スタートアップでは、プロダクト開発や人材採用などに先行して資金が必要になるため、創業初期の資金調達が重要です。その選択肢のひとつに、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」があります。
ただし、スタートアップであれば無条件に融資を受けられるわけではありません。資金使途や事業計画、返済可能性を具体的に説明する必要があります。本記事では、制度の対象者や審査で見られるポイント、効果的な活用方法を解説します。
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- 目次 -
1.日本政策金融公庫のスタートアップ支援資金とは?
日本政策金融公庫の国民生活事業では、創業者や事業開始後間もない事業者を対象とした「新規開業・スタートアップ支援資金」を取り扱っています。まずは対象者や資金使途など、制度の基本を確認しておきましょう。
情報出典:日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html
1)新規開業・スタートアップ支援資金の概要
新規開業・スタートアップ支援資金は、これから事業をはじめる方や事業開始後間もない方が、必要な事業資金を調達するために利用を検討できる融資制度です。
2026年9月時点の融資限度額は7,200万円で、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内となっています。いずれも据置期間は5年以内です。
ただし、融資限度額まで借りられるという意味ではありません。じっさいの融資額は事業計画や必要資金などを踏まえた審査によって決まるため、自社に必要な金額を積み上げて申込むことが重要です。
2)対象になる人
対象となるのは、新たに事業をはじめる方、または事業開始後おおむね7年以内の方です。
さらに、適正な事業計画を策定しており、その計画を遂行する能力が十分あると認められることを要件としています。そのため、「スタートアップを設立した」という事実だけで利用できる制度ではありません。
創業計画書などを通じて、どのような事業をおこない、どう成長させるのかを説明する必要があります。利用条件や利率などは変更される可能性があるため、申込時には最新情報を確認しましょう。
3)資金使途
対象となるのは、新たに事業をはじめるため、または事業開始後に必要となる設備資金と運転資金です。
スタートアップであれば、事業内容に応じて機械や備品などの設備、人件費、仕入れなど、事業に必要な支出が考えられます。研究開発型の事業では、試作品の製作や開発環境の整備などに資金が必要になることもあるでしょう。
重要なのは、単に「500万円必要」と示すのではなく、何にいくら使い、その投資が事業の成長にどうつながるのかを整理することです。
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2.スタートアップが日本政策金融公庫を利用するメリット
スタートアップの資金調達には、自己資金や出資など複数の選択肢があります。そのなかで日本政策金融公庫の融資を活用するメリットを確認しましょう。
情報出典:日本政策金融公庫「創業支援」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/promotion/
1)創業初期でも相談しやすい
一般的な融資では、過去の決算実績や現在の収益力が判断材料になります。しかし、これから創業する場合には過去の決算実績そのものがありません。また、創業直後で十分な売上が立っていないことも珍しくありません。
日本政策金融公庫では創業者を対象とした融資制度を用意しているため、実績の少ない段階でも事業計画などをもとに相談できます。
もちろん、実績がないことを理由に審査がなくなるわけではありません。創業者の経験や事業内容、販売計画など、事業の将来性を判断するための材料を準備することが大切です。
2)株式の希薄化を避けられる
新株発行により、VCなどから出資を受けると、創業者や既存株主の持株比率は低下します。一方、日本政策金融公庫からの融資は株式発行による資金調達ではないため、通常は株式を渡す必要がありません。
創業者の持株比率を維持しながら事業資金を確保したい場合には、融資を資金調達の一部に組み込む方法があります。
ただし、出資には原則として返済義務がないのに対し、融資には返済が必要です。株式の希薄化だけで判断せず、将来のキャッシュフローまで考えて選択しましょう。
3)次の成長イベントまでの資金を確保しやすい
スタートアップでは、事業開始と同時に十分な売上を得られるとは限りません。プロダクトを開発し、顧客の反応を確認して改善を重ね、売上につなげるまでには一定の期間が必要です。
その間の開発費や人件費などを融資で確保できれば、手元資金だけに依存せず事業を進められます。
「資金不足だから借りる」と考えるのではなく、「この資金によってプロダクト完成まで進める」「初期顧客を獲得する」など、次の成長イベントを設定して活用することがポイントです。
3.スタートアップ支援資金の審査で見られるポイント
融資を受けるためには、日本政策金融公庫による審査があります。スタートアップの場合も、事業の成長性だけではなく、事業計画や資金使途、返済可能性などを具体的に示すことが重要です。
情報出典:日本政策金融公庫「START スタートアップの創業のポイント」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/sougyou-point/202603/index.html
1)事業内容と収益モデル
まず整理したいのは、「何を、誰に、どのように提供し、どこから収益を得るのか」というビジネスモデルです。
革新的なサービスであっても、「市場が成長している」「将来普及するはず」といった説明だけでは、事業の実現性を十分に伝えられません。
ターゲットとなる顧客、商品・サービスの価格、販売方法、競合とのちがい、収益化までの期間などを具体化しましょう。スタートアップの場合には、事業仮説をどのように検証し、顧客獲得へつなげるのかという流れも重要になります。
2)資金使途の妥当性
融資を申込む際には、借入金を何に使うのか明確にする必要があります。
たとえば、プロダクト開発に300万円、人材採用後の人件費に200万円、広告宣伝に100万円といった形で、必要額を積み上げていきます。設備を購入する場合には、見積書など金額の根拠となる資料も準備するとよいでしょう。
さらに、「広告費100万円を使う」という支出だけでなく、それによって何件の顧客獲得を目指すのかまで整理すれば、事業計画と資金使途を結び付けやすくなります。
3)返済原資
スタートアップ向けの制度であっても、融資である以上は返済が必要です。そのため、将来どのように返済していくのかを説明しなければなりません。
基本となるのは事業から生み出すキャッシュフローです。現在の売上だけでなく、既存顧客との契約、商談状況、受注見込みなど、今後の収益を裏付ける材料を整理しましょう。
補助金や今後の資金調達を予定している場合も、入金時期がずれる可能性を考慮する必要があります。予定どおりに進まないケースまで想定した資金繰りをつくることが大切です。
4)創業者・チームの実行力
創業期は事業実績が少ないため、「この計画を誰が実行するのか」も重要な要素になります。
創業する業界での勤務経験、商品開発や営業の経験、専門資格など、事業を実現するための能力を整理しましょう。複数人で創業する場合には、それぞれの役割や専門性を説明します。
不足する能力を外部の専門家やパートナーで補うのであれば、その体制も計画に盛り込むとよいでしょう。アイデアの魅力だけでなく、じっさいに事業を進められる準備があることを示す必要があります。
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4.VC出資・ベンチャーデットとのちがい
スタートアップの資金調達では、日本政策金融公庫からの融資だけでなく、VC出資やベンチャーデットなども選択肢になります。それぞれ性質が異なるため、「どれが有利か」ではなく、事業フェーズや資金の目的に応じて使い分けることが重要です。
情報出典:みずほ銀行「資金調達とは?主な3つの方法とそれぞれの特徴」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_14.html
1)VC出資とのちがい
VC出資は、株式発行の対価として投資家から資金提供を受ける資金調達方法です。融資とは異なり、原則として調達した資金を毎月返済する必要はありません。
一方、新株を発行すれば創業者などの持株比率は低下します。投資契約の内容などによっては、投資家が経営上の重要事項に関与することもあるでしょう。
日本政策金融公庫の融資は株式を渡さずに資金を確保できる一方、元本や利息を返済する必要があります。このちがいを踏まえ、資本政策と資金繰りの両面から検討することが大切です。
2)ベンチャーデットとのちがい
ベンチャーデットも、スタートアップが利用する借入型の資金調達です。ただし、日本政策金融公庫の融資とは提供する金融機関や商品設計、審査の考え方などが異なります。
ベンチャーデットでは、企業の成長性や将来の資金調達計画などを踏まえて資金が提供される場合があり、新株予約権などを組み合わせる商品もあります。
同じ「借入れ」として一括りにせず、金利や返済条件だけでなく、利用条件や契約内容まで比較することが重要です。
情報出典:みずほ銀行「ベンチャーデットとは?」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_137.html
3)どれかひとつではなく組み合わせて考える
資金調達方法は、ひとつに限定する必要はありません。自己資金と日本公庫の融資で事業を開始し、事業仮説を検証した後にVCから出資を受けるなど、事業フェーズに応じて組み合わせる方法があります。
補助金を活用できる場合でも、入金までの期間を考慮して別の資金を準備するケースがあるでしょう。
大切なのは、それぞれの資金について「何のために、いつ使うのか」を決めることです。返済が必要な資金と返済不要の資金を組み合わせ、事業の成長と財務の安定性を両立させましょう。
5.スタートアップ支援資金を申込む前に準備すべきこと
融資の申込みを考えはじめたら、すぐに希望額を決めるのではなく、事業計画と資金繰りを具体化することが重要です。とくにスタートアップでは、現在の実績だけでなく、事業仮説をどのように検証して収益化するのかを整理しておきましょう。
情報出典:日本政策金融公庫「創業支援」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/promotion/
1)事業計画書の作成
事業計画書には、商品・サービスの内容、ターゲット顧客、販売方法、競合との差別化、必要資金、売上予測などを記載します。
スタートアップの場合は、完成後の事業だけを説明するのではなく、現在どの段階にあり、これから何を検証するのかも整理するとよいでしょう。
たとえば「3カ月でMVPを完成させる」「6カ月以内に有料顧客50社を獲得する」といった目標を設定すれば、融資によって何を実現したいのか明確になります。
2)資金繰り表の作成
利益が出る計画でも、入金より先に支払いが発生すれば資金不足になる可能性があります。そのため、月単位で現金の動きを確認できる資金繰り表を作成しましょう。
開発期間中の人件費や外注費、サービス開始後の広告費などを月ごとに反映し、売上の入金時期も設定します。
さらに、開発が予定より遅れた場合や顧客獲得が進まなかった場合も試算しておけば、必要な運転資金を判断しやすくなります。
3)売上予測の根拠を示す
創業計画でとくに注意したいのが、売上を希望的な数字にしないことです。
「市場規模が大きいから月商500万円を目指せる」という説明ではなく、顧客単価、顧客数、契約率などに分解して算出します。
すでにPoCをおこなっている場合はその結果、商談中の顧客がいる場合は進捗状況、サービスを公開しているならユーザー数なども判断材料になるでしょう。数字とじっさいの活動を結び付けることで、売上予測の説得力を高められます。
4)上野光夫氏の解説動画も参考にする
スタートアップの融資や事業計画について理解を深めたい場合には、元日本政策金融公庫の融資課長で中小企業診断士の上野光夫氏によるYouTube動画も参考になります。
日本政策金融公庫の「スタートアップの創業ポイント」も上野氏が執筆しており、スタートアップ特有の事業計画や資金調達について解説されています。
重要なのは、融資を受けることじたいを目的にしないことです。借入れによって確保した資金と時間を使い、どの仮説を検証し、次の成長段階へ進むのかという視点で事業計画をつくりましょう。
6.スタートアップ支援資金を活用するときの注意点
融資を受けられれば手元資金は増えますが、同時に将来の返済も発生します。資金調達額だけに注目せず、借入後のキャッシュフローまで考えて利用することが重要です。
情報出典:日本政策金融公庫「Q&A|START 政策金融公庫の創業支援」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/faq/
1)借りられる金額ではなく必要な金額で考える
融資限度額が大きくても、その金額を目標に申込む必要はありません。まず事業計画から必要資金を積み上げ、自己資金などで賄える部分を差し引いたうえで借入希望額を決めます。
借入額をおさえすぎると、事業が軌道に乗る前に資金不足になる可能性があります。一方、必要以上に借りれば返済額や利息負担が増えます。
資金ショートを避けるための余裕を確保しつつ、無理なく返済できる金額を設定しましょう。
2)返済開始後のキャッシュフローを見る
2026年9月時点における日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金では、設備資金、運転資金ともに据置期間を5年以内で設定できる制度になっています。
ただし、じっさいの返済条件は審査などによって決まります。据置期間中も利息の支払いが必要になるため、「据置期間があるから資金繰りを考えなくてよい」というわけではありません。
売上の立ち上がりが予定より3カ月、6カ月と遅れた場合も想定し、返済開始後に十分な現金が残るかシミュレーションしましょう。
3)資金使途を広げすぎない
調達資金で「あれもこれも実施したい」と考えると、何のための借入れなのかが曖昧になりがちです。
たとえば、開発、採用、広告のすべてへ資金を分散するより、到達したい成長イベントを設定すると資金使途を整理しやすくなります。
日本公庫の融資を単なる不足資金の補填と考えず、現在の事業フェーズから一段階先へ進むために活用することが大切です。
7.ドリームゲートアドバイザーに相談する
日本政策金融公庫のスタートアップ支援資金を検討するときは、制度の対象になるかだけでなく、事業計画や資金使途、返済計画を整理する必要があります。
とくに創業直後は、自分では妥当だと思っている売上予測や必要資金でも、第三者から見ると根拠が不足している場合があります。判断に迷ったときは、資金調達にくわしいドリームゲートアドバイザーへ相談する方法もあります。
1)上野 光夫(うえの みつお)
上野光夫氏は、元日本政策金融公庫の融資課長で、長年にわたり中小企業や創業者への融資審査に携わった経験を持つ中小企業診断士です。
日本政策金融公庫への融資申込みを検討しており、事業計画や資金計画を融資審査の視点から確認したい場合に相談しやすいでしょう。
相談ページ:
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2)中野 裕哲(なかの ひろあき)
中野裕哲氏は、資金調達や新規創業者向け融資、助成金・補助金、事業計画書作成、会社設立など、創業時に必要となる幅広い分野の相談に対応しています。
融資だけを個別に考えるのではなく、会社設立や創業後の事業運営を含めて準備したい場合の相談先として検討できます。
相談ページ:
https://profile.dreamgate.gr.jp/consul/pro/vspirits
3)加賀谷 豪(かがや ごう)
加賀谷豪氏は、創業支援や事業計画書作成、事業者向け融資などに対応しています。
創業時の資金調達だけでなく、事業の成長段階を見据えて計画を整理したい場合には、事業計画と資金調達を一体として相談する方法があります。
相談ページ:
https://profile.dreamgate.gr.jp/consul/pro/pyxisak
8.よくある質問
最後に、日本政策金融公庫のスタートアップ支援資金について、創業者が疑問を持ちやすいポイントを確認します。じっさいの融資可否や条件は個別の審査によって決まるため、申込時には最新の制度内容も確認しましょう。
1)スタートアップでも日本政策金融公庫から融資を受けられますか?
スタートアップも、新規開業・スタートアップ支援資金の対象条件を満たしていれば申込むことができます。
ただし、スタートアップであることだけを理由に融資を受けられるわけではありません。日本政策金融公庫は創業計画書などによって事業計画を確認したうえで審査します。
事業内容や必要資金、売上見通し、返済計画などを具体的に説明できるよう準備しておきましょう。
2)赤字のスタートアップでも利用できますか?
赤字であることだけを理由に、必ず利用できないとは限りません。スタートアップでは、プロダクト開発や人材採用などの先行投資によって、創業初期に赤字となるケースもあります。
ただし、融資である以上は返済が必要です。なぜ赤字になっているのか、調達した資金によって事業をどう成長させるのか、どのように返済していくのかを整理する必要があります。
3)VC出資と日本公庫の融資は併用できますか?
VC出資と日本政策金融公庫の融資は性質の異なる資金調達であり、状況に応じて組み合わせて資金計画を立てることが考えられます。
たとえば、日本公庫の融資をプロダクト開発などに活用し、事業仮説を検証した後にエクイティ調達を目指す方法もあるでしょう。
重要なのは、出資と融資を別々に考えないことです。今後必要になる資金額や調達時期、株式の希薄化、借入金の返済を含め、全体の資金計画として整理しましょう。
9.まとめ|スタートアップ支援資金は、次の成長段階まで到達するための資金設計
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、これから事業をはじめる方や事業開始後おおむね7年以内の方が、設備資金や運転資金を調達する手段として検討できます。
ただし、融資である以上は返済義務があります。単に「手元資金が足りないから借りる」と考えるのではなく、その資金によって何を実現するのかを明確にすることが重要です。
たとえば、プロダクト完成、PoCの実施、初期顧客の獲得、売上の安定化など、次の成長イベントを設定し、そこまでに必要な資金を積み上げてみましょう。そのうえで、事業計画書や資金繰り表を作成し、売上が計画を下回った場合にも返済を続けられるか確認します。
日本政策金融公庫からの融資を「資金不足を埋めるお金」ではなく、創業初期の事業仮説を検証し、次の成長段階へ到達するための資金として設計することがポイントです。必要に応じて専門家の意見も取り入れながら、事業の成長と返済可能性を両立できる資金計画をつくりましょう。
執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは、経済産業省後援のもと2003年に誕生した日本最大級の起業支援プラットフォームです。起業アイデアの整理から事業計画書作成、資金調達・融資支援まで、実務経験豊富な専門家が起業家一人ひとりの課題に寄り添い、実現までをサポートします。(運営:株式会社プロジェクトニッポン)
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