家賃83万円以下の事業者は消費税2倍⁉賃貸借契約におけるインボイスの落とし穴

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 井出 龍治

2023年10月から始まるインボイス制度。

2つの条件が重なると、あなたは消費税を「2倍」負担することになる可能性があることをご存知ですか?

みなさん、こんにちは。ドリームゲート(以下、DG)アドバイザーの井出龍治(いでりゅうじ)と申します。簡単に自己紹介をさせてください。

https://profile.dreamgate.gr.jp/consul/pro/orie2013

DG内では不動産&多店舗化支援部会の部会長を務めております。私は不動産会社とコンサル会社を経営し、父が設計事務所を経営しています。

物件探しから店舗・事務所工事までをワンストップで行えます。

私自身、不動産会社とは別に飲食店を4店舗経営しています。また、不動産を所有し賃貸業も営んでいます。ですので、借りる側・貸す側の立場に立って不動産管理や実務的なアドバイスができるのが強みです。

では、早速本題に入りたいと思います。

※より実務に沿った内容をみなさまに分かりやすくお伝えするため、法律とは異なった用語、見解やアドバイス、詳細の省略、業界内では使わない言い回し等があるかもしれませんがご理解いただきたく思います。

インボイス制度と家賃の関係

まず、インボイス制度と家賃の関係についてご説明させていただきます。(インボイス制度そのものについては、様々なサイトで解説されていますので省略させていただきます。)

事業用物件の場合、家賃に消費税が加算(課税)されます。

賃貸借契約書をご確認いただくと、「賃料」と「消費税等(10%)」という記述があるはずです。

仮に家賃が10万円の場合、消費税額は1万円です。

この店舗で20万円(税別)の売上があったとします。消費税を含めてお客様から受け取る総額は22万円(税込)です。

この場合は、すでに家賃とともに支払った消費税1万円を、お客様から預かった消費税2万円から差し引くことができます。結果、消費税の納税額は1万円となります。

今までは、貸主が課税事業者であっても免税事業者であっても、上記の計算で納税できたので問題ありませんでした。

しかし、インボイス制度では「免税事業者に支払った消費税相当額は仕入税額控除ができない」という問題があります。

これに対し、「じゃあ、消費税の分を支払わなければいいじゃない?」と思われるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。

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借主の負担が増える条件

結論からお伝えします。以下の二つの条件が重なると、借主は家賃の消費税の負担が今までの2倍になります。

  1. 貸主が免税事業者である。(事業収入1,000万円未満であり課税事業者登録をしない)
  2. 賃貸借契約書の変更に応じない。

まず、1についてお話しします。

一般的には「不動産のオーナーで年商(総売上高)が1,000万円に満たない人っているの?」という感覚はあるかもしれません。統計上はわかりませんが、不動産業を営む私の肌感覚ではかなりいらっしゃると思います。

  • 相続で得た戸建てを事業用(カフェや事務所)として貸している方。
  • ワンフロア賃料20万円×3階建ての事業ビルオーナー。
  • 都内の区分所有マンションを投資で購入し、SOHOオフィスとして貸し出している方。

そしてなぜ免税事業者を選ぶのかというと、「納税義務がない」からです。

免税事業者は、本来納めるべき消費税を利益とすることができます。

売上1,000万円未満という条件ですので、年間で最大100万円ほどの金額を納税せずに利益とすることができます。

次に2について説明します。

賃貸借契約書には、

借主は、貸主に対し、賃料・共益費その他本契約に基づき借主が貸主に支払うべきもの(以下「賃料等」といいます。)で、消費税および地方消費税(以下「消費税等」といいます。)が課されるものについては、当該支払額に法定の消費税等を加算して支払うものとします。ただし、本契約の存続期間中に消費税率が変更された場合、変更後の消費税率に従った賃料等を支払うものとします。

 

という記述があります。

簡単に説明すると、

  • 借主は貸主に対し、家賃に消費税を付加した金額を支払う。
  • 消費税が変更された場合、支払い総額も変更する。

ということです。

この条文を貸主・借主双方で合意して、「賃料に消費税を付加しない」とできればいいのですが、貸主は今まで得ていた利益を一方的に放棄することになるため応じるかどうかはわかりません。

この二つの条件が重なり、インボイス制度が摘要されるとどうなるか…

借主は消費税相当額を貸主に支払っているにも関わらず、仕入税額控除ができないために、同じ金額を行政に支払うことになります。

「税金が2倍になる」というと語弊があるかもしれませんが、借主の負担が2倍になるということに変わりありません。

この記事の「家賃83万円以下の事業者は消費税2倍⁉」というタイトルは、年に1,000万円未満の家賃収入があるオーナーから賃貸している場合に、納付する消費税が2倍になる可能性がある、ということを意味します。

インボイス制度の解説サイトなどでは、「免税事業者のままだと売上が減る可能性がある」などという記述があります。

しかし、それは「取引先として選択される立場にある業者」に限った話です。すでに賃貸借契約書が成されている貸主に対しては、何のデメリットもありません。

不動産の場合…特に事業物件においては、

  • 立地が売上を左右する大きな要素である。
  • 工事費用など多額の先行投資が発生している。

ことなどから、容易に場所(取引先)を変更することはできません。

これらの問題点について、国税庁に問合せました。

国税庁の見解

本件に対して、国税庁のコールセンターに問合せました。

その回答は、「想定していない」「特段の対応を考えていない」というものであり、あまりに無責任ではないかと私は感じました。

そもそもの問題点は、制度設計にあります。

  • 課税事業者の選択が任意(一定の条件)である。
  • 取引先を自由に選べるという前提で制度が構築されている。
  • 免税事業者が請求額に消費税を付加して請求することが禁止されていない。
  • 契約内容はお互いの話し合いで解決してくれという行政のスタンス。
  • 新しい制度なので、判例がない。

救済処置に関しても確認しましたが、「経過措置がある」という一方的なもので、根本的な解決にはなりません。

  • 経過措置:支払い相手が免税事業者であっても、仕入税額控除を一定の割合で認めるというもの。段階的に行われ、80%・50%・0%となる。
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今後の対策等

現在、具体的(法的)な対策というのがありません。

まず、できる限り早い段階で不動産会社に消費税の取り扱いについて確認を取りましょう。

貸主が免税事業者かつ契約内容の変更をしない場合、話し合いの場を設けてもらえるよう伝えましょう。

以前、軽減税率や2020年の民法大改正があった時は、「通達」という形で一定の指針が示されました。これらは、施行の直前に公開されました。こういったものがない限り、今後多くのトラブルが発生するものと思われます。

行政が動かない場合、今後のためにも一度裁判を起こし判例を作るべきだと思います。

免税事業者である貸主に対し、不払いを宣言。消費税を含まない賃料を供託。そのうえで、貸主に対し消費税の支払い義務がないことの確認を求める裁判です。

もしくは、賃貸借契約書における消費税の条文そのものが無効であるという主張もできるかもしれません。このあたりは、弁護士の先生方に見解をお聞かせいただきたいと思っています。

本来、貸主と借主は共存共栄の関係にあります。今回の法改正で無用なトラブルが発生しないよう、一不動産業者として、注意喚起できればと思っています。

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執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 井出 龍治 オリエ不動産グループ代表 / 宅地建物取引士

2014年、オリエ不動産を設立。「借主のメリットに特化した不動産業」として埼玉県から創業促進支援事業として認定される。出店業務のアウトソーシングという新たな分野で、業務委託や顧問契約を中心に活動範囲を拡大。
多くの賛同者と共に、クリーンな不動産業界を目指し活動中。

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ドリームゲートアドバイザー 井出 龍治氏

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