Vol.17 上場審査のポイントになる、役員・大株主との取り引き

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
上場審査を行うう えで、もっとも問題視されるのが役員・大株主と会社との取り引きです。役員・大株主は会社の意思決定に直接的に影響を与えることができるため、両者間で取り引 きを行うと役員・大株主もしくは会社のどちらかが有利・不利な条件となりやすいため、上場審査上もっとも慎重に確認される項目です。もし、特定の役員だけ特に 有利な条件で会社と取り引きをしている場合、上場審査においては致命傷になるケースが多いです。 今回は、もっとも注意しなければいけない役員・大株主と会社の取り引きについて見ていきます。

役員と大株主の範囲

 この論点を確認するために、まず役員と大 株主の範囲を明確にします。

 役員などとは、会社の取締役・監査役、またはこれらに準ずる者(例えば執行役員)とその配偶者および二親等内 の血族を言います。二親等内の血族は、該当者の祖父母、父母、孫、兄弟姉妹のことをいいます。上場審査上はこれらに加えて会社の関係会社およびその役員、 役員などが議決権の過半数を保有する会社まで含めた特別利害関係者という広い概念で考えられます。

 大株主とは、会社の上位10名程度の株 主をいいます。

 

取り引きをするための条件

 役 員・大株主と会社の取り引きすべてが認められないわけではありません。当然ながら両者間のすべての取り引きが「お手盛り」というわけではなく、本当に必要 な取り引きというケースもあります。しかし、両者間の取り引きがある場合、上場審査においては厳格に確認されます。これらの取り引きが上場審査上認められ るには、以下の条件を満たす必要があります。

(1)両者間の取り引きを行う合理的な理由およびその必要性があること
(2)取引金 額や条件が公正であり、他者との取引条件と比べても特に有利不利がないこと
(3)取締役と会社との取り引きは会社法上の利益相反取引に該当するた め、会社法の規定に従い取締役会の承認を得ていること
(4)ケースによっては目論見書などの「事業等のリスク」に開示すること

  そもそも役員・大株主と取り引きを行うにあたり、「なぜ役員・大株主と取り引きを行わなければならないのか?」「役員・大株主以外の第三者と同様の取り引 きを行うことはできないのか?」という質問に答えられるような(1)の合理的な理由がまず必要となります。この質問に答えられることが前提で、(2)~ (4)の条件のクリアが必要となってくるわけです。

 

問題視される のは不動産取引、金銭貸借取引

 役員・大株主と会社との取り引きでもっとも多い取り引きは、会社の銀行借入、オフィスの賃貸、リース取り引き に係る社長の個人保証です。これらの社長個人による保証は未公開企業であれば広く一般的に行われているものなので、上場審査上さほど問題視されません。し かし、上場までには必ず社長の個人保証を解消する必要があります。一般的に主幹事証券会社の審査が始まった時点、もしくは、証券取引所への上場申請の直前 に各銀行、家主、リース会社に申し出をすれば解除してもらえます。

 上場審査上問題視されるのは、不動産賃貸取引や不動産売買取引、金銭貸 借取引です。不動産取引でよく見かけるのが、役員・大株主が以前から保有していた土地を会社のオフィスや店舗として会社に賃貸ししているケースです。この ようなケースもそもそも当該不動産を賃貸する必要性があるのか、必要性がある場合にはその賃料は近隣不動産の賃料と比べて特段高額・低額となっていないか を確認されることになります。しかしながら、当該不動産が会社の事業遂行上重要な物件である場合、役員から当該不動産を妥当な価額(不動産鑑定士の算定価 額など)で買い取るように証券会社や証券取引所から指導される場合があります。

 当該不動産が会社の事業遂行上重要な物件である場合には、 役員・大株主の意向によって会社の事業に大きな影響を与える可能性があることなどから、会社自身が当該不動産を保有すべきという考え方によります。また、 毎期賃料として会社の利益の一部が特定の役員・大株主に流出することは、他の株主の利益を害するからです。

 一方金銭の賃借取引は、不動産 取引より問題視されます。不動産は特定物でその立地等から個別性が認められるものです。一方で金銭は個別性が認められるものではなく、その貸出先は多様で あるからです。よって、役員・大株主と金銭貸借取引を行う必然性が認められず、早急に解消する必要があります。

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