための「経営革新計画書」、行き詰まった事業を立て直すため金融機関へ返済猶予を求める「再生計画書」などの事業計画書が必要になります。
なかでも、新規創業時に作成する創業計画書は、その後の会社や店舗の明暗を左右する極めて重要なものです。創業計画書を作成せずにいきなり開業したり、他人の創業計画書を真似て作ったり、経営コンサルタントへの丸投げといった、自分が理解していない内容のものを作成してしまうと、経営者自身が店舗の将来像などを把握できず、店舗開業のスタートアップ時からつまずいてしまいます。
このように、飲食店の新規創業における創業計画書の作成は、経営者にとって必須条件と考えておくべきです。
飲食店の店舗開業時に創業計画書が必要になる理由としては、自分自身が考える飲食ビジネスを検証するため、親族、ステークホルダー(利害関係者)への説明責任として、創業融資を受けるため、創業補助金の申請といった創業資金のための3つがあります。
これらそれぞれについて解説していきます。
自分自身が考える飲食店ビジネスを検証するため
自分がこれからはじめようとする飲食開業について、その動機から思い描いている店舗のイメージまで、すべてを文章や図表などによりアウトプットします。自身がこれからはじめる飲食店を確認するためには必ず作成すべきものです。
最初から完璧な創業計画書を作成する必要はありません。まず、なぜその飲食ビジネスをやりたいのか、どこでどんな形でやりたいのかなど、思いついたことをメモする程度でよいのです。
その後、専門的な知識や実践的なノウハウを身に付けながら、創業計画書としての精度を高めていけばよいのです。創業計画書の作成を通じて、経営者としての経営能力が高まっていくことに意味があります。
この自分自身の飲食ビジネスを検証するために作成した創業計画書をベースに、創業融資、補助金申請のためなど、各々の目的に合った事業計画書にアレンジしていくことで、ほかの目的へ転用可能になります。
親族、ステークホルダー(利害関係者)への説明責任として
飲食店を新規創業するには、まず家族の協力がなくてはできません。また、親戚や友人・知人から出資を仰ぐことも考えられます。そして、本格的に飲食店をはじめる上で取引先などのステークホルダーに対して、これから開業する飲食店の売上・利益、そして将来の展望といったものを具体的な言葉や数値で説明する必要があります。その際の根拠となるのも創業計画書です。
創業融資を受けるため、創業補助金の申請のため
ポイント2の創業資金調達手段を知ることでも述べたとおり、飲食店の新規創業に際して、自己資金だけでは創業資金を調達することは難しく、多くの場合、日本公庫の新創業融資や信用保証協会の創業融資などの公的融資、国の創業補助金などの申請をすることになります。
日本公庫の「新創業融資制度」には、所定のA3用紙1枚程度の創業計画書があります。ただ、いきなりこの簡単な用紙に必要事項をもれなく記載することは難しいものです。
そこで、まず独自の事業計画書を作成し、日本公庫所定の創業計画書と照らし合わせながら、各項目に沿って記載すべき事項を書き出していくことで、もれもなく完成度の高い創業計画書ができます。これは、信用保証協会の「創業計画書」作成の場合も同様です。
創業補助金申請の場合も、所定の事業計画書がありますが、やはりベースは独自に作成したオリジナルの事業計画書が重要になります。この独自の事業計画書を、補助金申請の加点ポイントである「事業の独自性」、「事業の実現可能性」、「事業の収益性」などの要件を満たすようアレンジすれば、審査員に対し、好印象を与えることができます。
飲食店の新規創業のために創業計画書を作成するメリットは、経営者自身がこれからはじめる事業自体を検証できること、その結果、融資の折に創業計画書に添付する「予測損益計算」や「収支予定表」などの数値の根拠についても、自身の言葉で説明できるようになることです。
そのためにも、念押しになりますが創業計画書は経営者自身が試行錯誤しながら、作成すべきで決して専門家に丸投げしたり、他人の創業計画書の丸写しはすべきではありません。
まとめ
ここにあげたポイントはわずかで、飲食店の新規創業にはさまざまな道のりがあります。そのひとつずつを経営者自身の手で行わなければ、当初思い描いた店舗を実現することはできないのです。迷わず、焦らず、確実に一歩一歩クリアしていくことが大切です。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 萩原洋(有限会社銀河企画 特定行政書士)
外食FC立ち上げへの参画や自らも複数店舗の経営を行った後に独立。
フードビジネスコンサルタントとして20年のキャリアをもつ萩原アドバイザー。
飲食店等を長年経営し引退を考える経営者が、事業を他者に譲り渡す「事業承継M&A」に複数携わるなど、ゼロからの出店ではなく立地や顧客を引き継ぎながら経営を始めるという分野のご経験を豊富にお持ちのアドバイザーです。
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