勉強好きをつくる!? 子どもの特性から最適な指導方法がわかる教育システムを手がける「アルクテラス」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

学習塾市場で大反響。最適な勉強法を教えてくれるシステム
展開している事業内容・特徴

arcterus1少子化が進む我が国では、子どもの数がどんどん減っている。今、日本国内の教育市場は約9000億円程度といわれているが、少子化のスピードに比べて市場規模の縮小は緩やかだ。その理由として挙げられるのが、教育費は家計の中で削減されにくいこと。

まず、お父さんの小遣いが減らされて(笑)、次にレジャー費や食費。子どもの教育費を削るのは最後になる。また、親が出せない分は祖父母などの財布からサポートされることもあり、教育市場の規模維持につながっている。それだけ日本の教育熱は高いという証左でもある。

塾などの教育関連企業は、単価の安い大学生を講師に使い、コストを抑えて割安なサービスで集客しようとしている。しかし、優秀な大学生でも、勉強を教えることは素人。個別に講師の質を上げるノウハウが塾ごとにあるだろうが、本質的に素人が学習指導しているという構造に変わりはない。だから、教え方が合わない講師に当たると、子どもの学習効率が上がらない、成績が伸びない、勉強が嫌いになる……といったマイナススパイラルに陥る可能性もある。

学習塾のこうした構造的な課題を解決するシステムを開発・提供しているのが、今回紹介するベンチャー「アルクテラス」だ。

同社の学習システムは、まず子ども一人一人の「特性」を調べることから始まる。そして、それぞれの子どもの特性に応じて単元別の学習方法・指導方法を提示してくれる。

子どもの「性格」を診断するシステムはこれまでも存在していたが、学術的理論に基づいて科学的に子どもの「学習特性」を分析し、それを単元別の指導方法にまで深堀したシステムはアルクテラスが日本で唯一提供しているそうだ。

例えば、耳から聞いて理解する方が早い子どもと、黒板などに書かれた文字を目で見て理解するほうが得意な子どもがいたら、教え方は自然と違うものになる。そうした学習特性別に指導方法を変えることで、指導効果を高め、本来の力を引き出すことができるのが同社のシステムの強みである。

アルクテラスは、この画期的なシステムをクラウドから低料金で学習塾向けに提供している。直接教育サービスを行うのではなく、学習塾向けにシステム提供することでレバレッジを効かせ、素早く市場展開する。これが、同社のビジネスモデルである。

実際、塾業界から同システムの反響はかなり大きい。スタート当初は自社で直接販売していたがすぐに手が足りなくなり、現在は強力な販売パートナーと提携して全国で拡販を進めている。

生死をさまよったなかで決断。世界で眠っている知力を引き出したくて起業
ビジネスアイデア発想のきっかけ

arcterus2アルクテラスを創業した新井豪一郎氏は、子どもの頃、勉強が大の苦手だったそうだ。しかし、小学6年生の時に自分で編み出した勉強法で学習能力が開花。途端に勉強が面白くなり、成績はぐんぐん上昇。高校受験で慶應義塾志木高等学校に合格。この時、「先生の教え方が自分の合わなければ学習効率は低い。得意な方法で勉強すれば成績は伸びる。ポイントは自分に合った方法で勉強できるかどうかだ。」という気づきがあり、現在のビジネスのアイデアにつながっていく。

学生時代には塾講師のアルバイトを行い、教育ビジネスへの興味があったものの、就職先はNTT。法人営業などをこなし、起業準備として慶應義塾大学大学院でMBAを取得する。卒業後、経営者の視点で考える訓練をするために米国の戦略系コンサルティングファームに入社。コンサルタントとしての仕事はあくまでも起業に向けての準備と位置付け、3年後教育ビジネスでの起業を決意した。

新井氏は事業展開のスピードを高めるため、リゾート会社との提携を求めリゾート再生ビジネスで有名な星野リゾートに注目した。しかし、星野リゾートの社長とのつながりはまったくない。そこで、星野リゾート社の中途採用に応募し、直接社長に会おうと決めた。面接はトントン拍子で進み、いよいよ星野社長との最終面談。そこで思いのたけをぶつけた。「御社と事業提携したい」

正直、激怒されるかもしれないという大博打だったが、星野社長は「面白い。提携しよう」と即答。そして、星野社長との事業提携に向けて事業の立ち上げを進めた。

しかし、検討を重ねた結果、新井氏の当時のプランでは採算が合わないという結論になった。星野社長に事業提携の辞退を申し出るが、当時星野リゾートが世界的に著名な投資家・ジョージソロス氏のファンドと組んで立ち上げたスキー場再生会社の取締役COOのオファーを受ける。「スキー場再生の仕事は面白くてたまらなかった」と、当時を振り返って新井氏は語る。

しかし、人生を変える出来事が起きる。スキーをしていた新井氏はコース外の樹木に衝突する事故に見舞われた。肋骨が数本折れ、それが肺に刺さる重体。救助があと一歩遅かったら死んでいたという状況下で、新井氏は思った。「本当は教育事業をやりたかった。世界中の子どもたちの知力を引き出したい」と。

九死に一生を得た新井氏は、教育改革が自分の使命と再確認し、その夢に向けて再び動き出した。しかし、星野リゾートでの仕事を放り出すわけにもいかない。リゾート再生の仕事を進めつつ、自分の目指す理想の教育事業のための準備を開始した。

それから準備に3年をかけ、満を持して星野リゾートを退職。2010年10月に起業した。創業メンバーには慶応MBAの同級生だった白石氏(現副社長)を誘い、それ以外にもアルバイトスタッフ6名という陣容での船出。

まずはスタッフへの給与も含めて、事業を継続させるための運転資金を確保する必要がある。経営コンサルなどで食いぶちを稼ぎつつ、サービスの開発に1年半をかけた。

サービスの開発に当たっては、世界中からさまざまな論文を集めては読み漁り、その中で探し求めていた理論が掲載された論文を書いた教授に会うために京都に出向き、喫茶店で3時間も熱心に自分の思いを語って協力を取りつけた。その教授を中心に、教育分野で著名な学者による研究チームがバックアップにつき、新井氏の求めるサービスが徐々にかたちになっていく。今までにないサービスだったため、開発は難航したが、有能なスタッフにも恵まれて、なんとかうまく乗り切ったそうだ。

そして2012年4月、スキー事故に遭ってから実に5年近くの準備期間をかけて「カイズ」という学習指導システムをリリース。このシステムは業界内ですぐに話題となった。特に現場で指導方法に悩む塾講師や教育方法に悩む母親に好評で、サービスは順調に伸びていった。

ちなみに、「一番ニーズが高いのが数学」だと新井氏。読者の中にも数学が苦手な方は多いだろう。実は教え方の違いでもっとも学力に差が出る教科が数学なのだそうだ。

世界の知力を引き出す! 日本からアジアへ、アジアから欧米諸国へ
将来への展望

新井氏に今後の展望を伺ったところ、「アルクテラスの事業を日本国内に留めるつもりはない。子どもの学習特性に合わせて異なるアプローチをとるアルクテラスの教育手法はどの国でも活かせる。日本からアジアへ、アジアから世界各国へ事業を拡大し、世界の知力を引き出したい」
さらに
 「日本の学習塾・予備校産業は、世界の中でもっとも発展している。構造的な背景として日本は教育支出に占める私費負担の割合が世界の中でももっとも高い国の一つであるという事実(OECD調査)がある。従って教育熱が高まっているアジアの新興国市場では、日本の教育コンテンツに対する注目度が高い。教育サービスは日本が世界に誇れる輸出産業になる可能性が極めて高い。」と新井氏は語る。

 学習方法のミスマッチで能力を発揮できない子どもが減り、勉強好きが増えれば増えるほど、それだけ多くの優秀な人材が生まれる。

「世界の知力を引き出す――」。同社の目指す未来を、新井氏はそんな素敵な言葉で語ってくれた。

現代社会に山積しているさまざまな課題を解決するのは人間の知力だ。その知力そのものを引き上げる同社の試みに大いに期待したい。

株式会社アルクテラス
代表者:新井 豪一郎 スタッフ数:24名
設立:2010年10月 URL:http://www.arcterus.com/caiz/info.html
事業内容:
教育機関向けクラウドサービスの開発・運営。

当記事の内容は 2013/1/29 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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