地方の小規模企業に全国からオーダーが!
岩手県の木部用自然塗料メーカーの挑戦

企業紹介

執筆者: 本多 小百合  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

メールや電話の丁寧な接客も人気を後押し。
顧客が直接買いにくる安心・安全な自然塗料
展開している事業の内容・特徴

20161004-1世の中に自然派志向の人が増え、企業はそのニーズへの対応が求められている。しかし、自然素材を使った商品は、工業製品のように一定の規格におさまるものではない。また自然素材ゆえの使いづらさもある。住宅や家具などに使われる木材はその最たるものといえるだろう。同じ樹種の木材に同じ塗料を使っても、産地が違うだけで仕上がりも変わってしまうのだ。

そんなニーズに応えようと、株式会社シオンは国産自然塗料「U-OIL」を製造している。亜麻仁油をベースにした自然のオイルに、顧客が求める仕様に合わせて必要な成分を調合、クリアカラーは0.75L缶4860円、66色を揃えるカラーは0.75L缶5400円で販売。また、ラインナップにない色であっても、オーダーに応じて追加費用なしで細かな調色をしてくれる。

「例えばDIYを趣味とする個人も当社の顧客です。メールのやり取りからお客さまの人柄をイメージして、やわらかい印象の方なら、その方に合いそうなソフトな色合いを提案します」と塗料のレシピをつくる事業統括部長の藤田悠氏。

一般的に塗料など建築材料メーカーは、間にいくつもの商社・問屋を通して販売するが、同社はインターネットを通じて、全国の工務店、家具建具店、一般施主に直接販売している。シオンの本社は岩手県、従業員は代表の石川公一郎氏を含めて4人だ。「地方の小さな会社ですから、営業が足でとってくるスタイルは難しい。お客さまが自ら買いにきてくれる商品づくりと、失注率を下げる丁寧な接客を心がけています。手間暇のかかるオーダーメイドですが、受注生産で在庫リスクがないことが最大のメリットです」と石川氏は言う。

サンプルは5種類まで無償提供。サンプルを送ってから納品するまでには少なくとも約2カ月、平均して3往復はメールのやり取りをする。顧客の要望を聞いてサンプルをつくり、注文を受けたら、納品時には使ううえでの注意点も丁寧に説明する。充分に納得したうえで購入してもらうためクレームも少ないという。

「U-OIL」がリリースされたのは2012年。細やかな接客と品質の高さが認められ、ドイツ製品が席巻する市場でこの4年間、着実に売り上げを伸ばしている。そして現在、同社は年商約5000万円を目指す地元の優良企業となった。

移住後の人生設計を模索するなかで起業。
異業種、異職種にも果敢にチャレンジ!
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20161004-2石川氏は大学卒業後、東京に本社を置く大手石油会社の経理部で働いていた。入社直後にバブル経済が終焉を迎え、ぼんやりと先行きへの不安を抱えていた28歳、先祖のお墓がある岩手県への一人旅をすることに。

「旅先の露天風呂に入っているときに、ここに移住しようと決意しました。当時は今ほど、都会からの地方移住を歓迎するムードはなく、また、岩手に親類縁者はいませんでした。でも、アウトドアも好きでしたし、水が合うと思ったのです」

1995年、岩手にIターンした石川氏は、飲食店などを主としたロードサイド型流通業に勤務したのち、ソフトウェア開発会社に転職。しかし、この会社は株式上場を控えており、そのサポートと経理の仕事で大忙し。激務がたたり、過労で入院してしまう。

これが一つの転機となり、石川氏は、会社員生活に区切りをつけ、個人事業主に転身。いわて産業振興センターから委託されたインキュベーションマネージャーとして独立したのだ。主な仕事は、県内中小企業の資金調達などの支援である。

現在のシオンの前身となる会社も支援先のひとつだった。自然塗料をつくっていたその会社との付き合いが、シックハウス問題に関心をもつようになったきっかけだったという。ところがこの会社は、支援もむなしく破綻してしまう。経営陣は退陣し、残されたのは立派な装置と開発スタッフのみ。

「いつか会社経営に挑戦したいと思っていました。さまざまな業種で働いた経験から、起業するなら利益率の高い製造業、と考えていましたが、自分の専門は経理でしょう。でもこんなチャンスはもう巡ってこないかもしれない――破たんした会社から装置を借り受けるかたちで、残された開発者と共に国産自然塗料の事業をスタートさせたのです」

しかし、その半年後、こだわりの強い開発者と衝突。結果、開発者も去っていった。残されたのは装置だけ。しかも、当時の商品は今よりも施工性が悪く、販売数が伸び悩んでいた。石川氏は一念発起し、独学での製品開発に取り組んだ。また、盛岡に拠点を持つ地元工務店の営業を請け負う代わりに、塗料の販売と住宅施工に関する知識・ノウハウを学ばせてもらったという。

「U-OIL」誕生のきっかけは、自然素材にこだわったある住宅メーカーとの共同開発プロジェクトだ。2007年から開発に着手し、施工性を高めるなど、製品の質を向上させていった。一方、大手が狙わない小さな工務店を取り込む戦略で、取引の安定化も図った。年間10棟程度でも商品の品質を評価してくれる工務店を100社集める。その戦略が実を結び、今では全国350を数える工務店が同社の取引先となっている。

現在、石川氏も含めてシオンの従業員4人はほぼ残業ゼロながら、地元ではなかなかの水準の給与を得ているのだとか。そして石川氏は、朝4時半に出勤、午後3時半には退勤。夕方からは趣味の競泳に勤しむなど、充実の毎日を送っている。

「自然素材だから」を言い訳にせず、
自然塗料の性能の限界を越えていく
将来の展望

20161004-3自然素材の塗料は使い勝手が悪い……。「U-OIL」はそんな常識を打ち破るべく、従来品の安全性を保ちながら施工性にも配慮してきた。

「塗料の安全性と施工性はトレードオフの関係です。石油系の塗料は安全性を犠牲にすることで施工性や利便性を高めてきたのですが、それに慣れてしまったために、ユーザーは自然塗料にも安全性と施工性を求めます。そこは相容れないものだということをきちんと説明したうえで、どこまでなら許容できるのか、ベストなバランスを見極めることが非常に重要です」

ひとくちに自然志向といっても、安全性をどこまで求めるかは人によって異なる。そこで、ニーズに合わせて添加剤を工夫することで「U-OIL」の施工性と耐候性をさらに高めた「ハード」シリーズ、公共物件で求められる厳しい基準も満たせる「スーパーハード」シリーズを開発・リリース。今後もさらに木では難しいと思われている性能開発に挑戦していくという。

目下、模索しているのは水や汚れをはじくフッ素の添加だ。外壁施工会社へのヒアリングで「フッ素はコンクリート壁には塗装しやすいが木には塗りにくい。フッ素を塗れる自然塗料があれば」という声が寄せられたのだという。技術的には困難だが挑戦する価値はある。これまでに施工性や耐候性の向上を共に実現させてきた外部パートナーとともに、さらなる高みを目指していくという。

大きな消費地、商業地とは離れた地域にあるからこそ、いかに買いにきてもらえる商品をつくるかを考える。プロダクトアウトの時代は終焉し、マーケットインの商品しか生き残ることができない時代となった。岩手県の小さな自然塗料メーカーが、改めてそのことを教えてくれた。

株式会社シオン
代表者:石川 公一郎氏 設立:2003年9月
URL:http://u-oil.jp/ スタッフ数:4名
事業内容:・国産自然塗料、天然接着剤の製造・販売

当記事の内容は 2016/10/04 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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