二人で起業したベンチャーが4カ月で社員70名に!ソーシャルアプリ市場で急成長を続ける「トライフォート」

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執筆者: 中田 哲也

従来では考えられない超急成長。SIerとはまったく違うテクノロジーベンチャー
展開している事業内容・特徴

trifort1二人で起業したベンチャーが4カ月で社員70名に拡大。ほとんどがエンジニア・クリエイターだ。今春には新卒を数名ほど採用予定で、すでに5、6名の内定者が働いている。創業1年に満たない会社が新卒採用というのもビックリだが、今回取材したトライフォート社は、まさに超急成長をはじめたばかりのベンチャーである。その成長の秘密を解き明かしていこう。

同社のビジネスは、いわゆるシステムの「受託開発」だが、FacebookやiPhone、Androidなどのプラットフォームで動くサービスやソーシャルアプリに特化している。モバイルでもガラケーと呼ばれる分野や、Webシステム開発などは「捨てている」そうだ。

今もっとも注目され、かつ成長マーケットであるソーシャル×スマートフォンというマーケットに集中するというのは理にかなっているが、同社の急成長の秘密はそれだけではない。

創業者の一人であるCTOの小俣泰明氏によれば、もはやソーシャルアプリは「つくれて当たり前」。すでに、ただつくれるだけの会社は生き残りが厳しい状況にあるという。

トライフォート社の最大の強みは、ソーシャルアプリ開発の技術力だろう。アプリ単体の開発力はもちろん、アプリやサービスを動かす裏側のサーバやネットワークインフラを含めた総合的な技術力が、他社と比べ圧倒的に高い。

例えば、スマートフォンアプリ開発の世界では、わずか0.1秒の反応の遅れで20%ものユーザーが離脱するというデータもあるそうで、この0.1秒をどうやって縮めるかが開発競争の勝負の分かれ目となる。

つまり、レスポンスを向上させる技術力が非常に重要なわけだ。レスポンスを高めるために、トライフォート社は自社でデータセンターを運用。データセンター事業者から場所と回線を借り、サーバなどの設置・メンテ・運営は自社で行っているそうだ。サーバ自体の性能はもちろん、アプリやサービスを支えるITインフラすべてにこだわり、コンマ数秒のレスポンス改善という成果を追求できる。昨今、クラウドサーバを借りてサーバは業者にまかせっきりという楽なスタイルが当たり前になってきたが、同社はその真逆をいっている。競合が太刀打ちできない理由がここにある。

トライフォート社にはソーシャルアプリの大手からナショナルクライアントと呼ばれる大企業まで、ご指名で仕事が次々と舞い込んでくる。今のところ「国内には敵なし」という同社。仕事を選べるほど強い立場にあるわけだが、小俣氏はそうした状況を一言で「SIerはクソだ」と言い切った。

それは、日本のシステムインテグレーター、いわゆるSIerと呼ばれる業界の悪習からだろう。長引く不況やIT環境の激変に伴い、SIerは苦境下にあるが、それでも旧態然としたビジネスを続けているなかで、そもそも新しい分野への技術的な適応が追いついていなかったり、受注獲得のための「値下げ合戦」が続いている。その価格競争は開発者の待遇に反映される。「一人月いくら」という世界で、薄給で技術者を使い捨てにしてきたようなところがある。ドリームゲート事務局も長年システム開発を発注していたり、事務局内にはSIer業界に身を置いていたスタッフもいるので肌感覚でわかるそうだが、システム開発の見積はここ数年で半額以下の水準だという。見積を取ると、「これで利益が出るのか」と心配になるほどだそうで、小俣氏の言い分はもっとも至極当然なことばかり。求められる技術を徹底して追求し、技術力で真っ当に勝負していけば、相応の対価は当然獲得できるのだ。

有名ベンチャーのトップ営業マンと凄腕エンジニアがタッグを組んで起業。
人材採用競争の激戦区で、4カ月間に70名を採用出来た理由
ビジネスアイデア発想のきっかけ

trifort2同社のスタッフ数は2013年前半には100名を超える見とおしだという。近年、IT系のエンジニアやクリエイターの獲得は困難で、なかなかよい人材が集められない。某大手ソーシャルアプリ会社では、「入社祝い金として200万円を差し上げます」といったキャンペーンを行い、それがニュースにもなったほどだ。それほどまでに、ソーシャルやスマートフォン関連企業の技術者採用ニーズは強い。

にもかかわらず、同社が大量にエンジニアを採用できたのはなぜか。それも同社の売りは圧倒的な技術力。つまりエンジニアの質は抜群に高い。その理由を尋ねたところ、「ブランド」という答えが帰ってきた。「創業まもないベンチャーにブランド?」と訝しげに思う方もいるだろう。ここでいうブランドとは、創業者である小俣氏と大竹氏の「ネームバリュー」だ。

小俣氏は業界内では有名なエンジニアで、前職は上場したITベンチャーCROOZ社の技術担当役員。それ以前はNTTコミュニケーションズに勤務していたそうで、ベンチャー企業に転職して成功したエンジニアとしてメディアに幾度も登場している。

もう一人の創業者である、CEOの大竹慎太郎氏はサイバーエージェント社の出身。それも入社2年目に全社MVPを取るほどの優秀な広告営業マン。前職のSpeee社では、経営企画の担当役員を務めていた。そうした2人が組んだとなれば、話題にならないわけがない。面白そうなベンチャーが出てきて、そこに野心家のエンジニアやクリエイターが次々と同社の門を叩いているというしだいだ。

大手ソーシャルアプリ会社はすでに数百人からの陣容で規模的には大企業だ。今さらそこに入っても下積みからスタートだ。しかし、トライフォートのような新進気鋭のベンチャーであれば入社早々に重要なポジションや仕事にトライできるチャンスがある。そこに魅力を感じるエンジニアが続々と集まってくる。

採用に関して特別なPRをしているわけでもない。同社の採用方針は「技術力」が中心。年齢も国籍も問わない。とにかくできる人であればウェルカムという姿勢だ。面談に訪れる人材の年齢層は、上は40歳から下は20歳と幅広い。

「年齢が高くても、技術一筋の本当に腕のよいエンジニアだったりする。とてもありがたい」とCTOの小俣氏は語る。Googleやfacebookはエンジニアに手厚い待遇をしていることで有名だが、日本ではまだまだIT人材の扱いが低く、「日本のITエンジニア35歳定年説」などと揶揄されるほどだ。しかし、これだけIT、特にソーシャルやスマートフォンの市場が急拡大している時代において、いかに優秀な人材を抱えられるかが、企業の明暗を分けるといっても過言ではないだろう。

また、CEOの大竹氏によれば、これだけ短期間で大量の採用ができたのは、あるメンバーの存在も大きいという。それは、大竹氏、小俣氏と立ちあげメンバーに続く初期のメンバーで、実は起業前後から「トライフォート社に入りたい」と申し出ていた人事担当だという。それも人材採用エージェントに勤務していた人物。そんな採用のスペシャリストが起業前後からサポートしてくれたことも成功した理由の一つだろう。

技術力を母体としたインキュベーションモデルを確立する
将来への展望

2012年8月に設立されたトライフォート社。起業後は増資をしつつも、資本金は創業者の大竹氏と小俣氏の自己資金のみ。あとはすべて受託開発の売り上げと、開発後の運用費だけでこの急成長を遂げているということになる。取材をした日は年末で、同社が渋谷のオフィスに引っ越しをしてまだ2日目。

オフィスは200坪以上という広さだが、凝った内装は一切なし。整然と机と椅子が並べられ、何十人もの開発者がワイワイガヤガヤと開発を進めていた。CEOの大竹氏によれば、「どうせまた手狭になって引っ越すので、余計なところにはお金も時間もかけない」と割り切っているとのこと。

オフィスの様子もベンチャーらしい。ガムテープで固定しただけのLANケーブルが床を這い、開発用に使うサーバが何台も床に置いてある。入口付近では地べたに座りサーバをいじっているエンジニア集団。普通の会社では怒られそうな光景だが、CTOの小俣氏は彼らに気さくに話しかけていた。仕事をしているというより遊んでいるかのような楽しげな雰囲気だ。

「技術力を母体としたインキュベーションモデルを確立する」が、同社の目指す未来だ。ベンチャーの成長を語る際、「資金」を軸にすることが多い。まず資金・ファンドがあり、ビジネスモデルを磨き込み、起業したばかりの若い経営者を指導するさまざまな経営のプロがいて……。

しかし、同社の考えるインキュベーションモデルは違う。圧倒的な技術力というバックボーンがあれば、必ず革新的なサービスが生まれると考えている。ビジネスモデルやサービスありきではなく、それを生み出し、育て、支えていく技術力こそもっとも重要ということだ。

これは、ITベンチャーの最前線にいる大竹氏と小俣氏の実感だろう。近年のIT関連ビジネスの変化スピードの速さはご存じのとおり。Apple社の売り上げ構成はここ5年で7割も変わっている。そんな状況のなかで5年先、10年先を見据えて……意味がない。そう考えているのだ。また、実際に世界を変えてきたベンチャーは技術あってこそ。我が国でいえば、かつてのソニーやホンダ。世界を見れば、マイクロソフト、google、facebook、amazonなども同じだろう。

トライフォート社では自社サービスも企画・検討中だそうだが(どんなサービスかは一切極秘)、仮に新しいサービスが生まれてうまくいきそうであれば、早々に子会社化したり、サービスごと売却するなど切り離すことを考えているという。トライフォート社はあくまで技術者集団であり続けたいのだ。

ちなみに、同社のような考え方のベンチャーはほかにもある。KLabやカヤック、チームラボが挙げられる。Klabが元々はサイバード社の研究・開発部門なのは有名な話だが、サービスありきというより、コツコツ積み上げてきた技術力がベースにあったからこそ、いち早くソーシャルゲームという新市場に参入し、生き残り、上場できたわけだ。

そうはいっても、CEOの大竹氏にこれから数年先の見とおしを聞いてみた。人員は100~120名程度で一旦落ち着けたいという。それくらいが、自分たちの現時点での規模の限界だと見ている。売り上げ的には3年後に100億、経常利益20~30億円が目標だ。

最後に競争相手として意識している相手を聞いたところ、「facebook」と即答。「いつかはfacebookを抜きたい、世界中で使われるインフラになるようなサービスをつくりたい」というのが若き二人の起業家の夢だ。この二人の視線の先にはどんな未来が見えているだろうか。その実現に期待せずにはいられない。

株式会社トライフォート
代表者:小俣泰明(CVO/CTO)、大竹慎太郎(CEO) スタッフ数:70名
設立:2012年8月 URL:http://www.trifort.jp/
事業内容:
ソーシャルアプリの企画、開発、運営。データセンター事業。

当記事の内容は 2013/1/15 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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