愛媛みかんの生産・加工・販売を一気通貫!
農家の価値観を変えていく取り組み

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 松岡 佑季  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

20代の若手みかん農家が展開する、
愛媛県発のブランドビジネス
展開している事業の内容・特徴

20160705-11農業人口の高齢化と担い手不足は、我が国が解決しなければならい喫緊の課題の一つである。既存産業としてもさまざまな問題を抱えているが、新規参入するには多額の初期投資がかかり、3K(汚い、キツイ、かっこ悪い)の仕事のイメージが強いため、なかなか農業の新規就業者が増えないのが現状だ。そんなマイナス環境下にある農業にイノベーションを起こすべく、愛媛県の若者が挑戦をスタートさせた。今回は、家族で梶谷農園を経営しTEN株式会社の代表も務める、梶谷高男氏が展開中のオリジナル農業ビジネスを紹介しよう。

梶谷氏は、愛媛県産の温州みかんを中心とした多彩な柑橘類を自ら生産し、工場で加工、そして店舗での商品販売を一気通貫で行っている。また、自社農園のみかんだけではなく、地元の信頼できるみかん農家ともネットワーク。作り手の顔がわかる安心素材のみを使用し、自然のサイクルに合わせたみかんジュースやジャムはもちろん、温州フレーバーコーヒー、ドライフルーツ、みかんドレッシングなど、オリジナル商品を次々と生み出している。

生産から販売まで一気通貫できることで、いくつものメリットとチャンスが生まれた。「例えば、今日採れたばかりのみかんをその日のうちに店舗で生ジュースとしてお客さまに提供したり、店舗に訪れるお客さまの意見を新たな加工商品のアイデアに生かしたりと、“お客さまの欲しい”にすぐチャレンジできます」と梶谷氏。生産者にとって、消費者の声を直で聞けることほど嬉しいことはないのである。

また、商品に自身で考えた価格をつけ、売ることができるため、こだわりをあきらめることなく、みかん栽培にも打ち込める。いい素材が手に入れば、自然と自信をもったブランディグが可能となる。そんなTENの商品は、愛媛県を訪れる国内外の観光客のお土産としてだけではなく、地元の人たちの結婚式の引き出物、出産や入学卒業祝いとしても多く利用されているという。

TENは2015年に、親会社の株式会社エイトワンから独立した。エイトワンは、主に愛媛県の企業、事業、ブランド支援を行う年商30億円強の急成長ベンチャーである。4年前、エイトワン代表の大籔崇氏とともに松山市の繁華街に立ち上げた店舗「10factory」は、開業年から顧客数3倍強、売り上げ4倍強と成長を続けている。また、ネット通販も、TENの商品を全国に広めるチカラとなっている。

“柑橘王国”のみかん農家が協力し、
新ビジネスモデルづくりに挑む
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20160705-12梶谷氏は、1987年生まれの29歳。愛媛県八幡浜市近くにある、30戸ほどの小さな農村で産声を上げた。実家はみかん農家だったが、子供の頃の夢はカフェ経営者。「生まれ故郷でカフェを経営して、地区の人に喜んでもらいたい」と考えていた。

転機は、高校生時代に訪れる。NHKの『四国羅針盤』という番組のインタビューを受けたのだ。その時なぜか、「将来の夢はみかんづくりに携わること」と答えてしまった。このある意味“宣言”をきっかけに、農業に携わることを決意。愛媛県立農業大学校に進学し、卒業後、JA東宇和で柑橘栽培の指導員を3年間経験する。

JA東宇和で農業の現場をひととおり見渡し、みかん農家を営む家業に飛び込んだのだが、すぐに厳しい現実を知ることになった。いくら頑張ってつくっても、思いどおりの利益が残せないのだ。そして、農業自体、高齢化が進み、農村は閑散としていく一方だ……。

「愛媛県は温州みかんの収穫量において、和歌山県に次ぐ全国2位ですが、かんきつ類全体の収穫量では日本一です。そんな“柑橘王国”のみかん農家をネットワークすることでさまざまなノウハウを蓄積し、素材を生かした加工品開発および販売を行う――。この仕組みを構築することができれば、愛媛県のみかん産業を盛り上げていけるのでは?」

そんな決意を固め、アイデアを温め始めた頃、当時から付き合いのあったエイトワンの大藪社長に自分の思いをぶつけた梶谷氏。結果、愛媛の素材・ブランドを支援したいと考えていた大藪氏と方向性が合致し、実店舗「10factory」の開業につながっていく。

そこから梶谷氏は、ホップ・ステップ・ジャンプの勢いで、TENのビジネスモデルを進化させてきた。現在、農業の現場、加工工場、店舗合わせて、スタッフは40名ほど。愛媛県出身の彼・彼女らが、梶谷氏とともに同社の急成長を支えている。

まずは愛媛県民に愛されるブランドに!
農業に変革を起こし続けたい
将来の展望

梶谷氏は、“TENブランド”をまずは日本一に育て、その後、世界市場を狙いうという野望を持っている。しかし、ただ売り上げや利益目標だけを目指すつもりはない。まずは地元・愛媛の人たちから愛されて、「TENブランドであれば、愛媛の名産として後押しできる」と思ってもらえる未来づくりを最優先に考えている。そのためにも、「いいものをつくって、工夫すれば農業は稼げる」ことを証明しなくてはならない。

一つの方向性としては、栽培できる柑橘類の種類を増やすこと――。自然の恵みである柑橘類の収穫期は限定されている。「ちなみに温州みかんの収穫期は10月~12月がメインですが、品種をかけ合わせることで、1年中食べられるようにしたい。それができれば、年間を通じて商品をつくり販売できるため、自ずと売り上げも増えるでしょう」。

柑橘類は世界で4000ほどの品種があるといわれているが、現在、日本で栽培されている品種は約100種類。今、TENはその8割ほどの柑橘類を手がけるまでになっている。「この人なら、何かやってくれるんじゃないか」そう思われる農家になりたいと梶谷氏は言う。

一人の若手農家のイノベーションが、愛媛のみかん農家の元気を取り戻そうとしている。儲かる農業のビジネスモデルを確立し、そこを目指す若手の担い手が増えていけば、農業の衰退にも歯止めがかかるだろう。梶谷氏の挑戦が、全国の若手農家たち、新規参入希望者たちのヒントになることを祈りたい。

株式会社TEN
代表者:梶谷 高男氏 設立:2015年4月
URL:http://10-mikan.com スタッフ数:40名
事業内容:愛媛みかんの生産・加工・商品企画・販売

当記事の内容は 2016/06/28 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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