弁理士・社会保険労務士の永田です。
昨年9月、著作権侵害をめぐる裁判の控訴審で、非常に興味深い判決が出されました。
今から約50年前にヒットしたテレビドラマの主人公をイメージした商品のシンボルマークが著作権を侵害しているとして、このドラマの原作者である小説家の遺族らがこのマークを自社商品に使用していた食品メーカーを訴えていたところ、侵害が認められなかった地裁判決が控訴審で一転し、食品メーカーに損害賠償を求める判決が下されました。
今後、最高裁に上告される可能性もあるので最終的な結論は出ていませんが、ここで注意しなければいけないのは、問題になったこのマークは既に商標登録もされており、約半世紀にわたって使用されてきたものだったことです。
- 目次 -
古い商標に著作権侵害が認められた興味深い判決
起業に伴い創作した屋号、新しく考案した商品やサービスに付ける名称やロゴマークは、その事業を行う人の世界観を反映したもので、他人に勝手に使われるのを防ぐ商標権を得るため、特許庁に「商標登録出願」を行うのが一般的です。
ところが、特許庁の審査を経て商標登録を受け、出願人が商標権を得たにもかかわらず、その商標が使えなくなり、さらには損害賠償まで求められてしまうリスクは依然存在するのです。
長年穏当に使用され特段トラブルもなかった登録商標に、最近になっていきなり「著作権侵害」の議論が持ち上がったことを通して、「商標権」と「著作権」の考え方の違いや、著作権に関する認識の変遷などを考察してみたいと思います。
累計8万人が利用!質問に答えるだけで「事業計画書・数値計画書」が完成
⇒事業計画書作成ツールを無料で利用してみる
- 日本政策金融公庫の創業計画書も作成でき、融資申請に利用できる。
- 業種別にあなたの事業計画の安全率を判定
- ブラウザに一時保存可能。すべて無料!
「木枯し紋次郎事件」の概要
1970年代は、テレビドラマの一ジャンルとして時代劇が数多く放映されていました。
今から50年以上前の昭和47年(1972年)、作家の故・笹沢佐保さん原作の「木枯し紋次郎」という小説がドラマ化され、大人気を博しました。主人公の紋次郎は股旅姿で、口に長い楊枝をくわえて毎回登場し、お決まりの「あっしには関わりのないことでござんす」という台詞は、当時の子どもたちの間でも流行していたそうです。
このドラマが放映されていた頃、とある食品メーカーが、するめいかを竹串に刺し自家製のたれで甘露煮にした食品を開発しました。竹串を紋次郎がくわえている楊枝になぞらえ、商品名を「紋次郎いか」として売り出すことになりました。この商品は、主に駄菓子屋での販売や、居酒屋のおつまみとして提供されており、現在も製造販売は続いています。
駄菓子屋などでは「紋次郎いか」を専用の容器に数十本程度入れ、1本ずつ取り出して販売することが多かったようですが、この容器には、ドラマの紋次郎と同じように三度笠をかぶり、長いカッパを羽織った「股旅姿」の人物を描いた手書きの画像が商品名と共に付けられていました。この手書きの人物像、及び「紋次郎」という名称は、それぞれ1970年代に商標登録もされ、現在も10年ごとの更新により商標権が存続しています。
そして「紋次郎いか」は、商品の発売から50年以上の間、駄菓子やおつまみとして多くの人に親しまれてきましたが、令和の時代になって突然、これらの登録商標について「木枯し紋次郎」に関する著作権を侵害しているというクレームが入り、裁判に発展してしまいました。訴えを起こしたのは「木枯し紋次郎」の原作者である、笹沢佐保さんの遺族です。
著作権は、著作物を創作した著作者が亡くなってからも70年間保護される権利ですので、著作者の死後は配偶者や子が権利を相続します。現在、笹沢さんの遺族が小説「木枯し紋次郎」の著作権者になっていますが、「小説」についての著作権なので、商標になっている股旅姿の「画像」の著作権まで有しているのかどうか、疑問を感じた人もおられるかもしれません。
番組の映像などに関する著作権は、一義的には番組を制作した放送局や制作会社に属します。ですがドラマの元になった原作の著作権者も、ドラマの脚本や映像の著作権を有すると定められています(著作権法28条)。笹沢さんは「木枯し紋次郎」の原作者なので、この小説を脚色したドラマの著作権者にもなります。それで、笹沢さんの権利を相続した遺族が原告となり、「紋次郎いか」を製造販売する食品メーカーを相手取って訴訟を提起したわけです。
「著作権侵害」が認められる条件
昨年9月に知的財産高等裁判所で判決が出された控訴審では、食品メーカーの登録商標になっている股旅姿の人物像が、テレビドラマ「木枯し紋次郎」の著作権を侵害していると認められました。この判断については賛否両論あるのですが、ここでは一般論として、どんな場合に「著作権侵害」になるのかということを説明したいと思います。
著作権法上「著作権の侵害」が認められるには、「類似性」と「依拠性」という2つの要件を満たす必要があります。
「類似性」とはその名の通り、著作物の見た目など「表現」が似ているかどうかということですが、特にオリジナリティを発揮している部分で似ているかどうかが重要になります。
著作物の「類似性」とは、別の著作物についての「表現上の本質的な特徴の同一性」がその著作物にも維持されていて、その著作物に接した人が別の著作物の「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」状態であると解釈されています。たとえばあるキャラクターの画像を見て、そのときに誰もが特定の別のキャラクターを思い起こすような状態です。
別のキャラクターが独自に有している特徴が、見ているキャラクターにも共通していれば「類似している」ととらえられる蓋然性も高くなります。逆に、「ウサギの長い耳」のように、誰が描いても同じになるような特徴の場合、仮にその部分だけが共通していたとしても、著作物として「類似している」とは認められにくいと思われます。
「依拠性」とは、著作物を創作するにあたって、何か別の著作物に似せてみた、模倣してみたという認識があるかどうかということです。依拠性の有無を判断する上では、類似していると指摘されたキャラクターなど、別の著作物を知っていたかどうかがポイントになります。
![]() |
![]() |
類似している別の著作物の存在を知らないで創作し、できた著作物が「たまたま」そっくりになっていたという場合は、この「依拠性」の要件を満たしません。つまり、類似していても著作権侵害にはならないのですが、たとえばその別の著作物が全国的に著名な漫画やアニメのキャラクターだったりした場合は、「知らなかった」ことを立証するのが難しく、依拠性があるとされるケースも多いかと思います。
「木枯し紋次郎事件」の控訴審では、登録商標に使われた股旅姿の画像がテレビドラマの主人公と類似しているとされましたが、そもそも三度笠にカッパという昔の旅人のいでたちは、江戸時代の絵画にも描かれており、「独自に有している」特徴と言えるかどうかは微妙な感じがします。強いて言えば「長い楊枝をくわえている」のが特徴ということになるので、その辺りの評価が「類似性あり」という結論につながったかもしれません。
一方で「依拠性」については明白で、被告の食品メーカー自身が、かつて大流行した時代劇にヒントを得て商品を作った旨を自社のホームページでも公表していました。さすがにこれで「依拠性」を否定することは困難でしょう。控訴審では、これにより「類似性」と「依拠性」の双方が認められ、股旅姿の商標は「著作権を侵害している」という判断がされる流れになったと思われます。
累計8万人が利用!質問に答えるだけで「事業計画書・数値計画書」が完成
⇒事業計画書作成ツールを無料で利用してみる
- 日本政策金融公庫の創業計画書も作成でき、融資申請に利用できる。
- 業種別にあなたの事業計画の安全率を判定
- ブラウザに一時保存可能。すべて無料!
著作権を侵害する商標がなぜ登録されるのか
この事件での「類似性」の判断については様々な意見があるところですが、そもそも著作権侵害のおそれがあるのに商標登録されるケースがあるのはなぜなのか、と言う点に迫ってみましょう。
特許庁に出願をしても商標登録ができない、すなわち登録を拒絶されるケースにどういったものがあるのかについては、商標法に定めがあります。
商標登録を拒絶されるケースとして典型的なのが、「自分の出願より他人が先に出願し、かつ登録を受けている商標と同一であるか、類似している場合(商標法4条1項11号)」です。ここにも「類似」という言葉が出てきますが、商標の「類似」と著作物の「類似」は、少し違います。
商標が「類似している」かどうかは、見た目のデザインや文字列の読みかたなど、商標そのものが互いに似通っているかどうかに加え、それぞれの商標について使用される「商品やサービス」が共通しているかどうかによっても判断されます。
つまり、見た目などがよく似た商標であっても、たとえば片方は自動車メーカーが販売する車種の名称、もう片方は料理を提供するレストランの名称というように、商品やサービスが全く異なる場合は、いずれも商標登録を受けられることになります。著作物には商品やサービスへの使用という概念はないので、この点が違います。
そのため「商標」としては類似していないけれども「著作物」としては類似していると評価されることも起こり得ます。
私たち弁理士が依頼を受けて商標登録出願のお手伝いをするときは、現在権利が存続している商標等を検索できる特許庁のデータベース「J-PaltPat」などを用いて、類似する商標が出願・登録されていないか事前にリサーチします。もしも類似する商標が見つかった場合は、出願前にデザインを少し変更したり、指定する商品やサービスを一部変更・削除しておくこともあります。
ところで、この商標登録を拒絶されるケースとして列挙されている商標法3条1項や4条1項の各号の中には、「他人の著作権を侵害するもの」が含まれていません。
ですが、登録がされてからその商標を使用するにあたり、その商標が他人の著作権を侵害する場合は、登録商標であっても使用することができないという規定が別に定められているのです(商標法29条)。そのため、たとえ特許庁の審査を経て登録商標となった「木枯し紋次郎」の画像であっても、著作権侵害が確定すれば以後使用ができなくなってしまいます。
商標登録にはコストもかかりますから、出願の段階で拒絶されるならまだしも、10年分の登録料を支払った後で使えなくなってはたまったものではないでしょう。著作権には、特許や商標のようなデータベースが存在せず、結局一般検索などで調べるしかありません。
もっとも、先に述べたように著作権侵害が認められるには「依拠性」の要件も充たす必要がありますから、商標の出願人に別の著作物を真似る意図がなければ、著作権侵害にはなりません。商標登録出願にあたり著作権侵害に注意する上では、何かに似せようとした経緯がなかったかを確認するのが有効ではないかと思います。
加えて、著作物や商標の作成に生成AIが利用される時代に突入しつつある昨今では、本人の自覚がないまま誰かの著作物を模倣したコンテンツが生成される可能性もありますから、確認を怠らない姿勢がますます重要になってくるでしょう。
著作権に対する意識の変化
昭和から使われていた登録商標が令和になって著作権侵害を指摘された背景には、この半世紀ほどの間に人々の著作権に対する意識が大きく変わってきたこともあるのではないかと考えています。
「木枯し紋次郎事件」では、被告の食品メーカーがテレビドラマの登場人物を模して画像を作成したことが明らかでしたが、この画像を作成して商標登録した当時、メーカーには全く悪気はなかったのではないかと思います。
裁判における陳述で、この食品メーカーが「紋次郎いか」の販売を始めた頃、ドラマの「木枯し紋次郎」のキャストになっている俳優さんからお手紙をもらったという話もあり、おそらくその手紙も権利侵害に対するクレームではなく、たとえば「応援してくれてありがとう」といったニュアンスの、ポジティブな内容だったのではないでしょうか。小説・ドラマの著作権者の側にも、権利を侵害されたという意識は薄かっただろうと推測されます。
私が子どもの頃は、ディズニー等のキャラクターを使ったノベルティグッズが様々な企業で配られていたように覚えています。もちろん権利処理をした上で製造したものもあったと思いますが、テレビ番組のVTRでも著作権者の許可を取らずに美術作品などを使用した例があったようで、著作物を頻繁に扱うマスコミやメディアも含め、総じて著作権に対する意識が今よりずっと低かったのは確かでしょう。ただ見方を変えれば、昭和は今よりずっと「大らかな時代」だったと言えるかもしれません。
現在は、小説やマンガを原作としてドラマ化や映画化を行い、同時にゲームやファッションなどの商品展開やイベント開催なども行う、いわゆる「メディアミックス」により様々な事業を一団となって推進することも一般的になってきています。
この場合、各分野において著作権をはじめとした権利が誰のところにあるのかが明確にされますから、かつてのようにみんなが勝手に商品化したりすることも防げるようになり、将来的には「木枯し紋次郎事件」のようなケースはさほど起こらなくなるようにも思えます。
確かに、メディアミックスによってあらかじめ参画メンバーを限定しておけば、著作権侵害のリスクは減ると思われます。ただし、対象のコンテンツがヒットするかどうかは、メディアミックスとは全く別の問題です。
当初から狙っていたことよりも偶発的はことがきっかけで話題になり、ヒットにつながることもよくあります。「こんなの当たる訳がない」と思っていた映画が大人気になり、後を追う形で様々な商品やサービスが出てくることがありますが、これこそ「コンテンツの常」だと言ってもよいくらいだと思います。
著作権を理解し、適切に管理することはあらゆる事業において重要ですが、コンテンツの分野においてはあらかじめ権利を強固に押さえておくことには一長一短がある、ということも頭の片隅に置いておくとよいかもしれません。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 永田 由美
ひばりES社労士オフィス・ふじIE技術士オフィス
特定社会保険労務士・弁理士・知的財産管理技能士(コンテンツ・ブランド・特許専門業務)
マスコミ・メディア関連業界に約30年勤務し、取材・制作業務と著作権管理業務を経験。放送局に在職中の2010年に社会保険労務士登録、独立・開業準備中の2021年に弁理士登録。
ES(従業員満足)やワークエンゲージメント、ポジティブメンタルヘルスを重視した組織作りのサポートに力を入れており、商標やコンテンツを活用した企業や個人のブランディングに関するアドバイスなど、労働法と知財法の両面から支援を行っている。
また、かつて取材を本業としていた経緯から刊行物やウェブサイトの記事を手がけるほか、著作権実務をテーマとした以下の電子書籍を出版している。
●メディア・広報・WEB制作で働く人のための実例で学ぶ著作権の基礎と実務
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CGDK9X7L
●メディア・広報・WEB制作で働く人のための実例で学ぶ著作権の基礎と実務 応用編
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CP1Q5SPN
この著者の記事を見る
- 2026年2月8日 「登録商標」の「著作権侵害」にご用心 ~知財の種類で異なる「類似」の考え方
- 2024年12月9日 フリーランス新法の影響で著作権契約が変わる? ~クリエイターの報酬をどう考えるか
- 2024年3月8日 改変トラブルを防ぐためにクリエイターと発注者が心得ておくべき「著作者人格権」
- 2021年8月23日 「ウーバーイーツ」や「フリーランスITエンジニア」も労災の適用が受けられる? ~「特別加入制度」の対象業種が拡大~






