その時、偉人たちはどう動いたのか? 日清食品創業者 安藤百福 2

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

エピソード2「類似商品問題への対処」
「日清食品の全製品に製造年月日の表示を入れることに決めた。世界でも、製造年月日を表示している食品は見当たらない」 (55歳)

 類似品が出回り、商標侵害への対処や劣悪な品質による問題に対処した時のエピソード。

「チキンラーメン」の商品化に成功すると、安藤は貿易会社の知人に依頼して米国にサンプルを送り、早くも500ケースの注文を獲得した。国内で売れ るメドもまだ立っていない時期にもかかわらず、である。一方、大阪・梅田の阪急百貨店で試食販売を行う。すると持参した500食は瞬く間に売れた。誰かが 「魔法のラーメン」と呼び始めたチキンラーメンは需要が爆発。発売して2年もすると類似品が出回り始めた。商品名だけでなく、パッケージのデザインまで そっくりな上に粗悪品。

「チキンラーメンの商標を使っている13社を不正競争防止法違反で訴えた。これに対して13社は結束し『全国チキンラーメン協会』を組織して異議を 申し立ててきた。信じられないことだった」

 チキンラーメンの商標登録が確定して、その異議申し立ては退けられる。しかし、製法特許を巡っても業界が混乱し、食糧庁から勧告も受けて、安藤は 「小異を捨てて大同につく気持ちで」社団法人日本ラーメン工業協会を設立、理事長に就任した。

 インスタントラーメンの製造に参入するメーカーは雨後の筍のように増え、1965年には360社ほどにまでなっていた。中にはしょうゆで色を着け ただけのものや、品質の悪い油で揚げた粗悪品があり、「インスタントラーメンは体に悪い」とのうわさが広がる。

「偽造事件や品質問題をきっかけにして、私は日清食品の全製品に製造年月日の表示を入れることに決めた。世界でも、製造年月日を表示している食品は 見当たらなかった」

 この表示は、後に当時の厚生省が食品衛生法で制度化する。

「ある会合で、和菓子メーカーの社長から『誰がこんなばかなことを始めたんだ』と言われたが、世界に先駆けて実施したことを今も誇りにしている」

私 たちならこうする!

(株)リサイクルワン 代表取締役 木南陽介氏

このエピソードの中でまず驚かされたのは、国内で普及を図る前にアメリカへの輸出を考えたこと。最初から世界規模で事業を考えていたことの証左でしょう。 が、弊社のかかわる環境の世界は、大気に国境がないとおり、まさに世界が相手。しかし、国によって価値観や社会情勢が異なり、外国で同様の事業化を行うの は困難です。行うにしても、周到に段取りを踏む必要がある。分野は異なりますが、その点安藤氏はそういったセオリーなど無関係に、確信のもと三段跳びで事 業を進めている観がありますね。製造年月日を表示する件にしても、それらのベースには「社会の進歩への希求」があるように思えます。いい商品は世界中に広 めたい。いいことは世界に先駆けて実現したい。法律は後からついていく、という図です。
リサイクルワンでも、創業当初から「社会的視点」に基づいて事業を行ってきました。あまり公開が進んでいなかったリサイクル事業者や廃棄物処理事業者の データベースを開発し、インターネット上での情報公開を進めてきました。その後、環境省や自治体での情報公開制度が整備されていくのですが、我々が先行し ていたと自負している部分もあります。同業者の利害だけではなく、顧客が満足することを第一に考える。そこは安藤氏に非常に共感するものがあります。

(株)カフェグルーブ 代表取締役 浜田寿人氏

このエピソードで感じたことは、権利は守らなくてはならないけれど、どこまでやるのか、というバランスも大事だということです。例えば、中国にはYou Tubeを真似たサイトが100ぐらいあるといわれていますが、本家You Tubeがいちいち訴えていてもビジネスが加速するわけではない。そんな労力があるなら、自社のサービス向上に費やしたほうが結果的に伸びるかもしれな い。権利をめぐってはそんな難しさがありますね。
あるジャンルの映画で起こることなんですが、10年に1本の割合で素晴らしい作品ができると、その直後から粗悪な作品がいっせいに上映されて人気が下がっ てしまう、ということがあります。そしてまた10年経つといい作品が登場する。良貨は悪貨を駆逐するのです。
つまり、本当にいいモノをつくれば消費者に選ばれるし、安かろう・悪かろうのモノに流れる消費者は追っても仕方がないということです。

(株)ワークスアプリケーションズ 代表取締役 CEO 牧野正幸氏

法律違反で訴えたり、品質を保証する表示を行うというのは、多くの経営者がジャッジできる問題解決方法のように思います。ただし、自社製品に自信がなけれ ばできない。和菓子メーカーの社長の話は、安藤氏の大きな自信をよく表していると思います。
また、このエピソードには「業界全体にかかわる」という問題意識があります。トップ企業の姿勢を感じます。業界のトップ企業には、業界全体の利益を考える 責任がある。例えば、トップ企業が(シェアを伸ばそうと)ダンピングを行うのは、一見ユーザーの利益にかなっているように見えます。しかし、そうすれば後 発企業が立ち行かなくなり、技術革新も起こらない。結果的にはユーザーのためにはなりません。トップ企業には、市場をつぶさない義務がある。ある程度価格 を維持したことで出した利益は、顧客サービスに使うなどして、還元すればよいのです。

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