入院治療から在宅医療・介護へのシフトを見据えた、次世代型訪問看護サービス「ホスピタリティ・ワン」

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

終末期患者を中心に独自の訪問看護サービスを提供するベンチャー。60ヶ所の訪問看護ステーションと連携し、年800件以上の保険外看護サービスを行う。
展開している事業の内容・特徴

hospitalityone2終活というキーワードが最近よく聞かれるになった。超高齢化に伴い第二の人生ともいえる老後をどう生きるか、そして自分の死を深くじっくり考えるようになっているのだろう。

しかし、医療財政は日増しに逼迫している。厚労省は2014年度の医療費総額が、概算で40兆円に上ったと発表した。その理由は「高齢化の進展や、医療技術の高度化が主な要因」であると説明しており、このペースが続けば、2025年には医療費の総額は52.3兆円、老人医療費(後期高齢者および障害を有する65歳以上が対象)だけでも24.1兆円にまで増加する見通しだ(総務省調べ)。また、人口構成も大きく変わりつつある。2025年に全人口最大のボリュームゾーンである団塊の世代、約700万人が75歳以上となり、さらにその5年後、2030年には全人口の30%が65歳以上を占めるといわれている。この超高齢化と医療費問題を危惧し、政府・行政が舵を取ってきたのが、高齢者患者に対する入院治療から在宅医療・介護への移行であった。

現在の高齢者の入院には「90日ルール」が設けられている。大病院に至っては12日間だそうだ。つまり、期間内までしか入院できないということで、症状が長引けば、あとは介護施設への入居、または在宅医療・介護となる。高齢者人口が増加する一方で、病院の変わらぬベッド数を見れば仕方のないことだとも感じるが、極端を言えば「病院で死ねない時代」が、今まさにやってきているのである。

こうした背景から、今後も必然的にニーズが高まる在宅介護。ビジネスチャンスともいえるが、まだまだ課題も多い。特に介護の現場においては、要介護者のサポートだけにとらわれがちで、家族・遺族ケアまで見据えた環境が確立されているとは言い難い。しかし、介護負担の大きさ、最後のお看取りや将来への不安などを鑑みれば、そうした気持ちへのケアが時に介護行為よりも重要になってくるのは明らかだ。

そうした家族や遺族ケアを軸に包括的なサービスを展開しているベンチャーがいる。それが、今回紹介する「株式会社ホスピタリー・ワン」だ。創業の2008年より、終末期患者を中心に独自の訪問看護サービスを提供。シェアを伸ばしている。

終末期患者の終活からエンディングまでは、通常、次の3つに分類される。「カウンセリング」、「介護サービス提供」、「遺族ケア」である。このうち、両端のカウンセリングはケアマネージャーや終活カウンセラー、遺族ケアについては納棺師や葬儀屋が担うのが従来のシステムで、双方に介護を担当する看護師・ヘルパーは介在しない。ここに課題があり、特に介護から遺族ケアへの移行時、役割を終えて離れていく看護師・ヘルパーに、遺族は深い喪失感を改めて感じることも多いそうだ。

ホスピタリティ・ワンはここに着目し、介護を中心としながらも、カウンセリング、遺族ケアに対応する。同社の高丸慶代表は、60ヶ所の訪問看護ステーションと連携し、包括的な訪問看護の実現および潜在的看護師の復職支援をテーマに活動を行う「(社)訪問看護支援協会」、納棺士を育成する「(株)おくりびとアカデミー」の発起人であり、このネットワークから、ボーダレスに提供可能な体制を構築。ワンストップのサービス提供を可能にしている。

また、メインサービスとなる介護の方も、保険・自費共にフレキシブルに対応。医師と連携した医療提供や介護行為はもとより、さらに、患者と家族に寄り添えるきめ細かいサービスを各種揃えている。例を挙げれば、在宅に限らず入院中患者を対象にしたサービスも用意しているのが特色で、外泊支援サービスもある。自宅に帰りたいという患者の希望を叶えるだけではなく、家族にとっては介護に取り組むための準備期間ともなるものだ。介護生活がどれほど続くのか、またいつ終わりが来るのか想定できない家族にとって、非常にありがたい。他にも最後は郷里に戻りたいと希望する患者への転院代行や、新幹線等の交通機関や自動車を利用した旅行付き添い支援なども実施している。

保険外看護サービスの料金体系は明確で1時間9,800円。4時間以上の利用では6,000/時となり、平均して4時間以上の利用が多いそうだ。サービスは現在、1都3県で提供しており、患者および家族からの依頼ほか、同社がある港区とも連携しており病院からの紹介も少なくない。1日におよそ2〜3件、年に800件ほどの依頼があるという。

親族の死を通して体験した遺族ケア。ベンチャーマインドあふれる行動力で、ビジネスアイディアを結実させた。
ビジネスアイディア発想のきっかけ

hospitalityone1代表の高丸氏が、ビジネスアイディアを閃いたのは自身が体験した遺族ケアがきっかけだった。

「小学生の頃、祖父母が立て続けに亡くなりました。私としては子どもながらに、事実として受け入れることができたのですが、その突然の喪失感から、家族は今で言う遺族ケアが必要な状況となりました。そういった環境が続き、高校生時代。3年生の頃、化学の先生が、「死への準備教育」という授業を、たまたまやってくれたんです。なんでも、「どうせ化学に興味ないだろから」ということだったらしいのですが(笑)、先ほどのこともあり、非常に興味を覚えました。その時、遺族ケアという言葉も初めて知り、また自分の家族はこういう状態なんだと実感が持てたんです。そこから遺族ケアや看護をもっと知りたいと考えるようになったのが、ホスピタリティ・ワンに至るきっかけですね。」

その後、高丸氏は慶応大学中等部から、当時設立した慶應義塾大学看護医療学部へ進学し、看護師資格を取得した。その過程の中で、介護保険制度や介護士の仕組みなどに自分なりの課題を感じるようになっていったそうだ。一方で、以前よりビジネスの世界にも興味を持っていたという高丸氏。看護にも欠かせない医薬、そしてビジネスの現場双方を体験すべく、卒業後はジョンソンエンドジョンソンへ就職した。その中で、起業を考えるようになり、同社を退社。NPOの看護師団体で看護の現場を学びながら、仲間を集い、2006年に看護師向けの会報誌の広告代理店を立ち上げた。

会報誌は、全国約20万人もの看護師が対象。経営はスムーズにいくように見えたというが、そうはいかなかったそうだ。途中からは、仲間たちと雀荘でアルバイトをしながら運営を続けたという。そんな中、立ち上げから1年を経た2007年に高丸氏に転機が訪れる。参加した異業種交流会での、芝山哲治氏(現:AGホールディングス代表)との出会いであった。ロックフェラー家の投資会社を経て、サザビーズ・ジャパン代表を務めるなど、大規模なアート・ビジネスを展開してきた芝山氏に誘われ、京都で若手芸術家への投資ビジネスを展開した。いうなれば、アーティストに特化したクラウドファンディングで、同事業はメリルリンチとも提携した大規模な展開を見せたという。しかし、リーマンショックの煽りを受け、しだいに事業は縮小していった。

だが、投資ビジネスと並行して、自身の看護サービスを温めていた高丸氏は、セプテーニ主催の「商人輩出プロジェクト」への参加を決意。ITビジネスが多い中で、リアルサービスで臨んだことがインパクトを与え、見事優勝を獲得。その賞金100万円を活用し、2008年に立ち上げたのが、ホスピタリティ・ワンである。

商人輩出プロジェクトには1億円の出資金ほか、全面的支援が用意されていたというが、高丸氏はこれを辞退したという。その理由を聞くと、「自己資本で運営していくことが何より大切だと感じていた」と語ってくれた。

会社は、設立から3年間は、苦難の連続だったという。しばらくは売り上げ月5万〜10万円での運営。創業メンバーも離れ一人で奮闘する日々が続いたと笑うが、一歩一歩顧客を地道に開拓。非常勤介護士30〜40名が在籍、年間800件の訪問介護をこなす会社まで成長させ、現在に至る。

ワンストップの訪問看護環境の地盤を固める。より顧客に寄り添えるサービス実現をめざし産学官連携をはじめ、IPOも視野に。
将来の展望

同社が目下、取り組んでいるのは、事業スケールではない。「カウンセリング」、「介護サービス提供」、「遺族ケア」を内包する訪問看護環境の磐石な地盤づくりだ。そのため、より多くの訪問看護ステーションとの連携、看護師やヘルパーの労働条件の再考、納棺士育成システムの普及などを急務に挙げる。

また、今年の4月、厚生省にて、「保育士」、「看護師」、「准看護師」を同一資格にする検討会がスタートしたそうだ。医療提供の単価の低減を狙ったものだというが、こういった動向も同社は重視しており、社会に向けても新しい提案をしていきたいとしている。

さらに、その取り組みの一環として同社は、IOTを使った介護ソリューションの創出や、ヘルステック分野のスタートアップ支援などを行う、デジタルハリウッド大学との産学連携プロジェクト「デジタルヘルスプロジェクト」をスタート。また、今年12月開催の終活にまつわるあらゆるサービスが一同に集まる「エンディング産業展」の全面バックアップも務めているそうだ。

取材の最後に、高丸氏に今後の展望を伺った。
「終活やエンディングは当事者だけではなく、家族にも大きな不安を与え、誰もができれば避けたい。しかし、避けられないものである以上、よりよい形でその時を迎えるのが、ベストです。その一人ひとりのベストを当社がご提供していければと考えています。最良のエンディングを迎えたい、またはご家族の方も安らかに送り出してあげたいと思うとき、まずご相談いただけるような会社をめざしていきます。その実現のために、例えば産学官連携による情報の発信がいいのか、IPOがいいのか、より患者さまやご家族の方に寄り添える方法を追求しながら、事業を展開していきたいです。」

株式会社ホスピタリティ・ワン
代表者:高丸 慶氏 設立:2008年10月
URL:https://hospitality-one.co.jp/
http://www.kango.or.jp/
スタッフ数:30名
事業内容:
・訪問看護サービス「ホスピタリティ・ワン」の提供

当記事の内容は 2015/12/10 時点のもので、該当のサービス内容が変わっていたり、サービス自体が停止している場合もございますので、あらかじめご了承ください。

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