33兆円市場、医療・ヘルスケア業界のビジネスチャンスを探る

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 和木 美穂子

はじめまして。私は日本生産性本部 認定経営コンサルタントで中小企業診断士の和木と申します。言語聴覚士の資格も持っています。医療機器メーカーで25年間働いてきた経験を活かし、医療業界やヘルスケア業界で起業することに興味をお持ちの皆様にマーケティング支援等をさせていただきたいと考えています。

今回は、ドリームゲートアドバイザー認定専門家の中では初めての医療業界出身者として、医療業界の財政に関わる全体的な傾向と、今後期待されるヘルスケア産業の市場拡大傾向について解説し、起業家の皆様に役立つ具体的な新規事業の参入例についてご紹介させていただきます。

少し言葉が難しいかもしれませんが、できるだけわかりやすい表現を心がけましたので、参考になるようでしたら幸いです。

今、医療ビジネスは転換期を迎えている

高齢化と医療費の膨張

1990年代半ば、私が新卒で医療業界に就職活動をしていた頃は厚生省(当時)が多大な国の予算を確保しているのを、人間の生命や健康生活を預かる大義があるためとして認められていた雰囲気があった様に思います。当時の医療費、介護費等、年金を合わせると(これらを社会保障給付費と言います)約60兆円程度でした。しかし、その後右肩上がりで2017年には約2倍の合計120兆円を上回っています。今後はますます増大する見通しで、今ではこれらの支出が国にとって大きな負担になっています。

その背景にあるのが、高齢化と生産年齢人口の増加です。1960年代の高度経済成長からバブル期までは人口が増加し、働く世代(生産年齢人口)の占める割合が高かったのです。これを人口ボーナス期と言います。一方、その後高齢者の人口が数・比率ともに増加し、少子化が進むにつれて働く世代の占める割合が減ってきました。

この「支えられる人」が「支える人」を上回って、経済が活性化しづらい状態を迎える時期を人口オーナス期と言います。オーナスとは「重荷・負担」という意味です。人口オーナス期にある長期的なトレンドが、社会保障給付費増加による負担増大の原因と言えます。

出典:経済産業省「人生100年時代FORUM2019 生涯現役社会の構築」

コロナによる病院経営への影響

一般的に病院経営は高度な最新設備や働くスタッフの人件費など固定費がかかり、利益を生み出しにくい体質ですが、2020年以後はコロナ禍により更に悪化しています。

コロナ患者受入れにあたっては厚生労働省や自治体から様々な補助がされています。しかし、病院全体に与える外来・入院患者数や手術件数等へのマイナス影響は大きく、コロナ受入なしの病院でも何らかのマイナス影響を受け、全国的に低下しています。

継続的な赤字の影響を受け、約4割の病院が2020年冬季賞与を減額したという調査結果もあります。病院は、コロナ禍への対応に加えて、経営面でも自助・共助・公助のあらゆる面で立て直しが必要な、正念場の時を迎えています。

出典:一社) 日本病院協会、公財) 全日本病院協会、一社) 日本医療法人協会「新型コロナウィルスに感染拡大による経営状況の調査(2020年度第3四半期)」

医療と経済はB/SとP/Lのような関係

最近「医療か経済か」という話題がよく報道されています。政策については日本で代表的な専門家の間で議論がなされており批判は控えさせて頂きますが、私は医療と経済はどちらも大切だと思います。しかし、その性質は異なり、財務諸表で言うとB/S(貸借対照表)とP/L(損益計算書)のような関係にあると感じています。

つまり、人々が健康に生活できる安心が確保された体制は資産であり、その資産が脅かされると経済活動もままならなくなります。一方、事業活動によりP/L上で最終利益が出るとそれがB/S上の繰越利益剰余金に入るように、医療を維持するためにも資金が必要で、どちらもお互いにとって欠くことができない大切な存在です。

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変化があるからこそ、ビジネスチャンスがある

ヘルスケア業界における隙間市場の拡大傾向

卵型をした下図は、従来の公的医療保険・介護保険と、新しい領域として周辺に位置づけられるヘルスケア産業の関係を模式図に表したものです。経済産業省はヘルスケア市場を2025年度で33兆円と予測しています。

内訳は大きく分けて、衣食住や予防、運動等の健康保持・増進に働きかけるものが約12.5兆円、患者や要支援・要介護者の生活を支援するものが約20.6兆円とされています。これらのヘルスケア産業が盛んになることで、病気になる、あるいは身体が弱る前の段階で病気等を予防し、年を重ねても健康的に生活する人、働くことができる人が増えるでしょう。

そして、公的医療保険・介護保険の費用増加に歯止めをかけること、更には日本のGDPが増加することも期待されます。そこに読者の皆様も、ビジネスチャンスと社会的意義を見出されるのではないでしょうか。

出典:経済産業省「人生100年時代FORUM2019 生涯現役社会の構築」

主な参入の類型としては、①医療・介護関係者からの参入、②公的保険外の運動・栄養・保健サービス等事業者からの参入、③異業種からの参入、の3つがあります。異業種からは、通信、化粧品メーカー、旅行業から、農業・観光等の地域産業やスポーツ関連産業等との連携で事業展開している例もあります。

上述のような外部環境の機会に対して、自社のどのような強みを活用するか、そして参入にあたりどのような志を持って臨むか、が重要です。

出典:経済産業省 平成30年度健康寿命延伸産業創出推進事業 (受託者)株式会社NTTデータ経営研究所「ヘルスケアサービス参入事例と事業化へのポイント」

この後の節では、どのような事業での参入が考えられるか、具体例を2つご紹介させて頂きます。

患者様向けオンライン診療利用のスマホ教室

オンライン診療は2018年に制度化された当初は様々な制約付きでしたが、コロナ禍により大幅な規制緩和がされ、初診からの利用やオンラインでの服薬指導が可能となりました。

これらにより制度的に市場化は進みますが、十分に普及していないのが現状です。その原因の1つとして、患者様は全般的に高齢でスマートフォン等のIT機器操作に不慣れな方が多く、利用方法がわからない点があります。病院スタッフが多忙な業務の合間を縫って利用方法を教えているのが現状で、なかなか定着に至らない場合も多いです。

そこで、ビジネスチャンスとしてオンライン診療の利用方法を患者様に教えるスマホ教室が考えられます。近年、スマホ教室事業には大手・中小企業ともに新規参入していますが、地域病院が採用するオンライン診療システムを取り入れることで差別化に繋がります。

また、事業者は使用方法を習得して患者様に伝授することがサービスですので、小さい投資額で済みます。スマホ等IT機器操作のスキルが高く、患者様を支援したいという意欲をお持ちの方には、このような社会への貢献方法もあるのではないでしょうか。

医療スタッフの勤務環境改善支援

医師、看護師等が働く医療の現場は概して激務です。医療スタッフの健康増進と安全確保を図ることが課題であることは厚生労働省も着目しています。各医療機関の実態に合った形で自主的に行われる任意の仕組みとして、「勤務環境改善マネジメントシステム」があり、社会保険労務士やコンサルタント等が支援しています。

取り組み例としては、勤務シフトの工夫や休暇取得の促進等といった働き方・休み方の改善や、医療スタッフのキャリア形成の支援など働きやすさ確保のための環境整備等があります。

各都道府県に医療勤務環境改善支援センターというものがあり、その運営協議会等を通じて地域の関係機関と連携して支援しています。民間企業に比べると、医療機関では生産性の向上、人事評価制度等について改善の余地が大きく、これらの領域に支援や助言をする市場機会はあります。

ただし、支援先が医療機関という専門性が高い機関であること、最終的な受益者である患者様の安全と健康の確保に資することを理解した上での取り組みが求められます。民間企業でも従業員満足が顧客満足に繋がるように、医療機関でも医療スタッフの満足度向上が医療サービスの更なる質の向上に繋がり、患者満足度を向上させ、最終的には経営の安定化に繋がります。

職場の勤務環境改善の知識や経験があり、医療ビジネスに貢献されたい意欲のある方は今後のターゲットにご検討されてはいかがでしょうか。

<参考資料>

  • 厚生労働省 オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会
  • 厚生労働省 医療機関の勤務環境の改善について
  • 経済産業省商務・サービスG  人生100年時代FORUM2019 「生涯現役社会の構築-高齢化の進展と疾患の性質変化を踏まえてー」
  • 経済産業省平成30年度健康寿命延伸産業創出推進事業 (受託者)株式会社NTTデータ経営研究所「ヘルスケアサービス参入事例と事業化へのポイント」
  • 東京都中小企業診断士協会 医療ビジネス研究会 「2040年を見据えて進む国の施策と医療機関にもたらす影響について」 日経BP総合研究所 庄子育子
  • 東京都中小企業診断士協会 医療ビジネス研究会 「オンライン診療の現状と展望」株式会社インテグリティ・ヘルスケア 園田 愛

 

執筆者プロフィール:
和木 美穂子(わき みほこ)/ わき経営

外資系医療機器メーカー数社を経てコンサルタントとして独立。医療機器メーカー勤務25年の経験を活かして、医療・ヘルスケア領域の起業を支えます。

プロフィール

 

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