医師としての経験を活かし、理想の診療スタイルを実現する手段として「クリニック開業」を検討する方は年々増加しています。しかし、開業には1年以上にわたる綿密な準備と多額の資金が必要であり、成功のためにはスケジュール管理・資金計画・法的手続き・人材確保など、あらゆる面での対策が欠かせません。また、思わぬトラブルやスケジュールの遅延を防ぐには、各工程の流れや必要な費用、注意点を事前に把握しておくことが重要です。
そこで今回は、クリニック開業を目指す医師の方々に向けて、開業までの全体スケジュールや資金の目安と内訳、よくある失敗例とその対策などをくわしく解説します。ぜひ開業準備の参考にしてみてください。
クリニック開業を成功させるには綿密な事業計画書作成が不可欠です!
クリニック開業は数千万円の高額な初期投資をともなう一方で、しっかりとした事業計画なしに成功することは困難です。立地分析、競合調査、資金調達計画、患者獲得戦略、収支予測など、開業前に整理すべき要素は数多くあります。
そこで、クリニック開業に特化した事業計画書のテンプレートを無料でご提供いたします。医療機関開業に必要な項目がすべて盛り込まれているため、記入するだけで金融機関への融資申請にも使える本格的な事業計画書が完成します。ぜひご活用ください。
- 目次 -
クリニック開業までの全体スケジュールと流れ
クリニックの開業には、1年以上前から計画的に準備を進めることが成功のカギとなります。ここでは、クリニック開業までの全体スケジュールと流れについて解説します。
開業18か月〜9か月前:コンセプト・経営方針の決定と事業計画の策定
クリニック開業を進めるにあたり、最初に取り組むべきなのは経営方針や診療方針といった「軸」を定めることです。自院の診療科目や想定する患者層(例:高齢者、働き盛りの世代、子育て世代など)に応じて、明確なコンセプトを構築し、他院との差別化につなげていきます。
次のステップとして、想定される患者数や初期費用、収支見込みに基づいて事業計画書を作成します。この計画書には以下のような要素を含める必要があります。
- 資金計画
- 診療圏調査の結果
- 集患に向けた広告戦略
金融機関との融資交渉では、この計画が重要な判断材料となるため、専門家のサポートを受けながら進めることも視野に入れておくと安心です。
たとえば、予防医療を重視する内科や、地域密着型で予約制を中心とした運営方針など、方針と診療内容を一貫させることが、その後の物件選びや広告展開のスムーズさにもつながります。準備期間の目安はおおよそ1〜2か月とされ、早い段階での計画立案が成功へのカギとなります。
開業9〜6か月前:診療圏調査と物件選定
開業地の選定にあたっては、まず診療圏調査から着手する必要があります。周辺人口や競合クリニックの数、立地環境、人の流れ、将来的な街の発展性などを多角的に分析し、集患が見込めるエリアを選定していきます。とくに500m圏内の人口規模、商業施設の有無、近隣の診療科目などを重点的に確認しておくとよいでしょう。
調査結果をもとに候補エリアが絞られた段階で、具体的な物件選びへと進みます。物件にはいくつかのタイプがあり、それぞれに特性や留意点があります。たとえば、テナント物件では築年数や耐震性、電力容量に加えて、内装工事(B工事)の費用が高額になりやすい点に注意が必要です。クリニックモールは調剤薬局が運営主体となることが多く、関係する調剤薬局への事前確認が欠かせません。建て貸し物件では間取りに自由度がある一方、長期契約が前提となるケースもあります。さらに、継承物件では前経営者との調整や、営業権・医療機器の状態把握が求められます。
これらの診療圏調査と物件選定は、今後の経営に直結します。開業後の集患力や収支計画にも影響を与えるため、専門家と連携しながら慎重に進めていくことが求められるでしょう。
開業6〜5か月前:物件契約・資金調達・内装設計の開始
物件が決定したら速やかに賃貸契約を締結し、同時に内装設計と資金調達の準備に着手します。この時点からは賃料が発生するケースが多く、無駄な期間を生じさせないためにも、工程全体のスピードを意識する必要があります。設計にあたっては、診療動線の合理性やバリアフリー・消防法などの法規制を満たすことに加え、患者の快適性とスタッフの作業効率を両立できるレイアウトを構築することが求められます。
資金調達については、金融機関による融資審査に通常2〜4週間を要するため、設計図面や概算見積書の準備が整いしだい、早めに申請を進めることが重要です。なお、融資額は必要最低限にとどめつつも、予備費の確保も忘れずにおこないましょう。
以下に要点を整理しています。
- 物件契約:賃料や契約期間、内装工事に関する制約条件を事前に確認する
- 資金調達:審査期間を見越し、余裕を持ったスケジュールで申請する
- 内装設計:動線や法的要件を反映させ、スムーズな施工計画を立てる
物件確定後の動きは、開業全体のタイムラインに直結します。各種手続きを確実に進めるためにも、建築士や金融機関、専門コンサルタントとの連携が欠かせません。
開業4か月前:医療機器の選定・見積取得・業者契約
医療機器の選定は、診療方針や提供する診療内容に応じて最適な機器を見極める重要な工程です。まずは主要機器の仕様や価格帯を把握し、複数のメーカーや卸業者から相見積を取得するところからはじめましょう。とくに電子カルテは、操作性や保守体制、クラウド対応の有無など多角的な比較が必要となります。さらに、MRIやレントゲンなどの大型機器を導入する際は、内装設計との整合性も欠かせません。床の耐荷重や電気容量、搬入経路といった条件をあらかじめ業者とすり合わせておくことで、その後の工程でのトラブルを回避できます。
また、初期投資をおさえる目的でリース契約を選ぶケースも多く見られますが、通常2〜3週間の審査期間が必要なため、計画的な準備が求められます。以下の観点をもとに段取りを進めると、開業後の運営もスムーズに移行できるでしょう。
- 診療内容に応じた必要機器の選定
- 複数社からの見積取得と価格交渉
- 設置場所の荷重・搬入経路・内装設計との整合性確認
- 購入またはリース契約の締結と審査対応
導入後の使い勝手やランニングコストにも目を向けながら、慎重かつ着実に進めていくことが重要です。
開業3か月前:内装工事の着工とスタッフ採用活動
この時期からは、クリニックの内装工事に着手するとともに、スタッフの採用活動も本格化させる必要があります。内装工事は通常2〜3か月を要し、進捗遅延が開業に影響を及ぼさないよう、施工業者との連携や工程管理を徹底することが重要です。とくに診療動線やバリアフリー、消防法などの法規制を踏まえた設計に基づき、確実に施工を進める体制が求められます。
一方、採用活動では看護師や医療事務といった各職種の採用基準を明確にし、求人広告や紹介会社など複数の手段を用いて応募を募ります。内定者が決まったあとは、開業日から逆算して研修スケジュールを立て、業務の流れや理念の共有、電子カルテの操作指導などを段階的におこなうよう計画しましょう。
開業2か月前:備品発注・広告戦略準備・各種契約締結
この時期には、備品発注や広告戦略の最終確認、税理士や社労士などの専門家や警備会社との契約締結など、多岐にわたる準備が求められます。なかでも什器類は納品までに時間を要するケースが多いため、サイズや仕様の誤りを防ぐには、専門業者との密な連携が欠かせません。
広告面では、ホームページやチラシ、看板など各ツールの制作スケジュールを見直し、配布・設置のタイミングを最適化しておくと効果的です。また、顧問税理士や社労士との契約は、運営体制の基盤づくりとして重要です。診療中の安全管理を目的とする警備会社との契約も、この段階で完了させておくと安心につながります。
開業1か月前:行政手続き完了・機器搬入・スタッフ研修
開業1か月前は、実務面での最終段階にあたる重要な時期です。まず、診療所開設届の提出や保健所への届出、労災保険・雇用保険の手続きといった行政対応を計画的に完了させておく必要があります。医師会への入会や保険診療に関する申請も、可能な限りこの時点で手続きを終えておくと、その後の準備が円滑に進みます。
この時期には、発注済みの医療機器や什器が順次搬入されるため、現場で設置状況や配線、診療動線との整合性を丁寧に確認しておくことが大切です。また、内定しているスタッフに対しては、実務に即した研修を開始し、業務フローの理解や接遇マナー、電子カルテ操作の習得を進めていきます。理念や業務方針の共有も含めて、チームとしての一体感を高めることが開業後の安定運営につながります。
漏れのない準備を実現するには、ToDoリストやチェック表を活用し、進捗状況を可視化しながら計画的に対応していくことが求められます。
開業当日まで:ホームページ公開・集患施策の実行・最終準備チェック
開業直前の時期は、これまで進めてきた準備の集大成として、広報活動と院内体制の最終確認を並行しておこなうタイミングです。ホームページは正式公開に向けて全体を再点検し、誤記や情報の漏れがないか細部までチェックしましょう。加えて、地域への認知を高めるため、以下のような施策を本格的に実施する必要があります。
- チラシの配布や電柱・駅周辺への看板設置
- Google広告の運用開始
- 可能であれば内覧会の開催も検討
一方、院内では診療フローや受付導線、備品の配置状況を確認し、スタッフとの最終リハーサルも実施します。たとえば、受付・診察・会計の各業務が円滑におこなえるか、操作方法や緊急時の対応フローに不備がないかをチェックリストで見直しておくと安心です。
全体の進捗を俯瞰しながら、細部の整備にまで手を抜かない姿勢が、開業当日を万全に迎えるためのポイントとなります。
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クリニック開業資金の目安
クリニック開業に必要となる資金は、診療科目や物件の形態、導入する設備の種類によって大きく異なります。一般的には、テナント物件で開業する場合は5,000万〜8,000万円程度が目安とされ、戸建てを用いる場合には6,000万〜1億円前後まで膨らむケースも見られます。とくに、画像診断機器や内視鏡、リハビリ設備などを積極的に導入する場合には、1億円を超えることも珍しくありません。
また、自己資金は開業資金全体の1〜2割を目安とし、最低でも1,000万円以上を確保しておくことが望ましいとされています。診療科目によっても資金の目安には大きな幅があり、以下にその代表的な例をまとめます。
| 診療科目 | 開業資金の目安(概算) |
| 一般内科 | 約6,000万〜8,000万円 |
| 呼吸器内科 | 約7,000万円前後 |
| 循環器内科 | 7,000万~8,000万円(設備による) |
| 消化器内科 | 約8,000万〜9,000万円 |
| 整形外科 | 約5,000万〜9,000万円 |
| 皮膚科・精神科など設備投資が比較的少ない診療科 | 約3,000万〜7,000万円 |
| 眼科・耳鼻咽喉科 | 約4,500万〜9,000万円 |
| 小児科・産婦人科 | 約5,000万〜6,000万円 |
こうした費用感をもとに、診療内容に応じた医療機器の選定や物件条件を含めたうえで、できるだけ早い段階から資金計画を立てることが、無理のない開業につながります。
クリニック開業にかかる資金の内訳
クリニックの開業には、物件取得費や内装工事費、医療機器の購入費だけでなく、広告宣伝費や開業前の人件費、行政手続きに関わる費用など、さまざまな支出が発生します。ここでは、クリニック開業に必要となる主な費用項目とその内訳について解説します。
物件取得・賃貸契約費(保証金・礼金・仲介手数料など)
クリニックを開業する際には、診療所の立地確保にともなう物件取得費が初期費用のなかでも大きな比重を占めます。とくにテナントでの開業では、敷金や礼金、仲介手数料、前家賃などが発生し、地域によって金額の差も大きくなります。費用の目安は以下のとおりです。
- 敷金(保証金):賃料の6~12か月分
- 礼金:賃料の1~2か月分
- 仲介手数料:賃料の1か月分
- 前家賃:契約から開業準備期間中の1~3か月分(交渉しだいで減免の可能性あり)
近年は、一定期間の賃料を免除する「フリーレント」物件も見られるようになっており、条件交渉の余地があるケースもあります。こうした契約関連の支出は、開業全体の資金計画に大きく影響するため、事前に入念な検討が求められます。
内装工事・設計施工費(給排水・動線設計・医療仕様工事)
クリニック開業における内装工事は、診療の質や患者の快適性に直結する工程です。とくに医療機関では、一般的な店舗内装とは異なり、動線の工夫や給排水、空調、電気設備など医療仕様の施工が求められるため、高度な専門性が必要とされます。その分、費用も相応に高額となる傾向があります。
費用は、スケルトン物件か居抜き物件かといった状態の違いや、診療科目、導入機器、内装デザインへのこだわり度合いによって大きく変動します。以下に、主な内装工事項目ごとの坪単価の目安を整理しました。
- 一般内装工事:35万〜45万円(間仕切り、床・壁・天井の仕上げ、照明など)
- 給排水・衛生設備工事:12万〜18万円(シンクやトイレ、透析用の水処理設備など)
- 電気・空調・換気設備工事:13万〜20万円(配線やエアコン、換気扇など)
- 医療ガス設備:5万〜15万円(酸素・吸引ガスの配管など。診療内容による)
また、設計費は工事費の10〜20%または5万〜8万円/坪が一般的な目安とされます。なお、テナント開業の場合には、いわゆるA・B・C工事の区分を事前に確認し、どこまでが貸主・借主それぞれの費用負担となるのかを明確にしておくことが、後々のトラブル回避において重要です。
医療機器・備品購入費(電子カルテ・診察台・検査機器)
クリニックを開業する際は、診療内容に応じた医療機器や院内備品の整備も必要です。なかでも電子カルテは業務効率や情報連携に直結するため、慎重な選定が求められます。一般的な内科の場合、医療機器費として約2,000万円、什器やOA機器などの備品費には約600万円が目安とされています。必要となる設備は診療科目によって異なり、内視鏡や超音波装置、心電図計などの導入有無を見極めることが大切です。過剰な投資を避けつつ、運用と採算性の両立を意識した構成が求められます。
主な費用の目安は以下のとおりです。
| 項目 | 費用目安 | 主な内容例 |
| 診療設備費 | 約2,000万円 | 超音波診断装置、心電図、内視鏡、各種モニターなど |
| 電子カルテ・OA機器 | 約200万円 | 電子カルテ、レセコン、PC、ネットワーク機器 |
| 什器・家具備品 | 約400万円 | 診察机、椅子、待合ソファ、TV、休憩室家具など |
高額な医療機器を導入する際には、リース契約を活用すれば初期費用を軽減できます。さらに、保守費や使用頻度を踏まえて検討することで、過不足のない設備投資につながります。
広告宣伝費(ホームページ制作・看板設置・チラシ配布)
広告宣伝費は、地域における認知度を高め、開業初期の集患を後押しするうえで重要な投資です。代表的な施策としては、ホームページの制作や看板設置、チラシ配布、さらにGoogleやSNSを活用したWeb広告などが挙げられます。
なかでも、Googleビジネスプロフィールの活用やSEO対策を施した自院サイトは、開業医の多くが「効果があった」と回答しており、高い集患効果が期待できます。一般的な費用総額は100万〜300万円程度とされており、立地や診療方針に応じて、オンラインとオフラインを柔軟に組み合わせる戦略が成果につながります。
人件費(開業準備期間の給与・研修費)
クリニック開業前から発生する人件費は、見落とされがちですが、じっさいには重要なコストのひとつです。採用活動にかかる費用としては、求人広告の作成費や掲載料、人材紹介会社への手数料などが挙げられます。内定者には、開業前であっても給与を支払う必要があり、さらに接遇や電子カルテ操作などに関する研修費用も発生します。こうした支出は、開業初日からスムーズな診療を開始するために欠かせない準備です。
なお、給与の支払いは開業前からはじまるため、運転資金とは別に確保しておくことが求められます。下記に主な費用項目と金額の目安を示します。
- 採用費:支払う年収の20~30%×人数(年収が1,000万円の場合は200万円ほど)
- 研修費:約30万〜60万円
- 開業前の給与(1〜2か月分):約100万〜200万円
これらの費用は「開業費」として繰延資産に計上し、開業後に償却することも可能です。資金繰りを安定させるには、早期に必要額を見積もっておくことが重要です。
開業時の行政手続き・許認可申請費用
クリニックを開業する際は、保健所・厚生局・消防署・税務署など、さまざまな行政機関に対して申請や届出をおこなう必要があります。診療所開設届や保険医療機関指定申請のほか、労災保険・雇用保険の手続きなど、準備すべき書類は多岐にわたります。また、医療法人として開設する場合には、設立にかかる費用も発生します。以下に主な手続きと費用の目安をまとめました。
| 手続き項目 | 自分で行う場合 | 専門家に依頼する場合 | 内容例 |
| 医療法人設立費用 (任意) | 約5万~60万円 | 約60万円〜500万円 | 定款作成、登記、認可申請、資本金などの法人設立費用 |
| 診療所開設届出関連費用 | 18,000円~19,000円
※自治体により異なる |
約3万〜8万円 | 保健所への開設届・実地検査立ち合いなど代行費用 |
| 診療報酬請求届出(保険医療機関指定) | 無料 | 約3万〜10万円 | 厚生局への保険医療機関指定申請の代行費用 |
行政手続きは、開業直前の慌ただしい時期に重なることが多いため、早めにスケジュールを立てておくことが重要です。また、必要な申請内容や条件は自治体によって異なる場合もあるため、事前に確認をおこなうことで手続きの遅れを防ぐことができます。
運転資金(家賃・光熱費・医薬品仕入れ・消耗品)
クリニック開業後、診療報酬の入金が安定するまでの数か月間は、運転資金を自己資金でまかなう必要があります。主な支出としては、家賃や水道光熱費、医薬品や消耗品の仕入れなどが挙げられます。家賃は売上の10%以内に収めるのが望ましく、立地やテナントの広さにより月額20万〜80万円程度が一般的です。光熱費は医療機器の使用が多いことから高額になる傾向があり、年間で約50万~350万円を見込んでおくと安心でしょう。
医薬品の仕入れ費用は診療科目によって大きく異なり、たとえば耳鼻咽喉科では年間500万円前後、精神科では2,000万円を超える場合もあります。過剰在庫を避けるため、使用頻度の低い薬剤については都度発注するなど、無駄のない仕入れ管理が求められます。消耗品については、包帯・手袋・洗浄用品・清掃資材などを含めて月額5万〜15万円を目安に準備しておくとよいでしょう。
さらに、レセプト請求からじっさいの入金までには2か月程度のタイムラグが生じます。この間のキャッシュフローを維持するためにも、最低3か月分の運転資金を事前に確保しておくことが重要です。資金繰りの見通しを立てる際には、こうした固定費と変動費を踏まえた資金計画を構築する必要があります。
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クリニック開業資金の調達方法
クリニックを開業するには、物件取得費や医療機器の導入費、スタッフ採用費など多額の資金が必要となります。ここでは、クリニック開業資金の主な調達方法について解説します。
銀行融資
銀行融資は、クリニック開業資金を調達するうえで重要な手段のひとつです。とくに地方銀行や信用金庫では、地域の医療を支援する目的から、開業医向けの専用ローンや経営支援サービスを提供している場合があります。民間の金融機関では、5,000万〜1億円程度の融資が受けられるケースもありますが、物件契約の締結が前提条件となるほか、審査にはおおよそ2〜4週間を要します。
ただし、希望額をすべて借入れられるとは限らないため、自己資金との割合を踏まえた現実的な資金計画が求められます。融資条件には、固定金利または変動金利を選択できる点や、返済方法として元利均等返済と元金均等返済のいずれかを選ぶことができる点が挙げられます。
主な融資条件は以下のとおりです。
融資限度額:5,000万〜1億円(金融機関によって異なる)
- 返済期間:設備資金は最長20年、運転資金は5〜10年程度
- 金利形式:固定金利または変動金利の選択制
- 審査期間:約2〜4週間を想定
また、金融機関との信頼関係を早い段階から築いておくことは、開業後に追加融資が必要となった際や、融資条件を交渉する場面でも大きな強みとなります。
日本政策金融公庫の融資制度
クリニック開業時の資金調達手段として、多くの医師に利用されているのが日本政策金融公庫の「新規開業資金」です。この制度では、最大7,200万円(うち運転資金として最大4,800万円)までの融資が可能であり、資金用途に応じて返済期間が異なります。設備資金は最長20年、運転資金は最長10年まで利用でき、いずれも据置期間として最長5年を設定できるため、開業初期の資金繰りにも一定の余裕を持たせることができます。
加えて、女性・若者・シニアなどの条件を満たす場合は、金利が低くおさえられる特別利率の適用が受けられる点もメリットです。なお、以下のような条件や制度もあわせて用意されています。
- 対象:開業から7年以内の事業者や新規開業者
- 金利:基準利率のほか、特別利率の適用可能(該当条件あり)
- 特例:経営者保証の免除や利率の優遇制度も併用可能
なお、融資申請には詳細な事業計画書の提出が求められます。資金の使途や返済計画を明確に示すことが、審査通過に向けた重要なポイントとなります。
地方銀行・医師会系信用組合の融資
地方銀行や医師会系の信用組合は、地域に根ざした金融機関として、クリニック開業に特化した融資を提供しています。とくに地方銀行は、開業予定地周辺の医療事情に精通しており、柔軟な融資条件や長期返済プランを提案してくれることがあります。また、医師信用組合では、医師会への加入を前提に、医療機器の導入や運転資金の確保、さらに医師会費の支払いまでを対象とした高額融資にも対応可能です。
ただし、信用組合では担保の提供や配偶者の保証人を求められる場合もあるため、事前に条件をしっかり確認しておくことが重要です。以下に、各機関の特徴を整理しました。
| 融資機関 | 特徴 | 融資上限・条件例 |
| 地方銀行 | 地域密着型で柔軟な対応。開業支援専用ローンも用意。 | 5,000万円〜1億円、返済期間は最長20年など |
| 医師会系信用組合 | 医師専門の融資機関。医療関連費用全般に対応し、高額融資も可能。 | 無担保で数千万円、有担保なら1億円超の融資も可能 |
こうした金融機関は、信頼関係を重視しており、将来的な追加融資や資金繰りの支援においても頼れる存在となるでしょう。
医療機器リース契約
医療機器の導入にあたり、初期費用をおさえる手段としてリース契約を活用するクリニックが増えています。この方式では、リース会社が機器を購入し、開業医は契約期間中に月額料金を支払って利用する仕組みとなります。所有権はリース会社にあるため、固定資産税や保険契約に関する手続きが不要となり、管理業務の負担を軽減できます。
とくに電子カルテや画像診断装置など、技術進化が速く陳腐化しやすい機器については、5〜7年のリース契約が主流です。リース満了時には最新機器への更新も円滑におこなえるため、常に一定水準以上の医療サービスを提供し続けられます。
また、リース料は全額を経費として計上できるため、節税効果も期待でき、資金の流れを安定させる点で有利に働きます。こうしたメリットを踏まえると、開業初期に多額の資金を一度に投入することなく、機器の質を確保しながら持続的な経営を目指すうえで、リース契約は有力な選択肢となるでしょう。
医療機器メーカー提携ローン
医療機器メーカーや医療系ディーラーと提携する金融機関による「提携ローン」は、機器の導入と資金調達を一体的に進められる便利な制度として注目されています。多くのメーカーが開業医支援の一環として専用のローンを用意しており、一般的な融資と比べて審査が迅速に進む点も特長です。
また、導入する機器に対しては、リース契約をベースとした「リースバック型」や、設備資金として分割で支払う「割賦ローン型」など、複数の方式が選択できます。ただし、こうした提携ローンは通常の銀行融資よりも金利がやや高めに設定されている傾向があるため、返済条件や総支払額を事前に比較・検討することが重要です。
対象となるのは医療機器を導入予定の開業医であり、対象資金には購入費やリース費用などが含まれます。金利は年2.5%〜4.5%程度が目安とされており、審査が早く導入手続きと並行して進められる利便性がある一方、返済年数や金利水準には十分な注意が必要です。
提携ローンを活用することで初期費用をおさえながら必要な設備を確保できる可能性がありますが、複数のメーカーや金融機関から提案を受けたうえで、条件を比較して慎重に判断する姿勢が求められます。
補助金・助成金
クリニックの開業にあたっては、返済の必要がない補助金や助成金を活用することで、初期費用の負担をおさえることが可能です。各制度には対象条件や支援内容に違いがあるため、事前の情報収集と書類準備が欠かせません。とくに設備投資やITシステム導入、人材確保を支援対象とする制度が中心となっており、以下のような支援が設けられています。
- IT導入補助金:電子カルテや予約システムの導入を対象とし、最大450万円まで補助(通常枠)、インボイス枠では最大350万円(経済産業省)
- 医療施設整備費補助金:へき地診療所などの設備整備に対し、100万〜250万円を支援(厚生労働省)
- キャリアアップ助成金:非正規職員の正社員化・待遇改善で1人あたり最大72万円(厚生労働省)
- 事業承継・引継ぎ補助金:改装や設備投資などに最大600万円を支給(中小企業庁)
なお、制度によっては採択率に差が生じることもあるため、開業計画の初期段階から申請の準備を進めておくことが重要です。
クリニック開業の失敗を防ぐための注意点
クリニック開業には多くの準備が必要ですが、スケジュールの遅延や過剰投資、人材確保の失敗など、思わぬ落とし穴も少なくありません。ここでは、クリニック開業時によくある失敗を未然に防ぐための注意点について解説します。
医師会への挨拶・入会条件を事前に確認する
クリニックを開業する際は、地域の医師会への入会も重要な検討事項のひとつとなります。入会は義務ではないものの、健診や予防接種などの委託業務を受託しやすくなり、地域での信頼性や認知度を高める手段となり得ます。とくに地域密着型の医療を目指す場合には、地元の医療ネットワークに加わることの意義は小さくありません。
ただし、医師会によっては開業前の事前挨拶や独自の入会手順が定められていることもあるため、早い段階で条件や必要書類、会費などを確認しておくことが重要です。代表的な費用の一例として、京都府医師会では以下の金額が必要とされています。
| 項目 | 金額例(京都府医師会) |
| 入会金 | 10万円(開設者・管理者) |
| 年会費 | 約21万円(医師賠償責任保険加入が前提) |
| 特別会費 | 35〜75万円(地域により異なる) |
これらの出費は開業資金に影響を及ぼすため、スケジュールに余裕を持って準備を進めると安心です。
周辺医院の診療内容や競合状況を必ず調査する
開業予定地周辺にどのようなクリニックがあるかを事前に把握しておくことは、開業後の失敗を防ぐうえで欠かせません。とくに、同じ診療科の医院が集中するエリアでは、患者の確保が難航し、経営の早期悪化を招くおそれがあります。そこで、診療圏調査を通じて、地域の人口構成や人の流れに加え、既存クリニックの診療内容や専門性、混雑の程度、患者層などを確認することが重要です。
たとえば以下のような観点をおさえておくと、自院の差別化ポイントが明確になります。
- 同一診療科の競合クリニック数
- 診療曜日や診療時間(夜間・休日対応の有無)
- 専門性や特化領域(内視鏡強化、糖尿病外来など)
- 主な患者層や口コミ傾向(Googleレビューなど)
- 混雑状況や予約の取りやすさ
診療内容が似通っていても、専門性やサービスの質で差をつけることで、十分な競争力を確保できます。地域のニーズとずれない方向性を見極めるためにも、開業前には丁寧なリサーチを心がけましょう。
契約前に物件の法規制・耐震・修繕計画をチェックする
物件を契約する前には、建築基準法や医療法、消防法などの関係法令に適合しているかどうかを必ず確認する必要があります。とくに既存建物の場合は、診療所として使用するために用途変更の手続きが求められることがあり、さらにバリアフリー対応や換気設備、避難経路の基準を満たしていないケースも見受けられます。1981年以前に建築された物件については、現行の「新耐震基準」に適合していない可能性があるため、必要に応じて耐震診断や補強工事を検討することが重要です。
加えて、建物全体の修繕計画や設備機器の劣化状況についても確認を怠らないようにしましょう。次のような点を事前に把握しておくと、後のトラブル回避につながります。
- 法令適合性:用途変更の要否、採光・換気・バリアフリーの対応状況
- 耐震性能:新耐震基準への適合可否や耐震診断の実施状況
- 修繕・劣化状況:外壁や屋上の防水状態、配管や空調設備の老朽度、改修履歴の有無
物件の構造や経年劣化の度合いは、内装工事の範囲や初期投資額に大きく影響します。可能であれば建築や医療設計に精通した専門家の同行調査を依頼し、契約時点でのリスクを最小限におさえることが望まれます。
過剰な設備投資を避け、リースや段階導入を検討する
過剰な設備投資は、クリニック経営を圧迫する代表的な失敗要因のひとつといえるでしょう。開業時に最新機器を一度に導入すると初期費用が膨らみ、開業直後の収益ではまかないきれず、資金繰りの悪化を招くおそれがあります。とくに患者ニーズに直結しない高額設備を導入しても、費用対効果が見込めなければ経営の負担となるだけです。
こうしたリスクを回避するには、リース契約や段階的な導入を検討することが効果的です。たとえば、頻繁に使用する必須機器には一括購入を選び、初期費用をおさえたい高額機器にはリース契約を活用することで節税効果も期待できます。さらに、使用頻度や収益状況に応じて設備を順次導入する方法であれば、無理のない計画が立てやすくなります。
医療法の広告規制を理解して集患施策を計画する
医療機関が集患をおこなう際には、「医療広告ガイドライン」に準拠した施策の立案が欠かせません。虚偽や誇大な表現に加え、他院との比較や優良性をうたう内容は禁止されており、違反があれば開設許可の取り消しや業務停止など、行政処分を受けるおそれがあります。
とくに注意すべきは、WebサイトやSNSの活用です。医師の顔写真や患者の体験談、口コミなどを掲載した場合、それが広告に該当することもあるため、情報の取り扱いには慎重な判断が求められます。また、自由診療に関しては、料金の明示に加えて、治療のリスクや効果の個人差についても適切な注記が義務付けられています。
こうした背景を踏まえ、集患を目的とした情報発信では、どこまでが広告に該当し、どのような表現が許容されるのかを正しく理解することが重要です。ガイドラインに違反しないよう、情報提供の内容と伝え方の両面から十分に検討する必要があります。
たとえば、避けるべき表現としては、事実と異なる内容の掲載、治療効果を過度に強調した言い回し、他院より優れていると示唆する表現などが挙げられます。一方で、自由診療を案内する場合には、料金体系の明示に加え、副作用の可能性や治療効果に個人差がある旨を明確に伝えなければなりません。
このように、法的リスクを未然に防ぎながら効果的に集患を図るには、広告と情報提供の線引きを理解したうえで、慎重かつ戦略的に施策を設計することが求められます。
スタッフ採用で人件費負担や人材不足リスクを見積もる
クリニック開業にあたっては、スタッフ採用に要する人件費や人材確保の困難さを事前に見積もっておくことが重要です。とくに近年は医療現場における人手不足が深刻化しており、早期の採用活動と体制づくりが求められます。看護師や医療事務の採用には求人広告や紹介手数料が必要であり、内定者には開業前から給与が発生し、研修費も別途発生します。
たとえば、採用費は支払う年収の20~30%×人数、研修費は30万〜60万円、さらに開業前1〜2か月分の給与として100万〜200万円程度が目安とされています。これらの費用は運転資金とは別枠で確保しておく必要があり、慎重な資金計画が欠かせません。開業直後の離職リスクにも備え、柔軟な労務体制と職場定着の支援策を講じておくことが安定経営への土台となります。
開業スケジュール遅延を防ぐため各種手続きを前倒しでおこなう
開業スケジュールの遅延は、内装工事の進行不良や行政手続きの不備など、複数の要因によって発生します。とくに注意すべきは、保険医療機関指定申請や医師会加入の手続きであり、これらは月単位の提出期限が設けられているため、わずかな遅れでも保険診療の開始が1か月以上後倒しになるおそれがあります。また、医療機器の納入やスタッフの研修が予定どおりに進まなければ、開業日そのものを変更せざるを得ない事態にもつながりかねません。
こうしたリスクを回避するには、以下の各工程をできるだけ前倒しで実施し、全体の流れを把握しておくことが重要です。
- 保健所との事前協議:物件契約の前後から設計初期にかけておこない、診療所開設届の不備を未然に防ぐ
- 厚生局への申請:少なくとも開業の1か月以上前に提出し、保険診療の開始遅延を回避
- 医療機器の契約・搬入:工事計画が固まりしだい、納入時期に支障が出ないよう調整
- スタッフ研修:開業の1か月以上前から開始し、業務ミスや患者対応の混乱を防止
さらに、行政手続きや業者との連携、スタッフ教育の進捗を一元的に管理するためには、チェックリストやガントチャートを活用して各作業の進行状況を「見える化」することが効果的です。準備段階から全体を俯瞰し、遅れが生じた際には早期に軌道修正できる体制を整えておくことが、スムーズな開業につながります。
計画的な準備で失敗しないクリニック開業を実現しよう
クリニックの開業には、長期的なスケジュール管理と細やかな資金計画、法規制への対応、人材確保、広告戦略など、数多くの工程が複雑に絡み合います。とくに診療方針の明確化からはじまる準備は、物件選定や資金調達、医療機器の導入、内装工事、行政手続き、スタッフ採用など、すべてが連動しているため、ひとつの遅れが全体のスケジュールに影響する可能性があります。
また、過剰投資や人材不足といった開業後のリスクを回避するためにも、各段階での判断を専門家と連携しながら進めることが重要です。この記事を参考に、段階的かつ計画的な準備を進め、安心・安定したクリニック開業を実現しましょう。
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執筆者プロフィール:ドリームゲート事務局
ドリームゲートは経済産業省の後援を受けて2003年4月に発足した日本最大級の起業支援プラットフォームです。
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