デザインの影響力
―人間は目の動物―

営業・マーケティング

執筆者: 津久井 将信

今回は「デザインが及ぼす影響」というテーマでお話をしてみたいと思う。デザインが及ぼす影響ということでいくとテーマが大きくここですべてを語ることは難しいが、デザインにはどんな影響があり、その影響力はどのくらい強いのか、こんなことについてこの記事ではお話してみたい。


人間は目の動物

人間には視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感があることはよく知られていることだろう。小学校や中学校の理科の授業で習ったはずだ。これらの感覚を通して人間の脳は情報を受け取り、意識的にしろ無意識的にしろ何かしらの判断を行い、行動を起こしている。

五感の中でもっとも強い感覚が視覚だと言われる。「人間は目の動物」というのを聞いたことがある人もいるだろう。脳が受け取る情報のうち50%〜80%以上が視覚からの情報だという。実験の方法により50%〜80%以上とかなり幅があるが、他の感覚よりも圧倒的に視覚情報が優位であることは間違いなさそうだ。まずその事実だけでも「デザインを疎かにするのは危険だ」と言えるだけの影響力があることは間違いない。

もちろんそれだけではない。例えば人間はなぜその見た目から毒キノコや毒ガエルを「危険だ」と感じることができるのだろうか。はたまたApple製品についているあのロゴマークを見て、なぜそれが「リンゴ」だとわかるのだろう?生物学者ではない一般の人でも毒キノコや毒ガエルを見て「危険だ」となんとなく感じるはずだし、写真を見ているわけではないのに「リンゴ」だとわかるのはなぜなのだろうか?よくよく考えれば不思議ではないだろうか?

他にもこんな例えはどうだろう。想像してみてほしい。恋人や家族と晴れた日に車でドライブをしているときのこと。行った先の景色の良い山の上のドライブインに車を止めてお土産でも買おうという話になった。ドライブインにはさまざまなお土産が売っている。あなたはおそらく商品パッケージを見ただけでそれらのお土産が「大量生産されているお土産」と「手作りでそこでしか売っていないであろうお土産」を区別できるはずだ。だいたいがきちんとデザインされ包装されているものが大量生産のお土産で、パッケージにコストをかけられないもののほうが地場の手作りのお土産、というイメージがあるだろう。しかし、これもなぜそれがわかるのか?よくよく考えれば不思議なことだ。

詳細は長くなるので割愛するが、人間は「危険←→安全」「好き←→嫌い」「快←→不快」「〜〜らしい、〜〜っぽい」ということを見た目から感じ取り判断する能力を備えていることはおそらく間違いない。私の推測では生命維持装置としての機能がスタートだったのではないかと考えるが、もし仮にそうだとしたら、これも視覚の影響力の強さを物語るものだろう。

他の感覚にも影響を与えてしまう視覚の強さ

しかし、今お話してきたことは視覚の影響力を感じさせつつも、視覚が他の感覚よりも強いことの証明にはならないだろう。では、こんなお話があるのをご存知だろうか。

これは前回のコラムもお話したが、「期待効果」と呼ばれるものだ。ワインのパッケージが2種類ある。ひとつは牛乳パックのような紙パックのパッケージ、もうひとつは高級なビンのボトル。これらの中に同じワインを入れて被験者に飲み比べをさせてみると、多くの人が高級なビンのボトルに入ったほうを「おいしい」と答える。また、赤、緑、黄色の3種類の紙コップを用意し、中に同じコーヒーを注ぎ被験者に飲ませたときには、「赤が最もおいしい」「緑は苦い」「黄色は酸っぱい」と回答する被験者が多くいたという。これらは見た目が味覚よりも強いことの何よりの証拠になるだけでなく、コーヒーの実験に関しては見た目によって特定の味を感じさせてしまうほどの影響力があることを物語っている。大手ビールメーカーの役員が「利きビール」で自社製品を当てられなかったという笑い話もあるくらいだ。

起業するなら知ってほしい、ロゴをつくるということの本当の意味

他にも触覚と視覚の比較はどうだろうか。テレビでよく見る、箱の中身を手で触っただけで当てるあのゲームを例に挙げてみたい。おそらく人は手で触っただけでは「そのもの」を当てることは難しい。たとえば「花」ということはわかっても、何の花かまではわからないだろう。それどころか、なぜ人は箱の中身を触ることをおそれるのだろうか。あたり前のことだが、中身が「見えないから」だ。ということは、人間はほとんどの場合「それを触っていいか、触ったら危険ではないか?」を視覚情報に基づいて判断しているといえる。これだけでもやはり視覚のほうが人間の脳に及ぼす影響は強いと言えるだろう。

このように、視覚の感覚としての強さを考えればデザインの影響力がいかほどのものか想像することは難しくないだろう。

キレイなデザインだから良いというわけではない

さて、ここまで話を聞いて「よし!自社のデザインをもっと良いものに変えよう!」と思ったなら、焦らず一度立ち止まって考えてほしいことがある。「良いデザインとは?」という質問にあなたはどう答えるだろうか。これはデザイナーですら答えられない人もいる、かなり深くて本質的な質問だ。

たとえば、見た目がよいほうがうまくいくのであれば、営業する人は客先ではスーツを着用したほうがよいと考えるだろう。ところが、植木屋さんなどの一部の業種によっては作業着よりもスーツで営業に行ったほうが成約率が下がる、ということを実験から導き出した人もいる。

先ほどのドライブインのお土産の例でいけば、デザインがキレイな大量生産のパッケージのものは誰か(会社や知人友人)へのお土産になりやすいし、そこでしか手に入らないお土産であれば自分用(自家用)として購入する傾向があるだろう。なぜなら人にあげるお土産は「成功したい(ものすごくおいしい)」よりも「失敗したくない(まずかったらたいへんなことになる)」という心理で選択するが、自分用であればなんとなく想像がつくおいしさの大量生産のものにはあまり価値を感じないからだ。

このように、一概にキレイで美しいものが優れているかと言うとそうとは言い切れないからデザインの世界は難しい。セブンイレブンのコーヒーマシンや、森永乳業のウィダーinゼリーのリニューアルパッケージはとてもキレイなデザインだったが、明らかにそれが原因で失敗し、悪評が立ったり売上が下がったりした。キレイなデザインだからこそ失敗した例も多くあるのだ。これらもまた皮肉にもある意味において見た目の影響力とその強さをより強固に証拠づけている。

ではどうしたらいいのか。ここではとてもじゃないが語りきれる内容ではない。ただ、ひとつだけものすごく簡単に説明するならば、「デザインを見るターゲットを明確にし、そのターゲットの人たちが理解できるかできないか、良いと感じるか感じないかの境界線を狙うこと」が重要だ。ターゲットが理解できないものはどんなに優れていても「商業デザイン」としては何の価値もない。

注意しなければならないのは、この章の冒頭でもお話したとおり、デザイナーだからといってこのことを理解しているかといえば、そうとは言えないデザイナーがたくさんいるということだ。私の感覚としては理解していないデザイナーのほうが圧倒的に多い。でなければ有名デザイナーが「ただただキレイなものをつくって失敗する」ということが起ころうはずがない。

ロゴマークが与える影響

私はロゴマーク専門デザイン会社を経営している。そういう意味で言えばロゴに関する「デザインが及ぼす影響」をお話しないわけにはいかないだろう。

これはロゴに限った話ではないが、デザインは「誰に、どんな影響を与えたいか」でどんなものをつくるべきか、何を表現するべきかが変わってくる。そういう意味では、ロゴに関しては経営者が自分に影響を与えたい(「信念の象徴」として自分を奮い立たせたい)、という場合もあれば、ロゴを見た人に「商品を買ってほしい」「採用活動に応募してほしい」などの自分(経営者)以外の人へ影響を発揮したい場合もある。どちらを優先すべきか。ここまでお話してきた内容からいくと、経営者の気持ちよりもロゴを見た人を優先すべき、となるだろう。

ただ、私は小さな会社や起業したての会社であれば、社長の好みで決めてしまってほぼ問題ないと考えている。「見る人」「対社外」といったターゲットよりも社長の感覚を優先させたほうが良いということだ。なぜならば、第一にデザインは見た人の好き嫌い、好みが大きく影響し、誰もが「好きだ」と答えるデザインをつくることはほぼ不可能だからだ。そして、前回のコラムもお話した「デザインの無拒否性©」により、人は見たものから「好き←→嫌い」「〜〜っぽい、〜〜らしい」という何かしらの印象を持ってしまう。つまり、社長が「自分の好みのロゴ」を採用することで、お客さんにしろ社員にしろ、「そのロゴが好きだ」と感じる人を自然と集める効果があると考える。これが「ロゴは社長が決めて良い」と言った真意だ。

起業するなら知ってほしい、ロゴをつくるということの本当の意味

鳥は空を飛ぶことができる。自力で飛ぶことができない人間から見たらすごい能力だ。しかし、人間にも空を飛ぶ鳥と同じようにすごい能力が備わっている。それが視覚だ。鳥にとっての翼は人間でいえば目だ。自分にとって当たり前のことはなかなかその価値に気づけないが、人間の視覚は他の生き物から見たらものすごい能力なのだ。そう考えただけでも、視覚に訴え印象をコントロールするデザインが重要だということがわかるだろう。

参考図書:要点で学ぶ、デザインの法則150
参考サイト:造園集客実践会

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 津久井 将信氏
(株式会社ビズアップ 代表取締役)

ロゴマーク作成専門デザイン会社として起業1年目で823社から受注。その後6年半で6000社超の受注実績を持つ。
国立競技場のロゴマークをデザイン、コンペにて勝ち抜き採用されるなど豊富な実績を持ち、NHK、産経新聞、マイコミジャーナル等メディアへの出演経験多数。

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