全国3000カ所で導入! 話し手が歩み寄る、
新しいカタチの「“聴こえ”支援システム」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 松元 順子   編集:菊池 徳行(ハイキックス)

クリアな対話音声でもっと快適に!
機能性とデザイン性を追求したプロダクト

展開している事業の内容・特徴

20170613-1国内の難聴者数は推定1400万人にのぼるという。こうしたなか、「もっと難聴者にやさしい社会をつくりたい」との思いから、卓上型対話支援システム「comuoon(コミューン)」を開発したのが、ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社だ。

「comuoon」は、補聴器のように難聴者側が身につけるのではなく、“話し手側が歩み寄る”という逆転の発想から生まれた製品。マイクを通じて話すと、聴き取りやすく変換された声がスピーカーから流れるという仕組みだ。

「日本補聴器工業会による市場調査『JapanTrack2015』において、軽度・中等度の難聴者でも補聴器を着用している人はわずか7%しかいないと報告されています。こうした現状を踏まえ、聴こえやすい環境をつくるためには、難聴者側が努力するだけでなく、話し手側の協力が必要であると考えました」と同社代表の中石真一路氏は説明する。

「音がくぐもって聴こえる難聴者にとって、大きな音は有効ではありません。音を大きくするのでなく、言葉の明瞭度を上げることが重要なのです。『comuoon』は、独自のスピーカーユニットとアンプを採用することで、難聴者が特に聴き取りにくい高周波音域の音をクリアにしています。『comuoon』があれば、話し手、聴き手ともに大声で会話をするストレスなく、通常の音量で円滑なコミュニケーションが可能となります」

もうひとつの特徴は、“可変するデザイン”にある。「comuoon」は、高さ15センチの卵形。使用時は卵を割るようにアンプとスピーカーを分ける。音の直進性を高める機能と親しみやすいデザイン性の両立を実現し、2016年にはグッドデザイン賞を受賞した。「思わず使いたくなるような“驚きのあるデザイン”を追求しました」。

「難聴者を助けたい」という思いと、
偶然の出合いから生まれたスピーカー
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20170613-2父親と祖母が難聴であったことから、「難聴者の力になりたい」と思ったのが、中石氏の起業の原点だ。「難聴は見た目ではわからない問題であるため、家族や親しい人でも、その辛さを理解することは難しい。また、難聴に対するイメージは人によって異なり、難聴=聴覚障害者だと誤解している人も多くいます。難聴への正しい理解を広めなければと考えました」。

「comuoon」開発のきっかけは、2009年までさかのぼる。当時、EMIミュージック・ジャパン(現ユニバーサルミュージック)に勤務していた中石氏は、音を遠くまで飛ばす次世代スピーカーの研究を行っていた。そんななか、スズムシが音を出す原理を応用した「スズムシスピーカー」に出合い、開発者である慶應義塾大学の武藤佳恭教授から「この仕組みは難聴者にも聴こえやすい」と教えられたのだ。

そこで、新たに難聴者向けスピーカーの研究を開始するも、「何でレコード会社がそんなことをやる必要があるんだ」と社内の反対を受け中断。一度は諦めかけていた夢だったが、東日本大震災を機に思いが再燃する。「自分は何のために仕事をしているのか」と改めて問い直したという中石氏は、「もう一度研究を続けさせてほしい」と懇願し、会社の承諾を得て、2011年11月にNPO法人 日本ユニバーサル・サウンドデザイン協会を設立。会社に在籍しながら、スピーカーの開発に邁進する。

強い決意で再スタートを切ったものの、NPO法人が信頼を得ることの難しさを痛感したという。資金調達は困難を極め、取引先からは「NPOだと(取引用の)口座を作れない」と言われたことも。また、難聴者の方にモニターの協力を願い出ても「何か企んでいるのでは」と疑念の目を向けられることも多々あったという。

そんな中石氏に転機が訪れる。2013年3月にNHKの「おはよう日本」でスピーカー研究について取り上げられたのだ。放送後すぐ、「どこで買えるのか」「いつ発売されるのか」という問い合わせが殺到する。ニーズがあることを確信した中石氏は、2013年6月にレコード会社を退社。一気に商品化へと突き進み、わずか半年で「comuoon」を完成させた。

大手レコード会社社員という安定を捨て、起業家の道を選択した中石氏。迷いはなかったのだろうか。「起業はリスクが伴うといわれますが、“何もしないリスク”よりも“自分でやるリスク”を取りたいと思いました」。

“聴こえ”の大切さを伝え続け、
難聴者にやさしい環境づくりを目指す
将来の展望

20170613-3現在、「comuoon」は、全国の学校、病院、福祉施設、行政機関など、3000カ所以上の施設が導入している。全店舗に設置を決めた金融機関やお経を檀家に届けるために設置した寺院もあるという。また、ろう学校や難聴学級、特別支援学校にも「comuoon」の寄贈を行っており、寄贈先は国内外合わせて35校にのぼる。

「comuoon」シリーズのラインナップも拡充。卓上型の「comuoon」、ワイヤレスの「comuoon connect」に続き、昨年から持ち運び可能な新製品「comuoon mobile(コミューン モバイル)」の販売を開始した。「comuoon」は、新たな機能を追加しながら年々進化し続けている。

2016年9月には、BESCO S.I社と業務提携を締結し、韓国での販売もスタート。今後さらに海外市場の開拓を図っていくという。また、日本語よりも子音の多い英語に適していることから、ろう学校や難聴学級では英語のリスニング授業で活用されているそうだ。

さらに、「comuoon」は、脳神経科学の観点から認知症のリハビリ支援ツールとしても注目を集めている。現在、広島大学の宇宙再生医療センターの研究員としても活動している中石氏。「今後は、聴こえにくい環境が人体に及ぼす影響について、さらに研究を深め、『comuoon』の有効性を世界に発信していきたい」という。

「周りの人の意識を変えることで、難聴者の方が暮らしやすい環境をつくることが我々のミッションです。2016年4月に『障害者差別解消法』が施行されたことに伴い、『comuoon』の利用が広まっていますが、普及が進んでいる銀行でも、まだ5%しか導入されていません。今後も全国の自治体や教育機関などでの講演活動を通じて、“聴こえ”の大切さを一人でも多くの方に伝えていきたいと思います」

ユニバーサル・サウンドデザイン株式会社
代表者:中石 真一路 氏 設立:2012年4月
URL:http://u-s-d.co.jp/ スタッフ数:12名
事業内容:“聴こえ”支援機器の設計・開発・販売

当記事の内容は 2017/06/22 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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