- 目次 -
あらすじ
2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、全国各地で観光PRが大変な盛り上がりを見せており、さらに多くの外国人旅行客(=インバウンド)の来日が予想されます。
2年後の2020年、日本の観光事情はどのような状況になっているか。また、その先の2030年、インバウンド6,000万人に向けた観光立国ニッポンを実現させるために何をすれば良いのか。今回のコラムは、現状の課題を含め、2年後の日本の観光事情についてお伝えします。
またこの東京オリンピック・パラリンピックが日本の観光業を盛り上がる起爆剤イベントとなり、日本にいるすべての人が、真の意味での「おもてなし」精神を発揮できるよう期待を込めて執筆いたします。
東京の人口が倍に!?
2020年7月24日20時、東京オリンピックの開会式が行われ、8月9日閉会式までの17日間、猛暑の中で熱戦が繰り広げられます(東京パラリンピックは、8月25日~9月6日の13日間)。2012年ロンドンオリンピックでの累計観戦者は800万人以上でしたが、今回は、人口がもっとも密集しているアジアでの開催のため、世界各地、日本全国から1000万人を越える観戦者が来ることが予想されます。東京の人口が1300万人であることを考えると、この期間は人口が倍近くになるというイメージです。このことから次のような状況に陥ることが考えられます。
まず日本は島国のため、入国するためには、飛行機か船しかありません。この期間の空港は、厳戒態勢である上に海外から膨大な人数の入国が予想されます。これらの人々が、全国各地から東京を目指してくるため、新幹線などの鉄道、国内線を中心とした飛行機は、連日満員となります。さらに1日60万人がオリンピックのために東京を中心とした関東地域に宿泊するため、東京中のホテルは満室、さらに特需となり、価格も通常期の5、6倍以上になります。またバスや地下鉄での移動は、どの時間帯でも満員となり、改札口を通るために2、3時間待ちも当たり前、カフェ、レストランも予約が取れずに東京中のミネラルウォーター、コーヒー、ビールがなくなることも危惧されます。
猛暑の影響で、熱中症など急病人も出てくれば、救急車もフル稼働になり、医療インフラの整備も重要になってきます。
また、こうした状況は、東京だけの課題ではありません。この観戦者の半分以上が、大阪・京都へも旅行に行き、2割以上が各地方へも足を伸ばすことになるとも予想もされます。
しかし、迷惑ばかりに思われますが、やはり50年以上ぶりの国際的なお祭りです。これをビジネスチャンスと捉え、どうすれば良いかを考えて事前準備をし、お祭りに臨みましょう。
インフラ整備が課題!
最近、私の本業であるホテルビジネスで、毎月韓国へ行く事になりました。
初めて韓国の空港へ降り立ったとき、とてもアジアを感じたとともに、初日の数時間で3つの「インフラ不足」を実感しました。
1つ目は「文字・言葉のインフラ」です。
韓国では、看板や駅名など数多くの観光客が目にするであろうものに英語表記が無く、ほとんどがハングル文字です。そのため、目的地のホテルがどこにあるかもわからず、タクシーの運転手に英語で説明しても通じませんでした。
2つ目は「交通インフラ」です。
地下鉄やバスに乗ろうとしたとき、目的地や金額どころか、どこでチケットを買えば良いのかすらわかりませんでした。また道路が渋滞していたため到着時間も読めなかったことを覚えております。
3つ目は「食のインフラ」です。
なんとかホテルにチェックインし、水とちょっとした食べ物を買いに目の前のコンビニに行ったら、辛いのか甘いのかもわからない物ばかりだったので、購入を躊躇しました。どんな食べ物なのか見た目である程度想像できますが、おそらくインバウンドが日本に降り立った時、同様の事態が起きるのではないかと実感するとともに、気持ちを理解しました。
これら3つのインフラは、一朝一夕で解決できる課題ではありません。なぜなら看板や標識などは大部分が行政の役割です。しかし、民間事業者でも以下のようなことを注意すれば、インバウンドにとってかなり快適な状況を作ることができます。
■「英語+写真+価格」を店頭に置く
世界の共通言語は、英語です。したがってお店では「英語」でのメニューや商品説明が必要になります。もしくは「価格を表記した商品写真」を店頭におくだけでも、この店が土産物屋なのか、レストランなのか、自分の予算と合っているのか、など判断することができます。
■スマートフォンを活用する
インバウンドにとって、日本でもっとも大きい障壁の一つが「言語」です。コミュニケーションができなければ、いくら素晴らしい文化があっても伝えることができません。翻訳機能、乗換案内、地図アプリなどを活用することでかなりのコミュニケーション不足を補うことができます。
■「できること」より「できないこと」を明確にする
文化も習慣も価値観も異なる国の人が来ます。その場合、できることを伝えるよりもできないことを伝えることで、この国の当たり前のルールを理解してもらう必要があります。特に日本人は、英語で質問されると、わからないまま「YES_YES」と答える人が多いです。私自身、昔働いていた旅館で、英語が不得意なスタッフがいい加減に「YES_YES」と答えたことが原因で、大変な目にあったことがあります。これらはスマートフォンを活用するなどして、できないことは「できません」と明確に伝えることで不要なトラブルを避けることができます。
3つのインフラである「文字・言葉のインフラ」「交通インフラ」「食のインフラ」を官民で整えるとともに、上述の3つの事前準備を行うことで、東京オリンピック・パラリンピックを成功させるとともに、世界中の人々に、日本のおもてなしや文化を体験していただくことで、継続的に観光客数を増加させる仕組みを作る必要があります。
「また日本へ来たい・・・」価値の創造
本章の前半で、世界各地から観光客が大挙として押し寄せる、と書きましたが、お祭りが好きな人間もいれば、お祭りを避ける人間もいます。オリンピック・パラリンピックがあるという理由で、わざわざ島国に来る人間がどれほどいるのかについても議論があります。また、期間中多くのインバウンドがくることで、当然ながら良い評判と悪い評判が出てきます。悪い評判が多ければ、東京オリンピック・パラリンピック後の反動によるインバウンド減少も予想されます。
高度経済成長時代に、企業は売上増加ばかりが求められましたが、成熟した現在の日本においては、価値などの“中身”も求められています。日本の観光業も同様に、6,000万人を目標に掲げるのは、一つの目標指標としては、良いと思いますが、理解度が高く、満足度が高く、喜んでお金を使ってくれる “良いインバウンド”を獲得するため、更なる観光への取り組みが必要です。東京オリンピック・パラリンピックをゴールと考えるのではなく、これを本当の意味での「観光立国ニッポン」のスタートとなり、私たち一人一人が、国際感覚を身につけ、日本の文化や先人たちの知恵を理解し、「また日本へ来たい。」と思わせる素敵な笑顔でお迎えすることから始めましょう。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 坂本 洋氏
(合同会社GreenOceanz 代表社員)
京セラ株式会社で海外営業、国内営業を経験後、中小企業診断士を取得し、株式会社星野リゾートへ転職。
星のや軽井沢・京都にてマネージャー職を経験後、ホテル旅館専門コンサルタントとして独立開業。
民泊運営からリゾートホテル総支配人、経営から清掃業務まで、広く深く経験した上での具体的で実践的なアドバイスは顧問企業から絶対の信頼を得ている。
創業補助金・ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金の採択件数は60 件以上、審査員もつとめている。