数億トンの厄介者をビジネスに!クラゲを医療・美容分野で活用するベンチャー「海月研究所」。

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

毎年、駆除費用がかかるクラゲを有効資源に! 医療用から美容・化粧品まで用途は無限大!
展開している事業内容・特徴

20141118_22002年以降、毎年のように大発生しては深刻な漁業被害などを引き起こしているエチゼンクラゲ。テレビの報道などでその巨体を見た方も多いだろう。直径2メートル、重さ200キロにもなる厄介者だ。この他にも発電所に押し寄せるミズクラゲや、北海道東北の漁業者を悩ませるキタミズクラゲなど、日本の沿岸にはクラゲが大量に発生している。現在のところクラゲは有効な活用用途もなく、網にかかるとその場で機械を使って破砕・裁断するなどして廃棄処分するしかない。しかも、あまりに大量に網にかかるため、その駆除コストとして、水産庁や各自治体から補助金が出ているほどだ。

そんな厄介者のクラゲを「資源化」しているベンチャーがある。それが今回紹介する株式会社海月研究所だ。

同社は、クラゲからコラーゲンJelliCollagen®とクニウムチンJelliMucin®という物質を抽出・加工し、販売している。特にクニウムチンは、それまで大量生産する手段のなかったムチンを安価に大量生産できる新物質として注目されている。このムチンは変形性関節症などの治療で使われるヒアルロン酸注射に加えて投与することで、その効果を高め修復作用も期待できる。

変形性関節症の患者は約700万人(※1)もいるといわれているが、そんな多数の患者をクラゲが救うというわけだ。
※1 平成18年版科学技術白書より

また、コラーゲンは、医療用途から食品、美容、化粧品など幅広く活用されている物質だが、これもクラゲからの抽出に成功している。従来のクラーゲンは、ウシ、ブタなどの動物由来のものが一般的だが、同社がクラゲから抽出したコラーゲンは非動物性ということがポイントとなっている。安全性や品質ももちろん、グローバルで考えれば「ハラル」(イスラム法で許された項目)などへの考慮が重要になる。イスラム圏ではブタ由来よりも、海産物であるクラゲ由来のコラーゲンが好まれるだろう。

抽出したコラーゲンは、化粧品などの原材料として卸売するほか、同社自身でオンラインショップも立ち上げ、「コスメα」という化粧品ブランドや、コラーゲン配合の洗顔化粧石鹸「海乃月」という商品名で販売している。取材をした2014年11月時点では、コラーゲンビジネスが同社の売り上げのメインとのことだ。

海月研究所では、エチゼンクラゲのほか、ミズクラゲ、ビゼンクラゲも加工対象として研究・商品化を進めている。ミズクラゲは直径15~30センチくらいの小型のクラゲで、世界中に分布しており、日本近海でも毎年のように大発生している。

ビゼンクラゲはその名のとおり、古くは備前、岡山地方に多く生息していたが、近年は有明海などで大発生して問題になっている。同社では有明海の漁師と協力し、このビゼンクラゲの研究を進めており、2015年には商品化の予定だ。

海月研究所代表の木平孝治氏に伺ったところ、エチゼンクラゲ、ミズクラゲ、ビゼンクラゲを含めて、6種類ほどのクラゲが資源化できるとして研究を進めている。

ちなみに、世界的に見てもクラゲを資源あるいは食用としている国・地域は非常に少ない。クラゲを食べる文化があるのは日本以外では中国が有名だが、中国では30年前からすでに食用クラゲの養殖に取り組んでいるという。

大手臨床検査会社を辞してベンチャーの道へ。2度目の起業挑戦で、クラゲに賭けた!
ビジネスアイデア発想のきっかけ

20141118-8木平氏は、そもそもクラゲが専門というわけでなく、元々は外資系医薬品会社の日本法人に20数年ほど在籍し、臨床検査、特に血液での診断技術などの分野で仕事をしていた。その後、その会社が国内の同業大手に買収された頃、独立してみたいという思いがつのり、2000年に一度目の起業を果たす。

その時に手がけたのは、電子カルテ事業や医療支援システム事業。しかし、その事業はうまくいかず1年ほどで精算。その後、さまざまなベンチャー企業に顧問などとして関与するうち、「クラゲ」と出会った。

クラゲからムチンを取り出す技術は、理化学研究所と信和化工株式会社が共同で、糖タンパク質「ムチン」、すなわちクラゲ由来ムチンという新物質を発見・抽出したことがスタートとなった。その後、この研究内容をもとに事業化の話が進み、独立行政法人 科学技術振興機構の『2006年度JST大学発ベンチャー創出 推進課題「クラゲ廃棄物から抽出した新規ムチン生産の企業化」』に採択され、産業利用に向けた応用開発がスタートした。

そして3年間、約2億円の研究費で応用研究、事業化検証が進み、このビジネスモデルに賛同し積極的支援をしてくれていた丸和油脂株式会社の強い後押しの基に2009年4月3日に株式会社海月研究所が設立された。

ただ、ムチン自体をビジネスに乗せるにはまだ課題も多いため、まずはすでに大きな市場となっているコラーゲンをクラゲから抽出・加工・販売する事業からスタートすることに。

木平氏がクラゲビジネスに挑戦しているのは、世界中でクラゲの異常発生が頻発し未利用資源として膨大な量が存在し原料として枯渇の心配が全くないため、大きなチャンスがあると踏んだからだ。

本社は、神奈川サイエンスパーク(KSP)に入居。取材をした2014年11月時点で研究員5名という体制だ。また製造などで協力関係にある丸和油脂株式会社の春日部工場と、JFEグループが所有する研究施設群を活用したサンエンスパーク「JFE-Think」内にもラボおよび製造設備を持っている。

クラゲビジネスは、グローバルで進む。大量加工・商品化、販売体制の確立を急ぐ!
将来への展望

木平氏によれば、実は海外のベンチャーもクラゲに目をつけはじめているそうで、すでにドイツで再生医療用に活用しようとしているベンチャーが登場したそうだ。また、イスラエルでは人工皮膚関連のベンチャーが、クラゲの研究を進めている。他方、イギリスではGMP基準(※2)を満たしたクラゲ由来製品の製造が始まっている。クラゲ活用はグローバルで広がりつつあるようだ。
※2 GMP…アメリカ食品医薬品局の製造品質管理基準

木平氏に今後の展望を伺ったところ、まずはクラゲを大量に集めて加工し、商品として販売する体制の確立が急務とのこと。クラゲはパッチと呼ばれる個体群集を形成し、その量は1000トン単位になるという。そのため、加工・流通・商品化も、それだけの量がさばけるやり方を考えなければならない。同社は今、将来的に数万トン単位で処理できる仕組みを構想している。

マーケットとしては、現在の市場シェアを総取りするくらい大量のコラーゲンを生産・販売するのが目標だ。また、ムチン関連では海外10カ国で物質特許が成立している。それらの知財を武器に、クロスライセンスなどでの海外展開も視野に入れている。

クラゲを資源化・消費することができれば、大発生も抑えられることができる。もちろん、漁師の新しい収益源にもなる。なにより海洋環境の保全にもつながる。まさに三方よしのビジネスなのだ。その実現が、同社の目指している未来である。

株式会社海月研究所
代表者:木平 孝治氏 設立:2009年4月
URL:
http://www.jfish-lab.com
スタッフ数:
事業内容:
医療・化粧品・食品分野におけるクラゲ由来天然素材(クラゲ由来ムチン型糖タンパク 質、クラゲ由来コラーゲン、その他)の製造・販売・研究開発およびライセンス業

当記事の内容は 2014/11/25 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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