価格転嫁交渉を成功させる3つのコツを専門家が伝授

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 川居 宗則

価格転嫁(かかくてんか)とは、エネルギー価格や原材料費、人件費などのコスト上昇分を製品やサービスの価格に転嫁することです。「仕入れ価格が高くなったなら、価格交渉などを通して価格転嫁する」というのは自然な流れのように感じます。しかし、中小企業や小規模事業者が実際に価格転嫁をしていくのは一筋縄ではいきません。

帝国データバンクの集計では、仕入れ価格の上昇や価格転嫁できなかったことを倒産の理由に挙げた企業数は、2021年度の136件でした。それが2022年度では463件と前年の3.4倍となりました。特に2023年3月は単月で67件と過去最多を記録した状況です。

私は「お金を味方につける専門家」として活動しているドリームゲート・アドバイザーの川居宗則です。銀行に32年勤務し、主に融資業務に従事、関わった案件は10,000件を超えます。2か店の支店長を経験して銀行の現場で感じたことを活かし、資金繰り対策などのご支援をしています。

最近よく耳にするのが、コロナ融資を借りて資金繰りをつないできて、ようやくコロナ禍が収まりつつあるが、一方でエネルギー価格や原材料費が上がって、思ったほどの利益が確保できていないとのことです。また、人手不足で賃上げ圧力が高まっているとのことです。価格転嫁を進めなくてはいけないが、販売先との交渉事なので苦労しているというご相談を受けます。

そこで、本コラㇺでは、価格転嫁交渉のコツをお伝えし、中小企業や小規模事業者の資金繰り改善にお役に立てれば幸いです。

価格転嫁に関する現状

1. 企業物価指数

このグラフは、日本銀行が公表してる物価指数です。2020年頃から物価上昇が始まっています。国内の企業物価は約2割上がっていることが見てとれます。また、輸入物価に関しては、円安やウクライナ紛争の影響から最大で約8割上がり、足元では約6割の上昇となっています。

 

2.価格転嫁の状況

日本商工会議所の2023年2月と4月の価格転嫁動向資料です。これを見ると、4割以上の価格転嫁は、2月が53.5%、4月が55.9%となっており過半ではありますが、進捗度合いとしてはまだまだ弱いといえます。

交渉が簡単にはいかないという側面と、企業からは、上昇が続くコストに対して、価格転嫁が追い付いてないとの声も聞かれるとのことです。

出所:2023年4月 日本商工会議所LOBO調査(早期景気観測調査)

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価格転嫁の重要性

2023年6月、東京電力など大手電力7社が電気料金の値上げをしました。また、同じく2023年6月に食品・飲料で値上げされるのは約3,500品目に上ります。このように、事業者を取り巻くコスト上昇が続いています。

価格転嫁がなかなか進まないことについて、帝国データバンクの2022年12月「価格転嫁に関する実態調査」では、以下の理由がトップ3となっています。

<価格転嫁できない、難しい理由(複数回答)>

  • 取引先企業から理解が得られ難い 39.5%
  • 自社の交渉力          25.0%
  • 消費者の理解が得られ難い    20.1%

日本の企業では、自助努力により値上げをしないで価格を据え置いて頑張っていることが美徳として マスコミなどに取り上げられることがあります。 しかし、従業員や株主を抱える企業にとって、値上げをしないで利益が減少してしまったならば、配分する原資が減ります。また、価格転嫁交渉が進まない結果、商品流通に支障をきたし、かえって消費者に買い物不便を与えかねないでしょう。このように、価格転嫁は経済活動を正常に保つために必要な行為といえます。

価格転嫁においてよく事業者から耳にするのは、値上げをすることによって「顧客が逃げてしまう」ということです。ここでは、以下のような価格転嫁シミュレーションをしてみました。

販売前提

・販売単価1,000円 仕入単価700円 粗利益率30% 販売数量10,000個 粗利益3,000,000円

1.価格転嫁できず仕入単価20%アップ 販売個数変わらず

・販売単価1,000円 仕入単価840円 粗利益率16% 販売数量10,000個 粗利益1,600,000円

2.販売単価14%アップ 仕入単価20%アップ 販売個数変わらず

・販売単価1,140円 仕入単価840円 粗利益率30% 販売数量10,000個 粗利益3,000,000円

3.販売単価10%アップ 仕入単価20%アップ 販売個数10%減少

・販売単価1,100円 仕入単価840円 粗利益率23% 販売数量9,000個 粗利益2,340,000円

本例では、②のように仕入単価20%アップに対し、販売数量が変わらなければ、売価への価格転嫁は14%となります。

また、①のように、仕入価格20%アップに対して価格転嫁せず、販売数量を維持した場合は、粗利益1,600,000円に減少します。一方、③のように、仕入価格20%アップに対して売価を10%アップして販売個数が10%減少しても粗利益2,340,000円となります。

このように、本例では、一定の顧客減少を招いたとしても、一定水準の価格転嫁を進めていくことが利益減少を食い止めることにつながっています

大事なことは、どの程度価格転嫁を進めれば、粗利益を確保できるかシミュレーションして対策を検討することです。

価格転嫁交渉のコツ

価格転嫁には、販売先への交渉が必要になるケースが多くあります。最終ユーザー向けの価格設定を自社でできるとしても、一方的な価格アップをしていくと消費者の納得が得られず想定以上の離反を招く可能性があります。

ここでは、以下、3つの価格交渉術をお伝えします。

1.原価を示した価格交渉

価格上昇の根拠を示して交渉することです。販売先に価格交渉するためには、自社の要望だけではなく、交渉の下地となる客観的な価格資料を準備することが重要です。

埼玉県は、円滑な価格転嫁を促進するため、企業が価格交渉を行う際に活用できる「価格交渉支援ツール」を提供しています。このツールを使用することで、企業間で取引される様々な原材料やサービスの価格について、自由に選択した上で、価格の推移と増減をグラフ化したチラシを作成可能となります。

<埼玉県 価格交渉支援ツール>

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0801/library-info/kakakukoushoutool.html

 価格支援ツールをダウンロードして、起動します。そして、「業種」または、「品目」を選択します。価格上昇率のデータが表示されるので、印刷して資料とすることができます。ただし、使用には埼玉県ホームページへのリンクである旨を明記する必要があります。

 〇建設業の例  出所:埼玉県 ホームページ

2.取引先への価格改定の通知

ここは、取引先への販売価格設定において、自社で決定できる場合を示します。とはいえ、値上げせざる得ない状況や一定期間を経て実施する旨をできるだけ丁寧に説明することが大事です。昨今の状況では、1回ではなく、複数回値上げせざる得ないことが考えられることから、引き続きご愛顧いただける通知を心がけましょう。

〇BtoC(消費者向け) 告知例

3.取引価値として伝える

投資家のウォーレンバフェット氏は、「価格とは自分が支払うもの、 価値とは自分が得るもの」と言っています。まさしく、価格とは、商品につけられた値段のことで、商品やサービスを得るために、対価として支払うお金であり、価値とは、商品やサービスが自分に与えてくれる効果、機能、満足感のことです。

そのためには、取引先に対し常日頃からの情報・サービス提供により、取引する価値を高めることが大事です。取引価値が認められれば、価格を上げても取引先は対価を支払うでしょう。

また、仕入れから販売までのサプライチェーン全体として付加価値を上げることにより、取引先との共存共栄を目指す取り組みも有効です。

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価格交渉強化月間の活用

経済産業省は、エネルギー価格や原材料費、労務費などが上昇する中、中小企業が適切に価格転嫁をしやすい環境を作るため、2021年9月より、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定しています。この「月間」おいて、価格交渉・価格転嫁を促進するため、広報や講習会、業界団体を通じた価格転嫁の要請等を実施しています。

また、各「月間」終了後には、多数の中小企業に対して、主な取引先との価格交渉・価格転嫁の状況についてのフォローアップ調査を実施し、価格転嫁率や業界ごとの結果、順位付け等の結果をとりまとめるとともに、状況の芳しくない親事業者に対しては下請中小企業振興法に基づき、大臣名での指導・助言を実施しています。

2023年2月には、経済産業省より、2022年9月からの調査結果として取引先の中小企業との価格交渉や転嫁に後ろ向きな企業について初めて実名で公表され、価格交渉促進月間の調査が進んでいることがわかります。

出所:経済産業省ホームページ

さいごに

エネルギー価格や原材料費、労務費などが上昇する中、一方で人手不足で賃上げを求められ、板挟みになっている事業者の方の声を聞くことがあります。

価格交渉において、できる限り取引先とのWin-Winの関係を保ちつつ、交渉が進むことが望ましいです。ただし、交渉事なのでケースバイケースであり、お一人で悩むことがあるかもしれません。第三者のアドバイスがほしいときもあると思います。私は、これまで価格交渉を含めた資金繰り対策のご相談に応じてきました。「個別の相談をしたい」「もう少し詳しく聞きたい」などのご要望がある場合は、ぜひ一度ご相談ください。初回相談は無料です。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 川居 宗則
(かわい むねのり) /経営デザインコンサルティングオフィス

長年金融機関に勤務し、融資課長、支店長を経験し、融資実行は5,000社以上という実績を持つ川居アドバイザー。融資以外にも、補助金・助成金なども相談できます。資金調達の力強いパートナーになる方です。

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ドリームゲートアドバイザー 川居 宗則

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