起業するなら知ってほしい、
ロゴをつくるということの本当の意味

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 津久井 将信

ロゴマーク専門デザイン会社の代表として、ロゴマークの必要性を説くような文章はかなりの確率でポジショントークと取られてしまうと思うのだが、それでも私自身が「見た目とその表現」の重要性を信じ、考え、勉強し、実践してきたさまざまなことの一部を、そしてロゴマークの役割、ロゴをつくるということの本当の意味をお伝えしてみたいと思う。


見た目を疎かにしてはいけない3つの理由

まずは理屈っぽい話からしてみたい。見た目を疎かにしてはいけない理由は大別して3つだ。1つ目は、「人間は見たものから何かしらの印象を感じてしまう」ということだ。たとえばの話、電車の中でこんな人を見かけたらどう思うだろうか。

40代くらいの小太りの男性で、スーツのズボンからワイシャツの裾が飛び出していて、顔に目ヤニがついていて、髪の毛もぐしゃぐしゃ、アキバ系のアニメをスマホで見ている人。
かなりやばい印象を持つのではないだろうか。おそらく独身で結婚もできていない、仕事もできない、ましてや経営者だなんてとても思えない人物、そんな印象を抱くはずだ。
そういう身なりでも結婚していて仕事がバリバリできる人や社長という人も現実ではいるかもしれないにもかかわらずだ。

また、透明のビニール袋に無造作につっこまれた食べ物を見たらどう思うだろうか。多くの人が「残飯だ」と感じることだろう。もしかしたら一流シェフのつくった料理をビニール袋に突っ込んだだけかもしれないのに。

このように、人は見た目から何かしらの印象を持ってしまう。これを私は「デザインの無拒否性©」と名付けている。あなたの会社は仕事ができない男性や「残飯」だと思われるほうと、その逆の印象を持ってもらうほう、どちらを選ぶだろうか?

2つ目の理由として、「人は経験したことがないものは見た目しか判断基準を持たない」という点だ。たとえば一度も購入したことがないある食品を購入しようとしたとしよう。パッケージに包まれたような食品だ。
実際に食べたことがないわけだから、美味しいかどうかなど知る由もない。しかし、消費者はその時点で購入するかしないかを選択しなければならないわけで、判断基準は見た目を含めたメーカー側の発するメッセージしかないのだ。
よく「商品が良ければ見た目など何でもいい」と考える経営者が多いが、これは間違っている。
見た目は商品の善し悪しを判断させるものではなく、その商品を体験してみるかどうかを判断させるものだ。商品の善し悪しは体験しなければわからないのだ。

見栄えが負けているというだけで、品質では決して負けていない競合他社の商品を選ばれてしまうとしたら?「一度使ってみてもらえれば良さがわかるのに!」と悔やむ経営者が多いが、そもそも体験してもらうチャンスを自ら逃している、見た目を疎かにするとはそういうことなのだ。

3つ目の理由として、実はデザインなどの見た目にはさまざまな心理的な効果があることが研究の結果わかりはじめている。
「魅力バイアス」「美的・ユーザービリティ」と呼ばれるものだ。

人はキレイなものや美しいものを見ると、その価値を通常よりも高く見積もると言われている。たとえば、美しい商品は美しくない商品と比べて「機能的に」優れていると感じてしまう。見た目と機能は関係なくても、だ。

また、牛乳パックのような安い紙のパッケージに入れたワインと、高級感を感じるビンのボトルに入れたワイン、中身は同じでも後者のほうが「美味しい」と認知される。
「見た目は商品の善し悪しを判断させるものではない」と前述したが、実は商品の善し悪しにも重大な影響を及ぼしている可能性が高いのだ。

競合他社の商品の品質があなたの商品よりも低いとしよう。あなたがもし商品の見た目に投資をしないとしたら、品質の悪い競合他社の商品をあなたの商品よりも品質が高いとお客さまが誤解して購入している可能性がある。
ということは、あなたが見た目に力を入れないばかりに、お客さまは質の悪い商品を手に入れる不利益を被っているかもしれないのだ。

さて、起業してすぐにこれらの見た目の力を身につけるかつけないかは社長になるあなたしだいだ。
見た目、つまりデザインを機械や店舗などと同じ設備投資と考え、しっかりと予算を組めるかどうかは経営者としてのお金の使い方、投資回収のセンスが問われるところだろう。

では、「見た目が重要だ」という話の中でロゴマークをつくることの意味や目的をお話してみたい。

ロゴマークの役割とは?

もう少しだけ理屈っぽい話をつづけさせてもらいたい。13年以上ロゴマーク専門デザイン会社としてさまざまな企業やブランドのロゴデザインに携わってきた中で、ロゴマークには4つの役割があると考えている。私の考案した「ロゴマトリックス©」で見てもらうとわかりやすいだろう。

【ロゴマトリックス図】

縦軸には「信念の象徴」と「ビジュアルコンパス®」という2つを、横軸には「対社内」「対社外」という2つを取った4象限の表が「ロゴマトリックス©」だ。「4つの役割」とはまさにこの表に対応している。

表のAにあたる「信念の象徴」×「対社内」では、ロゴは「経営者やスタッフのモチベーションや帰属意識を高める」という役割を担っている。まさに、国で言うところの「国旗」のような役割だ。オリンピックなどの国際的なスポーツのイベントで国旗掲揚があるのは、その国の人々の帰属意識やモチベーションを高める効果がある。

次に、表のBにあたる「信念の象徴」×「対社外」では、「会社・商品・サービスへの想いをお客さまや取引先などに知ってもらう」という役割をロゴが担っている。社外の人々とも価値観を共有するためのツールとしてのロゴだ。
ただし、そのためにはどんなコンセプトでどんな想いをもってそのロゴが完成したのかを経営者のみならずスタッフが共有し、社外に発信できる必要がある。
ここで重要なのが、「誰に」「どうやって」ロゴをつくってもらうかというプロセスだ。

少し話はそれるが、ロゴの作成料金は数千円から数千万(場合によっては億)とピンきりだ。ではどのようにして価格を決定しているのか。
実は多くのデザイン会社が「言い値」だ。私は良いロゴデザイン会社を見つけるための判断基準はそのデザイン会社の「見た目」はもちろんのこと、これらのロゴの役割をどこまで理解し、ロゴ作成における「プロセス」に反映させているかだと思う。

ロゴそのものよりも作成する過程、プロセスこそが作成料金を決めると言っても過言ではない。「どんなロゴができあがったか」よりも「どういうプロセスでそのロゴができあがったか」によってクライアントが手に入れる価値が違うということだ。ロゴマトリックスのAとB、つまり「信念の象徴」はこのプロセスにこそ宿る。プロセスを大切にせずなんとなく安くつくったロゴの中に「信念の象徴」が宿ることはなく、ロゴとしての存在意義はそれだけで半減してしまう。

話を元に戻そう。

表のCにあたるのが、「ビジュアルコンパス®」×「対社内」だ。「ビジュアルコンパス」というのは我々が商標登録している造語で、ロゴマークは企業、ブランドなどのすべてのビジュアルのコンパス(指針)になるものだということを意味している。Cの場合、ロゴの役割は「どのようなビジュアルの統一感を出せばよいかを明確にする」ということになる。
社内や店舗の内装や、名刺、封筒などのアイテムまで、どんなデザインをすればよいかはロゴで決まると言っても良い。これが「ロゴは企業の顔」と言われる所以で、人間の顔と服装の関係と同じだ。また、きちんとした経験とセンスを持ち合わせたデザイナーであれば、ロゴのデザインを見ただけで「(名刺や封筒、ホームページなどを)どのようなデザインにすれば良いか」「どんなデザインにはしてはいけないか」などを汲み取ることができる。

最後にロゴマトリックスのDにあたる「ビジュアルコンパス®」×「対社外」について。これは前段で話した「見た目を疎かにしてはいけない」という話と同じだ。どのような見た目の表現をすれば自社のターゲットに信頼感を持ってもらえるのか、選んでもらえるのか。そのためのコンパスとしてのロゴということになる。コンパス=指針となるだけでなく、ロゴがないお店や商品は信頼度が低いという、ウェブリサーチを使った我々独自の調査結果もある。

スタッフなどの社内の人員にしろ、お客さまや取引先などの社外の人々にしろ、見た目が人間に与える影響は大きいという意味において、ビジュアルのコンパスになるロゴは非常に重要な意味を持つ。それは間違いないことだ。

ただ、私が最後に主張したいのは、起業するあなたにとってのロゴの意味だ。
まさにロゴマトリックスに出てくる「信念の象徴」としてのロゴマークだ。理屈っぽい話はこの際置いておこう。

起業する前の「熱い想い」「描いている希望」「打ち勝ちたい不安」。あなたがこういったさまざまな感情を抱く中で、ロゴマークをつくるということはあなたにとってどんな意味があるだろうか。

想像してみてほしい。
あなたのビジネスはこれから大きな成功と喜び、失敗と悲しみに満ちたストーリーになるはずだ。そんな中、大切なのはあなたの信念だ。見るたびにその信念を思い出す「信念の象徴」としてのロゴ。そしてロゴはあなたが社長を引退するときにも残りつづける。
思い浮かべてみてほしい。起業する時につくったロゴマークを見て、引退するときのあなたは何を感じるだろうか?

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 津久井 将信氏
(株式会社ビズアップ 代表取締役)

ロゴマーク作成専門デザイン会社として起業1年目で823社から受注。その後6年半で6000社超の受注実績を持つ。
国立競技場のロゴマークをデザイン、コンペにて勝ち抜き採用されるなど豊富な実績を持ち、NHK、産経新聞、マイコミジャーナル等メディアへの出演経験多数。

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