土に依存しない“フィルム農法”で、
場所を選ばず、経験・勘に頼らない農業を!

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 松本 美菜  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

フィルム農法で農業への参入障壁が低減。
「何処でも、誰でも」高品質な農作物を生産

事業や製品・サービスの紹介

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土壌汚染や水不足などの問題に対処し、安定的に食糧を供給することが可能な新しい農業技術、「アイメック®」フィルム農法を開発したのがメビオール株式会社だ。透析膜やカテーテルなどの医療用素材に用いられる膜技術とハイドロゲル技術を農業分野に展開した。

厚さ数十ミクロンの透明なフィルムに、水と栄養分は通過できるが菌、ウィルスなどは通過できない無数のナノサイズの孔が開けてある。さらに、このフィルムには水と養分などを吸って内部に溜め込み、外部には放出しないというハイドロゲルという性質が付与されている。

このフィルムの下に栄養分(リン酸、チッソ、カリウムなど)を含む養液を供給し、フィルムの上で作物を栽培するという簡便な農法である。養液が汚染されても、菌、ウィルスがフィルムによって遮断されるために無農薬でも作物は病気になりにくいと同時に、汚染された養液でも使いきることができ、土耕・水耕栽培と違って、水と肥料のロスが全くない。

一方、作物は、ハイドロゲルから成るフィルム中に保持されている養液を摂取しようとして、大量の毛細根を乾いたフィルム表面に接着させ、効率的に養分を摂取するために栄養価が大幅に高まる。例えば、フィルム農法を用いたトマトの場合、糖度は通常のトマトより2~3倍高く、8~12度に達する。

さらに、GABA、リコピン、プロリンなどの機能性成分は桁違いに増加する。そのため、フィルムトマトは農作物というよりは健康サプリメント(スーパーフード)と定義される。さらに、フィルムトマトの味は、塩分などを含む土壌で生産された市販フルーツトマトと比較して、すっきりとした味わいで、多くの消費者を魅了している。そのまま絞ったジュースはさらに甘味が増すのも特徴だ。

フィルム農法では、“土作り”や“水やり”といった、農業でもっとも経験を必要とする技術が不要になるため、農業未経験者でも、例えばビルの屋上など、場所を選ばずに短期間で安定的かつ高品質な農作物を生産することができるようになるという。実際、現在、国内において同社の技術を導入している事業者の内60%以上は、建設、製造、サービス、卸売り、銀行などの非農業者だ。

この農法により、消費者により安全で、高栄養価という高い付加価値を持つトマトなどを生産することができれば、非農業者にとっても新たな商機となるに違いない。

農薬の使用を抑制し、病気のリスクを低減。
環境にやさしく、安心・安全な農作物を栽培

対象市場と優位性

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最大の強みは、フィルムによって細菌、ウィルスによる農作物の病気から守ることが可能という点にある。農薬を大幅に抑制することができ、安心・安全な農作物を収穫できる。

すでに、120カ国で特許を取得しており(2017年12月現在)、海外展開も加速している。例えば、水が少なくても農作物を栽培できることから、ドバイなど砂漠地帯への導入をはじめ、土壌汚染の深刻な中国、寒冷地のロシアなどで需要が増加している。ちなみに国内では、東日本大震災で津波による塩害を受けた陸前高田市にも導入された。

メビオールのビジネスモデルは、「アイメック®」システムの販売、フィルムの販売、およびライセンス供与(海外)からなる。同農法は、今や国内約150カ所の農場に導入され、年間約3000トンのトマトが生産されているという。

一例として、1万㎡(1ha)の広さの農場で「アイメック®」を使ってトマトを生産すると、生産量は約120トン、卸値は1キロ当り1000円前後。初期投資費用は2億円程度、経常経費は約6000万円、粗利は約6000万円になるという計算だ。今後、この農法で生産するフィルムトマトの付加価値がさらに向上すれば、卸値も上がり、利益率はさらに高くなる。

トマトは世界中で消費されており、生産国も多い。2012年のFAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations=国際連合食糧農業機関) の統計によれば、トマトの世界における総生産量は1億6179万トンに上る。一方、国内の生産量は約72万トンと、ごくわずかだ。

しかし近年、ミニトマト、フルーツトマトなどが開発され、ブランド化も進み、トマト人気は高まっている。フィルムトマトのような付加価値の高いトマトは、世界中でブームとなっている和牛と同様に戦略的事業展開を行うことで、海外展開の拡大が大いに期待されるところである。

医療技術を農業分野に転用し、
持続可能な食糧生産に寄与

事業にかける思い

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同社代表の森有一氏は起業前、日米の大手企業で30余年にわたり、プラスチック技術を使った人工腎臓カテーテルなどの医療技術開発に携わってきた。しかし現在の医療技術は、老齢化に伴い増え続ける癌、認知症などの慢性疾患の治療に対しては、膨大な医療費がかかるものの、その治療効果はかなり限定的なものである、ということが分かってきた。「未病の状態で有効な手段は安全、高栄養価な野菜類の摂取であろうと考え、それが食にかかわる農業だったのです」。

メビオール設立当時の90年代は、折しも、地球温暖化による異常気象や水不足、食糧危機などが声高に叫ばれていた。国内では高齢化が加速し、農業の担い手が不足。一方、世界に目を向ければ、土壌汚染、異常気象、水不足などが頻発。どうやって持続可能な農業を確立するかは、人類が考えなくてはならない喫緊の課題である。

「自分が培ってきた医療技術は人間を対象にした技術であり、同じ生物である植物を対象とした農業に転用することにより、食糧不足や地球環境の改善に資することができるのではないか」と森氏は一念発起。農業技術は医療技術と異なり、開発費が安価であること、認可の取得が不要であることなどの要因も農業ベンチャー立ち上げの後押しになったという。

森氏は、近い将来「アイメック®」の主戦場は海外になると見ている。「水資源が乏しい、農業が未発達、貧困層が多い……そういった地域に当社の技術を展開すれば、雇用も増え、経済的にも貢献できるのではないかと考えています。このフィルム農法と日本の先端技術である太陽光発電、水処理技術等と組み合せれば、砂漠の真ん中を農作物の一大生産地にすることも可能です。そうなれば、食糧危機もそれほど恐れる必要はなくなるのではないでしょうか。とはいえ農業には腕力、いわゆる資金力や組織力も必要です。今後は大手企業などとの提携・連携を模索し、さまざまな仕組み作りをしながら事業を拡大していきたいですね」。

「アイメック®」によるフィルム農法では、トマトのほかに、きゅうり、メロン、パプリカ、水菜、ベビーリーフ、ハーブなども栽培できるという。「ゆくゆくは葡萄にも挑戦したい」と語る森氏。少年のような笑顔を見せながら大きな夢を語ってくれた。

メビオール株式会社
代表者:森有一 氏 設立:1995年9月
URL:http://www.mebiol.co.jp スタッフ数:9名
事業内容:
「アイメック®」(フィルム農法)の技術開発およびそれに伴うシステム、フィルム販売、ライセンス供与など
これまでの資金調達額(出資額)と主な投資会社名:
経済産業省、農林水産省(いずれも補助金)、株式会社池田理化などより約5億円
ILS2017 大手企業との商談数:
16社

当記事の内容は 2017/12/28 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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