会社経営に必要な法律 Vol.23 西武が上場廃止になった理由

法務・知的財産

執筆者: ドリームゲート事務局

西武鉄道株の名義偽装事件において、西武鉄道などに当時の株主に対する損害賠償を命ずる判決が出ました。そこで今回は、この判決を題材に、有価証券報告書の虚偽記載について説明していきましょう。

1.ニュースの概要

  西武鉄道の個人株主が、西武鉄道株の名義偽装による同社株式の「上場廃止により損害を受けた」として、同社のほか、西武グループのコクド(現プリンスホテル)や堤義明元会長などに対して損害賠償を請求していた訴訟の判決で、2008年4月24日、東京地方裁判所は、上場廃止後に株式を売却した個人株主の損害を認め、総額2億円あまりの支払いを命じました。

 

 

 

  西武鉄道株の名義偽装事件とは、2004年、西武鉄道が、有価証券報告書において名義を偽装する虚偽記載を行っていたことが発覚し、東京証券取引所の定める上場廃止基準に抵触するとされ、上場廃止になったというものです。

  判決では、虚偽記載が公表された当時の個人株主のうち、既に株式を売却した株主について、西武鉄道側の不法行為責任を認め、虚偽記載を公表する直前の株価と売却価格との差額を損害と認定しました。

・読売新聞 特集「西武鉄道有価証券報告書虚偽記載問題」http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/80/index.htm 

 

2.法律上の問題

(1)有価証券報告書とは

  今回の事件は、有価証券報告書の虚偽記載が、株主に対する不法行為にあたるとされました。それでは、有価証券報告書とはどのようなものなのでしょうか。

  上場会社の株式は、不特定多数の人の間で売買をされることから、投資判断をする際の情報が適切に開示されていることが必要となります。

  そこで、金融商品取引法(旧証券取引法)は、上場会社などに対し、事業年度ごとに、事業の内容に関する重要な事項などを記載した報告書を内閣総理大臣に提出することを義務付けています(法24条)。この報告書を「有価証券報告書」といいます。

・東京証券取引所「有価証券報告書」について http://www.tse.or.jp/glossary/gloss_y/yu_hokokusho.html 

 

(2)虚偽記載とは

  有価証券報告書では、会社の事業状況、財務状態などが開示されますが、この中に会社の大株主について、その所有株式数の多い株主(いわゆる大株主)の氏名、所有株式数、発行済み株式総数などを開示する項目があります。今回の、西武鉄道株の虚偽記載は、この大株主のうちコクドを含む上位10株主が保有する株式数について実際は80%以上であったにもかかわらず、これよりも少ない60%強として記載していたものです。

  西武鉄道が上場していた東京証券取引所では、株式の流動性を確保し、適正な株価を形成するため、「大株主10社などの合計持ち株比率が80%を超えたまま 1年を経過すると上場廃止」とする基準があります。しかし、実際には、コクド(現プリンスホテル)を含む上位10株主が上場廃止基準に抵触する80%以上の株を保有していたため、これを隠すために虚偽記載をしていたものとされています。

  なお、コクドなどの大株主は、虚偽記載の公表前に取引先などに西武鉄道株を大量に売却したため、公表時点ではこの上場廃止基準抵触は解消されていましたが、東京証券取引所は、長期に渡り虚偽記載がされていた事実自体を重く見て、上場廃止にしました。

 

(3)有価証券報告書の虚偽記載をした場合の責任

  金融商品取引法では、有価証券報告書の虚偽記載には懲役刑を含む罰則を設けています。また、有価証券報告書の虚偽記載は、証券取引所の上場廃止基準に抵触する可能性があります。今回の西武鉄道株の事件では、東京証券取引所は、虚偽記載による市場への影響が重大であり、上場廃止基準に抵触するとして、 2004年12月に同社株を上場廃止にしたものです。

  今回の訴訟では、以上のような責任とは別に、西武鉄道などに対し民事上の不法行為責任が問われたものです。虚偽記載のような場合における、株主に対する企業の損賠賠償責任は、これまでは損害の証明が困難であることから、訴訟ではなかなか認められていませんでした。しかし、金融商品取引法においては、虚偽記載などに関する株主の損害額について、「虚偽記載の公表日前1ヵ月間の平均株価から公表日後1ヵ月間の平均株価を控除した額」を株主の損害額とすることができるとする規定を新設しています(法21条の2第2項)。今回の虚偽記載自体は、このような条文を含む金融商品取引法の施行前のものですので、以上のような条文の適用はないものですが、そのような条文の趣旨を考慮して判決が下されたものとも考えられるでしょう。

 虚偽記載などに関する株主の損害額について定める条項により、訴訟における株主の証明の負担が軽くなったことから、今後、今回のような虚偽記載などに基づく株主の損害賠償請求訴訟が多くなる可能性があります。

 

3.ベンチャー企業として

  今回問題となった、有価証券報告書による開示は、原則として上場企業に義務付けられるものです。このため、まだ上場していないベンチャー企業にとっては、今すぐに直接に関係するものではないでしょう。しかし、いずれ上場を目指すのであれば、上場後どのような義務が課せられるかを知っておくことは大変重要なことです。そして、近い将来に上場を予定している場合にはなおさら、上場後に慌てることなく、法律の要求する義務が果たせるように、今から社内体制を整えておく必要があります。

  特に、有価証券報告書のような情報開示義務は、株式を不特定多数の人に売買してもらうことにより資金を調達する上場企業にとっては、その売買の大前提となる非常に重要なものであり、義務に違反した場合には、今回のように株主個人に対する損害賠償責任を問われる可能性もあります。上場を目指すベンチャー企業にとっては、上場することの責任がどのようなものであるのかを、今のうちから認識しておくことが大切です。

 

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