会社経営に必要な法律 Vol.27 「ラッパvsひょうたん」正露丸裁判の争点

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
胃腸薬「正露丸」を製造販売する大幸薬品が、同じ名称の薬を販売する会社に対し、不正競争防止法に基づき訴訟を起こしていましたが、2008年7月、大幸薬品の敗訴が確定しました。そこで今回は、このニュースを題材に、不正競争防止法について説明をしていきましょう。

1.ニュースの概要

 ラッパのマークの「正露丸」を製造・販売する大幸薬品が、自社製品と同じく「正露丸」の名称で類似の包装の、ひょうたんのマークの「正露丸」を販売する和泉薬品工業に対し、不正競争防止法の禁止する「周知な商品等表示の混同惹起」などにあたるなどとして、和泉薬品工業が販売する「正露丸」の販売差止と損害賠償などを求めた訴訟で、2008年7月4日、最高裁判所は大幸薬品の上告を受理しない決定をしました。

 これにより、両社の商品には消費者による混同の恐れはなく、また正露丸は普通名称であることから、和泉薬品工業による『正露丸』の名称使用は不正競争防止法違反にあたらない、とした1、2審の判決が確定しました。

 

大幸薬品 プレスリリース  「和泉薬品工業株式会社に対する不正競争行為差止等請求事件の最高裁上告不受理について」 

 

・ 1審判決 大阪地方裁判所 判決全文 別紙1 別紙2 

 

 

2.法律上の問題

 

(1)問題の概要・背景

 「正露丸」は、日露戦争の際に「征露丸」として製造され、日本中で広まったもので、その後多くの会社が「征露丸」の名称で同様の薬品を製造・販売してきました。現在でも、 10社以上の会社によって「正露丸」の名称・類似のパッケージで、同様の薬品が販売されているということです。大幸薬品と和泉薬品工業のいずれもこのような流れを受け現在に至る会社であるようです。

大幸薬品の「正露丸」 

和泉薬品工業の「正露丸」 

 

 「正露丸」の名称を巡っては、これまでも裁判で争われてきました。1954年、それまで複数社が商品名として利用してきた「正露丸」の名称につき、大幸薬品が商標出願をしたところ、その登録が認められ、独占的に使用できる権利を取得しました。これに対し、和泉薬品工業をはじめとする他の「正露丸」の製造・販売会社が、大幸薬品の商標登録が無効であるとして提訴しました。この裁判は、約20年にも及ぶ審理の末、1974年、最高裁判所によって、「正露丸」は一般的な名称として国民に普及しているものであり、1社にその名称使用を独占させるべきではないことから、大幸薬品の商標登録は無効であるとの判決が下されました。この判決の結果、現在では「正露丸」の名称は、商標法上は誰でも自由に利用できるようになっています。

和泉薬品工業  「正露丸の由来」内 「『正露丸』は“普通名詞”を得るまでの経緯」 

 今回は、この判決を前提としつつも、なお和泉薬品工業による「正露丸」の名称の使用などが、大幸薬品の「正露丸」との関係で、不正競争防止法の禁止する「周知な商品等表示の混同惹起」や「著名な商品等表示の冒用」にあたるとして、大幸薬品が提訴したものです。

 

(2)不正競争防止法とは

 今回の裁判では、大幸薬品は和泉薬品工業の商品が不正競争防止法に違反すると主張しました。この不正競争防止法とは、そもそもどのような法律なのでしょうか。

 不正競争防止法は、一言で言えば、事業者間の公正な競争を確保するための法律です。この法律では、不正競争にあたる行為として、今回問題とされた他人の「周知な商品等表示の混同惹起」、「著名な商品等表示の冒用」のほか、「商品形態の模倣」、「営業秘密の侵害」、「ドメイン名の不正取得・保有・使用」などを類型化し、それぞれにつき規制をしています。

 不正競争防止法で規定されている不正な競争行為は、商標法をはじめとする知的財産法によっても規制されていますが、不正競争防止法は、それらの知的財産法による保護から漏れたものを補完的に保護するための法律となっています。

 

(3)「周知な商品等表示の混同惹起」および「著名な商品等表示の冒用」

 今回の裁判で問題とされた、「周知な商品等表示の混同惹起」および「著名な商品等表示の冒用」とは、どのようなものなのでしょうか。

 「周知な商品等表示の混同惹起」とは、商品等表示(商品名や包装など)として需要者の間に広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、当該他人の商品・営業と混同を生じさせる行為をいいます。そして「著名な商品等表示の冒用」とは、商品等表示が、さらに広く全国的に知られている場合についてのものです。不正競争防止法では、そのような商品等表示を使用することで、それらを周知や著名にした者は、そのような行為を行った事業者に対して、差止請求や損害賠償請求などができるとしています。

 この規定については、例えば、大阪のかに料理屋の「動くかに看板」と類似した「かに看板」を使用した同業者に対し、看板の使用禁止および損害賠償が認められた裁判例(大阪地方裁判所 1987年5月27日判決)などが有名です。

 ただし、この規定には例外があり、普通名称の使用であれば不正競争にあたらないとされています(19条1項1号)。今回の裁判では、「正露丸」という商品名は普通名称であるので、商品等表示ということはできず、それを使用することは不正競争にあたらないとしました。

 また、今回の裁判では、商品名以外に正露丸の包装についても争われましたが、大幸薬品の正露丸は「ラッパのマーク」であり、この点で、和泉薬品工業の「ひょうたんのマーク」の正露丸と混同するおそれはないなどとして、こちらについても大幸薬品の請求を認めませんでした。

 ・経済産業省 不正競争防止法 説明資料 

 

3.ベンチャー企業として

 不正競争防止法は、不正な手段による競争を禁止するものです。経済産業省の説明資料などを見ればわかるように、不正競争防止法の適用範囲は、広汎にわたり、これは、企業の規模や事業の種類に関わらず、あらゆる企業にとって問題になりうる法律です。今回取りあげた、商品等表示に関するもの以外でも、営業秘密の侵害がよく問題となります。

 ただ、ベンチャー企業としては、どのような企業であっても問題となるものであることから、不正競争防止法の内容を把握しておくこと必要があるでしょう。その際、経済産業省の説明資料に記載されている内容で十分ですので、どのような行為が規制の対象となっているかを知っておけばよいと思います。

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