その時、偉人たちはどう動いたのか? キヤノン創業メンバー 御手洗 毅 2

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

エピソード2「アメリカ市場開拓」
「やせても枯れても一国一城の主、城を売り渡すことはできない」 (49歳:創業13年目)

 「ライカを追い越して世界一のカメラメーカーとなる」。そう決意していた御手洗が、GHQが貿易を民間に開放したこの年にアメリカに市場を求めて旅立った 時のエピソード。ようやく近代的な生産技術を導入して完成した、ライカよりも高機能のフラッシュ同調装置をつけた会心作を携えてのことである。そもそも、 医師としてドイツ製の顕微鏡などの精密機器に接していた御手洗は、「日本には精密工業がない。これでは日本は世界に遅れを取る」という問題意識を感じ、精 機光学工業の設立に参画したのである。

シカゴのベル・アンド・ハウエル社に販売代理店となってもらおうと、携えていったカメラを渡して「アメリカでどう評価されるか聞かせてほしい」と頼んだ。 1カ月の猶予がほしいと言われ、当地の工作機械メーカーを訪ねたりしながら過ごす。1カ月後。

「技術面と営業面から検討したところ、これはライカより数等上の品である。これがもしドイツ製ならばホットケーキのように売れるだろう。しかし、気の毒だ がこれはメイド・イン・“オキュパイド”・ジャパンである。わが国では通用しない。そこで、キヤノンブランドではなく、ベル・アンド・ハウエルブランドに するならば扱ってもよい」

“オキュパイド”とは「占領下」という意味。当時の日本はアメリカの占領下にあった。御手洗は即座にその申し出を断る。

「やせても枯れても一国一城の主、城を売り渡すことはできない。何を馬鹿なことを言う」
と思ったという。当時の日本製品の品質は低く、御手洗は在米中に各地で悪い評判を聞いて恥じ入る思いをしていた。目先の利益を考えれば、ベル・アンド・ハ ウエル社の申し出は悪い話ではなかっただろう。しかし、御手洗には「ライカに追いついた」という自信がついた。占領国の悲哀とともに、ここはその自信を持 ち帰って磨きをかけることにしたのだ。

  その10年後。「世界を二つに割ってドイツ製と競争してきた日本のカメラは“世界のカメラ”になりつつある」(毎日新聞 1960年11月8日)と報じら れるまでになっていた。1961年、ベル・アンド・ハウエル社のほうから「どうかキヤノン製品をわが社に売らせていただきたい」と要請してきた。御手洗は 「あの悲哀から10年。長かったとも、よくぞ10年で、とも思う。敵は軍門にくだった」と思ったという。1期5年の販売提携契約を結ぶ。

  そしてさらに10数年後の1973年。66年に設立していたキヤノンU.S.Aの直販体制に移行、2年の時間をかけて紳士的にベル・アンド・ハウエル社と の提携を解消した。

私 たちならこうする!

(株)ネクシィーズ代表取締役社長 近藤太香巳氏

モノづくりの人は、モノにガンコなこだわりがあるのでしょうから、御手洗さんの気持ちは理解できます。しかし、僕は営業の人間なので、一番売れる方法を 真っ先に考えます。もし僕だったら、相手のブランドで商品を発売し、マーケットを押さえてから「実はこの商品は自分がつくった」と言うと思いますね。ブラ ンドがないだけでモノがいいわけですから、さほどプライドが傷つくとは思いませんし、広げたほうが勝ちだと思いますから。ネームバリューがなければ、最初 は無料で使ってもらってもいい。使ってもらえば良さをわかってもらえ、リピートにつながりますからね。

シナジーマーケティング(株)代表取締役社長 谷井等氏

御手洗さんの判断に共感しますね。僕も自分のブランドを出せないのは納得しないと思います。ブランドには誇りがありますから。自分たちの商品には自信を 持っていきたいですし、それだけに自社のブランドにこだわっていきたいと思っています。

際コーポレーション株式会社 代表取締役 中島 武氏

僕は、ブランドとは「意地」だと思うんです。意地のあるところが高級ブランドをつくれる。高級レストランで「こんなに高いモノ食わせるのか!」なんて思う ような料理は、オーナーの意地なんです(笑)。そこからは一歩も引かない。経営の損得の問題ではなく、人間としての問題。
このケースのように、先方のブランドとして出すのも、出さないのもそれぞれメリットはあるでしょう。でも、出したら自分を表現するチャンスはなくなる。
僕も、ある大手企業がプロデュースする施設に出店を要請されたことがあります。自分が金を出すならウチのコンセプトでやる、という条件を出したら話がこじ れ、結局やりませんでした。代わりに大手企業の条件をのんでやったところは大失敗したようです。自分たちのスタンスはしっかりと持っていたいですね。

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