水だけで抽出した高級茶をブランド化。
伝統と革新を融合させ、新たな市場を開拓

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 松本 美菜  編集:菊池 徳行(ハイキックス)

ワイングラスで手軽に楽しむ日本茶
手摘み茶葉のボトルドティーを世界基準に
展開している事業の内容・特徴

20170328-1ワインボトルに入れられた緑茶。それをワイングラスに注ぎ、香りを嗅ぐ。口に含んだ瞬間、ほんのり苦味を感じるが、爽やかで上品な味わいが広がっていく。すっきりとしたのど越しの「釜炒り緑茶 IRAKA炒香」は、ロイヤルブルーティージャパン株式会社が提供する手摘み茶葉を使用した高級水出し茶だ。

今や日本茶は、機械摘みの茶葉を使い大量生産。ペットボトルに詰められ、自動販売機やコンビニで当たり前に購入できるコモディティとなった。一方、手間暇のかかる手摘みの茶葉は、「採算が取れない」と経済社会の中で片隅に追いやられていた。それを同社は原材料に使い、ハイエンド向けの水出し高級茶としてブランド化――それが「ロイヤルブルーティー」である。

ビジネスモデルは2つ。茶葉の生産者にもきちんと正当な対価を分配し、その上で、高級手摘み茶を開発・製造し、顧客に届ける水平展開。もう1つは、高級旅館やレストランなどを中心とする販売チャネル。そこで「ロイヤルブルーティー」を味わった個人が、その後、贈答用などオンラインショップで購入するという流れを構築している。彼らは知人や友人に薦め、時にはSNSへの書き込みもしてくれる。現在、業務用、小売・ギフト用の売上比率は5:5だ。

同社が一貫製造・販売しているボトルドティーは全20種類で、価格帯は2800円弱から最高60万円(税抜き)まで(2017年2月末現在)。すべて手摘みの茶葉を原材料とし、3日間もしくは7日間をかけ、添加物を使用せず、水だけでじっくりと抽出する。

すでにJAL国際線のファーストクラスに採用されており、ほか国賓の晩餐会や国際会議などにも提供されている。2016年5月には三重県で開催されたG7伊勢・志摩サミットにも供され、世界の要人たちから絶賛された。

お茶の本質は「和」を醸し出すこと
「新しいお茶の楽しみ方」をデザインする
ビジネスアイディア発想のきっかけ

20170328-2アルコールを伴う宴席は、酒が飲めない、飲まない人にとっては、時に苦痛の場となる。「お酒が苦手」という同社の社長、吉本桂子氏もそんな一人だ。2004年のある日、吉本氏は友人に誘われて、現会長で、ビジネスパートナーでもある佐藤節男氏が営む高級青茶(ウーロン)サロンに足を運んだ。そこで提供されていた「お茶で料理を楽しむ」コースを注文、初めて、お茶とともに食事と流れ行く時間をゆったりと心ゆくまで楽しむことのできるひと時を経験した。

「この時、お茶が、こんなにくつろげて、優雅な時間をもたらしてくれることを知りました。お茶の本質は『和』であると思います。『和醸良酒』というお酒にまつわる言葉がありますが、なぜ、『和醸良“茶”』がないのか。つまり、良いお茶は和を醸す、ということが私たちの生活に根付いていない。だったら、未成熟な喫茶文化、食文化をさらに向上させ、日常の中で、誰もが手軽に本物のお茶を楽しむ生活を浸透させていきたいと思ったのです。茶葉を急須に入れ、その種類に応じて湯の温度や入れ方を変えなければならない、伝統や格式にとわれた様式は、今の時代に馴染まないのかもしれません。ならば、デザインの力で、ライフスタイルを変えることができるかもしれない――」。吉本氏はそう考えたのだ。

当時、グラフィックデザイナーとして活躍していた吉本氏。「デザインの本質は、ポスターやパッケージの図柄を考えることではありません。時に世の中を変え、新しいスタイルを創り出す力があるのです。お茶を楽しむ様式が変われば文化が変わり、文化が変わると経済も動く。食事をしながら、お茶を楽しみ、くつろぐスタイルがあってもいいじゃないですか。だったらそんな世界をデザインの力で、創ってみようと考えました」。そして佐藤氏のサロン事業に参画した。

お酒が飲めない人にもお茶を介した飲食を楽しんでもらおうと、2005年に「お酒が飲めない人向上委員会」のチラシを作り、国土交通省主催の社会実験イベントに参加したところ、神奈川県藤沢市のインキュベートマネージャーから声をかけられ、事業化を勧められた。

「当初、イベントは同好会のようなノリで、会社を興すことはまったく考えていませんでした。けれども、デザインがわかる経営者として起業すれば、私が目指すことができるのではないか、自分のデザインというスキルや能力を生かして、お茶を楽しむという、新しい文化を創ることができるのではないか――」としだいに起業を考え始めたのだという。

「経営のことは知らなかった」が、行動力はあった吉本氏。2005年暮れに、あるビジネスコンペティションで、当時、高千穂大学准教授(現専修大学教授)で経営学の専門家である、鹿住倫世氏との出会いがあった。「エレベーターピッチ」(エレベーターに乗っている短時間で相手に興味を持ってもらうよう、簡潔で覚えやすく、説明し切る説明手法)でビジネスプランを売り込み、同氏からマンツーマンで起業の指南をしてもらうことに。そして、2006年5月に同社を創立した。

「私は、手摘み茶葉を使い、水で抽出、非加熱ろ過除菌、手作りで商品を作りたいと考え、農林水産省や厚生労働省にも聞き、どうすれば製造できるかを調べていました。しかし、特殊な作り方であるため、OEMで製造してくれる会社はどこにもありませんでした」。そんな中、HACCP(Hazzard Analysis and Critical Control Point=ハサップ)という、食品品質管理認証の仕組みを使えば作れるのではないかと助言された。

国際的な認証を取得するために、静岡で開かれた研修会に出向き、そこで初めて、衰退しつつある日本茶産業の実態や、高級手摘み茶葉の高額・高品質の市場が空白域であることを知った。茶葉産地の後押しもあり、「自分が目指す高級茶を作るために、藤沢市で、自社工場一貫製造をスタートさせたのです」。資金はインキュベータやファンドからの出資、それに融資で賄った。そして2007年にロイヤルブルーティーの発売を開始した。

海外でのビジネスをスタート!
日本のお茶を世界のトップブランドに
将来の展望

「会社の状況が良い時も悪い時も、折に触れて金融機関に報告し、信頼関係を築いてきました。借入金の返済が滞ったことは一度もありません」。実際、2016年に竣工した新工場(同茅ヶ崎市)の建設資金は、同社の年商の2倍の額を金融機関からの融資で賄っていることが、それを物語っている。

吉本氏には「財務に関する交渉は、社長自らがやるべきだ」という持論がある。理由は二つ。「信頼を得るため」、もう一つは「第三者に任せることによるリスクを回避するため」だという。そして、「起業には覚悟が必要だ」と強調する。

2011年3月の東日本大震災後、ロイヤルブルーティーの売り上げは、半年間、半減した。「震災の前年に摘んだ茶葉で製造していましたが、持って来るなと言われたこともあったし、こんな時に高価なお茶を売るのかと随分叩かれもしました」。

それでも値下げをせず、信念を貫いた。2万5000円という高額な玉露も販売した。すると、旧知の顧客から「よくやった」「勇気をもらった」と励ましの言葉をかけられた。「ブランドへの期待をお客さまから教えられた」と感じたという。同社は2012年4月に黒字転換を果たし、以降、5年間毎年、平均約25%の売上増を達成している。

2016年冬に、シンガポール、香港に現地法人を設立。今年の1月には、現地向けオンラインショップを開始し、香港の「シティ・スーパー」では小売も始めた。もちろん、海外ビジネスの拠点となる都市については厳選している。ロイヤルブルーティーの品質の維持や衛生面等の理由により、自社基準の品質管理に必要な基準を満たす物流網が整備されているかどうかは、重要な要因になるという。

同社は2018年までには、東京に旗艦店・ブティックを出店する計画で、今後はプライベートジェットや在外日本大使館等への展開も視野に入れている。「お茶は国境、年齢、宗教、性別の壁を超えることができる商品です。だからこそ、日本にはこんなに素晴らしいお茶があるということを世界に知ってほしい。世界中の喫茶文化の中で、さらに高みを目指し、ロイヤルブルーティーのみならず、日本を世界で一番優れた茶葉が採れる産地にし、世界のトップブランドに育てていきたいと思います。また、他社のティーブランドと共存しながら1兆円市場を作り、農家を含め、日本のお茶業界全体を活性化させたい」。起業家から経営者へと成長した吉本氏は、そんなゴールを見据えている。

ロイヤルブルーティージャパン株式会社
代表者:代表取締役社長 吉本 桂子氏
            代表取締役会長 佐藤 節男氏
創立:2006年5月
URL:http://www.royalbluetea.com/ スタッフ数:15名
(常勤役員・パートを含む。内常勤役員・正社員13名 2016年4月1日現在) 
事業内容:自社一貫ワインボトル入り高級茶飲料開発製造販売など

当記事の内容は 2017/03/28 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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