会計ソフト最大手が、自社製品と競合するベンチャーと提携した理由とは?【オープンイノベーション事例】

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執筆者: ドリームゲート事務局

大手企業とベンチャーのコラボ、連携から生まれるオープンイノベーションの事例を紹介
大企業とベンチャーの連携によるオープンイノベーションの事例

20140925-022014年9月24日、虎ノ門ヒルズで開催された「TOKYOイノベーションリーダーズサミット」。大企業とベンチャーのマッチングによる、イノベーション創出を促進するための一大イベントだ。大企業の持つ、資金力、生産設備、営業部隊、あるいは知名度や信用といった資源をベンチャーが活用し、圧倒的なスピードでサービスや事業を立ち上げる相乗効果を生み出す試みだ。

今回参加した企業は、大手企業が約100社、ベンチャーが500社弱。マッチングは午前10時半から午後6時までの間に行われ、7分から15分単位の商談を次々と行うという形式。同マッチングでは延べ1500超の商談が実施され、そのうちの3分の2以上、1000件ほどが継続したさらなる交渉・商談に進む見込みだ。

今回の「スマビ総研」は特別篇として、大手企業とベンチャーのコラボ・連携から生まれるオープンイノベーションの事例を紹介したい。

会計ソフト最大手が、自社製品と競合するベンチャーと提携した理由とは? 「Misoca(ミソカ)」と弥生株式会社とのコラボレーション事例
大手とベンチャーによるイノベーション事例1

企業にとって、面倒だが重要な事務処理業務の代表が経費精算、そして請求書の発行と管理だ。通常、営業部門などから報告・申請を受けた経理部門が一括して発行・管理することが多いが、経理業務の簡素化≒経理部門にかかる人件費等の削減を狙って、現場の人間が直接請求書を発行するフローを採用している会社が増えてきている。特に中小零細であればその傾向が強いが、一元管理されていないため請求書自体の管理・紛失・入金確認漏れなど、トラブルになるケースも見受けられる。

20140925-02そうしたアナログな請求書管理をクラウド化したサービスを提供しているベンチャーとして有名なのがスタンドファーム株式会社だ。同社が提供する「Misoca(ミソカ)」は無料で使える請求書管理サービス。見積・納品・請求書を同社が提供するツールで簡単に作成でき、印刷やPDFダウンロード、あるいはそのまま郵送依頼することも可能。当然だが、請求金額を集計すれば売上高の管理もでき、入金消し込みや会計ソフトに入れられるデータ形式でのダウンロードもOK。2011年11月からスタートした同サービスは、2014年9月時点で1万8000以上の事業所が利用している。

また同社は、会計ソフト最大手・弥生株式会社との事業提携を、2014年9月24日に開催された「TOKYOイノベーションリーダーズサミット」のセッション内で発表した。弥生株式会社が2014年7月7日に公開した自動仕訳システム「YAYOI SMART CONNECTT」と連動させたかたちの提携だ。実は弥生株式会社も請求書管理のソフト「やよいの見積・納品・請求書」を販売している。ある意味、自社製品と競合するベンチャーと連携することになるが、弥生の岡本浩一郎社長は、同セッション内にて以下のようにコメントしている。

「Misocaは競合ではありますが、先日発表した YAYOI SMART CONEECT では、さまざまなサービス、ベンチャーと組むことで、新たな価値が生まれると考えています。Misocaで請求書を発行しているユーザーのデータは、弥生の製品に簡単に取り込めますので、会計処理も楽になります。ユーザーの利便性を考えれば、自社製品以外のサービスと連携していくことは、結果として当社にとっても有益になります。今回のセッションのテーマでもある『ベンチャーと大企業の連携による破壊的イノベーションイベント』は、共同で新たな技術開発や商品開発をするという段階にとどまらず、本業の領域にまで踏み込みながら、新たな価値を生み出す取り組みだと思います。」

また、「Misoca」を提供するスタンドファーム社の代表取締役・豊吉隆一郎氏は、弥生との提携について以下のようにコメントしている。

20140925-02「ベンチャーの使命は、自分たちに見えている未来や価値を世の中に提供していくということだと思っています。我々は受注から入金までのビジネスプロセスが10年後、20年後どうなっているか、どうしたら飛躍的に改善できるかを常に考えています。ベンチャーの強みは、リスクが高くとも、現状維持のなかからは生まれない、突拍子のないアイデアを次々と試すことができることです。そういったベンチャーならではの強み、技術力、そこに弥生の膨大なノウハウやネットワークを加えることでどんな面白いことができるのか、大きな期待をしています。」

弥生に続いて国内大手WebインテグレーターであるIMJの系列VCから出資を受けたクラウドキャスト社。無料で使える経費精算アプリ「Staple(ステイプル)」を9月17日にリリース。
大手とベンチャーによるイノベーション事例2

以前、スマビ総研で紹介した「bizNote」を運営するクラウドキャスト株式会社。9月24日に開催された「TOKYOイノベーションリーダーズサミット」に参加した同社は、2014年9月17日、個人向け無料経費精算アプリ「Staple(ステイプル)」をリリースしたが、合わせて増資の発表も行った。出資したのは、国内最大手のWebインテグレーターであるIMJ社を母体としたベンチャーキャピタル、IMJ investment partners。同社は2013年に、弥生からも出資を受けている。両社の持つ顧客基盤や製品・サービスとの親和性も提携を決めた大きなポイントだろう。

ちなみに、「Staple」を開発・運営しているクラウドキャスト社は、会計ソフト大手の弥生が主催したアプリコンテストから生まれたベンチャーだ。同社では弥生と協業施策の第一弾として、個人事業主向けスマートフォンアプリ「bizNote for やよいの白色申告 オンライン」を2014年7月7日にリリース。アプリ名のとおり、「やよいの白色申告 オンライン」の取引入力に特化したスマートフォンアプリだ。

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そして、同社が発表した無料経費精算アプリ「Staple(ステイプル)」の狙いはどこにあるのだろうか。経費精算用アプリはこれまでもあったが、同アプリがユニークなのは、まず個人で利用する場合は「完全無料」であること。そして承認フローを切り離し、とにかく経費を入力することだけに特化。入力された経費データは、別途ベータ版としてリリースされている法人向け(チーム版)で承認などできる。また、スマートフォンがネットにつながっていなくても使えるネイティブアプリというのも嬉しい。電車やタクシーで移動しているとネットにつながらないことも多いが、そうした隙間の時間を使って経費精算ができる。

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同社の狙いとしては、まずは現場のビジネスパーソンに楽に便利に使ってもらえる無料ツールを提供すること。その利用が広がれば、自ずと有料の法人向けサービスも導入しやすくなる。つまりBYOD×ボトムアップ型で、企業の業務システムに食い込んでいくことを狙っている。

Staple from Crowd Cast, Ltd. on Vimeo.

大手企業もベンチャーと連携して、新サービスをスピーディーに展開する時代
市場の変化、ビジネスチャンスが広がる背景

弥生は、会計ソフトのマーケットシェアが金額ベースで7割超という国内最大手だが、クラウドキャスト社や請求書発行サービス「Misoka」を手掛けるスタンドファーム社と積極的に連携を進めている。

弥生がそうしたベンチャーと組む最大の理由は、ベンチャーの持つスピード感にある。大企業が新しい市場に挑戦する際、短期間でユーザーの支持を獲得し、大きなシェアを取れるサービスを自社開発できればよいが、往々にして自社開発は時間がかかる。

大企業は組織が大きいため、意思決定がどうしても遅いのだ。しかし、ユーザーや市場は待ってはくれない。移り気なユーザーをいかにキャッチするか、サービスの改善や改変をいかに高速に回せるか……機能やインターフェースを少し変えるのに社内稟議を待っていては、時代の変化とスピードに太刀打ちできない。ゆえに、ベンチャーと組んで自社のビジネスを広げる戦略を選択したのだ。

クラウドキャスト社と弥生との連携は、まさにオープンイノベーションの好例といえるだろう。スマビ総研でも、今後はこうした大企業とベンチャーのコラボ、連携から生まれるオープンイノベーションの事例を、積極的に紹介・解説していきたい。

当記事の内容は 2014/9/30 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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