「自己資金がない時にするべき4つのこと」を創業融資の元決裁者が解説

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 矢野 覚 (やの さとる)

LINK財務経営研究所の矢野覚です。

コラム第2弾として、日本政策金融公庫で融資決裁者を長年つとめてきた立場から、自己資金がない時にするべきである4つのことを中心に、創業資金に占める自己資金の重要性についてお伝えさせていただきます。

創業支援の現場

1年ほど前に、美容室の独立開業を計画されている美容師の方から公庫の創業資金を利用したいという相談があり、お手伝いさせていただきました。

結論を先に申しあげますと、公庫からの借入れも希望どおりに叶って、半年程前に開業され、現在は順調に営業されています。

その方と事業計画を策定していく中で、つまづいたのが自己資金の問題でした。相談を頂いた方は、10数年、美容師としていくつかの美容室に勤務されて経験を積んでいらっしゃいましたが、やはり十分な自己資金を蓄える余裕はなかったようです。

十分な自己資金を準備しての開業ではありませんでしたが、この方の場合は、美容師としての豊富な経験と各種コンクールで優勝する等の技術力の高さが十分に認められたこと、勤務時代に今後、開業する美容室のお客様になっていただけるいわゆる「見込み客」を十分に確保できていたこと、既婚者で別にパートナーの収入があったことが、プラス材料になると考え、創業融資を受けることに支障はないと判断しました。

ご本人は、色々心配されていましたが、「私が決裁者ならハンコを押すから、安心して公庫へ申込みしなさい。」と最後に伝えました。後日、ご本人から「公庫からの融資も順調に下りて、計画通りに開業できました。」と明るい声で報告がありました。

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開業資金の調達方法と自己資金の重要性

さて、開業に必要な資金を確保する方法ですが、大きく分けると、自己資金、借入金、出資金、補助金、助成金になると思います。

ポイントになるのは、どれだけ自己資金をたくさん準備できているかということです。なぜ、自己資金が多ければ多いほど良いのでしょうか。それは、自己資金は返済しなくても良いお金だからです。

借入金は、金利というコストがかかりますし、元金を返済しなければなりません。出資金や補助金、助成金も返済義務はありませんが、必ず準備できる資金ではありません。開業しようとする事業に賛同が得られなければ出資者から出資してもらえませんし、補助金や助成金は補助の対象となる事業でなければ該当しないこともあり、その内容やタイミングに影響されるので、開業資金として当初の資金計画に盛り込むにはリスクがあります。

事業計画通りに売上や利益を確保できたとしても損益計算書には表れないお金の支出もあるため、利益がすべて使えるお金にはなりません。たとえば借入金の元金返済は損益計算書には反映されていません。儲けた利益から返済することになるのです。つまり、「本当に使えるお金=自己資金」をどれだけ準備できるかが大切だということです。手元資金が多ければ多いほど資金繰りに苦慮せずに事業を進めていくことができます。

ここでお伝えしたいことは、開業資金に占める借入金の割合が増えると元金返済もその分増えて「使えるお金」が減ってしまうということです。

ぜひ、おさえておいていただきたい損益計算書には表れないお金の支出に関係する損益計画と資金(収支)計画の違いについては、また別の機会に説明させていただきます。

自己資金がない場合の自己資金の作り方

自己資金を一言でいえば、「事業に投入できる自分のお金」です。手許にあるお金すべてを事業に投入できるのであれば自己資金という認識で間違っていません。しかし、金融機関から借入をしようとするときに金融機関から自己資金だと認定してもらえる資金には、手許にあるすべてのお金が該当する訳ではありませんので、融資を受ける場合には注意する必要があります。

それでは、自己資金の作り方と創業融資を受ける場合の自己資金認定の留意点について説明していきます。

1 預貯金

「創業に向けて、給与の一部等を計画的に自身の預貯金通帳にコツコツと貯める。」

創業融資においては、どのようにして資金を貯めたのか、個人の通帳の原本を見てお金の流れを確認されます。起業前にコツコツと入金して貯めた記録があれば、自己資金として認めてもらえます。

また、計画的に資金も準備していることが、経営者としての資質を高く評価してもらえる効果も期待できます。

2 退職金

「退職金を創業資金に充てる。」

創業融資においては、多額の現金が一気に振り込まれていると自己資金として認められないこともありますので、退職金の源泉徴収票等の疎明資料を準備しておいてください。

3 資産を売却した資金

「有価証券等の金融資産や自家用車、不動産等の自己資産を売却して創業資金に充てる。」

創業融資においては、自己資金として認められます。預貯金と同じく、確実に資産形成してきた結果だと評価されるので、経営者としての評価にも繋がります。

1)株式や投資信託等の有価証券の売却

株や投資信託等の有価証券の売却によって得たお金。相場変動の影響を受けやすいため、タイミングを図って売却することも検討しなければなりません。

2)生命保険の解約

これまで掛けていた保険を解約して得た解約返戻金。掛金よりも大きく目減りすることもありますので、解約返戻率等を解約前に確認したほうが良いです。また保険には契約者貸付制度というものがあり、この制度を使うと、保険契約を解約せずに一定額のお金が引き出せます。

3)車両や不動産等の固定資産の売却

自己所有の車両等の有形資産や有休不動産・自宅不動産の売却によって得たお金。不動産は、売りに出してから買い手が決まり、実際に引き渡し、入金があるまで相当の時間を要するので、計画的に進めることが重要です。

4 返済義務のない贈与されたお金

「親兄弟等の親族、友人等から創業資金の援助を受けたお金を創業資金に充てる。」

この場合、自己資金として認めてもらえるかは金融機関によって判断が分かれます。贈与契約書を締結する等、贈与の理由等を明確に示すことが出来る書類を作成しておくことも必要です。また、お金の流れが明確になるように、親名義の口座から直接振り込んでもらうことも大切です。

疎明できれば自己資金として認められます。贈与税の非課税枠は年間110万円なので、その範囲で抑えることが多いようです。それを超えるようであれば、会社を設立して株主として出資してもらうという方法もあります。

創業融資を視野に入れて開業準備をすすめるのであれば、自己資金として認められるのは「預貯金通帳で確認できる、出どころの確かな現金等、自分でコツコツと貯めてきたお金が基本」であることを意識して自己資金を計画的に貯めていくことが求められます。

また、住宅ローンや一カードローン等の負債がある場合は、その返済負担も考慮した資金計画を立てる必要があります。多額の負債があると融資を受けることが難しくなる場合もありますので、返済できるものは返済しておいた方がよいと思います。

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自己資金の必要額

最後に、「結局、自己資金はいくら必要なのか」について、一緒に考えてみましょう。

公庫勤務時代に、創業セミナー等でよく質問されたことは「自己資金はいくら必要なのか?」です。創業のための自己資金には、「○○円準備できていれば大丈夫」という明確な基準はありません。資金繰りに困らない安定した事業を継続するためには、「あればあるほど経営が楽になる」というのが正解です。創業セミナーの場では、質問に対してこのように応えていました。

今回、自己資金の作り方についても説明させていただきましたが、十分なキャリアを積んで資産形成も出来ているシニア世代の創業ならば、こうした方法で自己資金を準備できると思いますが、十分な資産を蓄積する前に起業する方にとっては、「そんなこと言われてもそんな資産なんかないよ」と言われそうです。

冒頭に紹介した美容室の開業を希望された方も十分な自己資金の準備は出来ていませんでした。しかし、経験を活かすことができる勤務時代と同業種での開業でしたので、計画実現の可能性は非常に高いと判断しました。前述したとおり現在、順調に営業されておられます。

少額の自己資金で開業するならば、事業計画の実現の可能性を高めることが重要になります。創業成功の秘訣は「小さく産んで大きく育てる」です。実現可能性の高い身の丈にあった事業計画(数値計画)の策定と具体的なアクションプランを5W1Hまで落とし込んで策定し、実行することが大切なのです。

一方、日本政策金融公庫の新創業融資制度には、「新たに事業を始める方は、創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認出来る方」という自己資金要件があります。創業融資の利用を計画されている方は、自己資金要件を満たす必要があることは付け加えておきます(自己資金要件には「但し書き=自己資金がなくても要件を満たしたことになるケース」もありますので、日本政策金融公庫の新創業融資制度の詳細については公庫のHPで確認してみてください)。

あきらめずにご相談を

私が融資課長、次長、支店長として創業融資の融資決裁をしていたときに最も重視したのは、経営者(起業者)の資質です。創業に対する熱い思いがあるか、計画的に準備を進めてきたか、スタートでつまづいても乗り切れる精神力があるか・・・

自己資金については、形式的な要件さえ満たしていれば、自己資金の金額や開業資金総額に占める割合だけにこだわってはいませんでした。それより計画の中身をしっかり確認して、その実現の可能性を見極め、一定のリスクを考慮しても資金が回ると判断できれば、自己資金の多寡に関わらず融資可の決裁をしていました。創業の現場では、余裕のある自己資金を準備した理想的な創業案件は、ほとんどないのが現実なのです。

とはいえ、自己資金が十分に準備できていれば安心・安全に開業できることに間違いはありません。創業融資の決裁だってスムーズに進みます。

日本政策金融公庫国民生活事業には、創業に関する様々なノウハウが蓄積されており、HP等で公開されていますから、参考にして準備を進めてください。

私のコンサルティングの基本は、創業融資を受けることが目的ではなく、持続可能な事業として新規事業を産んで育てていくことのお手伝いです。そのための資金調達の1つの手段として創業融資も活用することだと思っています。

お困り事があれば、ドリームゲートのメール相談を活用して遠慮なく個別に相談してください。私で力になれることは、しっかり支援させていただきます。

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 矢野 覚

日本政策金融公庫で融資に長年携わってきた経験を活かし、今は資金調達における創業計画・事業計画の策定をサポートしている矢野アドバイザー。長年の知見による的確なアドバイスと丁寧な対応が特長的です。資金のお悩みだけでなく、経営改善についての相談もできる心強い味方です。

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