スタートアップが事業を成長させるためには、プロダクト開発や人材採用、広告などにまとまった資金が必要です。こうした成長資金を確保する方法のひとつとして、近年注目されているのが「ベンチャーデット」です。
ベンチャーデットは、株式の希薄化をおさえながら資金を調達できる一方、融資である以上は返済義務が生じます。本記事では、出資とのちがいやメリット・デメリット、活用するタイミング、検討前に整理しておきたいポイントをわかりやすく解説します。
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- 目次 -
1.ベンチャーデットとは?
ベンチャーデットは、主に成長過程にあるスタートアップやベンチャー企業を対象としたデットファイナンスです。株式による資金調達とは性質が異なるため、まずは基本的なしくみを理解しておきましょう。
情報出典:みずほ銀行「ベンチャーデットとは?資金調達手段としての特徴・メリット・注意点を解説」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_137.html
1)スタートアップ向けの融資型ファイナンス
ベンチャーデットとは、スタートアップが金融機関などから借入れによって資金を調達する方法です。一般的な銀行融資では、現在の利益や財務状況、担保などが重視される傾向がありますが、ベンチャーデットでは企業の将来性や成長可能性なども踏まえて検討されます。
スタートアップは先行投資によって赤字になっている場合も多いため、現在の利益だけでは融資を受けにくいケースがあります。こうした企業に対する資金供給の選択肢となるのがベンチャーデットです。
2)出資ではなく借入れである
ベンチャーデットは、ベンチャーキャピタル(以下、VC)などから株式発行による出資を受けるエクイティファイナンスとは異なります。
基本的には株式を新たに発行しないため、創業者や既存株主の持株比率の希薄化をおさえられることが特徴です。ただし、借入れである以上、契約に基づいて元本や利息を返済しなければなりません。
なお、じっさいの商品によっては新株予約権が組み合わされるなど、条件が異なる場合があります。契約内容を個別に確認することが重要です。
3)成長投資やランウェイ延長に使われる
調達した資金は、プロダクト開発、人材採用、広告宣伝、営業体制の強化など、事業を成長させるための投資に活用できます。
また、スタートアップにとって重要なのが「ランウェイ」の確保です。ランウェイとは、現在保有する資金で事業を継続できる期間を指します。
次のエクイティ調達まで十分な時間がない場合にベンチャーデットを活用し、事業を成長させる時間を確保するという考え方もあります。
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2.ベンチャーデットのメリット
ベンチャーデットには、エクイティファイナンスにはないメリットがあります。とくに、株式の希薄化をおさえながら成長資金を確保できることは、創業者や既存株主にとって大きな特徴です。
情報出典:みずほ銀行「ベンチャーデットとは?」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_137.html
1)株式の希薄化をおさえられる
VCなどから出資を受ける場合、新株を発行すれば創業者や既存株主の持株比率は低下します。複数回の資金調達を予定しているスタートアップでは、ラウンドを重ねるごとに希薄化が進む可能性もあるでしょう。
ベンチャーデットは基本的に借入れによる資金調達であるため、株式発行をおさえながら必要な資金を確保できます。
ただし、新株予約権が付く商品などでは将来的な希薄化が生じる可能性があるため、「ベンチャーデットなら一切株式が希薄化しない」と考えるのではなく、個別条件を確認する必要があります。
2)次回調達までのランウェイを伸ばせる
ベンチャーデットの大きな役割のひとつが、次の資金調達までの時間を確保できることです。
たとえば、6カ月後に重要なプロダクトをリリースできるものの、手元資金が4カ月程度しか残っていない場合、資金不足を避けるために早期のエクイティ調達を迫られる可能性があります。
そこでデットによってランウェイを延長できれば、プロダクトの完成や売上増加など、企業価値向上につながる成果を積み上げてから次の調達に臨める可能性があります。
つまり、ベンチャーデットは単なる資金補充ではなく、「次の成長イベントまでの時間を買う」という視点で活用することが重要です。
3)成長投資を前倒しできる
事業に成長機会があっても、手元資金が不足していれば十分な投資はできません。
たとえば、営業担当者の増員により顧客獲得を加速できる場合や、広告費の追加により売上拡大が見込める場合でも、採用費や人件費、広告費は先に発生します。
ベンチャーデットで資金を確保できれば、こうした投資を前倒しできる可能性があります。重要なのは、借入れによる資金投入が将来の売上や企業価値向上につながるかを事前に検討することです。
4)資本政策の自由度を保ちやすい
スタートアップでは、現在の資金調達だけでなく、将来の資本政策まで考える必要があります。
初期段階で多くの株式を外部へ渡すと、その後の資金調達で創業者の持株比率がさらに低下する可能性があります。ベンチャーデットを適切に組み合わせれば、株式発行のタイミングや規模を調整しやすくなり、将来の選択肢を残すことにつながるでしょう。
3.ベンチャーデットのデメリット
株式の希薄化をおさえられるからといって、ベンチャーデットがエクイティより優れているわけではありません。最大のちがいは、調達後に返済が必要になることです。メリットだけで判断すると、将来の資金繰りを悪化させるおそれがあります。
情報出典:みずほ銀行「ベンチャーデットとは?」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_137.html
1)返済義務がある
エクイティによる出資では、原則として調達した資金を毎月返済する必要はありません。一方、ベンチャーデットは借入れであるため、契約条件にしたがって元本や利息を返済します。
計画どおりに売上が増えなかったとしても、返済義務そのものがなくなるわけではありません。とくに毎月多額のキャッシュを消費している企業では、返済によってランウェイが短くなる可能性があります。
2)金利や手数料が発生する
借入れには金利が設定されるほか、商品や契約によっては手数料などの費用が発生することもあります。
表面的な調達額だけを見るのではなく、返済期間全体でどの程度の資金流出が発生するのかを把握することが大切です。また、新株予約権などが組み合わされている場合には、金利以外の条件も含めて資金調達コストを検討しましょう。
3)財務制限条項が付く場合がある
契約によっては、財務状況などに関するフィナンシャル・コベナンツ(財務制限条項)が設定される場合があります。
たとえば、一定の財務指標や預金残高などを維持する条件が設定されれば、経営上の自由度に影響する可能性があります。条件に抵触した場合に何が起こるのかも含め、契約前に確認することが欠かせません。
金利だけを比較するのではなく、借入期間中に企業側へ課される条件を総合的に確認する必要があります。
4)事業計画の未達が資金繰りに直結する
ベンチャーデットを「半年後の資金調達までつなぐ資金」として借りたにもかかわらず、次回ラウンドが延期されれば、想定より長期間を手元資金で乗り切らなければなりません。
そこへ借入金の返済が重なると、資金繰りはさらにきびしくなります。
そのため、事業計画が予定より遅れたケースも想定し、売上が下振れした場合や次回調達が延期された場合でも、一定期間は資金を維持できるか確認しておくことが重要です。
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4.ベンチャーデットとVC出資のちがい
ベンチャーデットとVC出資には、それぞれ異なる特徴があります。どちらが優れているかではなく、資金調達の目的や企業の成長段階、将来の資本政策に応じて選択することが大切です。
情報出典:みずほ銀行「資金調達とは?主な3つの方法とそれぞれの特徴」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_14.html
1)VC出資は返済義務がないが株式が希薄化する
VCから出資を受ける場合、原則として融資のような元本返済はありません。そのため、まだ安定したキャッシュフローを生み出していないスタートアップでも、大規模な成長投資をおこないやすい点が特徴です。
一方、新株発行によって資金を調達すれば、創業者や既存株主の持株比率は低下します。また、投資契約の内容などによっては、投資家が経営上の重要事項に関与する場合もあります。
2)ベンチャーデットは株式の希薄化をおさえられるが返済が必要
ベンチャーデットでは、基本的に株式発行をともなわず資金を調達できるため、持株比率を維持しやすくなります。
その代わり、元本と利息を返済する必要があり、将来的なキャッシュアウトが発生します。したがって、「株式を渡したくないから借りる」という理由だけでは十分ではありません。
借入れによって確保した時間のなかで何を達成し、その後どのように返済していくのかまで設計する必要があります。
3)エクイティとデットを併用するケースもある
エクイティとデットは、必ずしも二者択一ではありません。
たとえば、エクイティ調達によって一定の資金を確保した後、追加のベンチャーデットによってランウェイを延ばす方法があります。次回ラウンドまでに売上やKPIを伸ばせれば、よりよい状態で投資家との交渉に臨める可能性もあるでしょう。
エクイティで成長の土台をつくり、デットで時間や追加投資余力を確保するなど、それぞれの性質を理解して組み合わせることが重要です。
5.ベンチャーデットが向いている企業・向いていない企業
ベンチャーデットは、すべてのスタートアップに適した資金調達方法ではありません。とくに重要なのは、借入後に事業がどのように成長し、何を返済原資とするのかを具体的に説明できるかという点です。
情報出典:みずほ銀行「ベンチャーデットとは?」
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_137.html
1)向いている企業
一定の売上や成長実績があり、調達した資金を成長投資へ投入することで、さらに事業を拡大できる企業はベンチャーデットを検討しやすいでしょう。
また、次回のエクイティ調達を予定しており、それまでの期間に達成したいKPIが明確な企業にも選択肢となります。
「いつまでに、何に資金を使い、どのような成果を出すのか」が具体化されているほど、ベンチャーデットを戦略的に活用しやすくなります。
2)向いていない企業
売上の見通しが立っておらず、次回調達の予定も不透明な企業は慎重な判断が必要です。
とくに、恒常的な赤字を補填することだけを目的として借入れを続けると、事業が改善しないまま返済負担が増える可能性があります。
赤字であることじたいが直ちに利用できない理由になるわけではありませんが、その赤字が成長投資によるものなのか、事業構造そのものに問題があるのかを区別することが大切です。
3)使うべきタイミング
ベンチャーデットは、調達するタイミングも重要です。
たとえば、プロダクトの開発が進み、追加投資によって売上拡大が期待できる段階や、次回エクイティ調達までにKPIを伸ばしたい時期などが検討場面として考えられます。
一方、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の見通しが立っていない段階では、借入れによる固定的な返済負担がリスクになる場合もあります。現在の事業フェーズだけでなく、返済開始後の資金繰りまで確認しましょう。
6.ベンチャーデットを検討する前に整理すべきこと
ベンチャーデットを戦略的に利用するためには、「借りられるか」だけではなく、「なぜ今借りるのか」を明確にする必要があります。次の資金調達や成長イベントから逆算し、資金使途と返済計画を整理しましょう。
情報出典:経済産業省「スタートアップ・新規事業」/みずほ銀行「ベンチャーデットとは?」
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_137.html
1)何のために借りるのか
最初に明確にしたいのが資金使途です。
「資金が足りないから借りる」のではなく、開発人材の採用、広告投資、新規顧客獲得、プロダクト開発、次回調達までのランウェイ確保など、資金によって何を実現するのかを具体化します。
さらに、その投資によってどのKPIをどこまで伸ばすのかを設定すると、借入れの目的が明確になります。
2)いつ・何で返済するのか
次に、返済原資を確認します。
将来の売上によるキャッシュフローから返済するのか、そのほかの資金調達を含めた財務計画のなかで返済余力を確保するのかによって、必要な計画は変わります。
「事業が成長すれば返せる」という説明だけでは不十分です。売上が計画を下回った場合も想定し、毎月の返済後にどの程度の現預金が残るのかを資金繰り表で確認しておきましょう。
3)エクイティ調達計画との整合性
次回のエクイティ調達を予定している場合は、ベンチャーデットと資本政策を別々に考えないことが重要です。
次回ラウンドの予定時期や必要金額、達成すべきKPIなどを整理し、その時点までランウェイを確保できるか確認します。
資金調達が数カ月遅れたケースも想定しておけば、計画変更にも対応しやすくなるでしょう。デットによって得られる時間を、企業価値を高めるためにどう使うのかという視点が欠かせません。
7.ドリームゲートアドバイザーに相談する
ベンチャーデットは、資本政策、返済計画、次回のエクイティ調達、事業計画などを一体として検討する必要があります。
通常の創業融資より判断すべき項目が多いため、「出資と借入れのどちらを優先すべきかわからない」「今デットを入れても資金繰りに問題がないか確認したい」という場合には、資金調達にくわしい専門家へ相談する方法があります。
ドリームゲートでは、起業や資金調達などの分野について、登録アドバイザーへ相談できます。
1)上野 光夫(うえの みつお)
上野光夫氏は、元日本政策金融公庫融資課長で、中小企業診断士として資金調達や事業計画に関する支援をおこなっています。
スタートアップの資金調達でも、デットを利用する前に事業計画や返済可能性を整理することが重要です。融資する側の視点も踏まえて事業計画を確認したい場合の相談先として検討できます。
相談ページ:
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2)佐藤 達也(さとう たつや)
佐藤達也氏は、資金調達や事業者向け融資に加え、出資・資本政策、事業計画書作成、事業再生、M&A、IPO支援など幅広い相談に対応しています。
ベンチャーデット単体ではなく、エクイティを含めた資本政策全体から資金調達方法を検討したい場合に相談しやすいでしょう。
相談ページ:
https://profile.dreamgate.gr.jp/consul/pro/ikaduchi
3)福田 宗就(ふくだ むねなり)
福田宗就氏は、ITベンチャー企業における社長参謀・CFOとしての経験があり、事業計画や資金調達、経営改善、IPO支援などに対応しています。
スタートアップでは、資金調達そのものだけでなく、調達後の事業成長や次回ラウンドまで含めた財務戦略が重要です。CFOの視点から資金調達設計を検討したい場合の相談先として活用できます。
相談ページ:
https://profile.dreamgate.gr.jp/consul/pro/carlosufukuda
8.よくある質問
最後に、ベンチャーデットを検討する経営者やCFOが疑問を持ちやすいポイントを整理します。じっさいの利用条件は金融機関や商品によって異なるため、個別の条件を確認したうえで判断してください。
1)ベンチャーデットは赤字でも利用できますか?
赤字だからという理由だけで、必ず利用できないとは限りません。スタートアップでは、開発や採用などの先行投資によって赤字になっているケースもあります。
ただし、成長性や資金使途、財務状況、今後の資金調達計画などを踏まえて個別に審査されます。
重要なのは、「赤字を埋めるために借りる」のではなく、調達資金によって何を実現し、将来の返済につなげるのかを説明できることです。
2)VC出資とどちらを優先すべきですか?
資金調達の目的や財務状況によって異なります。
株式の希薄化をおさえたい場合にはベンチャーデットが選択肢になりますが、返済負担を抱えず大規模な成長投資をおこないたい場合にはエクイティが適するケースもあります。
また、両方を組み合わせる方法もあるため、「出資か借入か」という二者択一ではなく、必要資金、ランウェイ、将来の資本政策を踏まえて検討することが重要です。
3)ベンチャーデットは創業直後でも使えますか?
創業直後でも利用できるかどうかは、金融機関や商品、企業の状況によって異なります。
ベンチャーデットでは企業の成長性なども考慮されますが、売上実績や資金調達実績、事業の進捗などが乏しい段階では、利用が難しいケースも考えられます。
創業直後で資金が必要な場合は、ベンチャーデットだけに絞らず、日本政策金融公庫の創業融資やエクイティなどを含め、事業フェーズに合った資金調達方法を比較するとよいでしょう。
9.まとめ|ベンチャーデットは、次の成長イベントまでの時間を買う資金調達
ベンチャーデットは、株式の希薄化をおさえながら成長資金を確保できる資金調達方法です。一方、借入れである以上は元本や利息の返済が必要となり、事業計画が遅れれば資金繰りを圧迫する可能性があります。
そのため、「VC出資の代わりに借りればよい」と単純に考えるべきではありません。
重要なのは、次回の資金調達、プロダクト完成、PMF、売上拡大など、次の成長イベントを明確にし、そこへ到達するために必要な時間と資金を逆算することです。
ベンチャーデットによって確保した数カ月を事業成長につなげられれば、次の資金調達や経営の選択肢を広げられる可能性があります。反対に、使途や返済原資が曖昧なまま借りれば、ランウェイを延ばすはずの資金が将来の負担になりかねません。
利用を検討する際は、資金使途、返済計画、次回のエクイティ調達、資本政策を一体として整理し、必要に応じて資金調達にくわしい専門家へ相談しながら判断しましょう。
執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは、経済産業省後援のもと2003年に誕生した日本最大級の起業支援プラットフォームです。起業アイデアの整理から事業計画書作成、資金調達・融資支援まで、実務経験豊富な専門家が起業家一人ひとりの課題に寄り添い、実現までをサポートします。(運営:株式会社プロジェクトニッポン)
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