会社経営に必要な法律 Vol.46 サービス残業は違法です

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
改正労働基準法が2010年4月1日から施行されます。今回はこのニュースを取り上げ、時間外労働に対する割増賃金について解説し、起業家として留意すべき事項について説明します。

ニュースの概要

 長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や、仕事と生活の調和を図ることを目的とした「労働基準法の一部を改正する法律」が2008年12月12日に公布されており、2010年4月1日から施行されます。今回の改正のポイントは、次の3つです。

Ⅰ 時間外労働の限度基準の見直し
労使当事者は限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率を引上げるよう努める

Ⅱ 法定割増率の引上げ
1ヵ月60時間超の法定時間外労働に対しては割増率を50%以上とする
または、引上げ分の割増賃金に代わる代替休暇を付与する

Ⅲ 時間単位の年休付与
年に5日を限度として時間単位で年次有給休暇を付与する

 ただし、経営体力が必ずしも強くない一定の中小企業においては、時間外労働抑制のための業務処理体制の見直しなどへの速やかな対応が困難であり、やむを得ず時間外労働を行わせた場合の経済的負担も大きいため、当分の間、上記Ⅱの法定割増率の引上げの適用は猶予され、改正法施行後3年を経過した時点で改めて検討されることとなっています。
 

法律上の問題

1. サービス残業は違法
労働基準法では、労働時間を1週40時間、1日8時間までと定めており、これを超えて労働者に仕事をさせる場合、使用者は原則として、次のように計算される割増賃金を支払わなければなりません。

 たとえ年俸制やみなし労働時間制がとられていても、あらかじめ定められた時間を超えた場合には割増賃金の支払いが必要となります。また、管理監督者に対しては、深夜労働を除き割増賃金は支払われませんが、この場合でも、「名ばかり店長」のように、真に経営者と一体としての立場にある者と認められないときは、割増賃金の支払いが必要です。
 しかしながら、実際には、サービス残業と称して割増賃金も支払われないままに長時間の残業が強いられ、その結果、労働者が過重労働で体調を崩したり、あるいはメンタル面で支障をきたしたりする例も少なくありません。未上場の中小企業ではサービス残業が横行しがちですが、サービス残業は当然ながら違法です。割増賃金を払わない使用者に対しては罰則が設けられており、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

2.未払いの残業代を請求する方法
 未払いの残業代は2年間にわたって請求することができます。会社に残業代を請求しても払ってもらえない場合、法的手段に訴えることができます。

(1)労働基準監督署への申告
 まずは労働基準監督署(労基署)に残業代の不払について申告することがよいでしょう。申告する際には、タイムカードや給与明細などを集め、未払いの残業代の金額がはっきりわかる資料を揃えて労基署に持参します。主張が認められれば、労基署が会社に対して残業代を支払うように勧告してくれます。

(2)裁判所の手続きによる請求
 労基署の勧告には強制力はありませんので、中には勧告を受けても残業代を踏み倒そうとする悪質な使用者がいます。その場合には、次のような法的手段をとることができます。
a 支払督促・・・簡易裁判所を通して支払いの督促をする制度です。書類審査のみで、費用もさほどかかりません。
b 少額訴訟・・・・60万円以下の金銭の支払いを求める場合に利用できます。簡易裁判所で行い、原則として1回の審理で終了します。
c 調停・・・・・話合いによる解決を目指す非公開の手続きです。裁判所の調停委員会が話合いを進めます。
d 労働審判・・・労働関係の専門家が加わった労働審判委員会が、双方の言い分や証拠を基に審理し、トラブルの実情にあった解決案を示す手続きです。異議申立てがあれば通常の訴訟に移行します。
e 通常の訴訟・・法廷で労使双方が主張や証拠を出し合い、裁判所が判断する手続きです。時間と費用がかかりますが、途中で双方が合意すれば、和解によって終了させることもできます。

 具体的にどの方法をとることがよいかについては、簡易裁判所に相談窓口がありますので、そこに資料などを持参して、相談してみるとよいでしょう。
 

起業家として留意すべき事項

 いよいよ起業することとなり、従前勤めていた会社を退職する場合、それまで不当に強いられてきたサービス残業分の割増賃金の支払いを会社に請求したいと思われる方がいるかと思います。実際に、退職した元労働者が会社の労働基準法違反行為を労基署に申告したり、内容証明や裁判所の手続きを通して過去2年間分の未払い残業代を支払うよう会社に請求したりするケースは少なくありません。

 申告により労基署による調査が入った場合、労基署の監督官は、申告した者の状況だけでなく、全従業員の雇用管理の状況について、帳簿やその他の書類を調べたり、従業員に直接質問したりします。その結果、サービス残業の事実が認められれば、是正の勧告が行われ、会社は多額の未払い賃金の支払を余儀なくされます。

 昨日まで雇われの身であった起業家の方も、いざ起業して人を雇用すれば、今度は使用者の立場になります。会社の利益ばかりを優先し、法律を軽視したり、雇われる側の人に対する配慮を忘れてしまうと、今度は自らが労働法違反をしてしまうことになりかねません。会社を経営するうえで、社会保険労務士などに相談しながら労務管理をしっかり行うことはとても大切なことです。会社発展の鍵は人にあります。社員に気持ちよく働いてもらい、全社員が一丸となって会社の発展を目指す環境を作ることが会社を成功へと導きます。起業家の方には、雇われる側の人を大切にする気持ちを常に失わないでいただきたいと思います。

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