大企業を動かすための事業計画書を作るコツ

大企業を動かす事業計画書
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これから起業しようとする方は当然として、既に起業して経営者となっている方でも事業計画書が必要となるシーンは意外とたくさんあります。事業計画書といっても、取引先への提案用、資金調達用、自社のための計画書といった様々な使いどころがあります。

もちろん、それぞれのケースに応じて内容も変えていくのがベストですが、そのつどゼロから作り始めていては間に合わない事もあるでしょうから、ベースとなる事業計画書は完成させておきたいものです。なおかつ、完成後も細かな訂正や更新をいれてブラッシュアップし、常にクオリティーを高めておきたいものです。

事業計画書の目的は、相手を動かす事。納得させること。その相手が金融機関であれば投資、コンテストの審査員であれば賞やサポート、大企業の社長や役員であれば事業推進への決裁だったりします。いずれにせよ、事業を後押ししてくれる何らかのアクションを引き出す武器が、事業計画書なのです。

今回は大企業を相手に、サービスの売り込みや事業提携といったケースを想定して、相手に意思決定させるための資料の作り方。もっとくだけて言うと、大企業の「お偉いさん」をYESと言わせ動かすための資料とはどのようなものか、というテーマでコラムを書かせていただきました。

今回のテーマですが、自分自身が大企業出身で、かつ仕事で役員などの決裁権を持つ相手に、そうした資料を作ってこられた方なら、なんとなく勘所はわかると思います。がしかし、そうした機会を経験できるのは、経営企画や新規事業開発などの部門に限られてしまいがちです。大企業でも技術職や営業職、あるいは管理部門にいた方などは、事業計画書や大きなプロジェクトの企画書を作ったことが無いという方が多いと思われます。

ご紹介が遅れましたが、私は20代の時に日経BP社の社内ベンチャーで子会社を起こし3年間で売上20億円の事業の実質的な経営者となり、ベネッセやビジネス・ブレークスルーで新規事業の企画や社内ベンチャーへの審査およびアライアンス投資基準策定をおこなってきました。アドバイスをした事業計画書は300件を超えます。いろいろな企業向けの事業計画書や提案書を作ってきて、今も起業される方の事業計画書をブラッシュアップしたり指導しておりますので、今回は「大企業を動かすための事業計画書を作るコツ」と題したコラムをお届けします。

最も重要なのはサマリー 大企業でのプレゼンは5分間で決まる

いきなり結論から申し上げます。大企業向けの事業計画書で最も重要なのは、サマリーです。事業計画書の要点を1ページにまとめたサマリーの出来・不出来にかかっていると言えます。

サマリーは相手に最も伝えたいことを示し、計画書全体を俯瞰するものです。

大企業の役員や部長職といった人達はとにかく多忙です。そうした人が何か意思決定をする際、何十ページにもわたる資料をじっくり読むことは、まずありません。すぐ結論を出したがります。

その結論とは、これは検討に値するものか、そうではないか、という判断です。検討に値すると判断すれば、じっくりと集中して話を聞き、資料を精読し、時にはプレゼンターに厳しい質問も浴びせて、経営上の重要な意思決定を行います。

私の経験でいえば、大企業の役員会議などでプレゼンにもらえる時間は、正味で5分から10分程度です。仮に10分以上の時間がもらえたとしても、長すぎて聞き手が飽きてしまうことがあります。また最近はピッチコンテストなど、より短時間で事業を伝え投資を求める場も増えています。なので、「プレゼンは5分で決める」つもりで望みましょう。

さて、5分以内でプレゼンできる内容は、ページ数でいえば8~10ページ程度でしょう。その約10ページに入らない内容は、全て参考資料として別紙にします。つまり、10ページ程度の本編と参考資料編という2部構成にするのが、機動性よく事業をプレゼンするコツです。参考資料編は何十ページになっても構いませんが、本編に索引をつけておき、参考資料のどこに詳細が書いてあるかすぐわかるようにしておくと、ベターです。

ちなみに、私は以下のような構成にすることが多いです。

1.サマリー(事業の意義、ビジネスモデルを端的に)
2.事業を構想した背景
3.事業概要
4.USP(ユニークセールスポイント)
5.成長計画
6.売上げ目標
7.事業スケジュール、マイルストーン
8.体制図もしくは会社概要

これで大体8~10ぺージです。最初のサマリーは重要なのでプレゼン時間を多く使います。また、大勢に読んでもらう場合はサマリーの前に目次があると検索性が高く好印象となります。

サマリーで最も大事なのは何か。

例えば5分間の限られたプレゼン時間の場合、その中でも最初のページ、つまりサマリーの説明で1~2分使います。それでは、大企業向けの事業計画所や提案資料のサマリーで最も重要なポイントはなんでしょうか?

ずばり申し上げると、「事業の構想、社会的意義、それをすべき背景」といった点です。経験則ですが、大企業ほどCSR的側面、その事業を行う社会的意義といった大義を問われる傾向があるようです。規模の大きな企業や社会的に有名な企業ほど、社会的な公器としての振る舞いが求められる社会情勢ゆえでしょう。

とはいっても慈善事業ではありません。あくまでビジネスです。それでは、サマリーの骨子はどう作るべきでしょうか。簡単にいうと、

●誰の課題をどうやって解決するのか。
●なぜそれをやるのか。
●それによってどう収益させるか。

という三点です。

例えば、提案相手が建築・建材などを手がける大企業だったとして、ベンチャーの経営者であるあなたは、地図情報や口コミサービスを組みあわせて、段差や階段の少ないバリアフリー店舗の情報を提供できる新サービスを開発したとします。それを使うと足腰の弱い高齢者などに優しい店舗だけを紹介できます。

このときのサマリーならば、高齢者にとって少しの段差も辛いという課題を、最新のITサービスにとって解決し、そのサービスを大企業と組むことで早く広く普及させたい。ビジネスモデルとしては内装や店舗改修の注文を獲得する機会創出を生んで収益化する、といった具合です。

裏読みすると、仮にその事業がうまくいかなかった場合でも、社会的に意義があった、意義のある事業であったという「意思決定の理由づけ」が出来ることも重要です。大企業は株主や取引先を始め、ステークホルダーも多いので、そうした人達への説明責任ということも常に配慮しています。

上記の例でいえば、超高齢化社会を迎える日本において、高齢者の住みやすい社会を作るためのサービス・事業を展開しているということで、社会的な意義があるといえます。

よって、「なぜその事業をやるか」という点が重要視されるわけです。もちろん、事業性、つまり利益が見込めることが大前提ですが、まずは意義を明確にするというのが大事です。

大企業相手に納得されやすい数字の作り方

サマリーが相手の心に刺さると、決まって次の質問が出ます。

「それは本当に儲かるのか?」

そこで次のポイントである、事業の採算性、売上げと利益の見込みといった説明に入ります。このとき重要なのは、ベストシナリオとワーストシナリオを用意しておくことです。うまくいった場合はさておき、仮にうまくいかない場合でも、最低でもこのくらいの売上げと利益が見込める、裏を返せばワーストシナリオさえ無理であれば撤退の意思決定をしようといったシナリオを提示しておくことも重要です。個人的には外部環境と内部環境の変化を予測して3~4パターンのシナリオを準備しておくのをお勧めします。

売上げと利益の見込みといっても、新しい事業であれば、実際はやってみなければどうなるかわかりません。紙のうえでは、どのようにでも書けます。

だからこそ、大企業向けに納得感を持ってもらいやすい数字の作り方があります。まず市場規模を算定して、その市場でどのくらいのシェアを取りにいくかという論法です。この際のシェアですが、私の経験から「1割」前後が説得力があるようです。

「想定市場の1割のシェアを取りたい」という言い方は、市場に影響を与えられるが無理がない現実的な数値として説得力が出ます。これが数パーセントでは消極的に取られる恐れがありますし、数割だと風呂敷を広げすぎた感が出てしまいます。

あるいは、既に既存市場で2割とか3割のシェアをもっている相手であれば、そのシェアに合わせた提案をするというのも、説得力を出すテクニックの一つです。例えば、教育分野ですでに3割のシェアを持っている大企業であれば、教育市場に新しいサービスを投入する場合、そのサービスによって想定される市場の3割獲得を目指すというと、相手はすでに実績があるので、その数字くらいは取れるという自信もあり、納得感が生まれます。そこで少なすぎるシェアを提示したり、高すぎるシェアを目標に掲げてしまうと、説得力が低下してしまいます。

大企業向けに納得されやすい資料の作り方

大企業向けの事業計画書や提案書で、通りやすい資料の作り方の裏技を1つご紹介します。

それは相手企業内での資料の体裁を真似ることです。

大企業によって、資料の体裁は意外とバラエティーがあります。とにかくシンプルで文字だけの資料を好むところから、やたらと装飾を入れて派手に資料が多い会社、あるいは1ページ以内にとにかく文字を詰め込んで隙間のない資料を好むなどです。

創業者や社長が高齢で現役の場合、あるいは大会場でスライド投影でプレゼンする場合、あまり細かい字は読みづらいことから、サイズや文字数に指定があることもあります。文字の級数は20ポイント以上にして、1行20文字×10行= 1ページに入れられる文字数は200文字以内――というような暗黙ルールが存在した企業もありました。

つまり、まずは相手先の役員会議などに提出される企画書、特に決済や稟議を取るための重要な資料の体裁を真似るという作戦です。相手が普段から慣れている資料の体裁にすることで、読解しやすく安心感も与えられます。

実際に私もこの方法でとある新規事業を立ち上げて、この作戦で業界最大手のクラアントを獲得したことがあります。そのときはどうしても契約が取りたかったので、相手に会社に何度も通い、資料もたくさん見せてもらい、最後は頼み込んで経営会議で決裁にかけられる資料の作り方を教えてもらいました。

相手にとっては、私の事業に共感し上長の同意を得たいと思ってくださったのでしょう。機密情報に抵触しないギリギリのところまで教えてくれたのですが、そこは事前に熱意・情熱をもって共感を引き出すしかありません。

また、裏技の裏技ですが、大企業のよっては特定の経営コンサルティング会社と付き合いが深い場合もあります。そのときは、コンサルティング会社特有の資料の作り方があるので、それを調べて真似する方法もあります。

面白いことに、マッキンゼーやボスコン、アクセンチュアなどコンサル会社によって、資料の体裁に特徴があるものです。ターゲットとなるコンサル会社出身の方がいれば会議やセミナーでその人のプレゼンを聞く機会をつくる、あるいはそのコンサル会社出身の方の書籍を参考にするのも良いでしょう。

資料作りのテクニックとして『マッキンゼー流図解の技術』という有名な本なども参考になります。

大企業への提案で、よくある質問とその返し方

大企業向けに提案する場に、自分も参加してプレゼンできるとすれば、相手から想定される質問に対しても準備しておくべきです。

よくある質問1) 売上げ計画の実現性

例えば、売上計画に対して、それを実現するための施策などを突っ込まれて聞かれることも多いので、そのときは売上計画にプロモーション計画なども併記しておきましょう。

もちろん、本編では全体が10ページ程度となりますので細かく記載する必要はなく概要だけで十分です。例えば、最初はイノベーターを取るために専門メディアや業界で有名な方のブログなどへの露出を重ねて感度の高い人達の間から話題づくりを行い、次のアーリーアダプター層にリーチするためにSNSなどの媒体への露出を進めていく…といった程度です。個別のプロモーション施策の進め方や詳細については、参考資料にまとめておき、本編からは索引をつけてすぐ参照できるようにしておけば、慌てず質問対応ができます。

よくある質問2) 競合への対抗策

競合についてもよく質問されます。

すでに競合がいる場合は、まだ市場拡大の余地が大きいことを示して、
●まず二番手を目指す。二番手でも十分事業性がある。
●競合がまだ解決していない課題、ニーズに対応した対抗策・改善策を打ち出す。
●競合が取れていないニッチ層から狙う。
など、いろいろな対応策があります。

あるいは競合が出てきたらどうするかという質問に対しては、
「まだ誰も参入していない今こそ、先行投資すべきでしょう。」と切り返せます。

競合が出てくるということは有望市場であることの証左です。先行者優位というのは大きなアドバンテージですから、こうした質問はむしろ有難いといえます。

一番まずいのは、すでに競合がいることを知りながら隠すことです。相手方にその業界に詳しい方、あるいは調べればすぐにわかることであれば、それを隠すことは不信感をもたれてしまいます。

競合がいるにもかかわらずそれを調べもしないで提案している、あるいは知っていてあえて言及しないというのは、女性向けサービスを男性ばかりの場でプレゼンするなど、聞き手が事業のマーケットについて詳しくないがどうしても投資を引き出したいような場合に散見されます。そこで仮に聞き手が投資判断をしてしまっても、事業が軌道に乗らず結果的にマイナスにしかなりません。現時点で競合がいるかどうか、いるとすればどのような状況か。あるいは過去に似たような事業を、他社がチャレンジしていたが失敗していた、という情報があれば参考資料にかならず盛り込んでおきましょう。競合との差別化や住み分け、他社の失敗の理由なども事前に研究し、質問には的確な回答ができるようにしておきたいものです。

質問3) 市場規模の妥当性

市場規模の妥当性についての質問、指摘も多い質問です。

算定方法はいろいろありますが、最もシンプルでわかりやすいのが、想定される顧客数×単価という計算式です。

国内に100万人の顧客が見込まれて、年間10万円を支出するとすれば、市場規模は1000億円ということになります。想定顧客の数字が市場データで見つからない場合は、類似市場の数字を持ってきます。例えば、ある病気の治療薬の市場規模が500億円だった場合、まったく新しいアプローチでの治療薬の開発に成功して市場参入するとすれば、その500億円の既存市場を取り崩しに行くということになります。

また、市場規模を算定する際の根拠となる基礎資料として、総務省や厚労省、経産省などの国家機関や行政が公開している調査資料からあたるのがベストです。ついで野村総研や日本総研などのシンクタンク、大学などの研究機関、日経や読売といった大メディア、東洋経済やダイヤモンドなどのメジャー経済誌などに出ているデータを論拠にしましょう。あまり知られていない雑誌やメディアの数字を使うと、そのメディアについての説明に時間を取られ説得力を持たせにくくなってしまうからです。数字になんら根拠を示さず「私がこう思うから、顧客はだいたいこのくらいいる」というのは論外です。そして、使うデータの取り方、アンケートであればサンプル収集方法などが偏っていないかなど、基礎資料は選ぶ前の時点で精査するようにしましょう。

事業計画書や提案書は10回推敲して、プロに見てもらうこと。

事業計画書や提案書を作る際、大体10回は作り直すことを想定しましょう。私がそうした書類を作る際は、まずドラフト版を一日で作ってしまいますが、そこから図説を入れたり表現方法を工夫したり、10回は推敲します。相手が重要であればあるほど推敲回数は増えると考えてください。

ドラフト版であれば一日で10ページは書くことができるかもしれませんが、仕上げと推敲を考慮すると、10ページの資料をそれなりに仕上げるには3~4日はかかると思ってください。さらに参考資料をそろえる時間も確保しましょう。

資料は相手に渡ってから一人歩きします。その資料が自分の分身として、伝えたいことがちゃんと明確になっているか、細かな突っ込みにも耐えられるよう参考資料が整備されているか、とにかく隙がなくなるように推敲しましょう。

資料を事前に誰かに見てもらうことは重要です。それも提案相手のレベルに応じた方に見てもらうべきです。相手は大企業の経営者層で経営のプロですから、事前に見てもらう相手も、経営者や大企業で大きな意思決定をしたことある方がベストです。

逆効果なのが、経営者から遠い人に見せること。意思決定の当事者の視点をもった人でないと、筋違いの意見や細かすぎる指摘などが来たという話をよく聞きますし、それは推敲の際に無駄になってしまうからです。

周囲にプレゼンの練習相手がいない方は、ドリームゲートのアドバイザーに相談して、意見をもらったり面談してもらうと良いでしょう。

最後に

事業計画や企画を提案する機会があれば、その前日からその準備に気持ちを向けしましょう。資料に漏れがないか誤字がないかをチェックするのはもちろん、プレゼン相手を想像して何度も頭の中でシミュレートし、時間内に説明できるかどうか、短時間で要点が伝わるよう予行演習をしてみましょう。緊張しすぎて失敗しないように、前日からコンディションをピークに向けていくつもりで、精神的に余裕ができるくらい準備を徹底しましょう。

ベンチャーや中小企業の経営者、あるいは新規事業の立ち上げ責任者といった方にとって、大企業との提携や取引が決まることは、その事業の成否を左右するといっても過言ではありません。そうした勝負どころ、希少な機会をものにするために、準備する時間は限られていますから、そのなかでやりきったと思えるように、資料に魂がこもるように、ベストを尽くしてください。