会社経営に必要な法律 Vol.60 東日本大震災に伴う特例措置

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

はじめに、このたびの未曽有の大震災に遭われ、尊い命を失われた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。また、被災地にて、大きな不安と苦難に直面されている皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早く復興の日が訪れますことをお祈り申し上げます。

平成23年3 月 11 日午後 2 時 46 分ごろ、マグニチュード 9.0 を記録する地震が東北地方太平洋沖で発生しました。 この地震とその後に発生した津波は、実に多くの被害をもたらしました。被害を受けた事業場においては、事業の継続が困難になり、または著しく制限される状況にあります。また、被災地以外に所在する事業場以外においても、鉄道や道路の途絶から原材料、製品等の流通などに支障が生じ、事業の運営が困難な状況が発生するなどしています。さらに、東京電力福島第一原発事故が発生し、これに伴う東京電力管内での計画停電の実施などによる産業活動に対する影響も大きくなっています。

こうした状況の中で、厚生労働省は、ホームページ上で「東日本大震災関連情報」を公表しており、被災した方々の救援・救済にかかわる情報を発信しています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014ih5.html

今回は、この厚生労働省による報道発表を取り上げ、事業者の方々に有用な情報をご紹介すると共に、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。

報道発表の概要

東日本大震災により多くの事業所に甚大な被害が発生したことから、厚生労働省では、被災した事業者や被災した従業員等を支援するため、雇用や労働に関してさまざまな特例措置を設けています。また、こうした特例措置をより多くの人に活用していただくため、厚生労働省では、「被災した事業主向け」および「被災した従業員、失業した人、訓練を受講している人向け」にリーフレットを作成し、ハローワークや労働基準監督署などにおいて配布しています。これらのリーフレットは厚生労働省のホームページでダウンロードすることができます。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016wye.html

リーフレットの主な内容は次のとおりです。

○被災した事業主向けリーフレット
  ・災害により休業せざるを得ない場合の従業員への賃金や手当について、法律上の考え方を取りまとめたQ&Aや、雇用調整助成金による公的支援の案内
  ・各種助成金の申請が期限内に行えない場合、後日の申請が可能なことの案内
  ・労働保険料、社会保険料、障害者雇用納付金納付期限の延長・猶予
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014uzs-img/2r98520000016vjl.pdf

○被災した従業員、失業した人、訓練を受講している人向けリーフレット
 ・全国のハローワークなどに設置した、被災者の仕事の相談に応じる窓口の案内
 ・災害で勤務先が事業を休止・廃止し、賃金が受け取れない場合に受給できる失業給付の案内
 ・被災して職業訓練が受けられなくなった場合の、訓練時間などの特例的取扱い
 ・地震の影響で勤務先の業務が停止し、退職を余儀なくされた人が利用する、「未払賃金立替払制度」の申請手続きの簡略化
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014uzs-img/2r98520000016vj0.pdf

また、厚生労働省のホームページでは、リーフレットに記載されている内容以外にも、新たな就職先を探している方への求人情報の提供や、遠隔地での就職先を探している方への「広域求職活動費」や「移転費」の支給についての情報、採用内定取消などへの対応等に関する情報など、雇用・労働関係の情報が掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016exl.html

なお、厚生労働省が公表する情報は、日々更新されていますので、最新情報については、厚生労働省のホームページでご確認ください。

法律上の問題

(東日本大震災の発生に伴い、さまざまな法律上の問題が生じていますが、こうした法律問題への対応については、厚生労働省のみならず、日本弁護士連合会などにおいても、対応のためのQ&Aを公表しています。

(1) 「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第2版)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000017f2k.html

厚生労働省では、東日本大震災に関連して、労働者の賃金や解雇等などの労働条件について、使用者が守らなければならない事項等を定めた労働基準法の一般的な考え方について、Q&Aに取りまとめて公開しています。このQ&Aは、3月18日に第1版が公表され、その後、3月31日に第2版が公表されていますが、今後も順次更新される予定です。

第2版のQ&Aでは、次の5つの事項が取り上げられています。
1 地震に伴う休業に関する取扱いについて
2 派遣労働者の雇用管理について
3 震災に伴う解雇について
4 採用内定者への対応について
5 1年単位の変形労働時間制について

個別の事案については、各都道府県労働局等に設置されている総合労働相談コーナーにおいて、民事上の労働問題に関する相談・情報提供等が行われています。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

なお、今回の震災に伴う経済上の理由により事業活動が縮小した場合に、従業員を解雇せず、雇用を維持するために休業等で対応されるときは、休業についての手当等が支払われます。また、雇用保険の適用事業所であるなど、一定の要件を満たせば、雇用調整助成金および中小企業緊急雇用安定助成金を利用することができます。支給のための主な条件は次のサイトで確認することができます。
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/a09-1.html

(2)「東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A」(平成23年3月24日)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015vli-img/2r9852000001653g.pdf

東日本大震災に関連した労災保険の請求については、「東北地方太平洋沖地震と労災保険Q&A」にまとめられています。

基本的な考え方として、仕事中に地震や津波に遭い、怪我をしたり死亡したりした場合には、仕事以外の私的な行為をしていた場合を除き、業務災害として労災保険給付を受けることができます。これは、地震によって建物が倒壊したり、津波にのみ込まれたりするという危険な環境下で仕事をしていたと認められることによります。
通勤途上で被災した場合も、業務災害と同様に労災補償の対象となります。

労災保険の適用については、個々の事案に応じて業務上外の判断が行われることになりますので、労働基準監督署にご相談いただければと思います。

(3)「東日本大震災法律相談Q&A」(平成23年3月29日現在)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/special_theme/data/soudanQ&A.pdf

今回の震災に伴い発生するさまざまな法律問題については、日本弁護士連合会災害復興支援委員会が弁護士および市民向けの法律問題Q&Aを作成しています。このQ&Aは、平成18年に出版された「災害時の法律問題ハンドブック」(新日本法規出版)の設問および回答を簡略化して編集し直し、さらに今回の震災に特有と考えられる津波被害と原発災害にかかわる設問および回答を追加した構成となっています。
なお、このQ&Aには、特定商取引法など、平成18年以後に改正された法律の改正内容が反映されていませんので、この点についてご留意ください。

ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項

トーマツ企業リスク研究所が毎年行っている「企業リスクマネジメントアンケート調査」の2011年1月6日に公表された調査結果では、優先対応すべきリスクの第1位が「情報漏えい」、第2位が「地震・風水害等、災害対策の不備」・「製品、サービス品質のチェック体制の不備」となっています。多くの企業が災害対策の不備を自覚する中で発生した今回の大震災は、日本の産業・経済にさまざまな影響を及ぼし、今後もその影響が長引くことが懸念されます。また、経済のグローバル化が進んでいる今日においては、日本企業の活動の停止が、世界的に影響を及ぼすことも懸念されます。

災害時において企業が考慮すべき重要事項としては、①生命・安全の確保、②二次災害の防止、③地域貢献・地域との共生、④事業の継続の4つが挙げられます。
顧客や従業員の生命や安全を確保することが重要なのは言うまでもありません。火災や建物の倒壊などの二次災害の防止のための取組みや、地域住民、行政、取引先企業などと連携して、地域の一日も早い復旧を目指すことも大切です。そして、企業には、どんなときであっても、重要業務が中断しないこと、たとえ中断しても可能な限り短い期間で再開することを取引先等の利害関係者から求められます。事業の継続は、顧客の他社への流出、マーケットシェアや企業評価の低下などから自社を守るためにも重要となります。

リスク意識が高い欧米では、以前より経営管理の一環として事業継続経営(BCM: Business Continuity Management)が行われており、特に、2001年9月11日の米国における同時多発テロ以来、その取組みは強化されています。このBCM とは、事故や災害などが発生した際に、「如何に事業を継続させるか」若しくは「如何に事業を目標として設定した時間内に再開させるか」についてさまざまな観点から対策を講じることです。
BCM にはさまざまな定義がありますが、英国規格協会(BSI)が策定したPAS56「事業継続管理のための指針(Guide to Business Continuity Management)」では以下の様に記述されています。

「組織を脅かす潜在的なインパクトを認識し、利害関係者の利益、名声、ブランドおよび価値創造活動を守るため、復旧力および対応力を構築するための有効な対応を行うフレームワーク、包括的なマネジメントプロセス。」

地震などの災害の多い日本においても、企業の事業継続への関心は確実に高まっており、企業にとって事業継続への取組みは、重要な経営課題の一つになっています。今回の震災を契機として、BCMに積極的に取り組む企業が今後ますます増えるものと思われますが、これは何も、大企業に限ったことではありません。中小企業においてもBCMは重要です。災害時にも事業が継続でき、かつ、重要業務の操業レベルを早急に災害前に近づけられるよう事前の備えを行っている「災害に強い企業」は、取引先企業や市場からも高く評価されるようになってきていますし、今後もその傾向は強まるものと思われます。

今回の震災により苦境に立たされているベンチャー企業の経営者の方は少なくないものと思われますが、経営者には、どんな状況においても常に前を向いて進み続けることが求められます。すでにご紹介させていただいたように、事業の継続を支援するための特別措置がいろいろ設けられていますので、経営者の方にはぜひ、それらを有効に活用していただき、何としでても、この重大な局面を乗り切っていただければと願っています。

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