映画館向けの上映データを最短1時間で伝送する技術や、判例や行政文書を検索できる自然文判例検索を手がける、研究開発型ベンチャー「株式会社イントロンワークス」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

2時間の映画で300GByteという大容量データを数時間で転送。映画産業のフルデジタル化を実現させるITソリューション「シネマパック」
展開している事業・特徴

20151020-1近年加速度的に整備されつつある映画館のデジタル化。日本映画製作者連盟によれば、全国のスクリーン数はシネコン・一般映画館を含め3,364スクリーンだが、すでにこの内の9割以上3,262スクリーンがデジタル設備を導入しているという。(日本映画製作者連盟による2014年12月発表の統計より)

従来のフィルム上映と比較して、ハードディスクにDCP (デジタルシネマパッケージ)データを記録して行うデジタル上映は、製作・流通・上映・保存・処分コストや、それぞれにかかる労力を抑えられる。さらに上映の繰り返しによる品質劣化はなく作品の組み換えも容易いと、製作・配給・興行各社にとって、メリットが大きい。

また、デジタル設備を導入した映画館は、昨今話題の3D映画の上映や、映画以外の映像を配信するODS(other digital stuff)が可能となり、集客力が増す。

しかし、現在の映画製作から上映までの流れのなかで、未だにデジタル化が進んでいない部分がある。それはハードディスクの受け渡しである。この部分は配給元からの郵送に頼っており、映画館へ到着するまでに数日はかかるそうだ。

DCPデータをそのまま映画館へインターネットなどで送れば手軽なのに…。素人目に考えれば、今のインターネット・インフラや技術では簡単に実現可能だと思われるが、なぜこの部分だけ旧態然なのか。

今回取り上げるのは、まさしくここにビジネスチャンスを見出しサービスを展開している株式会社イントロンワークス。研究学園都市つくばを拠点にしたベンチャーだ。

同社から2014年9月にリリースされた「シネマパック」という映画館向けのサービスは、「Dネット」と「Lネット」という2つのラインアップからなる。

Dネットは先述したDCPデータの伝送ネットワークサービス。概要は、DCPデータを同サービスのネットワーク拠点となるNOC(ネットワークオペレーションセンター)で集中管理し、各映画館に伝送するといったもの。送り手である配給会社は、専用端末から伝送先指定、伝送・受信状況の確認を行える。伝送には、高度な通信技術と光ネットワークを駆使。この高速伝送システムによって、従来だと数日を要していた受け渡しが、なんと最短1時間で伝送可能となった。

ちなみに、DCPで扱われる上映用のデータは2時間の映画で300G Byte程度と言われている。これを仮に100Mbpsのインターネット回線で伝送する場合は、ネットワークの状況にもよるが、おおよそ30時間前後という計算になるため(一般的なネット回線での効率を考慮して伝送効率20%で試算)、1時間という時間がいかに高速かがわかる。

セキュリティーに関しても、DCP 規格で定められたKDM Keyによる暗号化はもちろん、ファイルベースでの暗号化、プロトコルベースの通信暗号化など、高度で多重的なセキュリティー対策が組み込まれており、高い信頼性を保持している。

一方のLネットは、映画館向けライブ配信ネットワークサービスだ。冒頭でも少し触れたが、昨今注目を集めるODSの、新しい配信インフラである。

ODSは東宝が専門事業部を設けるなど、年々プレイヤーが増加。また、TOHOシネマズを筆頭に、ODS対応の設備を整える映画館も増えており、マーケットは急速な伸びを見せている。だが、現在のメインである衛星回線によるライブ配信はコスト高になりがちで、メジャーコンテンツ以外の配信は採算コスト的に難しいという。ここに着目したのが同サービスで、一般のインターネット回線を駆使し配信ネットワークを構築。映画館スクリーンに最適な映像品質を確保しつつ、低コスト配信を可能にした。

IT技術のオールラウンダー。アイデアは現場から生まれる。
ビジネスアイデア発想のきっかけ

20151020-2イントロンワークス社の代表取締役を務める谷 俊毅氏。筑波大学に学び、革新的な技術を創出したいとの思いで起業した、研究者肌の起業家である。同社は今年の設立は2011年8月で、今年は5期目を迎える。

同社の理念は、近年のベンチャーに多いテーマやミッションを掲げビジネスを展開させるのではなく、いわば“現場主義”だという。

谷氏はこう語る。「事業を定めるというよりは、自分たちのスキルを最大限発揮できる分野を見つけ、事業化してきました。シネマパックも、その一環で開発したサービスです。研究開発型ベンチャーなので、新規事業での受託が多く、絶えず未知の分野に触れることができます。クライアントの要望や、世の中の動向に深く目を向け、そこからアイデアを練り、新しい価値を創出していく。それが当社のスタイルですね。」

この言葉とおり、同社の事業領域は先端かつ広域だ。シネマパック以外にも、VRや自然言語処理技術の開発にも力を入れている。VR開発では360°パノラマをはじめ、オキュラスやキネクトを活用する案件に引き合いがある。また、同社の取締役兼最高技術責任者である小出 正嗣氏によれば、「zSpace」という、アメリカの先端VRシステム兼デバイスのコンテンツ制作にも実績を持つとのこと。

一方の自然言語処理では、北海道大学大学院、長岡技術大学との産学連携により、日本初の自然文判例検索エンジン「LEAGLES」を2015年5月にローンチ。

これは弁護士などをターゲットにしたサービスだが、膨大な資料の中から精度よく文章を検索してくれるその技術に対して、さまざまな企業からの問い合わせが増えているという。

余談となるが、LEAGLESのきっかけは、谷氏が学生時代に趣味の一環で行っていた研究に遡る。自然言語処理技術を使って、Twitterのツイートを、ポジティブ/ネガティブに分類。その結果が日経平均などの相場動向に影響を及ぼすか否かを検証していたそうだ。

スケールより、揺るがない根を張る。研究開発型ベンチャーとして唯一無二の会社をめざす。
将来への展望

谷氏にこれからの展望を伺ったところ、当面はシネマパック事業、VR開発、自然言語処理技術開発の3本柱に事業展開していくというコメントを頂いた。

シネマパック事業については、今後はデジタルシネマ機器を扱う企業と提携し、戦略的に業界へPRしていく構えだ。また、自然言語処理開発では、判例文だけではなく、公文章やその他の展開を見据え、さらなる技術開発を進めていくという。

取材の最後に、「会社をどうスケールさせていくのか?」と質問をすると、取材時に同席していた最高技術責任者の小出氏より、技術革新を本懐とするテック系ベンチャーらしい回答をいただいた。

「大まかに分ければ、会社にはふたつあると思います。ひとつは0から1をつくる会社。もうひとつは、1を100、1000にする会社。私たちは前者で、会社を大きくさせることを最大の目標にはしてはいません。これからも、当社だからこそ成し得る技術の開発をめざし、事業に取り組んでいきたいと考えています。」

株式会社イントロンワークス
代表者:谷 俊毅氏 設立:2011年8月
URL:http://intronworks.jp/ スタッフ数:
事業内容:・高画質大容量動画配信・伝送インフラ事業
・インタラクティブサイネージ・バーチャルリアリティ事業
・自然言語処理・データ分析事業
・システム開発事業

当記事の内容は 2015/10/20 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

起業、経営ノウハウが詰まったツールのすべてが、
ここにあります。

無料で始める