多くが3年で倒産する介護ビジネスにおいて起業を成功させる方法

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 浜中 俊哉

昨今、高齢者住宅を含めた介護ビジネスのニーズは高まってきている。

介護保険事業においては都道府県/市町村の許認可事業であり回収も確実で初期投資も少なく参入もしやすいと考えられがちだが、実は廃業率が高く、起業後約3年で廃業となる事業者が多いのが現実なのである。

ここではなぜそれほどに廃業しやすいのか、またそれを回避するにはどうすればいいのかを説明していく。

そもそもなぜ廃業率が高いのか?

介護保険事業全般に言えることだが実は人件費率が非常に高く、利益を出しづらいビジネスなのである。体制による加算や地域単価による差はあれ、対価である単位数は全国一律である。

新規で事業立上げ当初は社内のルールがあいまいで明確ではない。みな目先の仕事に追われてしまい、社長みずからも含め、すべてが個人の能力に頼りきりになることが多い。つまり人の能力によって会社が左右されるという非常に不安定要素が多い状態なのである。

私がコンサルティングをさせて頂いた会社で当初よくあったのだが、社長が有資格者である場合、何から何まで現場に口出しをしてやってしまう傾向があり、働く社員は「どうせ社長が何でもするから・・・」とさめたような態度になってしまい現場と経営者との軋轢(あつれき)が生じてしまうのである。

介護保険事業は全国一律のサービス対価(単位数)であるため、利益を出すためには減点法で考えていかなければいけない側面が多く、見えない部分にかかってくる「間接経費」を軽視し、効率化にのみ目がいってしまう経営者が非常に多い。ここでいう間接経費とはたとえば研修費、福利厚生費などである。

現場としては減点法で評価(マイナス評価)されるのであれば、「やらない方がマイナス評価されないからやらない」という風潮になり、またさらに社長(経営者)の仕事が増えるといったマイナスループにおちいる。

現場は「仕事にやりがいがない」「社長が考えていることがわからない」「金儲けのことばかり言われて嫌気がさす」などという不平不満が広がり離職につながるのである。

初期の投資額はさほど大きくなく、都道府県/市町村の許認可事業で回収も確実であり、簡単に始められる事業と考えられがちだが、実は立上げ前から入念な中長期計画を立てて、組織化を図るための準備をしなければ、薄利がゆえに簡単に資金がショートし、運転資金の調達ができず、離職もあり倒産・廃業となってしまうのである。

なぜそのような事態に陥りやすいのか?

まずこの事業において、廃業率の高さ=離職率の高さ と言っても過言ではない。それほど立上げ直後は人に左右される事業なのである。

では離職率の高さ=待遇の悪さ・・・給与が安い、人間関係・・・と言うことなのだろうか?

果たして給与の高さ=モチベーションアップ→離職率低下に繋がるだろうか?

さまざまなデータがあるが、介護事業で離職理由を聞くとたいてい次のような結果が出てくる。もちろん給料が高いに越したことはないのであろうが、

  • 人間関係
  • トップがワンマン
  • 給与

決してこの事業で働くスタッフにとっては給料が高い=モチベーションアップ ではなさそうなのだ。

三方よしは本当か?

現在の介護保険事業において「三方よし」は本当だろうか?

売り手、買い手、世間(市場)。間違いなく買い手、世間(市場)、はよしである。果たして売り手は「よし」であろうか?私自身も経験があることだが、企業の成長曲線を大きく妨げる一番の要因は「人」である。トップと現場の乖離、溝、壁。トップが人員のコントロール不能状態に陥っており、現場の二番手三番手が独自のマネジメントで束ねている場合、組織は買い手(利用者、家族)の意思を尊重できなくなり自分たち主導のマネジメントをはじめる。

世間(市場)は「よし」であるがゆえにどのようなサービスが提供なされていようがしばらくの間は依頼があるであろうが、来る利用者来る利用者はサービスのギャップに苦しむこととなるだろう。仲間内でもいざこざが起き、早かれ遅かれ売り手も「よし」ではなくなりそれは組織崩壊を意味する。

本当のニーズをつかめているか?

利用者のニーズをきちんと汲み取ったケアができているだろうか?事前訪問や初回訪問時、担当者会議の際にご本人の希望をしっかりと聞き取ることが出来ているだろうか?

実際のケアは経営者(自分)がやりたいことに固執しており、本当に利用者が望むことが出来ていないというケースがある。在宅の常識病院の非常識、病院の常識在宅の非常識と揶揄されることがあるが、どうしても自分たちが今までやってきたこと、やれることで評価しがちである。しかしながら本当に利用者+その家族が求めていることを聞き出すことが最重要なのである。

その話術や振る舞いも必要である。実は本当のニーズは目の前に落ちているのである。

介護事業における組織マネジメント

組織の崩壊を招かないようにマネジメントし、利用者の本当のニーズを掴んでケアをしていくことが大切だとここまでに述べてきた。では実際にどのようにマネジメントをしていくべきなのだろうか?

人件費率の高い企業の経営者はひとえに我慢とスタッフへの心遣いと気配りが求められる。いつの時期でも人のマネジメントに関しての悩みは尽きない。ステージに応じたマネジメントをしていかなければ組織崩壊を起こしてしまう。以下は私の経験からのマネジメントである。

  • 創業~第一成長期・・・辞めないでマネジメント
    →個々にあわせた軽めのルール設定をしていく。
  • 第二成長期・・・ルールの設定
    →組織として必要なことをルールとして設定する(ルールが出来たことで辞めていくスタッフも出る)
  • 第三成長期・・・ルールの徹底
    →これにより組織が強固なものとなる

いずれの期においても組織が同じ方向に向かって進んでいることが必須であり、それらは経営理念の浸透により実現される。

成長曲線をその通りに描く形で経営していくためには客観的な数値管理が必要である。それができていないと経営と現場がどんどん乖離していく。つまりは言い方が悪いかもしれないが、現場での直感的な感情も大切にしながら感情論での物言いを数字で論破するわけである。まさに感情と勘定、全てを否定するわけではなく論破にもやり方があるのである。

事業計画・金融機関との付き合い方

入念な事業計画が必要と前述させていただいたが、数値管理は経営者の非常に重要な仕事の1つである。つい目先の仕事中心になってしまいがちであるが、必ず事業計画を基にした数値管理をしていくべきである。

国保連合会からの入金サイトが約2ヶ月後月末払い、つまり手形決済で言えば最長約90日のサイトでキャッシュフローを考えていかなければならない。成長曲線を描く反面、キャッシュフローの管理ができていなければまさに勘定合って銭足らず、黒字倒産の危機を迎える。

まずは大まかでいいので自社の現状、売上げ/経費/訪問数/利用者数/新規依頼件数、などは最新の数字を頭に入れておくべきだ。

それら数値を元に、キャッシュフローをよく考え、金融機関とは常に良好な関係を築きつついざと言うときにスムーズな融資を受けられるようにしておくことが大切である。

事業計画は必ず3つ作るべき

事業計画は希望的観測を含めた計画、自分が見ていく本当の事業計画、この数値を割るのであれば事業撤退も考える最悪時の事業計画、の3つを作ることをお勧めする。

上/中/下でも松/竹/梅でも表現はいいのだが、金融機関にお見せする「希望的事業計画」、自分で使っていく「通常の事業計画」、最悪を想定した「事業撤退事業計画」である。

金融機関に良い事ばかり報告しても、数字があわなければまずいのでは?とお思いかもしれないが、立上げ時の成長曲線はいびつであるので多少の誤差は許される。それよりも金融機関は創業者の熱意や希望的観測での事業展開の実現可能性を見ているのである。しっかりと自社の将来に関して計画を持って管理しているかが重要である。

さいごに

目先の仕事として捉えるのではなくまずは中長期事業計画をしっかりと立て、成長フェーズに合わせたマネジメントを徹底していくことで組織が強固なものとなる。

事業計画も数値管理を徹底し、キャッシュフロー計算を確実にすることでスムーズに資金調達ができる。そしてITツール、ICTの活用で更なる業務効率化も図っていくべきである。

報酬改定時にはしっかりと方向性を読み解き、どのような加算がどのような要件で算定できるのか?またなぜそのような流れになってきているのか?を鑑みて事業計画にも織り込んでいくべきである。

介護保険だけではカバーできないケースなども多くなってきており、今後の介護保険事業のキーワードはサービスを複合化し、「医療ニーズが高い利用者へのサービス提供」を満たしていくことではないかと考える。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 浜中 俊哉(はまなか としや)/PlanB

義母の介護をきっかけに訪問看護、介護サービスに疑問をもち、独学で知識を習得。2014年、株式会社PlanBを設立、訪問看護ステーションしらゆりケアをオープン。
自身の体験をもとに、サポートした全社を立上げから1年以内に黒字化させた訪問看護立上げ支援コンサルティングを提供。
著書「訪問看護事業成功の条件(幻冬舎)」

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