不可能を可能にした農業で新たな活路。
寒冷地でも栽培できる「那珂パパイヤ」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 山田 貴大  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

半年で収穫ができる栽培手法を確立。
温暖な地域にも劣らない成果を実証
展開している事業の内容・特徴

20160628-1東南アジアなど、熱帯の国々で健康野菜として親しまれている「青パパイヤ」。国内では主に沖縄県や鹿児島県で生産されているものの、冬場は気温が下がるため、収穫量が定まらず、市場に出回る量は少ない。

しかし、そのような南国植物を茨城県那珂市で栽培している企業がある。それが株式会社やぎぬま農園だ。代表を務める栁沼正一氏は、ODA(政府開発援助)コンサルタント会社に勤務した後、農業指導や資材販売をしながら、パパイヤの栽培研究を10年間も続けてきた。

「日本でパパイヤを路地栽培するうえで、冬を超させることは無理。ものすごくお金かかりますから。でも越冬ができないのなら、遅霜を避けて早霜までに収穫すればよいだけの話。半年のサイクルで何とか栽培できないかと考え、当時住んでいた熊本県の霜が降りる山間部などで、さまざまな研究を繰り返していました」

その結果、4月に苗を定植し、9月半ばから11月までに収穫を行う独自の栽培手法を確立した。しかしなぜ、熊本よりも寒い茨城で起業したのか? やはり、つくったものは売らねばならない。だから、本格的な生産を始めるなら、消費者人口の多い首都圏でと栁沼氏は決めていた。さまざまな場所を検討したが、最終的には知り合いの農家が茨城にいたことがきっかけとなり、日本有数の農業県・茨城県で本ビジネスを本格化することとなったのだ。

「沖縄などは冬場にパパイヤの木が枯れないので植え替えは不要です。でも、茨城では毎年植え替えないといけないから不利。それでも収穫量はかなりのものとなりました。沖縄で1年かける収量と、我々の2カ月の収量がほぼ一緒なわけですから。それぐらいよい土をつくっているし、強い苗をつくっているという自負があります」

栁沼氏は、「那珂パパイヤ」というブランドとして商標登録を済ませており、農林水産省の六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画の茨城県第一号認定者にもなった。栽培から収穫、実・苗の販売、加工まで幅広く事業を展開し、ほか独自にオーナー制度やパパイヤ専門の料理教室を設けるなど、今なお多くの消費者が気軽にパパイヤに触れられる環境をどんどん整えている。

食文化として根付くまでの長い道のり。
最低限の開発費を確保する必要性も
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20160628-2栁沼氏とパパイヤとの出合いは、ODA(政府開発援助)コンサルタント会社に勤務していた時代にさかのぼる。ODAでかかわるエリアは熱帯地域の諸外国が主で、パパイヤが食文化として根付いている国が多かった。そして、食物としてのパパイヤを調べ勉強していくと、未熟果の青パパイヤは、ものすごく体にいい“野菜”だという事実に行き着いた。

「会社を退職した後、専業農家の方々に向け、無農薬有機栽培などの指導をしていました。ある年、九州でトマトのウィルス病の被害がひどく、年間300億円くらい損害が出た。それでパパイヤでもつくってみたらどうかと提案したのですが、やっぱり専業農家だから、すべてを投げ出すことができないんですよね。だったら自分でやってみようと」

一番費用対効果が高い売り方は、加工しない生のパパイヤをそのまま販売することだ。ただ、日本にはパパイヤを野菜として食する文化が根付いておらず、スーパーで販売をしたとしてもなかなか売れないのが現状だ。また、青パパイヤは保存期間が短い。ゆえに加工品をつくって売るためには、それなりの設備投資が必要となる。

「国は六次産業化を推進しているけど、基本的にビジネスとして農業に本格参入するのであれば、最低でも5000万円~1億円は資本として持っていないと難しい。私の場合も、個人や法人で長年やってきて、少なくとも1億円は投資しています。それくらいやらないと成功できないと思います」

栁沼氏は、大手小売店などとの取引に備えて、青パパイヤ63トンを常備保管している。それだけでも年間で400万円の出費になるという。だが近年、NHKの番組が国産パパイヤを特集するなど、いい風が吹いてきた。実際、果実、加工品の販売量も増加し、苗の購入者は、農家、個人含め数百人規模に急増しているという。

風向きの変化で売上高は右肩上がり!
大切なのは青パパイヤの可能性を信じること
将来の展望

20160628-3同社の売上高は、右肩上がりで上がっている。同業が少なく価格競争が不要なので、「那珂パパイヤ」知名度を高め、効率的に広告宣伝を行っていけば、実は引く手あまたの市場なのである。栁沼氏が国産青パパイヤの知名度を高め、食卓に普及していくことは、業界の先駆者として、ある意味、宿命となった。

「どうにもならない究極のピンチを乗り越えてかないと成功者にはなれません。追い込まれることは常にありますよ。でも、この青いパパイヤは、自ら世に出ていく力を持っているから、何も心配してない。こちらでどうこうやるというより、パパイヤがその力を持っているのだから、それを私が助けてあげればよいのです」

栁沼氏が目指しているのは、やぎぬま農園の成功ではない。今、彼は、パパイヤを栽培する集団を全国各地に立ち上げ、生産組合を確立することに力を注いでいる。小規模農家は、収量が少ないゆえに、常に買い叩かれてしまうことが多い。しかし、民間の生産組合として収穫物をまとめて販売すれば、量を確保できるので流通と対等に商売をすることができる。その突破口となる力を、パパイヤが持っていると、栁沼氏は信じている。

弱い立場にある農家がチカラを合わせ、地域の特性にあった栽培方法を確立し、集団で行動していく。今後、TPPを含めて農業にまつわる国際情勢が変わっていくなか、栁沼氏のような新たな切り口の農業ビジネスが、日本の農業をいい方向に変えていくのかもしれない。

株式会社やぎぬま農園
代表者:栁沼 正一氏 設立:2014年12月
URL:http://yaginuma-papaya.com/ スタッフ数:3名
事業内容:「那珂パパイヤ」の栽培、加工、販売(パパイヤ畑に直売所を設営)。

当記事の内容は 2016/06/28 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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