AI研究の第一人者による、学習済み人工知能を販売するベンチャー「メタデータ株式会社」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

目的に応じてトレーニングし、学習済みですぐに使える人工知能が簡単に買えるサービス。
展開している事業・特徴

2015年も早や年の瀬、本年の注目キーワードをあげるとすれば「ビックデータ・人工知能・AI」などが外せない。2015年10月26~27日に開催された第3回ILSでも、同キーワードは大手企業のニーズ、ベンチャーのシーズともに、もっともホットな分野だった。

今回紹介するのは、人工知能の活用にユニークなアプローチで挑んでいるベンチャー、メタデータ株式会社。同社のビジネスは簡単にいうと、APIですぐに使える人工知能、学習済みの人工知能を販売するというものだ。「学習させてみないと精度や実用性は不明です」という業者の多い中、正解の定義、モデリングから、少量の具体例、生データから精度の予測、実用性の見立てを行い、敢えて人工知能導入を奨めない場合もあると聞く。

価格については明確に公開していないが、同社代表の野村直之氏によれば「大手SIerやコンサルティングファームに人工知能型システムの開発を依頼するのと比べれば、遥かに安価で提供可能です」との事。ポイントは目的に応じて人工知能のトレーニングから請け負ってくれるという点。つまり、学習済みの人工知能が買えるというわけだ。

20151203-1同社の人工知能は、利用目的を明確にしている点でも実用的。例えば「VoC分析AIサーバ」という製品は、大量の顧客の声(VoC:Voice of Customer)を人工知能が自動分類し、意味抽出・仮説発見を行う人工知能だ。「顧客の声を分析」というと、いわゆるビックデータやデータマイニングサービスの1つだが、同社では人工知能型のアルゴリズムを駆使して収集整備された意味カテゴリや、感情解析知識ベース、高精度ネガポジAPIといった人工知能を組み合わせて、「本当に意義のある顧客の声」を探し出す。同社の分析した事例の1つとして、ビール4大銘柄についてのツイート14000件を分析したところ、銘柄別の期待値や印象傾向からポジショニングマップを作成し、メーカー側でも意識していなかった白地を見つける事が出来たという。また、意外な発見として、ビール消費は朝・昼も多いといった結果や、密かにに流行りつつあるビアカクテルなども見つかったという。

ハイボール・ブームを仕掛けた事によってウィスキー消費が急増した件などもそうだが、そうした仮説設計のための分析作業をコンサルティング会社などに依頼すると相当なコストが発生していたが、同様の結果を低コストで得られるというのは、人工知能の有益な使い方の1つになるだろう。

また、もう一つ事例をあげると、某百貨店を対象にした分析では「記念日くらい、○○百貨店に連れてってよ」という顧客の声を発見したという。これを見た百貨店の役員は、すぐさま「安売りキャンペーン」をとめさせたという。顧客の期待値が「特別な日に行きたい場所」であり、それを棄損する「安売りキャンペーン」は経営的にマイナスでしかないという判断で、これも単なる売上や来客数だけを分析していたのでは出なかった結果だろうと野村氏は語る。定量分析の過程でみつかる、数万の声なき声を代表するつぶやきを発見する等の定性分析も重要というわけだ。

また、同社では画像認識の人工知能も販売しており、実用例として「この猫なに猫?」というWebサービスを無料で展開している。これは入力した画像から、世界の猫約60種類のどれに似ているかを判別するというもの。応答時間は1秒未満で、似ている猫を上位5位まで出力する。さらに実用的なポイントとしては、学習に必要なサンプル数が数千~数万で十分という点。サンプル数が少ないため学習にかかる時間も数時間程度。認識精度は非常に高く、数十~数百種類の品種を識別する能力だけでいうと、人間をはるかに凌駕する性能を示すという。たしかに。猫の画像を見るだけでどの種類かを当てるというのは専門家でもなければ難しい。しかし、人工知能はそれを数時間の学習で会得してしまう凄みがある。

もちろん、猫の判別だけではなく、画像として取り込めるものであれば、その応用範囲は非常に広いだろう。例えば、監視カメラで社員や出入りの業者とそうでない不明な来客を見分ける、店舗での商品陳列レイアウトと人の流れの関係を分析する、採れた魚の種類の自動判別する、通行中の車の種類を自動判別するなど。自動判別させる目的、どうビジネスに活用するかは人間の仕事だが、不審者を即座に発見できるシステム、漁港での自動仕分けシステム、地域単位での人気車種調査など、従来、人的コストがかけらなかった課題が解決できるかもしれない。イマジネーションを働かせれば、可能性は膨大だ。

1980年代から人工知能を研究。GPUの劇的な性能向上で理論から実用へ。
ビジネスのきっかけ

20151203-2メタデータ株式会社の創業者である野村 直之氏は、東京大学工学部を卒業後、1984年にNEC C&C研究所、1993年にはMIT人工知能研究所の客員研究員としてマービン・ミンスキー氏らと仕事をし、1997年から2001年にかけてジャストシステム社では知識検索システム「Concept Base」の文章要約エンジンの開発を行った。2005年以降、メタデータ社の経営のほか、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科・客員教授を務めている。

2013年頃からにわかに人工知能への注目が高まっているが、これは3度目のブームと言われている。第1次AIブームは1950~60年代で、マービン・ミンスキーやジョン・マッカーシーによってMIT人工知能研究所が創設され、AIという言葉が生まれた。第2次AIブームは1980年代で、エキスパートシステムや通産省(現在の経産省)による第5世代コンピュータプロジェクトなどがあった。そして現在が第3次ブームというわけだ。

野村氏によれば、第2次人工知能ブームのころは、理論面に対して計算力不足という問題が大きかった。実用的な人工知能、機械学習を行うためには膨大な計算量が必要になるが、当時のスーパコンピューターでも、それを実行する事が現実的に困難だったという(計算爆発の問題)。しかし、現在では数万円程度のパソコンでも1980年代のスパコン以上の計算能力をもつ。特に、パソコンのグラフィック処理用途に使われていたGPUという拡張ボードは、毎秒数兆回の浮動小数点演算をこなすことで、機械学習・ディープラーニングを行うのに適した能力をもっており、これによって個人の研究者単位でも実験・追試が容易になり、一気に実用化が進んだ。

また、インターネットの普及により電子化されたデータが簡単に大量に手に入るようになった点も、人工知能の実用化に大きく寄与している。検索エンジンで「猫」を検索すると膨大なテキストデータ、画像データが表示される。あるいはTwitterに流れる「つぶやき」などもそうだ。そうした膨大なデータを保存しておくストレージのコストも劇的に下がった。

野村氏によれば、現在の人工知能ブームは、理論的にいえば枯れたものばかりで目新しさはないものの、実用化としてはハードウェアの進化によって、ようやく端緒についたといえよう。

実用という意味では、IBMやGoogleなどの超大手企業によるサービス化が始まっている一方、この分野でのベンチャー企業も急速に立ち上がりつつある。しかし、事業としてみると、実験的なサービスとして展開しているか、企業向けの受託開発モデルが多いが、早晩、APIを介して人工知能を手軽に利用するような時代が訪れるとみており、そうした未来を見据えて、メタデータ社では人工知能をAPIとして提供するビジネスをスタートさせたというわけだ。

例えば、サーバは今やブラウザ上から必要な能力を必要な分だけ借りるクラウド型サービスが一般的だが、かつてはデータセンターなどにスペースを借りてサーバを購入しOSやミドルウェアなどをセットアップしデータセンターに搬入して回線に繋げて…と大仕事であったが、今ではそのようなケースは少数派になってしまった。

人工知能は生産性を劇的に改善させうる人間のよきパートナーになる。
将来の展望

現在の人工知能は、人間の知能をこえる万能性は持たないが、目的を限定すれば人間よりはるかに高い能力を示す。人間の能力の一部を強化するという意味では、電話や自動車、パソコンといった、これまでに登場した便利な機械・ツールと変わりない。

野村氏が日経ビジネスオンラインに執筆している連載記事「Dr.ノムランのビッグデータ活用のサイエンス」にも詳しいが、同氏は人工知能が人間の仕事を奪う、あるいは2045年問題(シンギュラリティにも懐疑的だ。1つにはディープランニングの学習は、人間の脳とは似て非ざるもので、人間の脳シナプスの組み合わせを超えるコンピューターが2045年には登場するとは考えづらいという。人工知能の重要な難問の一つ「フレーム問題」も未だ解明されていない。機械学習にしても人間がある程度まではトレーニングしてこそ実用的になる。

つまり、万能ではないが、人間の能力を爆発的に拡大させうるツールというのが、現在の人工知能ともいえるだろう。例えば、膨大な画像を仕分けるといった作業をコンピューターにさせることが、人工知能によって容易となった。もちろん、そうしたシステムは人工知能ブームの前から存在していた。物流センターでの荷物仕訳けなどがそうだが、そうしたシステムをメーカーやSIerに開発依頼すると、設定自体を人間が細かく指定しなければいけないため膨大な開発労力を必要として、それがそのまま開発コストとして跳ね返ってきていた。

野村氏としては、まずは人工知能を気軽に使えるツールとして提供することで、どのような応用が出来るか、大量の試行錯誤が低コストで行えるようにしたいというのが、当面の目標だ。人工知能型のシステムを導入するのに、例えば億単位のコストがかかるとしたら経営陣としては慎重にならざるを得ない。しかし、これが数十万円といったコストで試せるようになれば、さまざまな業務への活用を気軽に試せるようになる。もちろん失敗する事もあるだろうが、低コストであれば成功するまで何回でもトライできるだろう。そうして人工知能の活用領域、応用範囲を広げていく事で、人工知能は生産性を劇的に改善させうる人間のよきパートナーになるだろうと、野村氏は考えている。

メタデータ株式会社
代表者:野村 直之氏 設立:2005年12月
URL:http://www.metadata.co.jp/ スタッフ数:
事業内容:
・人工知能型システムの開発、販売、SaaS提供。
・テキスト意味解析、画像認識、学習エンジンのWebAPI提供。

当記事の内容は 2015/12/03 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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