「あったらいいね!」から始まった、
プログラミング学習用オリジナルロボット

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 本多 小百合  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

いろいろ使えて、コスパもグッド!
オリジナルのプログラミング学習用教材
展開している事業の内容・特徴

20170511-1日本政府は、未来を担う子どもたちに、早いうちからプログラミングを学ばせようと、2020年から小学校でのプログラミング教育必修化を決めた。国の命運を左右するといっても過言ではないIT人材の育成だが、教える側にとっても新しい分野である。実際にどう教えたらよいのか、そもそも学ぶことで何ができるようになるのか、明確に理解している教職員は多くないのではないだろうか。

そんななか、メンバー全員が専門外でありながら、この分野に参入しようとしているチームがある。エーアイエル株式会社の有志社員による「ロボコミ」だ。独自に開発したロボットの組み立てキット「AR-01」を販売するほか、これを使って小中学生にプログラミングを教えるワークショップも開催している。彼らは自分たちも「最初はわからなかった」という経験から、“教え方”に気を配る。

「『AR-01』を開発するために、国内外からさまざまな教材を取り寄せましたが、多くの商品は部品が入っているだけで、組み立て方の説明書は入っていませんでした。我々は小中学生向けの学習用教材として位置づけているので、組み立て説明書はもちろん、プログラミングの基礎知識やロボットに使われているセンサーの原理などを解説した教科書も準備しています」とチームを率いる佐生浩一氏は言う。

難しいハンダづけの工程などをなくし、小さな子どもでもつくりやすい設計にした。実際、小中学生を対象にしたワークショップで使用したところ、子どもたちは難なく完成させたという。なかには組み込まれているセンサーの数を増やしたり、フレームを変えたりして、自分なりのカスタムを加えた子どももいる。

「『AR-01』は汎用品を活用しており、規格に縛られることなく、自由にカスタマイズできます。ホームページではプログラムコードや回路図、フレームの型紙なども公開しており、応用学習の幅が広がります」。子どもたちはロボットをカスタマイズする過程で、楽しみながら知識を身につけられるのだ。

汎用品の利用によりコストを抑え、2万4800円と従来品の約半額という低価格を実現。子どもが気軽に楽しく学べることを重視したロボコミのロボット教材には、教材の販売会社やロボット関連会社、教育機関や自治体など、各方面から多くの反響が届いているという。

きっかけは社内有志の活動。
スピンオフを目標に日夜奮闘中
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20170511-2「ロボコミ」のメンバーが所属するエーアイエル株式会社には「イノベーションクラブ」というグループ活動がある。勤務形態も業務内容も異なる同社社員がそれぞれ、終業後に関心のあるテーマ毎に集まり、話し合う。

同社代表取締役社長の入江雄介氏は言う。「当社は『「あったらいいね!」で世界を変える』を理念として経営しています。事業でも、社内制度でも、社員自身があったらいいと思うことに取り組むことで、社員のモチベーションアップ、ひいてはお客さまの満足につながります。『イノベーションクラブ』はその理念活動の一貫です」。

また、「未来会議」と呼ばれる社内コンペを開催し、有志チームが事業案を披露する。全社員が会社として力を入れたいアイデアに一票を投じ、優勝チームには事業資金として100万円が贈られるという。「会社としても、できない理由ではなく、できる方法を一緒に考えていこうというスタンスでやっています」とは入江社長の談。

そんな企業風土があるため、社内には何か思いついたらとりあえず「イノベーションクラブ」に持ち込み、議論が深まれば「未来会議」にかけるという流れができているそうだ。
佐生氏も最初は「おもしろいロボットをつくろう」という呼びかけにひかれ、イノベーションクラブに参加したという。

「ラジコンやおもちゃが好きだったので、最初は軽い気持ちで参加しましたが、そのうちにただロボットをつくっているだけではもったいないという話になりました。その頃、ちょうどプログラミング教育必修化のニュースを知り、学習向けロボットをつくるプロジェクトとして『ロボコミ』がスタートしたのです」(佐生氏)

ロボコミのメンバーは3人。仕事が終わると社内外で集まり、製品開発や教材づくり、ワークショップの企画運営から資金集めまで、あらゆる業務を分担して行う。ハードなダブルワークだが、「このぐらいは当然」と佐生氏は言う。なぜなら、入江社長がAILベンチャーズの構想を社員に公言しているからだ。

「一般に、こうした新規プロジェクトは新規事業開発室でマネジメントすることが多いと思いますが、そうすると、事業アイデアもそれなりに練れたものでないとなりません。ですが、当社の方法なら小さなスタートも可能です。ダブルワークで小さく始めて、事業ベースに乗ったところで専属にし、各事業の子会社化を目指す。これがAILベンチャーズ構想の基本です。2年後には持株会社の組織体制にできればいいですね」

プログラミング教育のスタンダードに!
優秀なIT人材を一人でも多く輩出する
将来の展望

20170511-3「ロボコミ」では、今年6月までに「AR-01」を1万台販売することを目標としている。量産に向け、目下、クラウドファンディングで資金を募っている最中だ。

「AR-01」を広く流通させることで認知度を向上させた後は、ロボットを使った教育サービスの拡充を考えているそうだ。自社開発のロボットも拡販するが、それだけに固執することはなく、他社のロボットや教材の活用も検討している。ヒト型の外観をした、スイッチサイエンス社の「ラピロ」については、代理店契約も締結。他社では公開しない改造など、ナレッジ部分もホームページなどで公開し、差別化していくという。

「これまで、ワークショップに参加した子どもたちの感想では、『配線が楽しかった』『プログラムを入れてLEDが光ると楽しかった』といった声が聞かれます。ロボットを使うと、『できた」という成功実感が強く残るようです。必修化されればすべての子どもたちがプログラミングを学ぶことになりますが、苦手科目にならないよう、いい教材をつくっていきたいです」と佐生氏は語る。

スピンオフを視野に入れる「ロボコミ」の目標は高い。学校使用教材としての採用にとどまらず、広く学習機会を提供していくことも考えているという。イメージしているのは“寺子屋”で、親子でロボット体験ができる場を提供していくそうだ。すでに、千葉県浦安市内の廃校活用事業で、プログラミング/ロボットワークショップの開催が決定している。

「現在、開催しているワークショップでは私たちが講師をしていますが、多くの子どもたちが学べるよう、オンラインの教室の立ち上げも計画中です」(佐生氏)

日本のモノづくりを盛り上げ、世界をリードするロボット発信基地へ――。子どもたちが楽しく学べるロボットが「あったらいいね!」の先には、未来のIT人材がつくるよりよい世界への道が続いている。

株式会社エーアイエル
代表者:入江雄介氏 設立:1989年10月
URL:http://www.ailltd.co.jp/ スタッフ数:約180名(2017年3月時点)
事業内容:
人材ソリューションサービス
ロボコミ
チームリーダー:佐生浩一氏 設立:2016年10月
URL:https://www.ail-robots.com/ スタッフ数:3名
事業内容:
ロボット製品の開発製造販売、ロボットワークショップ開催、ロボット教育コンテンツ企画

当記事の内容は 2017/05/11 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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