“大企業には出来ないが、ベンチャーだからできること”を徹底して成長中「クラウドキャスト」

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執筆者: ドリームゲート事務局

ドリームゲート会員にもオススメしたい! 簿記の知識がなくても直感的に使える会計ソフト
展開している事業内容・特徴

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近年、大企業が独占していた分野に、まったく新しい切り口でベンチャー企業が参入、急成長して圧倒するケースが増えている。今回紹介する会社もそうした一つ。2011年1月に設立された、クラウドキャスト株式会社というベンチャーだ。

同社が展開するサービスは特にスマートフォンとクラウド連携に強みを持つが、今回注目なのは、「bizNote」というアプリだ。

「bizNote」というアプリは、会計ソフト最大手の弥生株式会社が開催したコンテストでグランプリを獲得している。主にビジネスユーザーに向けたもので、初心者にとって使いづらい会計ソフトを簡単に、しかもスマートフォンで使うことができるという点がウリだ。2011年11月より順次iPhone、アンドロイド、そして先日Windows Phoneとリリースされた「bizNote」の価格は450円~600円。販売本数は有料アプリとして1万ダウンロードをすでに超えており、ビジネス部門でランキング上位に入っている。

「bizNote」は、スマートフォンとクラウド単体でも使えるが、それらを組み合わせることによって親和性を十分に発揮してくれる。例えば、スマートフォンでは外出先で発生するような変動費を主に管理し、クラウド側では固定費やオンラインでの請求書の入力などを行う。そして、スマートフォンのデータを同期する事で小さい画面では困難な中長期的分析がクラウド側で可能である。スマートフォンではネイティブアプリを採用し、オフラインで入力が可能。クラウド連携でありがちな常時ネット接続がいらない。また、簿記の知識がない初心者にとってわかりづらい借方・貸方などの専門用語も、一般的に使われる平易な用語に置き換える工夫もしている。いたるところにこのような配慮がなされており、使いやすさを徹底的に追及しているのが伝わってくる。今後、スマートフォンのカメラを使ったレシートの入力代行サービスをオプションとして追加予定である。すでにアプリとクラウド側の開発はほぼ完了し、まもなくユーザーに限定公開予定であるという。

日々の帳簿付けや経費の入力をスマートフォンで行い、クラウド側ではさらにキャッシュフローも追える。そして、決算を含め本格的な会計処理は弥生会計にデータを取り込んで行う、また必要に応じて会計士や税理士というような専門家にお願いするという住み分けが同社の狙い。今までの会計ソフトとは違い、経営者や従業員視点の「フロントエンド」の業務効率化を徹底的に重視している。PCソフトは大規模化、煩雑化して、初心者には使い勝手が悪いものになっている。しかし、従来のユーザーは慣れているために、UIを大幅に変えることも難しい。そこで、初心者でも使えるUIを別に提供することで、新規ユーザーの取り込みを狙っているというわけだ。弥生会計側とのパートナーシップも重視しており、既存弥生ユーザーのスマートフォン活用による満足度向上だけでなく、現在白色申告やフリーランス等からの新規顧客獲得が可能というメリットがある。

収益モデルとしては、有料アプリの販売をはじめ、クラウドサービスでの有料会員型のビジネスモデルを展開している。今後はデータ入力代行や、さらにその先のフェーズとしては、ユーザーにさまざまなビジネスサービスを紹介することによる送客手数料収益や、総務部などの間接業務のタスクもクラウドサービスとして小口で引き受けられるようにするような事業展開も考えているようだ。

「イノベーションのジレンマ」こそチャンス! ベンチャーだからできることがまだまだある
ビジネスアイデア発想のきっかけ

crowdcast2クラウドキャスト株式会社の創業者である星川高志氏は、大学卒業後にエンジニアとして日本DEC(現ヒューレットパッカード)に入社。その後、マイクロソフトに転職し、10年以上のキャリアを経て最終的には米国本社直属の企業向けデータベースの開発チームを統括した。米国本社にも出入りしていたそうだが、米国本社で他のマネージャー陣と話をすると、ほぼ全員が技術だけでなくMBAを持っていたりビジネスにも強いという事実に驚いた。そこで、自分もそうした立場である以上は、高度なビジネス知識を身につけなければと思い、社会人学生として青山学院大学のMBAコースに進学。

しかし、MBAコースで出会った仲間たちとの交流から、「起業」という選択が具体的になっていった。具体的な事業計画はなかったというが、学友たちに刺激され、大学院在籍中に開発したのが「bizNote」のベースになっている個人向けのiPhoneアプリ「MoneyNote」だ。これが予想を超える人気となり、リリース2カ月後には損益分岐点を超えた。すでに15万ダウンロードを超え、アジアだけで3万ダウンロードを超えている。そして、マイクロソフトを退職し、2011年1月に起業。資本金は星川氏の預貯金の300万円のみでのスタートだ。

実は星川氏が在籍していたマイクロソフトも「Money」という家計簿ソフトを販売していたが、これはあまり成功していなかった。その理由を星川氏に尋ねたところ、“イノベーションのジレンマ”という答えが返ってきた。

マイクロソフトの主力製品は、基本ソフトであるWindowsや圧倒的シェアを誇る業務用ソフトのOfficeシリーズ、法人向けのデータベースソフトやサーバシステムなどだ。それらは世界中で共通した製品として売られている。「シングルバイナリ」と呼ぶそうだが、マイクロソフトは、一つの製品 (バイナリ) を世界中で大量販売することで、高利益体質を実現しているというわけだ。そして、収益のマジョリティはパッケージソフトであり、単純にクラウドサービスへ移行することは既存のビジネスを圧迫しかねない。

一方で、会計ソフトや家計簿ソフトといったものは、国ごとに細かいルールや使い方があり、単一商品だけで世界のお客様のニーズは満たすのは難しい。日本の国内市場でさえも、マイクロソフトから見ればローカル市場と映るため、売上は決して悪くなかったが日本の税制や会計ルールに合わせた製品は中長期的な投資効率を考えると出しづらいというのだ。

しかし、ベンチャーからみれば日本市場だけでも巨大なマーケット。さらに他の国のマーケットも個別に対応していく手間もかけてでも、積極的に参入したいマーケットとなる。つまり、世界中で単一製品を大量販売するというビジネスモデル持つ巨大企業が狙えないマーケットにこそ、ベンチャーの活路があるというわけだ。

開発チームを仕切っていたプロだからこそできる人材戦略

2012年10月現在、クラウドキャスト社のスタッフは7名で、ほとんどが技術者という体制。少数精鋭でオフィスなどにかかる固定費をできるだけ抑え、各々が例えば六本木のアカデミーヒルズなど、好きな場所をオフィス代わりにして仕事をしているという。

開発スタッフの採用戦略も星川氏ならではだ。元々マイクロソフトで開発チームを率いていたこともあり、エンジニアの目利きはお手の物。近年、優秀なスマートフォンやWeb系エンジニアの採用は難しいといわれているが、星川氏によれば場所や時間、さらに国籍にこだわらず、ピンポイントで特定の技術に特化した人材ならまだ比較的採用しやすいという。

クラウドキャスト社には、iPhone、アンドロイド、Windows Phone、そしてサーバ・データベース向けの開発者がいる。例えば、アンドロイドはJavaという言語で、iPhoneのアプリはC言語(objective-c)で全く違う言語を使う。JavaもC言語もサーバ技術も得意な国内エンジニアはそうそういない。とはいえ、そうした求めづらい人材を採用せず、適材適所でそれぞれに精通した人材を採用したほうが現実的だ。このようにして、同社ではデータベースやサーバ構築の専門家、フロントのUIだけ開発するエンジニアなどを、星川氏がチームとしてまとめ上げて開発を進めている。

ちなみに、サーバ側はRubyという言語で、Heroku(ヘロク)というクラウド (後にセールスフォース社が買収) を利用している。UI・UXの開発も既存のフレームワークを積極的に活用、とにかく徹底的に効率的な開発を行っている。

最近、経営者から異口同音に「優秀なIT人材が採れない」と嘆く声をよく聞く。しかし、他社もほしがる平均より少し上の技術者を大量に求めていることが多い。そうしたエンジニアは、当然ながら給与も高く、日本人であれば年俸1000万円プレイヤーを雇わなければいけない。起業したばかりのベンチャー企業でそうした高給取りを迎えるのは難しいだろう。

しかし、場所や国籍にこだわらず、特定の分野に精通した人材であれば給与水準も保ち、あるいは海外のエンジニアでも戦力として活用できる。今までの経験より、100人のサラリーマン技術者より、少数精鋭の10名以下のチームの方がソフトウェアはいいものができることを知っている。全体の管理コストやオフィスなどの固定費も抑えられ、利益体質にできればもっと人材育成やお客様に還元できる。もちろん、星川氏のようなマネジメント力があればこそできる戦略だ。

日本国内で磨いたサービスを、アジア圏にも展開予定。そして世界を狙う
将来への展望

今後の目標を星川氏に尋ねると、「海外市場も当然視野に入れているが、まずは国内の小規模ビジネス向けに集中する」と語る。日本国内には420万の中小零細企業が存在している。「bizNote」の事業を通じて、スタートアップのような総務部門や経理などがいない企業の業務効率化を促すサービスを提供し、国内の起業家育成に貢献していくのが同社の目標だという。さらにその先には、大企業内のビジネスパーソンも対象にしたサービスも視野に入れているようだ。

さらにアジア圏を、これからますます成長するマーケットとして狙っている。日本国内で磨いたサービスをアジア圏にも展開していく計画だ。あくまで一例としてだが、特別な販促活動なしにアジアで3万ダウンロードを突破している個人用サービスを各国に合わせローカライズにもきめ細やかに対応していく。それらを実現する為に、今後シンガポール等のアジア拠点の設立を考えている。

マイクロソフトのような巨大企業には真似できない、真似したくてもできないサービスで世界を狙うベンチャー。規模だけでいえば、蟻が巨象に挑むかのごときだが、巨象を倒して、世界を獲ってもらいたい。

クラウドキャスト株式会社
代表者:星川 高志 スタッフ数:7名
設立:2011年1月 URL:http://crowdcast.jp/ja
事業内容:
スマートフォン、ソーシャル、位置情報に特化したインターネットサービスの企画・開発・提供。経営・ITコンサルティング 。

当記事の内容は 2012/11/6 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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