社員が辞めない「パワハラ」にならない叱り方

この記事はに専門家 によって監修されました。

「叱るとパワハラだと言われそうで困っている」
「パワハラと指導の境目がわからない」

このように悩んでいる経営者の方は少なくないでしょう。

はじめまして。私は「事業の成功のカギはハラスメント対策」というテーマをもとに、経営者の皆様にハラスメント対策のコンサルティングをしています。また、ハラスメントの被害者のカウンセリング、加害者の個別教育を行っています。

この記事では、部下がイキイキと働き、叱っても辞めない指導法について説明します。

パワハラ対策は事業拡大につながる

2022年4月からいわゆる「パワーハラスメント(以下、パワハラ)防止法」に基づき中小事業主にも防止措置が義務化されました。

パワハラとは、職場において行われる

  • 優越的な関係を背景とした言動であって、
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  • 労働者の就業環境が害されるものであり、

上記の全て満たすものを言います。

厚生労働省の調査結果によるとパワハラの被害を受けると、「怒りや不満、不安などを感じた」(70.6%)「仕事に対する意欲が減退した」(62.0%)「職場でのコミュニケーションが減った」(36.8%)等の影響が出ます。また、「眠れなくなった」(23.1%)「通院したり服薬をした」(9.8%)「会社を休むことが増えた」(9.4%)「入院した」(1.1%)と、メンタルの不調になり、離職につながり、時には訴訟にまで発展しかねないリスクを抱えていることがわかります。

しかし、ハラスメント対策を進めると、ハラスメントの予防・以外の効果として、「職場のコミュニケーションが活発化する/風通しが良くなる」(35.9%)「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」(32.4%)「会社への信頼感が高まる」(31.9%)「生産性が高まる」(13.3%)等という効果が出ています。つまり、ハラスメント対策を進めていくと、リスクを減らすだけではなく、風通しのよい職場が生まれ、生産性向上につながるということです。

一方で、「パワハラと指導の境目がわからない」「叱るとパワハラと言われそうで困っている」というご相談を多くいただきます。事業を継続・発展させていく上では時には指導(叱る)ことも必要です。

そのため、今回は部下がやめない、適切な指導法に焦点を当ててご紹介します。

指導の3ステップ

よく、叱り方だけ学ぶ方がいますが、本来の指導とは3ステップを踏みます。

①聴く ⇒ ②叱る ⇒ ③フォローアップ

まず「①聴く」で事情など、部下の話を聴きます。その後、必要があれば「②叱る」となります。叱りっぱなしの人もいますが、必ず「③フォローアップ」で改善できたことについて褒めます。

今回は②叱るに焦点を当ててご紹介します。

「叱る」は「伝達手段」

そもそも「叱る」とは何でしょうか?ある経営者から「叱るって難しいよね」と言われたことがあります。私からは「叱るとはどういうことだと思いますか」と聞くと「厳しく言うこと」とのことでした。

しかし、「厳しく言うこと=叱る」なのでしょうか。様々な心理学を背景に考えた結論は、「叱る=伝達手段」ということです。今より良くなってほしいから叱るわけです。つまり、どのように今より良くなってほしいのか、伝達する手段なのです。

あなたの「叱る」は部下に伝わるような伝達手段になっているでしょうか。ある企業での出来事をもとに考えてみましょう。

取引先C社からA社長のもとに連絡がありました。部下のBさんがC社に提出した書類に1カ所ミスがあったようです。Aさんは、大事な取引先に迷惑をかけていると感じ、Bさんを捕まえて叱りました。「C社の書類ミスしているぞ!信用を失うだろ!そういえば、こないだは、あなたが作った企画書がわかりづらくて手間かけさせやがって。なんでこんなこともできないかなぁ。全然仕事できないよね。そもそもセンスないんじゃないの。ちゃんとやれよ。皆もあなたの仕事の仕方に疑問を持っているらしいぞ」と舌打ちをしながら大きな声で2時間以上繰り返し叱っていました。Bさんはその後、メンタルヘルス不調になり退職したそうです。

さて、上記のような叱り方は何がいけないのでしょうか?私が経営者の皆様にご紹介しているパワハラにならない叱り方の5つのポイントをもとに見ていきましょう。

パワハラにならない叱り方「あれ、グミか?」

パワハラにならない𠮟り方の合言葉として「あれ、グミか?」を覚えておきましょう。

1、あ・・・I(アイ)メッセージで

2、れ・・・冷静に

3、グ・・・具体的・正確に

4、ミ・・・短く一つだけ

5、か・・・変えられることに焦点を当てる

「あ」・・・I(アイ)メッセージで

I(アイ)メッセージとは、心理療法の一つである行動療法から生まれたといわれる、相手が受け取りやすいメッセージのことです。

自分を主語にしてメッセージを伝えます。例えば、「(私は)~してほしい」「(私は)~が心配だよ」ということです。自分の考え・感情を提案している印象があり、攻撃性が弱まり、相手は受け取りやすいと言われます。

一方、事例の「(あなたは)なんでこんなこともできないのかなぁ」という叱り方は、相手を主語にしたYOU(ユウ)メッセージと言います。相手に対し「攻撃的」な印象を与えるメッセージになります。その結果、相手の防衛本能が働き、思考停止になりがちです。防衛本能とは、自分を守る本能のことです。

特に「なぜ」と問い詰められると、自分を守るために、言い訳をしたり、逆切れをしたり、叱ってきた相手を避けるようになります。また、「全然~ない」等の全否定はYOUメッセージの中でも最悪です。すべてを否定し、信頼関係も壊れてしまいます。更にA社長は「皆も」と主語を他人にしています。

経営者としては主語を自分にしないと無責任な印象を与えかねません。「皆も」と言ってしまうと、叱られた側が周囲との人間関係を作ることが怖くなってしまいます。

「れ」・・・冷静に

多くのパワハラ事例を見ると、大声で怒っていたり、感情をぶつけているケースが目立ちます。

感情に支配されないような方法も多くの心理学で紹介されていますが、私がよくアドバイスをするのが簡易式マインドフルネスです。マインドフルネスとは、自分の身体や呼吸に意識を集中することです。「ドキドキしている」「呼吸が浅くなっている」ということを感じるだけでも感情に振り回されず落ち着くことができます。

興奮している時は交感神経が働いています。リラックスすると副交感神経が働きますので、自分なりの気分転換法を持っておくことも大切です。また、冷静になるために、一旦思っていることを紙に書いてみましょう。

今回の事例では舌打ちをする、大きな声とあるように、冷静さを失っていると思います。他にも机を叩く、書類を投げつける、「だから!」と相手の言葉をかぶせて伝える等も冷静さを失っている証です。自分が冷静さを失う時にはどんな言動を発してしまうのか振り返っておきましょう。

「グ」・・・具体的に

メッセージが具体的ではないからすぐにパワハラになるというわけではありません。ただし、具体的ではないと相手と齟齬が生じ、上手くいかず余計にイライラすることがあります。

「わかりづらい」とは何がどうわかりづらいのでしょうか?「ちゃんとやれ」とは何をどうしろということなのでしょうか?叱られたBさんはわかりません。しかし、怖いので「わかりました」と言ってしまいます。その結果、また上手くいかなくなってしまいます。部下もあなたも違う人間です。具体的に叱らないと部下には伝わりません。

「ミ」・・・短く一つだけ

多くのパワハラ事例を見ると、繰り返し・継続的に行われています。そのため、1時間も2時間も長時間叱らず、短い時間で叱ることを心がけましょう。

私は10分以内に収まるように叱ることをお勧めしています。また、誰もが叱られたいと思い仕事をしているわけではありません。そのため、叱られると部下は一瞬思考停止になります。叱られるという想定外のことが起きるので、部下はすぐに受け止められません。

そんな中、「あ、そういえばあの時も~」「それからあの件でも~」と複数叱られてしまうとますます混乱し、改善の可能性を下げてしまいます。

「か」・・・変えられることに焦点を当てる

パワハラの事例をみると、変えられないことに焦点を当てて叱っていることが目立ちます。例えば、性格・性別・人格・経歴・出身などです。

「根暗な性格だからアポ取れないんだよ」「(前職について)あの会社出身なの?あの会社の人って使えないよね」今回の事例の「センスない」もまさにそうです。また「男のクセに」というような性別による役割分担意識に基づく発言は、セクシュアルハラスメントになる可能性も高く、絶対にやめましょう。

変えられるものとは、相手の言動です。今回の事例であれば、「書類のミスがあるので、もう一度確認してほしい」「次ミスが起きないような対策を考えて報告するように」等、具体的にBさんの変えてほしい言動を示してください。

手段はできるだけ口頭で

心理学の様々な実験では表情や態度、声などの非言語メッセージがコミュニケーションに大きな影響を与えることがわかっています。そのため、メールなど限られた言語メッセージだけで叱ると、必要以上に厳しく受け取る、思っている以上に軽く受け止めてしまう可能性があります。ただ、どうしてもメール等で叱らないといけない場面があるのであれば、後でフォローの電話をする、会って改めて話すということは心がけましょう。

日頃から心がけておきたいこと

経営者の皆様から「パワハラと言われるのが面倒だからコミュニケーションはあまりとらないようにしている」「コミュニケーションを取っている暇がない」と言われることがあります。

しかし、厚生労働省の調査によるとパワハラがある職場の特徴第1位は「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」職場です(37.3%)。コミュニケーションはパワハラ防止だけではなく、職場の人間関係をよりよくし生産性を高める効果もあります。日頃からどのようなコミュニケーションを取るとよいのかまたの機会にご紹介します。

困っていたらご相談を

ここまで述べてきたように、パワハラを起こすと人が離れ、事業が立ち行かなくなります。一方で、指導が必要な場面を放置していると事業の成長につながりません。そのため、今回ご紹介した「あ・れ・グ・ミ・か?」を参考に、起業後から部下がやめず事業の拡大につながるような叱り方を身に付けましょう。もしあなたが、部下の指導について困っているようでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

 

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 宮本 剛志(みやもと つよし)

(株)メンタル・リンク代表取締役。公認心理師、産業カウンセラーとして心理学をベースにしたハラスメント対策のコンサルティングを行っている宮本アドバイザー。事業を成功に導くための社員とのコミュニケーションを経営者に伝えています。深い知識と経験に加え、温厚なお人柄で経営者に寄り添ってサポートしてくれます。著書:こんなの理不尽!怒る上司のトリセツ(時事通信社)・「怒り」とうまくつき合うーアンガーマネジメント入門(SMBC経営懇話会)

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